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リアクション
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一同がウォウルを懸命に看護している広場に、茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)がレオン・カシミール(れおん・かしみーる)、茅野瀬 朱里(ちのせ・あかり)と共にやって来たのは、応急処置と呼べる処置を最大限に施した、そのすぐ後である。
「鳳明さん、あぁ言ってましたけど………ウォウルさん、大丈夫でしょうか」
「おそらくはな。見てみろ、既に彼らしき人物の回りで処置が施されている」
駆け足でやって来ている衿栖はレオンの指す方に目をやる。
「あとはその――ラナロックっていうお嬢さんを止めれば良いだけ。って、まぁ、そう言うことかな」
朱里は少し考えながらに呟く。三人がウォウルの元に到着すると、衿栖は早速ウォウルに声をかけた。
「ウォウルさん………お加減は」
「それなり、ですかねぇ………」
「こら、嘘をつくな」
セラエノ断章のツッコミを受けながらも、ウォウルは努めて笑顔で衿栖たちに返事をし、ひらひらと力なく手を振った。
「うーん、全然大丈夫そうじゃなかったわね」
「喋れているだけ、まだ平気ではないのか?」
衿栖同様に心配そうな視線を向ける朱里と、首を傾げるレオン。と、そのレオンにダリルが説明に、と口を開く。
「この男、本来喋れる様な容態ではないのに喋っているんだ、無理をしてな」
「本当は今すぐにでも病院に搬送しなきゃいけないんだよ。でも本人が絶対に動かないって言って聞かないの…………」
ため息を漏らしながらに、ルカルカ補足を入れた。
「…………………」
その説明に、衿栖たちは口を閉ざす。
「そんな事は…………ありませんよ」
苦笑を浮かべるウォウルは、そこで衿栖たちを含めたその場の全員に今までの経緯を説明した。ある一点を除いては――。そして付け加えるかの様に、か彼はある話をし始めた。
「ラナは…………ラナロックと言う人は、インチキ魔法使いに封印されていた存在なんです」
「何故、その話を?」
衿栖は首を傾げる。
「いえ、彼女を止める上で…………何か、参考になるかな。等と思いまして」
ウォウルがそこで区切ると、再び彼は咳き込む。口を押さえていた手が鮮血に彩られていた。
「………私たちが必ず、ラナさんを止めます」
何かを決意したかの様に、衿栖がポツリと呟き、踵を返してウォウルたちに背を向ける。慌ててその後を追った朱里とレオンは衿栖の横に並ぶ。
「ねぇ、良いの? 止めるなら、もっと色々情報とか聞いた方が良かったんじゃない?」
「そうだぞ、どこにいるかも知らないと言うのに」
「ウォウルさんはきっと、ずっと此処にいたんです。彼に掛かってた上着はおそらく鳳明さんものでしたし。だから今、ラナさんがどこにいるのかを尋ねても彼は知らないと思います。それに――」
一区切りおいた彼女は、足を止めてウォウルの法を振り返る。
「私たちがあそこにいたら、きっとウォウルさん、無理しちゃうと思います。ヒントとか色々考えて、話してくれて。だから」
「そっか。そうだね」
「まぁ、元より自力で探す気でいたしな」
二人は頷いた。と、衿栖がレオンのほうを向く。
「レオンさん。申し訳ないんですけど、貴方はウォウルさんの様子を見ていてもらえませんか?」
「うん? あぁ、それは構わないが」
「もしラナさんが正気に戻ったら、電話します。そしたらウォウルさんと代わってあげてください」
彼女は何かしら考えているのだろう。レオンもそれをわかっているからこそ、別段何を聞くわけでもなく、ただただ「わかった」と返事を返すだけだった。
「こちらとしても、止める方法を探しだしてみよう。わかり次第連絡する。それでいいか?」
「えぇ、ありがとう」
「気をつけて行けよ」
「では、後程――」
言葉を交わしたレオンと衿栖はそこで背を向け合って互いに前へと進むのだ。
「衿栖。私たち、ちゃんと止めないとね。あのウォウルって子の為にも、ラナってこの為にも、さ」
「………はい、必ずや」
深く、重い言葉だった。朱里もそれを知っている。彼女もそれを痛感する。友を想う衿栖の心は、燃え盛るどの炎よりも強く、真っ赤に燃えていた。