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リアクション
5.――『赤と黒』
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レティシア、リアトリス等が戦闘を繰り広げているその近く。御影 美雪(みかげ・よしゆき)と風見 愛羅(かざみ・あいら)は物騒な音と話し声に耳を立てていた。まだそれが目視圏での出来事ではない為、二人は聞き耳を立てるより他に手段を持ち得なかった。
「急に非常ベルが鳴ったと思ったら今度は閉じ込められるし、おまけにこの騒ぎだ。一体何があったんだろうねぇ……」
「災害とかではないでしょうね。誰かしらが交戦している、と言うことは火事場泥棒の線は限りなく薄いですから。まぁ、仲間割れでも起こしていれば話は別ですけど」
「そうだねぇ………でも、音近付いてない?」
「おそらくはこちらの方で交戦しているのでしょう。どうします? 私個人としては、極力揉め事へと介入は避けたいんですけど」
「それは俺も同じことだよ」
二人はそう会話を結び、再び辺りを警戒しながら歩き始めた。と、交差している通路に差し掛かった美雪の顔、僅か数センチのところを銃弾がかすめていく。二人は慌てて壁に凭れ、銃弾が飛んできた方向へと目線をやった。
「此処だったかぁ……失敗した」
「まだ私たちの事がバレたわけではないのでは?」
「多分ね。ただ、これだけ近くにいればバレるのも時間の問題でしょ」
呟きながら彼は目を細める。ラナロックと交戦しているレティシア、リアトリスを見ていた美雪が、そこで首を傾げた。
「あれ、あの人たち、犯人を捕まえようとしてる訳じゃ…ない?」
よくよく見ると、ある一点、ある一線を遠ざけるようにして戦闘を展開している事に気づく。そしてそれは、彼のなかで何かに訴えかける行為でもあった。
「愛羅………ちょっと様子を見に行こう。隙を見計らって」
「えぇ!? 様子を見るって、何をですか!?」
「何かおかしい………あの人たちの戦いかたが、あんまりに一方的すぎる。何だろう………何て言うか、確証はないけど――」
「『何かを庇っている様に見える』でしょう? 先程から手前に立っている女の子、ちらちらとあの穴を見てますよ」
「………やっぱりかぁ。愛羅、やっぱり俺たちも何か手伝おう。厄介事と人助けは別だ」
「ま、どうせバレるんでしょうし、仕方ないですね」
先に壁から離れ、見えている穴へと駆け込んだ美雪を追うようにして、愛羅もその場から飛び出した。今までの『バレないように』が必要なくなった二人は迅速に穴の中へ飛び込むと、その場にいる人々を息を呑む。
「こんなにいたんだ、守ってる人」
「貴女たちは――?」
「大丈夫、あなたたちを逃がすために手助けに来たものです。美雪、これからどうしますか」
「まずはあの犯人を此処から引き離そう。じゃなきゃこの人たちの退路がないし、今外で戦っているみんなが動きづらいままだ」
「でも……どうやって?」
「俺が引き付ける。何とかすれば上手くいくかもしれないから」
「……………………はぁ」
真剣な彼の眼差しを前に、愛羅は深々ため息をついた。
「あなたはどうしてそう、そんな役ばかりかって出るのでしょうね」
「心配するこちらの身にもなってください」と続く言葉を飲み込んだ彼女は、どこからともなくエメラルドグリーンに輝くカタールを取りだし、それを美雪へと手渡した。
「あなたに風の加護が吹きます様に――。無理は禁物ですよ」
「…………ありがとう。無茶言ってごめんね。バックアップ、よろしく」
言い終わると、彼は穴から飛び出した。
「それが私の務めですよ。あなたはいつも無茶をして………でも、それがあなたの魅力なのでしょう。私は私――全力で、あなたを守る風になりましょう」