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リアクション
身体極まれり――とは正しくこの事であると、レティシア、リアトリスたちは実感する。背後に背負うは大勢の罪なき命。正面には、悲しいかな、自制が利かずに道を踏み外し兼ねない罪なる命。その双方を、彼女、彼等で受け止め、守り抜かねばならないのだ。故に――心身共々の負荷は、自身たちが思っている以上に大きい。
「流石にこれは――きっついですねぇ」
「同感ですよ、レティ」
レティシア、リアトリスはそれぞれ武器を構えながら、余裕のない笑顔を対峙するラナロックへと向けている。
「レティ、大丈夫?」
「アリス、援護かけるね! ………頑張って!」
ミスティ、メアトリスはそう二人に声をかけ、補助魔法をかけはじめた。ベアトリスは即座に杖を構え、レティシアとリアトリスの前へと躍り出るや、氷術により大きな氷を発生させた。その氷が音を立てて砕け散ったのは、正面からラナロックの弾丸が飛んできたからに他ならない。
「補助魔法中の隙をついて防御を展開。攻撃中も援護と支援――いやはや、天晴れと言うより他にないな。良いコンビネーションだ」
何やら満足そうに呟くラナロックは、片目を閉じて一同を見やる。
「お褒めの言葉、ありがとう存じ上げますねぇ………」
「まぁ、この重圧の中だったら、やるしかないよね……あはは…………」
補助魔法を掛けられている間、レティシアとリアトリスは懸命に息を整えてラナロックへと返事を返した。
「ねぇ、旦那様? ラナさんへのアプローチ、他には無いものですかねぇ………」
「………そうだなぁ、現状を考えると手詰まり、だね。防衛戦は此方の攻め手が攻めたら負け。攻めは攻めにして攻めにあらず――。うーん、難しいもんだ」
相変わらず、と言うよりは、もう苦笑を浮かべるより他にはないのだろう。疲れはてた笑顔の二人は、そこで不意に、ラナロックから意識を外す。突然の登場人物によって。
「来なよ、今は絶対に、万物を此処から先へ通過させる気はないからさ」
杖を翳したベアトリスに向け、ラナロックはにやりと口を歪める。
「言うな、若いの。ならば試してみようか。その意思は、鉄壁なるそれか。無欠にして『無穴』たる盾かどうか――」
ラナロックは二つの銃口を構え、引き金を引く。小切れの良い音が、狭い感覚でリズムを刻み、数多の殺意がベアトリスへと解き放たれた。
「頑張っちゃうよ、みんなを守るために――!!」
大きな氷が展開された先程と違い、小さく、長い氷の塊がベアトリスの周りに現れ、銃弾の進行の悉くを拒絶していく。勢いが幾分か殺されたのを確認したベアトリスが、最後に大きな氷を自身の前に展開した。暫しの沈黙――。が、氷がミシミシと音を立てると、表面に皹が入っていき、それが砕けて散った。
「そ、そんな!?」
受け止め、砕けた氷の破片のその中に、未だ殺傷能力を保持している数発に気付いたベアトリスが思わず声をあげた時である。
「肩――借りるよ」
「え――?」
ベアトリスの肩に上からの圧力がかかり、彼の体が沈んでいった。弾丸が自分の横、すれすれを通りすぎるのとは反対に、背後から現れたのはエメラルドグリーンを携えた彼――。
彼はその勢いでラナロックへと向かうと、エメラルドグリーンを薙いだ。ラナロックの鼻筋僅か数センチをかすめたそれは、慣性の法則に従って彼女の後ろへはけていき、着地する。
「……………ん?」
「っ!? そうだ、アリスたちは!?」
何が起こったのかわからない様子のラナロックとベアトリス。彼が慌てて後ろにいた二つの顔を探すと、そこには自分の展開していない氷の塊が浮いていた。しっかりと銃弾を受け止めて。
「ナイスフォロー、愛羅」
「無茶をするなとあれだけ言ったのに…………」
美雪と愛羅が、この場で交戦しているすべての人間を間に挟み、言葉を交わした。
「「えっと………」」
「レティ、終わったよ」
「こっちもできたよアリス」
言葉を失うレティシアと、リアトリスに背後から愛羅が声をかけた。
「助太刀します」
「あ、ありがとだねぇ!」
レティシアが慌てて返事を返す。そしてラナロックへと向いた彼女は、ワイヤークローを彼女に向ける。
「さぁさぁ、仲間が増えましたからねぇ、反撃させて貰いますよ」
が、言葉を向けられたラナロックは後ろに自身の後ろに立っている美雪の方を向いていた。
「………………コロスっ!!!!!!!!!!!」
「わ、何でそうなる!!」
「えっと………」
自分の言葉をスルーされたことに首を傾げるレティシアに、愛羅が説明をいれた。
「美雪はこの場からあの犯人を離そうと考えています。皆さんも、そちらの方がやり易いでしょうし」
成る程、といった様子で納得した一同は、一気にラナロックとの距離を近付ける。
「アトリ、ミスティさん、先に回り込んで美雪さんの支援を!」
「む、無理よ!! 私そんなに足早くないし、ラナさんに近付いたら――」
「大丈夫ですよ。私に考えがありますからねぇ」
リアトリスの言葉に慌てる二人は何かに捕まれる感覚を覚えた。見ると、レティシアの持っているワイヤークローが二人を掴んでいるではないか。
「上を越えれば近付かなくて済みますしねぇ、ほら、早く回り込めますから」
「確かにそうだけどさっ…………」
レティシアの発言に焦るベアトリス。が、レティシアは既にその言葉を聞いてはいない。
「ちょ、ちょっと!? あなたたち何を――!?」
「レティ、やっちゃって!」
「あいさー! 旦那様っ! せーの、よいっしょー!!!!!!」
フルスイング。レティシアはクローの先端をラナロックの向こう、一人ひた走る美雪へ向かってぶん投げた。