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葦原明倫館流☆年末年始の過ごし方

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第4章  蕎麦と甘酒の宴


「ふ〜お腹が空いたでありんす〜」

 大勢の生徒達を引き連れて、食堂の暖簾をくぐるハイナ。
 やれやれといった表情で、腹部を押さえている。

「あら、ハイナ様。
 そろそろ年越し蕎麦ができあがるみたいですよ。
 エクス様も結構気合いを入れて料理されているようですし、期待できますね」

 手招くは、プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)だ。
 座敷の炬燵にもぐりつつ、いつものクールさは崩していない。

「まったく、マスターも年末年始くらいはサボってもよいでしょうに。
 真面目というかなんというか、馬鹿ですねぇ」

 よいしょっと座りなおし、首を傾げたプラチナム。
 少しぬるくなってしまったお茶を、一気に飲み干した。

「ま、アレはアレで好きでやってる辺りどうしようもないと判断します。
 なのでどーしよーもない私は皆様と一緒にあったか炬燵を堪能しましょう……あ。
 ハイナ様、年が明ければ出向期間も終わりますので、転校の手続きをお願いしますね」

 とかなんとか話しているうちに、料理が運ばれてくる。
 蕎麦だけではなくポテトやフライドチキンまで出てきたので、食堂は大盛り上がりだ。

「待たせたかなぁ、クナイ」
「いいえ……お蕎麦、上手にできましたか?」

 2人分の椀を盆に載せて現れた、清泉 北都(いずみ・ほくと)
 炬燵でクナイ・アヤシ(くない・あやし)は、待ちかねたと微笑んだ。

「皆、揃ったかのう。
 では今年最後の食事でありんす、いただきます!」

 ハイナの声を合図に、一斉に箸をとる。
 調理者への感謝を示してから、宴が始まった。

「佐保先輩とおそばを食べられるなんて嬉しいなぁ!」

 ミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)は、年末も先輩に夢中。
 隣に座り、嬉しそうに蕎麦を口へと運んでいる。

「あれ、佐保先輩。
 頬にケチャップが……」
「ねぇ、真田先生、じゃないの?」

 ポテトを食べたときについた紅を、ミーナがそっとぬぐった。
 と、同じ卓袱台にいた繭住 真由歌(まゆずみ・まゆか)からの指摘。
 はっと気づいたように、視線を泳がせる。

「あぅ、先輩は先輩だけど本当は先生で……やっぱり先生って呼ばないといけなかった?」
「まぁ本人がいいって言えば、いいのかも知れないけど」
「先輩、ミーナも先生って呼ばないとだめですよね?」

 真由歌の返事に、明らかな狼狽ぶり。
 確認をとった隣の想い人はしかし、いままでどおりでいいと言う。

「ほっ、本当ですか!?
 ありがとうございます!」
「了解がとれてよかったね」
「えぇ、あなたにも、ありがとうございました!
 これで堂々と、真田先輩って呼べます」

 ここにまた、新たな友情が生まれた……気がするかも知れない。

「ところでまゆゆは、明日の羽根つきとか参加しちゃうの?
「いえ、ボク体力ないから」
「そうなの?」
「うん、だから今日もこうして、ぬくぬくまったりおそばを食べているんだ」
「なるほど〜ミーナはどうしよっかな〜?
 真田先輩は参加ですか!?
 がんばってください、あと来年もよろしくお願いします。
 ミーナ、来年もがんばります!」

 がっしり両手をつかみ、大晦日のご挨拶。
 恋する女の子なミーナを、微笑ましく思う真由歌である。

「それにしても、全員分の食事をつくるのは大変だったよぅ」
「私は、北都様のつくったお蕎麦があれば満足でございます」
「そっか、よかった。
 しかし本来なら僕達だけで食べるはずだったんだよねぇ」
「こんな大人数で……とも思いましたが、賑やかなのもいいですね」

 寒い冬だから、お蕎麦は温かいものを……おや。
 北都とクナイが食べている蕎麦は、皆のものと少し違っているようだ。

「僕の地元から仕入れた麺はどうかなぁ?
 自然薯入りだから蕎麦自体の風味は薄れるけど、粘りがあってツルツルとした喉越しを味わえるでしょ」
「えぇ、とっても美味しいですわ」
「天麩羅も、海老と舞茸をからりと揚げてきたんだぁ。
 しっかり食べてよね」
「はい」
「蕎麦は、細く長く生きられるようにってことで食べるらしいんだけど。
 長く生きられればそれだけ一緒にいられるってことだから、いいよね」
「そうですね……ぁっ!」

 小さくクナイが零したのは、時計の針が3本とも同じ数字を指したから。

「「あのっ!」」
「ふふふ、クナイからどうぞ」
「ありがとうございます、あの……」
「ん?」
「今年も、よろしくお願いいたしますね」
「もちろん!
 僕とクナイにとって今年もよい年になりますように……ぁ、ごめん……」
「いえ……」

 視線がぶつかるたびに、炬燵のなかで足があたるたびに、幸せだと感じる。
 口には出さないが、お互いに、もっともっと距離を縮めたいとの思いを抱いていた。

「へぇ〜これが『ニホンフウ』の年越しかぁ。
 楽しいかも〜♪」
(けど知らない人がいっぱいいるのは、嫌かも……)

 口ではるんるん気分でも、実は複雑な心境のアニス・パラス(あにす・ぱらす)
 人見知りゆえ視界には、料理とパートナー達とハイナ達だけを入れている。

「……そうだ!!
 和輝!」
「ん?」
「足開いて!」
「は?
 ……こうですか?」
「そうそう!」
「なにす……」
「とうっ♪」
「ぅわっ!」

 佐野 和輝(さの・かずき)は、そんなアニスに振りまわされる第1号か。
 渋々お願いどおりに動くと、両脚のあいだにダイブされる。

「にゃはは〜暖か〜い♪」
「ったぃな……アニス、食堂でばたばたしたら駄目でしょうが!」
「うぅ〜だって寒かったんだもん」
「まぁま、2人とも落ち着いて。
 おめでたい席ですよ」

 これ以上はまずいと判断したスノー・クライム(すのー・くらいむ)が、すっと止めに入った。
 どちらも本気で喧嘩をする気などないだろうが、場が場である。

「そう、ですね……ごめん」
「ごめんね、スノー、和輝」
「いえ、分かればよいですわ」
「っと久しぶりに日本風な年越しをしたいと思って、お邪魔させてもらったんでした。
 堪能しないと損ですよね。
 それに、手ぶらではなんだと思って甘酒ももってきています。
 もはや俺のお土産も恒例になりましたよね」
「お、かたじけないでありんす。
 食後にちょうどよいではないか」
「では杯をいただいてきましょうね」

 机上の椀をまとめると、隣の家庭科室へと消えていくスノー。
 戻ってきた盆には、大小いろいろの湯飲みが載っていた。

「スノー、ありがとうございました。
 さぁ飲みたい人はどうぞ〜!
 普通の甘酒と、ショウガ入りの甘酒を用意してみました。
 おっと、アニスは飲んでもいいけど加減してくださいね?」
「甘〜い♪
 美味し〜い♪
 ウマイ!
 もう一杯♪」
「あらあら、アニスったら」
「俺も混ぜてもらえるかな。
 外見は未成年だが成人はしておる、夏侯淵と申す。
 甘酒とは日本の伝統的な飲料で、名に酒とつくが未成年でも飲める、ということであっているかな」

 和輝の机にやってきたのは、夏侯 淵(かこう・えん)である。
 中国古来の英霊だと、その名から察する面々。

「ハイナ殿、先日はあまり時間がとれず失礼した。
 今日はゆっくり話をさせてもらえるだろうか」
「久方ぶりじゃのう、淵。
 来い来い、遠慮はいらぬでありんす」
「覚えていただけて光栄だ。
 俺は普段、パートナーのルカと軍務に就いているのだが。
 ルカのことも、覚えてくれておるか?」
「うむ、主と一緒におった金髪少女よのう?」
「そこまで……嬉しいな。
 ルカは【金鋭峰の剣】やら【最終兵器】と呼ばれる高レベル修練の契約者なのだ。
 国軍中尉にしてロイガーでもあるのだよ」
「ほぅ、すごいではないか!」

 パートナーも含めて、淵のことをハイナはしっかりと覚えていた。
 普段の学校生活で会うことはないだけに、その喜びはひとしお。
 共通に知った者の話なれば、歓談にも花が咲く。

「かぁ〜ずぅ〜きぃ〜眠くなってきちゃったよ〜」
「アニス……だから加減するよう言ったでしょうに……」
「う〜がんばって起きてな……くぅ……」
「やっぱりですか……」

 眠ってしまったアニスに、優しく毛布をかける和輝。
 そんな温かい様子に、感じるところがあったらしく。

「はぁ……」
(今年はいろいろあったせいか、懐かしいものに触れてセンチメンタル気味になっている和輝は、普段にもまして色っぽいというか……)
「えへへ〜和輝の匂いで一杯〜♪」

 スノーも甘酒を飲んだせいか、眼がとろんとしてきている。
 白いフードを被ったアニスが、むにゃむにゃ寝言を発する隣で。

「かず、き……」
(アニスに膝の上……抱っこはさすがに恥ずかしいけど。
 こう……隣で寄り添うように……って、私はなにをしてるのかしら!?
 これは、そう、甘酒を……飲みすぎたせいに違いない……わ……)
「って、スノー?」
(……珍しいな、俺と同じくらい人前で無防備な面を出さない彼女が、半分寝てる……)
「く〜」
「う〜ん……」
(アニスには毛布があるし、俺のジャケットを羽織ってもらうか……)

 一応コートを着てはいるが、眠っているあいだは意外と体温が上がらない。
 和輝は、自身の羽織っていたジャケットをスノーにかぶせた。
 現れたカジュアルな冬服が、また注目を集めるのである。