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リアクション
第二章
緊急出撃を行った辻永 翔(つじなが・しょう)とアリサ・ダリン(ありさ・だりん)の{ICN9999998#翔専用イーグリット}。
その隣で、叢雲に乗った綺雲 菜織(あやくも・なおり)と有栖川 美幸(ありすがわ・みゆき)が天使たちの姿を見つめたいた。
と、少し離れたところで凄まじい絶叫が響き、上空を舞っている天使たちとは比べものにならない大きさの大天使が現れる。
大量の天使たちと大天使を一度に相手にすることは得策ではないと判断した菜織たちは、戦力の分散を決めた。
「さて、やろうか」
菜織が翔に声をかける。
「ああ、俺たちはあっちのデカいのに行くぜ。できるだけ引き離す!」
「空は抑えるよ!」
それが合図だった。
二機は勢いよく飛び上がると、それぞれの目標へと凄まじい機動で突っ込んでいく。
すぐさま菜織は敵の大まかな情報を掴み、まとめると各機へと伝える。
「シンクロニティシステム、接続完了。機体に問題なし。いつでもいけます。マスター、機体に傷が付いたら許しませんのでよろしくお願いします」
「さて、っと。バルムングのシステム良好。武装も問題なし。全力でいけるな」
セイファー・コントラクト(こんとらくと・せいふぁー)の毒舌をさらりと流すと、猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)はバルムングの最終確認を終えた。
毒を吐きながらも、セイファーは内心では大パニックに陥っていた。
初めての実戦がこんなにも早く来てしまった上に、相手はイコンですらない。
毒舌クールを装ってはいるが、内面には涙もろく怖がりな一面を抱えていた。
「これ以上、あいつらを苦しめるわけにもいかないだろ?」
天使の大群を見上げながら静かに告げられ、セイファーは勇平を見る。
「あ……」
その真剣な眼差しを見た瞬間、異形の敵に対する不安、そして実戦に対する不安が薄れるのを感じた。
「ではマスター行きましょうか。あの程度5分で片付けてください」
冷静さと毒を取り戻したセイファーの言葉に、バルムングは天使たちへと向かって加速を始めた。
「さて、地味に姑息に行きますかね」
そう呟くと柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)は機体状況を逐一把握しながらレーダーや目視で味方と敵との位置を把握するよう、集中して状況を見つめる。
アルマ・ライラック(あるま・らいらっく)は桂輔からの情報や指示に従いながら、ノイギーアで狙撃に備えた。
空に響き渡る天使たちの絶叫。
その叫びは、銃撃のように降り注ぎ、心にもイコンにも容赦なく傷をつけてゆく。
「行くわよ真人、アストレア。同情も後悔も後でする。今は全力で天使を倒すわ!」
「怒りに飲み込まれて熱くなると見誤ります。こんな時だからこそ冷静にそして冷徹に状況を判断しなければ。同情も悲しむのも全てが終わってからです。セルファ、君は全力で思うが侭飛びなさい。そして、行きましょう。この慟哭の空を終わらせるために」
アストレアで飛び回りながら、セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)はフォローを御凪 真人(みなぎ・まこと)に託し、新式ビームサーベルでの攻撃を繰り出す。
リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)はレゾナント・アームズを発動させ、歌いながらキャロリーヌで戦場へと躍り出た。
歌劇団所属の歌姫として、歌いながら動き回ることには慣れている。
これまで対峙したことのない相手である以上、後は実戦で試していきながら有効な攻撃方法を見つけていくしかない。
攻撃や防御についてリカインが策を練る中、禁書写本 河馬吸虎(きんしょしゃほん・かうますうとら)は天使へと急速接近する。
運命の赤い糸を感じた(ワイアクローでからめ捕った)相手を全身全霊で受け止め(突進)、まずは武装解除を求める。
天使たちが武器を離さないと悟ると、潤んだ瞳で2人の間にそんなものはいらないと、ビームアイで腕に0距離射撃を行う。
あとは溢れる愛を伝えるという名目で天使を力の限り抱きしめるのだった。
天使からの攻撃を避けようともしない強攻策ではありながらも、1体1体を確実に潰していく。
一方で閃崎 静麻(せんざき・しずま)とレイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)はジェファルコンでビームアサルトライフルを使用し、弾幕を形成。
まずはけん制から戦闘を開始した。
「いくら実戦装備だからって、あんまり強力なもんは装備してないっての!」
「実戦はどんな訓練よりも訓練足りえるものですし、無理にならない範囲でやってみましょう」
そもそもジェファルコンの操縦訓練も兼ねての近接武装の取り扱い訓練で出撃していたところを、緊急要請で実戦に回されたのだ。
どうしても装備に不安が残る。
そんな中でもレイナは、その状況をも使いイコン戦闘のステップアップを図ろうと、具体的な策を考えていた。
高速で飛びながら、敵をしっかり見据えて次の動きを読み、即座に対応することを心がける。
ジェファルコンは天使と近接戦闘ができる距離まで近づくとソード二刀流で天使に斬りこんで行く。
「あちらに動きを読ませないのも重要ですね」
静麻からのデータやレーダーに関するサポートを受けながら、レイナは右のソードと左のソードを攻撃と防御を振り分けて攻撃を繰り出していく。
時には両方とも攻撃や防御に当てて型にはまらない攻撃で天使たちを翻弄する。
「剣と盾、そして槍の連携……攻守、援護共に隙が無いわね」
デクンザルカイルで天使達の行動を観察するグラルダ・アマティー(ぐらるだ・あまてぃー)は、操縦桿から手を離し、腕組みしながら制御卓に表示されたデータを目で追う。
行動はある程度のパターン化されているようだが、各々の性能数値は測定不能だ。
「つまり……相当ブッ飛んだスペックってワケか。面白い」
余裕を見せている状況では無いことは重々承知の上だが、それでも確かな成果をグラルダは得た。
思考、思考。更に思考。客観的な観測と、いくつかの要因。
初めての実戦とは言え、そこに不安は必要ない。大切なのは思考を止めないこと。
(地より出でた天使。それを堕天と形容するならば、彼等は何の為に飛ぶ?)
「シィシャ!」
グラルダの怒声でシィシャ・グリムへイル(しぃしゃ・ぐりむへいる)は現実に引き戻された。
シィシャに与えられた座席は計器の一切が取り払われ、代わりに大袈裟な魔方陣が敷かれている。彼女が腕を振ると、術式の一部が可視化され眼前に浮かんだ。
真円が合わせて10。それらを繋ぐラインが22本。
「擬似クリファよりバイパス確認。サーキット接続」
「レシピエント起動。“セトの回廊”による魔力置換を開始します」
無表情のまま無機質な声でシィシャは告げる。
「シィシャ、転換効率最大維持! 動くわよ!」
「効率持続の為、出力上限を70%に設定」
シィシャの報告にグラルダは舌打ちで返事をすると天使の群れの中心へと向かう。
「あの位置は不味いな……アニマ!」
離れた場所から狙撃で周囲の味方機の援護に徹していたアニマ。
だが、デクンザルカイルの背後を何体もの天使が追う姿を確認した桂輔の指示を受けると、すぐさまその地点に向かって突撃を開始する。
素早い動きでデクンザルカイルの背後に迫っていた天使たちを引き付けた。
「っと! しまったタゲられた!?」
「こうなっては仕方ないですね……乱れ撃ちます」
アニマはウィッチクラフトピストルの二丁拳銃を始めると迎撃を開始し、突破口を開く。
連射で何とか1体を倒すと、エネルギーの消費を考慮し後衛へと下がった。
「天使にブチ当ててロックを外す! 大人しく巣穴に戻ってろ、クソ天使!」
桂輔たちの援護で後ろの不安のなくなったグラルダは、槍天使の攻撃を利用して同士討ちを狙い、天使たちの群れの中で接触直前で急加速、急回頭する。
「人様に対する礼儀作法から勉強し直して来いッ!」
つられるように動いた槍を持った天使二体が激突したのを確認すると、即座に群れから離脱した。
「菜織様、久我さんからの情報です。大天使付近に多数の天使集団が向かっている模様です!」
「大天使方面を押さえたい。動けるか?」
美幸からの報告に、菜織は周辺の仲間たちに緊急回線で呼びかける。
「行くぜ!」
静麻が即座に反応し、天使たちの後を追う。
レイナは高速で飛びながら、天使たちをしっかり見据えて次の動きを読むと即座に対応し、複数体の間を飛び回り動きを制限する。
「突っ込むぞ!」
「ああ! レイナ、来るぞ!」
勇平の声に静麻は即座にレイナを誘導し、群れから離脱する。
高初速滑腔砲とダブルビームサーベルで天使たちを弱らせようと攻撃を続ける。
後方から圭輔とアルマの援護射撃に合わせ、静麻が再び群れへと突っ込んだ。
「こっちは任せろ!」
「絶対これ以上先には行かせねぇ。お前らの妄念ここで断ち切ってやるぜ!!」
静麻からの通信に頷き勇平は、突如大天使から空京方面へと進路を変えた天使たちの前に飛び出した。
「……くっ!!」
体当たりに近い力技に、バルムングの一部が損傷する。
「傷を付けたら許しませんと言いましたよね?」
「はは……悪ぃ」
「機体損傷率17%。メインシステム異常なし」
「え?」
もっとちくちくと毒を吐かれると思っていた勇平は、セイファーを不思議そうに見る。
「ですから。戦闘続行可能だと言っているのが分かりませんか?」
セイファーの目に、もう怯えはなかった。
「ああ!」
「2機、周辺を天使たちの群れに完全に囲まれました」
美幸が報告する。
「大天使のほうへ向かおうとした天使たちを足止めする、という意味では成功だな」
「うお! これ、なかなかヘビーだな」
苦笑いを浮かべる菜織の耳に、静麻からの通信が入る。
「周辺を囲まれた状態でターゲットの槍に追撃されると身動きが取りにくいですね」
「下手に避けるとバルムングに当たりそうだしな」
レイナが状況を説明しながら、目の前に飛び出してきた天使を蹴り飛ばした。
バランスを崩した天使に新型ビームサーベルでとどめを刺す。
「……意外と効果あるな」
「機体のバランスを取り戻す感覚さえ掴めれば、今後使いやすいかもしれませんね。蹴り技」
「8時方向に導線を作る。一気に行くぞ」
「「了解」」
菜織の言葉に、静麻と勇平が答えると、即座に該当地点から距離を取った。
次の瞬間、完全に2機を囲んでいた天使たちの隊列が崩れる。
群れの外側から叢雲がビームアサルトライフルで狙撃したのだ。
連携の乱れた天使たちに、冷凍ビームで追い討ちをかける。
「菜織様、次へ」
脱出の導線ができたことを確認すると、その空域を静麻と勇平に任せ、美幸はすぐさま移動を開始した。
「相手が連携しているのならこちらも連携しなければ厳しいですね」
天使たちがそれぞれの持つ武器の特性を活かし、連携した攻撃を展開していることに気付いた真人は、通信回線を開いた。
「まず狙うは盾を持った天使ですね。防御の要が連携の要。こいつを討てば連携を崩せると思います」
「私も盾が気になっていたの。自分も長くつかっているから」
リカインが歌の合間に答える。
天使から放たれた絶叫に、リカインは咆哮をぶつけてみる。
しかし、絶叫による攻撃はわずかに進路を変えただけだった。
「無理のようね」
即座に状況を把握すると、リカインは回避行動を取った。
「声である以上そう変な方向には出せないはずよ。なるべく撃たせないよう動き回るわ」
「さすがに声に関しては専門ですね。お任せします」
二機は距離を取ると、リカインはシールドバッシュで天使たちを徹底的に妨害し始める。
その隙を見て、真人はヒット&アウェイ戦法を駆使し、とどめを刺していく。
リカインの動きに合わせながら、次の目標の選択を素早く行い、ロスを極力削っていった。
斬り付けるたびに吹き飛ぶ天使たちの一部が機体に付くのを、真人たちは避けようとはしなかった。
解放するためとは言え、殺すしか無いにしても自分たちが殺めたのは間違いないのだから。
菜織は二機が戦闘に集中できるよう、飛び回る天使たちにけん制攻撃を仕掛け、思い通りの場所へと追い込んでいく。
と、突然死角から天使が飛び出してくる。
「そんなところに潜んでいたか」
菜織は呟くと、突然そのまま動きを止めた。
そして、天使が激突するその瞬間、重力に従って急下降する。
突然獲物を見失い動きの鈍った天使の斜め後ろに急速浮上すると、ビームサーベルで一気にケリを付ける。
そのままの勢いで真人たちの正面の天使を冷凍ビームで肩を狙い防御させた。
「セルファ!」
その隙を逃さず、セルファはエナジーバーストで目の前の敵に片を付けた。
「再び、このパラミタの地で出会える事を願う」
菜織が祈りながら見つめる空には、まだ、大量の悲しき天使たちが舞い踊っていた。
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