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リアクション
第四章
「そしてまた突然壁から僅かに、ほんの僅かずつ姿を現し、っと一気に出て来たぁ!! 暗闇の中、背中を預けただもう歌い続けるっ!!」
それぞれが工夫をこらし、暗闇の洞窟を僅かな明かりで照らす。
さゆみは熱狂のヘッドセットで自分自身の実況をやり気分を盛り上げつつ、進んでいく。
アデリーヌは後ろからさゆみを庇うように進み、天使たちが現れると素早くさゆみと背中合わせになり、死角をなくす。
攻撃魔法を容赦なく放ち、天使たちにぶつけてゆく。
過去に最愛の人を自分のミスで喪い、その心の傷を未だに抱えたままのアデリーヌは、現在の最愛の人であるさゆみを失うことを極度に恐れていた。
もしまた自分のせいで彼女を死なせるようなことになれば、迷わず死を選ぶ。
それだけの覚悟があった。
口を引き結び、再び天使に向き合ったアデリーヌの耳に、さゆみの幸せの歌が響く。
はっとして、目線だけをさゆりのほうにやると、同じように目線だけ振り返ったさゆみが力強く頷くのが見えた。
「必ず、一緒に脱出しますわ!」
アデリーヌはその想いだけを抱え、全力で天使たちに向き合う。
さゆみは恐れの歌や悲しみの歌で天使を意気消沈させ、怯んだところを富士の剣で斬りつける。震える魂や嫌悪の歌、恐れの歌などを続けて歌いながら天使たちと激しく剣戟を繰り返すのだった。
「コスプレディーヴァとしてのリズム感覚と身のこなしが生きてくるとは……」
ふと呟き苦笑を漏らすと、すぐに表情を引き締め、アデリーヌと共に互いを気遣いながら奥を目指す。
「悲しみの声が大きくなりました。来ます……」
「……安心しろ。綾耶の分まで、俺がみんなを『解放する』から」
「……はい」
綾耶の言葉を聞くと、傍に寄り添って守りながら移動していた某が、さり気なく綾耶の視界を塞ぐように前に出ると武器を構えた。
助ける方法はたった一つしかない。それでも殺したくない。そんな想いがよぎる。
それでも、それしか方法がない以上その苦しみを長引かせない事が、今の自分たちにできることだと、自分自身に言い聞かせる。
セルフモニタリングを活用し、出来る限り平静でいることを心がける。
無理矢理にでも落ち着かなければ、天使たちにとどめを刺すことなどできるはずもなかった。
歪な天使が絶叫を上げながら飛び込んでくる。
反重力アーマーで無重力を発生させてを不安定にさせると、流れるような動作でライトニングブラストで顔面付近を射撃。
そのまま真空波で天使の急所を攻撃していく。
倒れこんだまま動かなくなった天使の前で屈み込むと、一瞬だけ黙祷をささげる。
「これが終わったら、みなさんをちゃんと弔ってあげたいです。こんな最期を迎えてしまったけれど、それでも私の同族ですから……この人達を『解放』してあげられなかったから、せめてそれぐらいのことはしてあげたいです……」
隣で何かを堪えるように静かに告げる綾耶の言葉に、某はしっかりと頷いた。
洞窟内は視界が悪く、どこから敵が現れるか分からない。
そう考えた北都は超感覚で音や匂いや風の流れを含め周囲に注意を張り巡らせていた。
「地響き……? 来るよ!」
北都の言葉に、洞窟の奥を目指していた一同は武器を構えなおす。
「おかしいな……それだけじゃない……?」
背後の壁から天使たちが現れ、強力な攻撃を仕掛けてくる。
即座に距離を取ると、サイドワインダーと歴戦の魔術を活用しで複数の敵を相手にしていく。
クナイもサイドワンダーを構えると、次々に天使たちへと向かっていった。
せめて一撃で眠りにつけるように。
鳴り止まない遠い地響きに北都が壁に懐中電灯を向けると、亀裂が広がっているのが見えた。
「後ろから崩れそうだよ! みんな奥に!」
北都の声に皆が走り出した直後、進んできた道の壁が崩れ落ちた。
「退路が塞がれてしまうのはマズイですね」
「見つけたぜ。おい、とりあえずそこにいる奴らなんとかしとけ」
「ずいぶん軽く言ってくれますね」
崩落状況を冷静に判断し、笹野朔夜が呟く。
銃型HCを使い、歩きながらエメネアの位置をおおよそ把握した難波朔夜は、一同に位置の目安を送信するとまたすぐに何かを調べ始める。
その物言いにイラッとはしつつも、天使たちを倒さなければならないことには変わりない。
笹野朔夜は矢の形に変えたバイタルオーラから放出されるエネルギー弾を天使の眉間を狙って弓で矢を射るように放つ。
「よし!」
ほぼ同時に難波朔夜が声を上げると、瓦礫の山がどごっと音を立てて崩れ、人が通れるほどの穴ができた。
「みんな、お待たせっ!」
「この洞窟、だいぶガタがきていますね」
天使たちの絶叫で麻痺していた一同の耳に、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)と樹月 刀真(きづき・とうま)の声が響いた。
難波朔夜の誘導で、後ろから合流し、比較的壊しやすかった外側から瓦礫を崩したのだ。
ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)と漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)、封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)も並ぶ。
「後ろは大丈夫そうだよ」
背後から敵が現れないように、見張りながら進んできたエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)リリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)が合流した。
「時代が違えば、私もこうなっていたかもしれませんね……」
隅に横たえられた天使たちの姿を見て、クナイは思わず呟いた。
「もし、なんて言っていたらキリがないよ。僕がこの世界に居る以上、クナイにそんな事はさせないから。なったらその時は僕が眠らせてあげるから。余計な事考えないの」
強いが優しさを含んだ声音で北都に諭され、クナイは静かに頷いた。
(北都の手を煩わせるのは本意ではありませんが、眠らせて下さるのなら心配は要りませんね)
笹野朔夜が難波朔夜からの情報をもとにエメネアのいる部屋を目指し誘導していく。
「危ない! リリア、前に出ないでください」
「大丈夫よ」
「いいから下がっていてください」
現れた天使たちを見て前に出ようとするリリアをすかさずメシエが止めた。
メシエは様々な属性を試しながら、一番効果の高い属性の魔法を探しだし、距離を取った攻撃を展開する。
エースは距離を詰めるとシーリングランスや龍飛翔突で確実にダメージを与えていった。
時折勢いで前に出てしまいそうになるリリアを、そのたびにメシエが止める。
かつての婚約者の面影を持つリリアには、どうしても危険なマネはさせられなかった。
「リリア、ここはメシエの顔を立ててあげたらどうかな?」
「エースまでそう言うなら、仕方ないケド……」
苦笑いでアドバイスするエースに、リリアは二人の後ろに少し下がる。
「天使の動く力の一因がエメネアさんから供給されているなら、エメネアさんの救出が魂解放につながるカモ」
防御系能力強化によるサポートに回ったリリアは、天使たちとの戦闘を見ながら呟く。
「解放してあげるから、ゆっくりお休み」
天使たちも、このまま縛られるよりは解放の方が良いだろうと考えるメシエは、躊躇することなく天使たちと向き合っていく。
「倒さないと魂が解放されないという事はすぐに理解できるけど、殺したり倒したりする事は倫理的に抵抗あるよ。『こうしないと解放できないから』という事情は残酷な行為の免罪符にはならないと思う」
状況も方法も理解はしている。だが、納得はできない。
だからこそエースは、自分たちの罪を自覚しながら、天使たちを手にかけていく。
この天使たちにはもう、安らかに束縛から逃れられる方法は残されてはいないのだ。
傷つけられ苦しい目に遭って漸く得られる解放。
「でも彼等の最後の望み。出来るだけ多く解放してあげたい」
「……っつ!」
静かに決意するエースのの隣で、東雲の身体が揺らいだ。
「大丈夫か!?」
エースは咄嗟に手を貸す。
「ありがとう」
虚弱な身体に大きな傷を負いながらも、東雲は天使たちから目を逸らさない。
寄り添うように立つリキュカリアが、魔法でその戦いを可能な限り援護していた。
「これで彼等は心安らかになれるのだろうか」
絶叫を上げながらただひたすらに攻撃を繰り返す天使たちの姿を見て、エースは思わず東雲に問いかけた。
「そうだね……」
迫ってくる天使たちを前に、東雲は突然弓を置く。
そして、静かに歌い始めた。
天使たちの嘆きに同調し、そして切に解放を願う東雲のその穏やかで哀しい歌が、洞窟に反響する。
「穏やかな眠りについて欲しいと祈るよ」
静かに、ただ静かに響くその歌に、エースは想いを託すと、メシエとリリアとともに、さらに奥へと進んでいくのだった。
「口の裂けた天使……悪い冗談だわ。これが、元は守護天使だというの?」
「惨いものだ。まったく、惨いものだ……このような事、二度と繰り返させてはならぬ。絶対に」
乗客たちの救助のため洞窟に進んだローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)とグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)は、広がる惨状に思わず声を上げる。
洞窟の尋常ならざる気配を本能的に感じたローザマリアは、光学迷彩とブラックコートで姿と気配を消しながら戦闘態勢を取りつつ奥へ進んだ。
天使と遭遇すると、相手の出方を見極めつつ皆の援護を行っていった。
グロリアーナのサターンブレスレットも使い、一通り天使の攻撃手段や対策を確認すると、姿と気配を消したまま神速で回り込み天使の声帯がある喉元目掛けて七曜拳を叩き込む。
「ライザ!」
グロリアーナはローザが天使の声帯を潰した所で心臓部を一突きし、天使たちがせめて苦しまないように仕留めていく。
見事な連携だった。
出来れば殺したくはないが、他の飛空艇の乗客の事を考えれば止むを得ない。
万が一この天使たちが洞窟の外に出て暴れ始めれば、壊れた飛空挺など長くはもたないだろう。乗客の安全が第一である。
壁から生えるように出て来る天使には、容赦なく壁を撃ち出て来た所を仕留める。
噛み付こうとして組みついて来たら冷静に行動予測で動きを見つつ、アッパーカット気味に七曜拳を繰り出し、手を緩めることなく戦っていく。
「其方らの言葉は、妾に届かぬのやも知れない。だが、其方らの無念は、共に持っていく。其方らの魂と共に……だから、今は心安らかに眠るがよい」
グロリアーナの言葉に、ローザマリアも一瞬の黙祷を捧げた。
「だいぶ奥まで来たな」
「そうですね」
「……なんだか変な音がしないか?」
流にフォローしてもらいながら洞窟のお宝を探して進んできた和深だったが、結果的にエメネア捜索の一行に協力することになり、意外と順調に洞窟の奥まで進んできていた。
が、途中で妙な音に気づく。
「妙だね。行ってみようか?」
「いや、俺らで行ってみる。あんたたちは先に奥に進んでてくれ」
天音の提案に和深は首を振った。
「さすがに二人は危険じゃないかな」
「俺たちが一緒に行きますよ」
心配そうに首を傾げる天音に、刀真が進み出た。
「なんか、悪いな」
「いや、背後に危険を残すわけには行きませんから」
天音たちに先に奥へ進んでもらうと、音のするほうへ慎重に進んでいく。
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