|
|
リアクション
【軍人の休日の過ごし方】 〜三船 敬一(みふね・けいいち)&白河 淋(しらかわ・りん)&コンスタンティヌス・ドラガセス(こんすたんてぃぬす・どらがせす)&レギーナ・エアハルト(れぎーな・えあはると) 〜
「やっぱり、一人で全部やるのはムリか……」
床いっぱいに広がったパワードスーツの部品を見て、三船 敬一(みふね・けいいち)は思わずため息を漏らした。
久しぶりの休日。
人間、急に「いつもと違うことをやれ」と言われると多分に当惑してしまうものである。
敬一にとっては「休日」がまさにそれで、気がついたらパワードスーツの整備を始めていた。
その事自体も(問題かな)と思わなくもないのだが、今の彼には、もっと差し迫った問題が発生していた。
とても、一日で終わりそうにないのである。
とにかくパーツが多いの加えて、装甲板などはすっかり油まみれの泥まみれ。
このところ手入れするヒマがまるでなかったため仕方ないとは言え、装甲板を洗浄してワックスがけするだけでも、丸一日かかるのは間違いない。
「出来れば駆動系やら動力系やらもいじってみたかったんだがな……」
敬一はもう一度ため息を吐くと、整備課に連絡を取った。
「それじゃ、明日の朝までには仕上げておきます」
「面倒かけてスマンな」
「いえいえ、これが仕事ですから。三船さんこそ、ちゃんと今日中にアーマーの手入れ終わらしといてくださいよ」
「了解だ」
馴染みの整備員はヒラヒラと手を振ると、中身だけになったパワードスーツを乗せたトラックで走り去っていく。
「よしっ!早速仕事に取り掛かるとするか!」
敬一は気合を入れると、残された装甲板の山に取り掛かった。
「三船殿、少しよろしいか?」
作業に取り掛かってから数時間後、やって来たのはコンスタンティヌス・ドラガセス(こんすたんてぃぬす・どらがせす)である。
見れば手に数冊、分厚い本を抱えている。
「ん?どうしたドラガセス?」
「パワードスーツの運用について、興味深い論文を幾つか見つけたのでな。貴殿に勧めようと思って持ってきたのだが……取り込み中であろうか?」
ドラガセスは、山を成している装甲板とツナギ姿の敬一とを代わる代わる見る。
「いや、大丈夫だ。ちょうど昼飯にしようかと思っていたところだし。それじゃ、その論文を肴にメシにするか」
「う〜ん。俺としては、ちょっとその説には承服出来かねるな。いかにももっともらしく書いてはいるが、実際そんなシチュエーションあり得んだろう?」
「確かに貴殿の言う通り、中々起こり得ない状況かもしれぬ。しかし、意図的にこの状況を作り出したとしたら?」
「意図的にか?うーーーん、そうなってくるとまた話は変わってくるが……。それなら一言それに触れてしかるべきだし、更に言うなら、どうやって作り出すのかについてまず論文が書くべきだろう?」
「やはりそうなるか……。実は、我もその点についてはそう考えていてた――」
「随分と盛り上がってますね、お二人とも」
二人が顔を上げると、そこには白河 淋(しらかわ・りん)の姿があった。
「熱心なのはいいですけど、借り物なんですよね?その本。汚しちゃマズイんじゃないですか?」
論文の載っている雑誌を間に置いて、フォークや箸で指し示しながら話をしている二人を嗜める淋。
見れば、本の上にパンくずやら何やらが一杯散らばっている。
「お、オオッ!……」
「こ、これは……。我としたことが迂闊であった」
慌てて本の汚れを払う二人。
「戦術論に、パワードスーツの整備ですか……。折角の休日なんですから、任務と関係無いコトをすればいいのに」
作業場を見回して、肩を竦める淋。
「そういう白河殿は、一体何を?」
自分の休みの過ごし方にケチをつけられたと思ったのか、ドラガセスがやや不満気に言う。
「私ですか?私は、モチロンこれです」
「映画――ですか?」
「どうせまた、益体もないスプラッタ映画だろ?」
淋の持つディスクを見て、「ウンザリ」という顔をする敬一。
彼女のB級ホラー好きは筋金入りだ。敬一も昔無理やり付き合わされて、ヒドイ目に遭ったことがある。
「残念でした、ただのスプラッタじゃありません。連続密室殺人モノですよ!」
「……密室殺人?」
「推理モノということかな?」
「はい。これなら三船さんも楽しめると思って、誘いに来たんです」
「あー……。でもまだワックスがけの途中だしな……」
「ワックスがけならビデオ観ながらでも出来るじゃないですか。それに、私も手伝いますから。ドラガセスさんも、一緒にどうですか?」
「そうだな……たまには、そういうのも良いかもしれぬ。ちょうど論文の方も、行き詰まりが見えてきたコトだしな」
「じゃ、決まりですね」
「それじゃ、テレビ持ってこないと――」
「それなら、私が持ってきます」
立ち上がりかけた敬一を、淋が手で静止する。
「この間買ったばかりの、16kのプロジェクターがあるんです。折角みんなで見るんですから、大きい画面で見ないとね♪」
ウキウキしながら、淋が言った。
テキパキと機材を作業場に運び込み、鼻歌交じりにセッティングを終える淋。
15分もしない内に、上映会が始まった。
そして2時間後――。
「……結局、犯人は誰なんだ?」
「あの女性ではないのか?」
「動機は?」
「……わからぬ」
「あの彼氏の方じゃないですか?」
「俺もそう思うんだが、やっぱり動機がない」
「犯人は精神異常者か人格異常者では?」
「しかし、それらしい描写もなかったではないか?」
「「「うーーーん……」」」
果たして、映画は敬一の危惧とは裏腹に(ある程度スプラッタシーンはあったものの)至極真っ当なモノで、しっかりとした作りのサスペンスモノだった。それは良かったのだが、最後まで見たにもかかわらず、三人とも犯人が誰かはわからなかったのだ。
「皆さん、ここにいたんですか。レギーナです、ちょっといいですか?」
「どうした?」
ノックの音と共にレギーナ・エアハルト(れぎーな・えあはると)が部屋に入って来る。
「どうしたんですか皆さん。揃って難しい顔をして」
「いやな――」
一部始終を語って聞かせる敬一。
「なるほど。犯人が誰だかわからない――と。それなら、いいものがありますよ……ハイ、これ」
そう言ってレギーナは、一枚のディスクを淋に差し出した。
「なんですか、コレ?」
「皆さんが頭を悩ませている映画の、ディレクターズカット版です」
「え!ディレクターズカット版!?」
「そんなモノがあるのか!?」
「ええ。その映画、劇場公開時にも『犯人がわからない』って随分と話題になりましてね。どうやら、カットされたシーンに重要な情報が含まれてたのが原因らしいんです」
「でも、どうしてコレを?」
「この間、話してたじゃないですか。『この映画を三船さんに勧めてみよう』って。今日ネットニュースやら新聞やらを読んでたら、このディレクターズカット版の記事があったものですから。きっと必要になるんじゃないかと思って持って来たんですが、どうやら当たりだったようですね」
「あ、ありがとうございます、レギーナさん!」
「よくやったレギーナ!これで犯人がわかるぞ!」
「素晴らしい!なんという気の配りようだ、エアハルト殿!」
飛び上がらんばかりに喜ぶ三人。
「早速見ようぜ!」
「これは楽しみですな!」
「レギーナさん、よかったら、一緒に見ませんか?面白いですよ、この映画?」
「そうだレギーナ。お前も一緒に見よう!」
「エアハルト殿も是非ご一緒に。我も、エアハルト殿がこの映画にどのような感想を持つか、興味があります」
「そうですね――必要な情報収集は一通りこなしましたし。それでは、お招きに預るとしまょうか」
「やった!」
「ただし、先にこのワックスがけを片付けてしまいましょう。映画は集中して見ませんと」
「そ、そうですね!」
「よし!すぐ片付けようぜ!」
「はい!」
手に手にワックスと布を手に取り、装甲板磨きに取り掛かる四人。
(そう言えば、初めてだな……任務以外で、四人一緒に過ごすのって……)
好きな映画がきっかけで生まれた、楽しい一刻。意外なめぐり合わせに、思わず笑顔になる淋だった。