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【蒼空ジャンボリー】 春のSSシナリオ

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【蒼空ジャンボリー】 春のSSシナリオ
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【サプライズな誕生日!?】 〜 風祭 隼人(かざまつり・はやと)アイナ・クラリアス(あいな・くらりあす)ソルラン・エースロード(そるらん・えーすろーど)&ホウ統 士元 〜


「「「誕生日、オメデトウ!」」 

 「パァーン!」とクラッカーが派手な音を立て、皆がパチパチと手を打ち鳴らす。
 その真ん中にいた風祭 隼人(かざまつり・はやと)は、「ありがとう、みんな……」とお礼と言いながら、照れくさそうに頭を掻いた。
 そう。今日5月21日は、隼人の誕生日なのである。

「おめでとう、ハヤト君」
「おめでとうございます、ハヤトさん」
「ありがとう、二人とも」

 ソルラン・エースロード(そるらん・えーすろーど)ホウ統 士元の二人に、改めて礼を言う隼人。
 今日のパーティ会場の飾り付けや買い出しは、この二人が担当してくれたのだ。

「お礼を言うのはまだ早いですよ、ハヤト君」
「僕達からの、誕生日プレゼントです」
「え?プレゼント!?」

 驚く隼人をニヤニヤと見つめながら、会場の奥のドアを開ける二人。

「お誕生日、おめでとうございます。隼人さん♪」
「る、ルミーナさん!?」
 
 そこには、隼人の恋人であるルミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)が、大きなケーキを手に、少し照れくさそうに立っていた。
 ケーキには「Happy Birthday ハヤト!」とある。

「ど、どうして……。今日は、用事があるはずじゃ――?」

 実は隼人は、折角の誕生日を二人きりで過ごそうとルミーナを誘ったのだが、「用事があるから」と断られていたのだ。

「ごめんなさい。それは、嘘なんです」
「う、ウソ!?」
「『隼人さんに内緒でパーティの準備をして、驚かせよう』って皆さんがおっしゃるものですから、つい……」
「そうですハヤト君。ルミーナさんは悪くありません」
「だから、ルミーナさんを怒らないであげて!」

 済まなそうにしているルミーナを、必死にかばうソルランと士元。

「ダイジョブだよ、みんな。そりゃちょっとは驚いたけど、そんなコトで一々怒ったりしないぜ」
「ほ……本当ですか、隼人さん?」

 オドオドした様子で、下から見上げるように隼人の顔を見るルミーナ。

「ほ、本当ですよ、ルミーナさん。こうして来てくれただけで、俺は十分です!」

 必死に平静を取り繕いながら、内心あまりにツボなルミーナの表情に萌え悶える隼人。

「さぁ皆さん、ロウソクに火を点けましょう!」

 ルミーナを加え、改めてお祝いを始める一同。

「あれ?そう言えば、アイナさんはどうしたんですか?」
「あ、アイナ君は、用事があって少し遅れるとかで――」
「先に始めてて下さいって、言ってましたよ」

 キョロキョロとアイナを探すルミーナに、ソルランと士元が慌てて事情を説明する。

「そうですか……」
「なんだ、いないのか。折角だからみんなでパーッとやろうと思ったのに」
「さ、さぁローソクの準備も出来ましたよ!ハヤト君、フーッてお願いします!」
「ハヤトさん、早く早く!それっ、ハッピーバースデーはーやーとー!」
「あ、ああ……」

 ソルランと士元に促され、ケーキの前に立つ隼人。
 みんなの合唱が終わる頃にはアイナの事などすっかり忘れて、満面の笑みでローソクを吹き消した。

「「「おめでとー!」」」
「みんな、有難う!」

 思いもしなかったルミーナの参加にすっかり浮かれた隼人は、上機嫌でパーティを楽しんだ。
 それからしばらくして――。

「待たせたわね、隼人!」
「あ、アイナ!?」

 背後からの声に振り向くと、そこにはいつの間にやってきたのか、アイナ・クラリアス(あいな・くらりあす)が立っていた。
 両手で、大きな煮込み鍋を抱えている。

「誕生日おめでとう、隼人。ちょっと手間取ったけど、誕生日プレゼント、持って来たわよ」
「た、誕生日プレゼントって、もしかして――」

 背筋に冷たいモノを感じながら、恐る恐る鍋を見つめる隼人。

「もしかしてそのお鍋、アイナさんの手料理ですの?」
「そう!腕によりをかけて作った、ビーフシチューよ!」

 ルミーナの言葉に嬉しそうに頷きながら、どっこらしょ、といったカンジで鍋をテーブルに置くアイナ。
 蓋を開けた途端、部屋いっぱいになんとも言えない臭気が充満する。

「こ、これが、ビーフシチュー……?」

 そーっと、首だけだして中を覗き込む隼人。
 黒々としてドロっとした液体の中に、何か得体の知れないモノが浮いている。

「そうよ。沢山あるから、好きなだけ食べてね!」

 シチュー皿一杯に、その黒い液体をよそうアイナ。
 正直、とてもシチューには見えない。

「さ、どうしたの?遠慮しないで食べてよ。隼人のために作ったのよ」
「あ、あぁ……」

 黒い液体を見つめながら、思わず生唾を飲み込む隼人。
 何とか食べずに済ませようと必死に理由を考えるものの、目の前の料理とアイナの発する強烈なプレッシャーに、まるで頭が働かない。

「どうしたの?隼人。早く食べてよ。主賓の隼人が食べなきゃ、みんな食べられないじゃない!」
「そうですよ、隼人さん。折角アイナさんが一生懸命作って下さったのですから、早く食べて差し上げなくては」
「そ、そうですね……」

 アイナだけならまだしも、ルミーナにまでこう言われたのでは、最早逃げ場は無い。
 アイナとルミーナの後ろでは、士元とソルランが祈るようなポーズで隼人を見つめている。

(あぁ……。二人とも、俺が生きて再びルミーナさんの顔が見られるよう、祈っててくれ……)

 隼人は、最後にもう一度ルミーナの顔を見ると、潔くシチューを口にした。
 舌と言わず口内と言わず、全身を駆け巡る衝撃。

「大丈夫ですか?隼人さん、大丈夫ですか!?」

 心配気に駆け寄るルミーナの姿を最後に、隼人の意識は暗闇に包まれた。


(……あれ。ここは――天国?)

 自分の視界一杯に広がる美しい顔に、思わずそう口走る隼人。
 しかし口を動かしたはずなのに、声が全く出ない。

(声が……。そっか……、出る訳無いか。俺、死んでるんだもんな……)

 改めて、目の前の顔を見つめる隼人。
 どこから見ても、ルミーナそっくりな天使だ。
 手を伸ばして、その顔に触れようとする隼人。
 その手を、天使のたおやかな指が掴んだ。

「……暖かい」
「大丈夫ですか、隼人さん」

 自分の手を通して伝わる温かさに気づいた途端、隼人の耳に、自分の声と、天使の声が聞こえて来た。
 ……いや、天使の声じゃない。

「――ルミーナさん?俺……?」
「アイナさんの料理を食べて、倒れたんですよ」

 アイナの顔は、涙に濡れていた。

「そっか……。でもルミーナさん、どうして泣いてるの……?」
「どうしてって……。それは、隼人さんが倒れて――もし助からなかったら、私どうしようって――」
「あぁ……。心配かけたみたいだね、ゴメン……」
「ううん、いいんです。私がいけなかったんです。『アイナさんの料理が少しおかしいんじゃないか』って薄々感じてたのに、無理に勧めたりして……」
「いや、俺がいけないんだ。こうなるのはわかってたのに……」

 そう言って、上体を起こす隼人。
 室内を見回したが、自分とルミーナの二人だけしかいなかった。

「みんなは?」
「帰られましたわ、アイナさんと一緒に」
「帰った?」
「ハイ。アイナさんは『折角の誕生日にこんな料理を食べさせてしまって、隼人に申し訳ない』って。ソルランさんたちは、アイナさんを慰めるために、一緒に」
「そっか……」
「あと、アイナさんから伝言です。『無理して料理食べてくれて有難う、嬉しかった』と、仰ってました。それと――」
「それと?」

 何故か言葉を詰まらせるルミーナを訝しみ、オウム返しに聞く隼人。
 見れば、ルミーナは顔を真っ赤にしている。

「わ、私が……隼人さんを介抱して、慰めてあげて下さいって。『隼人は、それが一番喜ぶから』って、アイナさんが……」
「あ、あいつ……」

 思わず赤面してしまう隼人。
 気恥ずかしさから、つい目を逸らしてしまう。
 二人はそのまましばらく目を合わせずにいたが、やがてどちらからともなく、クスリと笑い出す。

「それでは、改めて続きを始めましょうか。隼人さんのお誕生日」
「う、うん。そうだね」

 二人はもう一度微笑み合うと、互いの手を取ってテーブルへと歩いて行った。