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リアクション
一階、廊下。
「ここに宝物があるんですよね」
御神楽 陽太(みかぐら・ようた)の子孫である御神楽 舞花(みかぐら・まいか)は、薄暗いハウス内を『ダークビジョン』で暗視しながら問題無く進みながら一緒に来ている陽太のパートナーのノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)に言った。
「そうだよ!! どんな宝物か楽しみだね」
ノーンは楽しそうに頷いた。『風の便り』でホラーハウスの宝物の噂を聞き、舞花に話した所、舞花が興味を持ったため二人で宝物探索に来たのだ。ノーンの『イナンナの加護』で危険を察知し『妖精の領土』で方向感覚を整えながら迷う事無く進んで行く二人。
「そうですね。発見出来たら鑑定してみたいですが、もしかしたら形が無いモノか家族の思い出的な物かもしれませんね。今までの四つの部屋には宝物の気配もそれらしき物もありませんでしたから。まだ探していない地下室の可能性もありますが」
宝物について推理を始める舞花。ノーンの『トレジャーセンス』がどの部屋でも反応しなかったための推理結果である。二人は、速やかに家族写真を完成させつつあった。冷静な舞花と非常に能天気でラッキーガールのノーンのタッグは最強で部屋に入るなりすぐに写真を見つけ出してしまったのだ。人形の服のポケットに押し込まれていた写真と姿見の裏に隠された写真はノーンが見つけて本に挟まれていた写真と銃に込められた写真を見つけたのは舞花だった。
「受付の目玉びょーんも面白かったし、飛び回る本とか空飛ぶローブに人形で遊ぶ女の子も楽しかったね」
ノーンはハウスに入ってからニコニコと楽しそうにしている。誰よりも楽しんでいる。
「……ユルナさんから聞いた話だと彼女の父親はとても楽しい方だったそうですから、思いがけない場所にあるかもしれません。ハウスの外というのも有り得るかもしれませんね」
ホラーハウスに行く前に舞花の『根回し』でユルナに宝物を見つけた際、正体を外部に漏らさない事を約束に宝物の心当たりを聞いたのだが、何も知らないという事で彼女の父親についての情報だけを得てそこから推測して探す事となったが、今まで入った部屋にはどこにも無かった。
「あの部屋から音楽が聞こえて来るよ。行こう!!」
ノーンは最後となった音楽家を目指す次女の練習部屋を指し示すなり、駆けて行った。
「あ、ノーン様、待って下さい」
舞花は推理を中断してノーンを追いかけて部屋に入った。
「うわぁ、楽しそうだよ♪」
部屋に入るなり、ノーンは楽しそうに小さく声を上げた。
部屋にはたくさんの客がいた。彼らの目線の先には、チェロを演奏するカンナ、フルートを演奏するさゆみ、ピアノを演奏するアメリがいた。アデリーヌは他の客に混じって演奏を聴いていた。
静かで繊細な音楽が部屋を満たし、ホラーハウスが恐怖ではなく感動を客に与えている風景。
「……落ち着きますね」
舞花も聴き惚れる。
しかし、二人が訪れてしばらくして演奏は終わってしまった。
「……終わちゃったよ。もう少し早く来たら良かったね」
残念そうにするノーン。他の客も同じようにがっかりしていた。
だが、演奏はこれで終わりではなかった。ピアノの奏者をアメリからオデットと透過飴を食べて透明になったフランソワに交代しただけだった。
「わたしも歌いたいな。行ってくるね♪」
好奇心旺盛なノーンは、聴くだけでは満足できず、思わず演奏者達の元に踊り出た。
「ノーン様! 写真は私が探しておきますね」
ノーンを止めるのが遅れてしまった舞花は写真回収を始める事にした。
演奏者達は、飛び入り参加のノーンにも慌てる事なく演奏を続けた。今度は音楽だけではなくノーンの素敵な声も客の心に届いていた。
「……素敵な歌ですね。あ、ありました」
舞花はノーンの歌声を聴きながら写真を探し、椅子の裏側にあるのを発見した。ちょうど、演奏が終わった頃だった。
「ノーン様、見つかりました」
舞花は見つけた写真をノーンにも見えるように掲げた。
ノーンは、聴衆と演奏者達にぺこりと頭を下げた後、いそいそと舞花の所に戻った。
「楽しかったよ。これで完成だね♪」
全部揃った写真を嬉しそうに眺めるノーン。
「そうですね。どうしますか? このまま行きますか?」
舞花はこれからの事を訊ねた。
「ここ、喫茶店もあるんだよね」
ノーンはふと立ち寄っていない場所を思い出した。
「はい。喫茶店で宝物について話をまとめましょうか」
「お菓子を食べながら♪」
二人は宝物についての推理と一休みをするために甘い物好きと珈琲好きがいる食堂に向かった。
二階、廊下。
様々な騒ぎが起き、賑やかな事になっているにも関わらず、静かに歌い続けるBGM担当のベル。一緒に来た和深と春夏秋冬は客を驚かせるのに忙しく、流は二人の監視に忙しい。一人でも少し先には一緒に来た三人の気配を感じる事が出来るので寂しい事はない。
『恐れの歌』や『悲しみの歌』や『驚きの歌』で客の心を不安に満たしていくベル。目立たない所にひっそりと立ち、ひたすらアカペラで歌い続けていた。
「……何か悲しくなるよー。誰が歌ってるのかな」
ノーンが『イナンナの加護』で二階に続く階段からベルの歌声を発見して歌声を追い始めた。
「ノーン様」
舞花も急いでついて行く。
「ねぇ、ここで一人で歌ってるの?」
「……はい」
二階に移動し、ベルを発見したノーンは早速訊ねた。優しいベルは歌を中断して答えた。
「ここの廊下の音楽を担当しているんですね」
舞花が周囲を見回しながら言った。
「はい、そうです」
ベルはこくりと頷きながら丁寧に答えた。
「大変だね。あれ? 何か向こうから音が聞こえるよ」
ノーンが指をさした方向からカシャーンカシャーンと音を鳴らしながら甲冑を着た綺麗な落ち武者が現れた。
「……びっくりした。落ち武者だよ」
ふぅと息を吐きながらノーンが言った。
「びっくり、とな」
現れた三郎景虎はノーンが洩らした言葉を繰り返した。
「驚かし役ですか?」
「あぁ。びっくりという事はこれで問題は無いのだな」
三郎景虎は舞花の訊ねる言葉に自分なりに納得した。
「問題?」
「“ほらぁはうす”とやらでこの格好は問題無いかということだ」
舞花が気になって訊ねると三郎景虎は答えた。
「問題無いと思いますよ」
「うん、似合ってるよ。ね?」
ノーンは頷き、ベルに同意を求めた。
「……はい」
ベルも頷いた。
「そうか」
自分なりに納得し、三郎景虎は音を立ててどこかに行った。
「わたし達も行こっか」
「そうですね」
ノーンは喫茶店を思い出し、舞花に言った。
「それじゃね♪」
「頑張って下さい」
ノーンと舞花はベルに挨拶をして再び一階の食堂へ向かった。
「……はい。気を付けて下さい」
ベルはノーンと舞花を見送ってから再び綺麗な声で少しだけ音程を外した歌を奏で始めた。
二階、夢見がちな長女の人形部屋。
「アハハハ、馬っ鹿じゃな〜い、びっくりしてやんの」
東方妖怪伝奇録は男性客が去ったドアを楽しそうに見ていた。
そんな時、
「今、すごい悲鳴でしたよ」
長女の部屋から聞こえる悲鳴を聞きつけてフレンディスが現れた。ベルクに見本を見せて貰った後、長女の部屋から悲鳴を耳にし、勉強しようとやって来た。
「……ん。君は幽霊をしているんだね」
去った客と入れ違いに入って来たのはどう見ても驚かし役。東方妖怪伝奇録は笑いを止めた。
「そうですよ。どうすれば立派な幽霊になれますか」
「……立派って」
東方妖怪伝奇録は妙な質問に一瞬だけ考えてしまうも悪戯好きなので答えはすぐに言葉になった。
「幽霊なら物陰からうわって出たり人数を増やすのはどうかな。薄暗いから驚くかも」
「……人数を増やすですか。ありがとうございます。私やってみます」
フレンディスはこくりと頷き、部屋を出て行った。
「うん。頑張って」
東方妖怪伝奇録は手を振り、思わず見送ってしまった。
「……さてと次はどうやって驚かせようかな」
東方妖怪伝奇録は気を取り直し、さっそく仕事に戻った。
その後、東方妖怪伝奇録からお化けを学び終えたフレンディスはベルクの元に戻っていた。
「ただいま、戻りました。マスター、見ていて下さい」
「……フレイ」
ベルクが心配する中、フレンディスは学んだ事を実践に移した。
気配を消し、双龍の傀儡に布を被せて壁の向こうから動かしたり、忍法・呪い影で影だけを動かしたりは相手を驚かせる事は出来たが、『分身の術』はそれほど効果は無かった。なぜなら生み出す本人自身に迫力が無かったからだ。ただカップル達にとってはくっつくきっかけにはなっていた。
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