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リアクション
終章 エピローグ
「追い詰めたわよ」
フリューネは頭領の乗るドラゴンの横につけ、大声で話しかける。
頭領は戦うつもりもなさそうに、だが逃げるでもなく、すぐそばの離れ小島へと降り立った。
直径百メートルほどの、草が生い茂る小さな島だ。
フリューネもその後を追って、小島へと降りた。
「ひとつだけ分からないことがあるの。なぜ、あなたたちは家系図を要求したの?」
「――あの村長は、獣人の村からリュイシラの家系図を奪わせたからだ。
その上で自分自身の村も空賊に襲わせ、隠し倉庫にあったリュイシラの家系図と、村人の家系図を空賊に盗ませた」
そう言って頭領は、小島の中央に向かって歩いていく。
「俺は、村長の盗んだ家系図を取り戻し、村を襲いに来た獣人に返すつもりでいた」
「返す……」
「俺はかつて村長が獣人の村を襲わせた空賊たちを、逆に俺たちが雇ってあの村に派遣した。
そうすれば、鉢合わせた獣人と空賊と村長の間で、誤解が解けるかもしれないという、安易な考えだがな」
ある一点で頭領は立ち止まった。フリューネもつられて立ち止まる。
――二人の足元には、縛られて眠っている一人の少女の姿があった。
フリューネは、彼女こそがリュイシラなのだと、瞬時に理解する。
「確かに、もっと別の時間軸に行くなり、暴力や誘拐をせずに未来を守ることはできたのだろう。
けれど、亡き祖父や亡き父、団員たちの怒りを汲めば、この時代に来て死ぬまで抗う他になかった」
「団員の意識を変え統一することが、頭領であるあなたにはできたはずよ」
フリューネは足元で眠るリュイシラの元へ屈み込んだ。
「……お前たちは、俺たちが村の子供を攫ったと言っていたが、そうではない。
少なくとも俺は、村を襲いに来るであろう獣人たちから、俺の先祖を守るために村から連れだしただけだ。
タイムパラドックスで、俺自身の存在が消えてしまっては、作戦が上手くいかないからな」
「嘘ね。ニルヴァーナに奴隷として売ったと言っていたわ」
「それは祖父からの遺言だ。祖父は当時、村の外の世界に憧れていたと言った。
ニルヴァーナの開拓に向かわせれば、もっと真っ当で毎日が新鮮な人生を歩めるだろう。
奴隷として売ったことにはしてあるが、実際には『自由に生きろ』と言って、連れて行っただけだ」
フリューネはしばらく黙り込み、それから口を開いた。
「……あなたは、自分の解釈で全てを決めているわ」
「何?」
「本当に子供たちが、急に親たちから離されて見知らぬ土地に連れていかれることを望んでいたと言える?
空賊として生きたあなたのお爺さんとあなたが攫った子供が例え同一人物でも、別の考え方を持っているかもしれない」
頭領は黙り込む。
「あなたが過去に来るという行動を起こさなけば、誰にも知らなかったかもしれない。
けれど、他のやり方もあったはずよ」
「――そうだな。リュイシラの母が間違え、村長が間違え、俺が間違え。
誤った選択が積み重なっただけで、こんなにも多くの命を奪ってしまったんだな」
頭領は沿岸部に向かって歩き出す。
「待って! 村に来て、全てを話すのよ。許すか許さないかは、他の人が決めることよ!」
「――この時代に来て最初に村長に会った時、フリューネの名前を挙げなければ良かったのかもしれないな。
そうすれば、正義とは何か迷うこともなかったのかもしれない」
頭領は自分自身に向けてアンボーン・テクニックを放った。そして、そのまま雲海へと落下していった。
「……死ねば許される、なんてはずがないじゃない。
だから、いつまでも憎しみの連鎖が消えなくなるのよ……」
フリューネの独り言は誰にも聞かれることなく、空峡に吹き荒れる風に掻き消えていった。
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