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冬のSSシナリオ

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この時期に『落ちる』は禁句です

――第伍の難関【オチール洞窟】
 このアトラクションは洞窟をモチーフにしたステージとなっている。
 中には二股の分かれ道があり、どちらかを選んで駆け抜ける、という内容だ。
 一方は何も起こらないアタリの道。
「そして、もう一方には落とし穴があるハズレの道にゃー」
 このアトラクションの仕掛け担当者である瑠奈が、挑戦者たちへルールを説明していた。
「ち・な・み・にぃ……最初に言った通り、ハズレの道を引いた人は罰ゲームが用意されていまーす♪」
 輝が愉しそうに笑みを浮かべる。「楽しみにしていてくださいねー♪」と輝が挑戦者たちに言うが、この中で罰ゲームを楽しみにしているのは執行者である彼であろう。
「さーて、挑戦するのは誰ですかねー?」
 輝が挑戦者を見回すと、すっと手が挙がる。
「ここは俺が先に行かせてもらおうか」
 手を挙げたのは、シオンであった。

「さて、どっちに行ったもんだかなぁ……」
 分かれ道の手前で、シオンが顎に手を当て考え込んでいた。
「やれやれ、さっきの名乗り上げの時の男らしさは一体何だったんだい?」
 その隣で呆れた様な、からかう様な口調で桃華が言った。
「勝手についてきてその言いぐさかよ」
「シオン君が行くならワタシが行かないわけにはいかないだろ? それに面白そうだったからね」
 にやにやと桃華が笑みを浮かべる。間違いなく、動機は後者だろう。
 何を言っても無駄、と判断したのかシオンは大きく溜息を吐いた。
「で、どっちに行けばいいと思うよ?」
「それはシオン君が決める事だ。ワタシはただついてきただけだからね」
 桃華が胸を張って応える。その態度にもう一度大きく溜息を吐き、シオンは入口へと目を向ける。
 先が闇で見えない二股の道。そしてその中央に置かれた木の看板。その看板がシオンを悩ませる。
「あからさま過ぎて怪しいよなぁ……」
 その看板は左右の矢印と、それぞれの下に【こっちアタリ】【こっちハズレ】と書かれていた。
 普通に考えれば、【アタリ】と書かれた方向に行くとハズレである。だがその心理を逆手に取った設置とも考えられる。シンプルであるが、故に頭を悩ませる効果はあった。
 だが、いつまでも悩んではいられない。
「よし、こっちだ」
 シオンが選んだのは、【アタリ】と書かれた側であった。
「おや、どうしてそっちを選んだんだい?」
「勘。悩むくらいなら自分を信じる……ってなんでニヤニヤしてるんだよ」
「別に?」
 桃華が目を反らした。
(多分これ、ろくな事にならないんだろうなー。嫌な予感がビンビンするよ)
 桃華は実はこっそりと危険察知の為に【ディティクトエビル】を使用していたのであった。で、使用結果はというと『嫌な予感しかしない』というもの。このまま進んだところでどうなるかは想像に容易い。
(一発でハズレ引くだなんて、運ないねー)
「ん、どうした?」
「何でもないよ。それより、決めたなら早く行こうじゃないか」
「ああ、そうだな……行くぞ!」
 そう言ってシオンが一気に駆けだした。そして、桃華はその後ろを距離を取りつつ駆け出した。
「……あっさりと引っかかりましたねー」
 シオンと桃華が駆けだしたのを確認して、【隠形の術】で隠れて様子を見ていた瑠奈が姿を現した。
 桃華の予想通り、【アタリ】と書かれた側がハズレの道であったのだ。
「さーってと、輝お兄ちゃんに罰ゲームの準備しておくように伝えないとだにゃー♪」
 鼻歌交じりでアトラクション入り口へと向かう瑠奈。その直後、
「んなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
悲鳴のような、シオンの叫び声が闇から響いてきた。

「ふむ、結局ハズレを引いたのは一組だけでしたか」
 アトラクション終了後、輝が結果を見て呟いた。
 結果から言うと、挑戦した者達の中でハズレに引っかかったのはシオンと桃華組だけであった。
「ああなるとは予想外だったにゃー……」
 少し悔しそうに瑠奈が呟く。罠に引っかからなかったわけではない。悩む者は多かった。だが、

「おいおいおいこれ何時まで落ち続けるんだよぉぉぉぉぉぉ!?」
「あはははははは! 中々愉快じゃないか! 一体どうなっているんだろうなぁシオン君!?」
「笑ってるんじゃねぇ! 大体なんでお前まで一緒に落ちてきてるんだよ!? 自分から飛び降りたろ!?」
「そりゃ中がどうなっているか興味あったからねぇ! 結果的に落ちて正解だと思っているよ!」
「不正解だよ大馬鹿野郎!」

ハズレ側から、シオンの大声と桃華の笑い声が聞こえるとなったら罠もへったくれもなかった。
「うーん、どこまでも落ちる罠がいけなかったのかにゃー?」
 ハズレ側には、瑠奈が仕掛けた【何処までもとことん落ちる落とし穴】が仕掛けてあった。
「あれはそんなこと関係なかったと思うよ?」
 輝が慰める様に言う。実際、着地点の衝撃吸収マットに落ちても二人の声は止むことは無かったので結局はハズレはバレていたに違いない。
「つまりだな、ワタシ達は犠牲になったという事だよ」
「巧い事纏まってないからな」
 ドヤ顔で胸を張る桃華を、シオンがジロリと睨んだ。
「でも罰ゲームが無駄にならなくてよかったですよー」
 そんな二人を見て、輝が満面の笑みを浮かべる。
「うわぁ、輝お兄ちゃんすっごいいい笑顔!」
「当然! むしろボクの目的こっちだったからね!」
「あーその、お手柔らかに頼む」
 げんなりした表情のシオンに、輝は「大丈夫♪」と満面の笑みでこう言った。

「うーんと可愛くしてあげますから♪」