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冬のSSシナリオ

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冬のSSシナリオ
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リアクション



ノリ過ぎは取り返しのつかない事態を引き起こす可能性があります。ご注意ください。

――風雲レティロット城。天守閣の前にはだだっ広い広場があった。
 現在、その広場を舞台にして数台のカートが所狭しと、まるで暴れる様に縦横無尽に駆け巡る。
 そのカートに乗っているのは、挑戦者側は牙竜、永谷、エレノアの三名。防衛側はハデスとレティシア、そして【オリュンポス特戦隊】や【エリート戦闘員】が乗ったカートが複数台。

――今、この場所で最後の難関である第陸の難関【カート戦】が繰り広げられていた。
 カート戦は、城主レティロットとの直接対決である。
 カートには的が備え付けてあり、挑戦者側はレティロットの的を水鉄砲で撃ち抜けば勝利。逆に自分の的を撃ち抜かれてしまうと失格となる。

「流石ですねぇ皆さん! あの難関を無事乗り越えてきただけはありますよぅ!?」
 カートのハンドルを大きく切りながらレティシアが叫ぶ。車体が曲がり、一歩遅れて永谷が放つ水鉄砲の水が地面へ着水する。
「ちぃッ! 外した!」
 外した永谷が舌打ちをしつつ、ハンドルを握りなおす。
「落ちついて! 敵の大将を崩せばこちらの勝利! 相手を包囲しましょう!」
 そんな永谷にエレノアが叫びつつ、レティシアを追う様にハンドルを切った。
「フハハハ! させぬ! させぬぞぉ!」
 だがエレノアのカートの前を、ハデスの車体が守る様に躍り出る。
「殿! 御無事ですか!?」
「援護感謝ですよぅ!」
「フハハハ! そう簡単に殿はやらせはせんぞぉ! ゆけぃ我が部下達よ! 殿を御守りし、愚か者共を思い知らせてやるがいい!」
 ハデスが指示を出すと、特線隊や戦闘員が向かってくる。
「そう簡単にやられるかよぉッ!」
 向かってきた一台に、牙竜が強引に体当たりする。自身もバランスを崩したが、戦闘員の車体が制御を失う。
「くらえッ!」
 そこを狙い永谷が水鉄砲を放つと、戦闘員は慌てて曲がろうとハンドルを切るも、急な動作でバランスを崩しクラッシュする。
「よし、いいぞ!」
 それを見て牙竜が拳を握りガッツポーズ。
「この調子で乗り込みましょう! いけぇーッ!」
 そしてエレノアの掛け声と共に、牙竜と永谷が敵に向かって突っ込んでいく。
「フハハハ! やれるものならやってみるがいい愚か者共よ!」
「さぁさぁ、あちきはここですよぅ!」
 そんな彼らに、ハデスとレティシアが高笑いを上げた。

「……ノリノリねぇ、レティだけじゃなくて皆」
 その様子を、離れた所からカメラで撮影していたミスティが半分呆れた様に呟く。
「本当、みんな元気よねぇ……」
 その隣で、同じようにセイニィが呆れた様にぽつりと漏らす。
「……こっちも負けず劣らずだけど」
 セイニィがちらりと横を見る。そこには同じように観戦している者達がいた。

「いいぞーエレノアー! 頑張れー!」
 佳奈子がカートを運転するエレノアに声援を送っていた。
「はっはっは! 賑やかでいいですねぇ! どちらも頑張ってくださいよぉ!」
 その横で、ルイが笑顔で声援を送る。どうやら無事立ち直れたようである。
 とまぁ、ここまでは普通の観戦組。

「はー、満足満足♪」
 その横で、幽那がやりきった、という表情を浮かべていた。
『結局無断で花壇と言う名の植物園を作り上げ、幽那ちゃんは満足しているのでした……っと。本当にぶれないなぁ幽那ちゃんは』
 そんな幽那に、呆れた様な感心したような様子でアリスが苦笑する。
 アトラクションの裏側で、幽那はせっせと自分の植物園を作り続け、遂には完成したのであった。最早エントランスはその体を為していないだろう。
「何を言う、それこそ母という物だろう!」
「そうだヨ! それでこそお祖母ちゃんだヨ!」
 アッシュとハンナが誇らしげに言う。
『アッシュもハンナもそうは言うが、結局のところフォローになっていないのである』
 呆れた様にアリスが呟いた。というか観戦に来てるなら試合見ろや。

「ふー、やりきったやりきった♪」
 そしてその隣では輝がいい笑顔で額の汗を拭っていた。
「お疲れ輝お兄ちゃん! いい仕事だったにゃー!」
「まぁね!」
 瑠奈の労いの言葉に、サムズアップで応える輝。
「……うーん、動きにくいなこれ」
 その横で渋い表情で桃華が自身の身体を見回す。輝が用意したアイドルコスチューム、【846プロ制服】を纏っていた。
「御似合いですよー」
「まぁ、そう言われちゃ悪い気はしないかな」
 諦めた様に桃華が言った。輝が用意した罰ゲームと言うのは、この衣装で終わりまで過ごすという物であった。
「しくしくしくしくしくしくしく」
 その隣では、シオンが顔を両手で覆って泣いていた。勿論この衣装を纏っている。ちなみにこの衣装、女子用である。
「見られた……色々見られた……」
 泣きながらシオンが呟く。何か色々失ってしまうような出来事があったようである。
「いいですよー! 可愛いですよー!」
「可愛くなってますにゃー!」
 輝と瑠奈がビシッ! と親指を立てた。ちなみに輝と瑠奈は嫌がるシオンをひん剥いて色々見た側である。
「んぷぷぷぷぷ! うんうん、シオン君超似合ってるぞ!」
「少しは笑いを堪えろよ!」
 噴きだすのを全く隠そうとしない桃華に、シオンがキレた。いやだから観戦に来てるなら試合みろや。

「本当に元気ねぇ……」
 試合と全く関係のない所で騒いでいる様子を見て、セイニィが呆れた様に再度呟く。ちなみにここにいないヘスティアはアルテミスの処分ごふんげふん別件で忙しいようである。
「元気なのはいい事でござるよ」
「まぁ、そうだな」
 その隣にいたツールが苦笑しつつ呟き、八雲が同意するように頷いた。
「……ねえ、ちょっと聞いていいかしら?」
 セイニィが少し言いにくそうな様子を見せつつ、八雲に尋ねる。
「何だ?」
「その……彼は一体何をしているのかしら?」
 そう言ってセイニィが指さす。その先にいたのは、
「〜♪ 〜♪」
鼻歌を歌いながら、鍋に火をかけていた弥十郎だった。
「モニターでちょくちょく見かけたんだけど……アトラクションに参加もせずずっとあんな感じだったわよ、彼」
 セイニィの言う通り、防御側のモニターではちょくちょくと弥十郎が映し出されていた。
「そうそう。私もつい映しちゃったんだけど、何だったのかしら」
 うんうんとミスティも頷く。
 その行動はというと、野菜を切っていたり、赤出汁を作っていたり、秋刀魚を焼いていたり、野菜炒めを作っていたりと完全に料理であった。
 その行為は防衛側でも『彼は一体何をしているんだ?』と議題に上ったり上らなかったりしていた。
「……さっき聞いたんだよ。『何してんのお前?』って」
「「ふんふん」」
 八雲の話にセイニィとミスティが頷く。
「……みんなに料理を振る舞うつもりらしい。何でもできたてのが美味いから、とか」
「何でまたそんな」
「俺にもよくわからん……時折弟がわからなくなる」
 ああそう、とセイニィが呟く。深く考えたら負けなのだ、こういうのは。
「よし、そろそろだねぇ」
 で、元凶である弥十郎は何をしているかと言うと、
「うん、炊けてる炊けてる。いい具合にできたねぇ」
鍋で炊いていたごはんの出来具合に満足げに頷いていた。

――とまぁ、こんな感じで観客席側が全く試合を見ていない間も、試合は展開を見せていた。
 
「ちぃッ!」
 牙竜が苛立たしげに舌打ちをする。
「何だよアレ……反則だろ」
「完全に戦力が違うわね」
 永谷とエレノアも、睨むようにしてレティシア達を見る。
「おやおや、もうおしまいですかねぇ?」
「口ほどにもありませんな、殿!」
 ニヤニヤと笑みを見せるレティシアとハデス。その手にあるのは、挑戦者側の物とは雲泥の差のスペックを持つ水鉄砲であった。
 破壊力に装填量、飛距離と完全に上回る特注水鉄砲に対して、挑戦者側は市販のそこいらにある物。話にならないレベルである。
 戦闘員の数を減らしたものの、それを十分に補える武器であった。
「さて、どうしたものか……」
「下手に突っ込むのは危険ね……」
 永谷とエレノアが顎に手を当て、考える。
「……考えても埒が明かない。俺が突っ込んで隙を作るから、そこでどうにかしてくれ」
 牙竜はそう言うや否や、レティシアに向かって走り出した。
「ヒーローは恐れないんだよぉッ!」
「その意気やよしッ!」
 向かってくる牙竜に、レティシアが水鉄砲を放つ。それをハンドル捌きでかわそうとする。
「甘いわ!」
 だが、ハデスが車体ごとぶつかる様に牙竜に突進する。
「ちぃッ!」
 食らってはひとたまりもないと、ハンドルを大きく切る。だが、その先には水鉄砲の水によるぬかるみが出来ていた。
「しまった!」
 何とか体勢を立て直そうとするも、ぬかるみに足を取られカートはスピンして、そのままクラッシュ。回転しつつ、広場の隅へと吹っ飛んでいく。

「あ」
 吹っ飛ぶ先を見て、ハデスが小さく声を漏らす。
「ん? どうしましたかねぇ?」
「いえ、あそこ。確か演出用の火薬置き場だったはず」
「それ、ヤバいやつですかねぇ?」
「御安心を殿。念の為を思って余った分まで全部置いてあります」
「ああ、ヤバいやつですねぇそれ」

「いってぇ……ヒーロースーツを着ていなかったら即死だった……ってなんだ? 何か火薬のような臭いが……」
 クラッシュした衝撃から、痛みに耐え何とか立ち上がる牙竜の鼻孔をくすぐる火薬の臭い。瞬間――
「ぬわあああああああああああああ!」
『大☆爆☆発』であった。

『し、死んだぁ!?』
 爆炎に巻き込まれた牙竜を見て、達観客から声が上がる。
「いや死んだじゃなくて早く助けないと!」
「そ、そうでござるな! 牙竜殿!」
 セイニィの言葉にはっとなり、慌ててツールが牙竜に駆け寄った。
「だ、大丈夫なの!?」
 牙竜を背負ったツールにセイニィが問う。
「と、とりあえず命に別状はないみたいでござる」
「そ、そっか」
 少しほっとした様子を見せるセイニィ。
「……こっちは別状ありそうよ」
「え?」
 ミスティの呟きに、セイニィが振り返る。

――そこに映っていたのは、先程の爆発で火の粉が燃え移った天守閣であった。

『も、燃えてる!?』
『急いで消火活動!』
『水弾幕薄いよ! 何やってんの!』
『いや水鉄砲じゃなくて消火器使えよ!』
 最早アトラクションどころではない。中断して急いで消火活動が始まる。
「こうしちゃいられないわ!」
 そう言って幽那は駆けだす。
「何処へ行くのです、母!?」
「植物園を守るに行くに決まっているじゃない! あっちはどうでもいいわ!」
「ま、待ってください! 我も行きますよ」
「あ、待ってヨお祖母ちゃん!」
 そんな幽那の後を、慌てて追いかけるアッシュとハンナ。
『こんな時でも一切ブレることがない幽那ちゃんであったとさ。めでたし……なわけはないか』
 呆れた様子で、アリスも後を追うのであった。