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すいーと☆ペンギンインベーション

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すいーと☆ペンギンインベーション
すいーと☆ペンギンインベーション すいーと☆ペンギンインベーション

リアクション

「ふぁーあ、やる気でねぇ」
 キロス・コンモドゥス(きろす・こんもどぅす)は闘技場の角で欠伸をかみ殺していた。
 イングリットとのデートを賭けた試合は反故、女性の歓声も無く、キロスの動機は皆無。
 それでもDSペンギンは襲ってくるもので、
「うぜぇよ」
 寄ってきた奴を一蹴に伏す。
「キロスさん!」
「あん?」
 唐突に掛けられた声に振り向くと、
「こんな可愛いペンギンをいじめるなんて、このオリュンポスの騎士アルテミスが許しません!」
 こちらを指差すアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)の姿。
「なんだ、アルテミスか」
 確認すると、さっさと視線を外してしまうキロス。
「それだけですか!?」
「注意は嫌いだ。あっちでやってくれ」
 アルテミスは抗議の声を上げるが、ヒラヒラと邪魔者を扱うように手を振られてしまう。
 しかし、ぞんざいな態度をされても、アルテミスは食い下がった。
「私はハデス様に命を受けました。何と言おうと、私はキロスさんと戦います!」
 一向に動く気配のないアルテミスに、キロスは業を煮やし、
「あー、わかったわかった。戦ってやるから、俺が勝ったらデートしろよ?」
 ついに重い腰を上げて構える。
 ようやく目的を達したアルテミスだが、いざ対峙するとなると、
「う……キロスさんと向き合うと、胸の鼓動が……」
 心臓が動悸を早める。それは恋に似た感情なのだろうが、
「けど、このキロスさんへの対抗心、全てぶつけて見せます!」
 盛大に勘違いされていた。
「行きます! はあっ! やあっ!」
「よっ……とっ!」
 一閃、二閃、交じり合う剣と剣。お互いの剣技をぶつけ合う二人。
 周りのDSペンギンも手を出せないでいる。
「……やりますね」
「お前もな」
 そんな緊迫した空気に、高らかな哄笑が水を差す。
「フハハハ! 我が名はドクター・ハデス(どくたー・はです)! 我らが盟友ダークサイズのDSペンギンたちよ、この俺が力を貸そうではないか!」
 それはキロスとの戦闘を命じたハデスだった。
「苦戦しているようだな、アルテミスよ。ここは我らオリュンポスの科学力をもって強化改造した『すいーつ☆キャノン砲』で加勢してやろう」
 ハデスの手で一瞬にして改造されたキャノン砲。
「おいおい、援護ってのは卑怯じゃねぇか?」
「わ、私は、そんな……」
「卑怯をするのはお互い様であろう?」
「……まあ、そうだわな」
「さあ行け、我が部下アルテミス、【戦闘員】、そしてDSペンギンたちよ! 世界征服は目の前なのだ!」
 号令をかけると、DSペンギンたちがキロスに向かってすいーつびーむを発射。
「だからって、簡単にやられたりしねぇがな」
 機敏にかわすキロスだが、
「えっ、こっちにも!?」
 流れ弾がアルテミスに被弾。
「……あれ? 私、お菓子になってな……って!?」
 直ぐに身体を確認して、とんでもないことに気付く。
 肉体に変化は無い。あったのは――
「ひゅー♪ それはそれでいいもんだな」
「きゃ、きゃあ! 鎧がチョコにっ!?」
 動くと端からポロポロ、破片が零れていく。
「ふむ……強化したつもりが弱体化してしまったか……」
 眼鏡に手を当て、思案するハデス。
「ハデス様! 考えてないで何とかしてください! こんなんじゃ、戦え――」
「おいおい、逃げるってのか?」
「くっ……」
 ニヤニヤ笑うキロス。
「案ずるなアルテミスよ。もう一度改造すれば良いだけのこと」
 ハデスは動けずに居るアルテミスへ声を掛けると、【機晶技術】【先端テクノロジー】【イノベーション】を駆使し、更なる改造を図る。
「これで大丈夫である。さあ、もう一度発射するのだ!」
 しかし結果は、
「おい、こりゃやべぇだろ!?」
「ちょ、ハデス様!? ビームが拡散しています!」
 キャノン砲の暴発だった。

「ちょっと何なのよ、これは!」
「セレン、この光は危ないわ」
 そこに居合わせたセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)
「見て、あの子、服がチョコになってるわよ」
「それじゃ、この光線に当たると服だけ変わるってこと?」
「そうみたいだわ」
 服が変わる。
 それは二人にとって、とても危険。
 なぜなら、身に着けているのは薄地の水着だけなのだから。
 もし浴びようものなら、一瞬にしてあられもない姿になってしまう。
 だが、セレンはそんなことなどお構い無しに、
「これじゃチョコが減っちゃうじゃない。何人分のチ○ルチョコが出来るか楽しみだったのに……」
 心の声が漏れていた。
「セレン?」
「ああ、ごめんごめん。用は、食らわなきゃ良いだけの話でしょ?」
「まあ、そうだけど……」
「大丈夫よ」
 セレアナと背中合わせに立つセレン。
「死角を無くして、避ける。そして――」
【ディメンションサイト】で上昇した空間認識力。【ミラージュ】を使った分身で混乱させ、その隙を縫って【実践的錯覚】や【雷術】をかけた拳での攻撃。
「ね、簡単でしょ?」
「言うほど簡単な訳ではないけどね。でも、私たち二人なら問題ないわね」
 セレアナは【光術】でセレンを援護。合間に【フロンティアソード】で峰打ちを決める。
「ええ、背中は任せたわよ!」
「セレンも気をつけて」

「まあ、うん、なんだな。フレイに誘われたとは言え、観に来るんじゃなかったぜ……」
 疲れた顔でベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)は溜息をついた。
「ルシアがあんな事態になっている以上、あのDSペンギン共は油断できねぇ連中っつーことか」
「何を怖気づいているのです?」
 それに対して忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)はふんぞり返って言う。
「この超優秀なハイテク忍犬の僕にかかれば、下等生物の中の下等生物なペンギンに負けるわけなんかないのですよ」
 ベルクを鼻で笑い、
「精々、僕の引き立て役として噛ませ犬になっておいで下さい」
 と、勝気な発言を繰り返す。
「マスター、ポチ大変です!」
 その時、険しい形相で戻ってきたフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)
「どうした?」
「向こうでハデスさんが!」
 言われて向かった先。
 すいーつびーむを撒き散らすDSペンギン。身体を抱えてしゃがむアルテミス。辛うじてかわすキロス。反撃を加えるセレンとセレアナ。そして、戦闘員とハデスが居た。
「これはいったい……」
「そこの人たち! 不用意に近づくと危ないわよ!」
「あのビームに当たると服がチョコになるわ」
 セレンとセレアナがフレンディスたちに注意を喚起する。
「服が、チョコ?」
 戸惑いを見せるフレンディス。ベルクはすぐさま理解し、
「あれはハデスのせいか。しゃーねー、とっとと片付けるか」
 口角を釣り上げる。それはイジメ魂に火が付いたのだが、それを見たポチは
「服がチョコになるのが目当てなんですね……やはりエロ吸血鬼ですね……」
 白い目で見ていた。
「ワン公、今なんて言った?」
「ご主人様以外の女性にも色目を――もがっ!?」
「この口か? この口がデマを吐くのか?」
「ほんほうのほほほひっははへへふ、へほひゅーへふひ!(本当のことを言ったまでです、エロ吸血鬼!)」
 口を横に引っ張られても、負けじと言い返すポチ。
「マスター、ポチ! 今はそんな場合じゃないです! アルテミスさんが!」
「きゃあっ! チョコが溶けちゃう!」
 体温で徐々に滴り始めた黒い服。
「早く助けないと!」
「おいフレイ。そいつはハデスの部下だろ」
「だからと言って、こんな格好のままにしておいていい訳がありません!」
 いつもより強い口調で言い返すフレンディスにベルクは気圧される。
「フレイ……どうしたんだ?」
「知りません!」
 ベルクの視線からアルテミスを隠すよう位置取り、上着をかける。
「大丈夫ですか? これを着てください」
「あ、ありがとう」
「ちっ、貴重なシーンが水の泡だぜ」
 落胆するキロス。
「これだから男は」
「いつも水着な私たちが言うのもおかしいけどね」
 嘆息するセレンとセレアナ。
「水着もいいが、やっぱ羞恥な顔が一番だよな。なあ、あんたもそう思うだろ?」
 男なら当然だ、とキロスはベルクに同意を求めるが、
「…………」
 何故か言葉を発しない。いや、発せない。フレンディスの視線がそうさせていた。
「そんなことより、早くDSペンギンを倒さないとです!」
 色気よりも闘争心に燃えるポチ。
「同じ動物としては負けられないです!」
 それは獣人としてどうなの? というプライドだが、意見は全面的に同意を得る。
「男は放っておきましょう」
「目の前の敵の方が重要ね」
「ポチ、頑張ってください」
「DSペンギンには身の程ってものを教えてやらねば!」
 駆け出し、かわし、体当たり。
「これがハイテク攻撃です!」
「……どこにハイテクがあるんだよ」
「緻密な計算でかわし、有効な打撃を加える。それがハイテクなのです! エロ吸血鬼にはわからないでしょうけどね!」
 どや顔で吼えるポチ。
「これ以上悪戯をするようでしたら、ご容赦致しませぬ故に。お覚悟願います」
【鉤爪・光牙】でDSペンギンを拘束するフレンディス。
「セレアナ、私たちも行くわよ!」
「もちろんよ、セレン」
「あー、俺はゆっくり眺めてるから。頑張れよ」
「キロス、あんたも協力しなさい」
「デートしてくれるなら考えてもいいぜ?」
 押し問答をしながら散開する三人。
 一方、ベルクはというと。
「俺は菓子みたいに甘くねぇぜ?」
 ボキボキッと指を鳴らす。
「待て、俺は科学者。非戦闘員だぞ?」
「知ってるさ。だからこうしてお願いしてるんだ。さっさと『すいーつ☆キャノン砲』を撤去しろ」
「だ、だから、それをすれば、ビームに当たって俺の服が……」
「てめぇの服など知ったことか。いいからやれ」
「ひ、ひいっ、止めっ!」
「あん? どうやら身体に言わなきゃわからないようだな」
 拷問と紛うイジメ。そして脅迫。内容は筆舌に尽くしがたい。その結果――
「俺は世界征服を諦めたわけではないからな!」
「ハ、ハデス様! お待ちください!」
 裸で捨て台詞を残し、退散するハデスとアルテミス。
「とりあえず一段落ってとこか」
 周辺に居るDSペンギンはすべて『すいーつ☆キャノン砲』を取り外されていた。
「ご主人様! 僕の活躍を見ていただけましたか?」
「ええ、もちろんです」
「なあ君達、今度デートしようぜ?」
『恋人が居るから無理よ』
 セレンとセレアナにハモって断られるキロス。
「フレイ、大丈夫か?」
「…………」
「お、おい、フレイ?」
「ご主人様、僕も着いて行きます」
 ベルクが声を掛けるも、無言のまま歩いていくフレンディス。
「私、どうして嫌な気持ちになったんでしょう……?」
 ベルクを背中にポツリと漏らす。それは、他の女性に目移りしたベルクへの嫉妬にも似た感情。
 少しだけ、恋に近づいていくフレンディスだった。