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祓魔師たちの休息1

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祓魔師たちの休息1

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第6章 自習時間Story6

「うー?うぅー、んんー。(えっと?ここをこうやって、締めればいいんだったね)」
 ロラ・ピソン・ルレアル(ろら・ぴそんるれある)はエレメンタルケイジの銀色の金具をきゅっと締める。
「うー♪(見てみてー上手にケイジに入れられたよ♪)」
 宝石を入れたそれを高峰 結和(たかみね・ゆうわ)に見せる。
「んーゆーわ、ぅうー。(ねぇゆーわ、宝石キレイだね)」
 紐を括りつけたペンダントを手に跳ねると、中の宝石たちがころころ転がる。
「こらこら。魔道具で遊ぶのはだめですよー」
 ロラの頭を撫でながら遊ばないように優しく言う。
「まずはアークソウルで、地下訓練場にいる魔性さんを探してもらえますか?」
「んぅーっ。(やってみるっ)」
 ペンダントに触れて静かに祈り、とことこ歩きながら探し始める。
「むぅー。んー。ぅうー。(いっぱい気配があるね。普通の昆虫とかも探知しちゃうみたい。目に見えないのを見つければいいんだよね)」
 感じ取った場所で探してみても、どれも目に映るものばかりだ。
 それらの数を省きながら集中していると、1つだけ目に見えない者の気配を発見した。
 どうやら草花の後ろにいるようだ。
 魔性はロラと結和を見ているのか、気配がそこから動かない。
「ゆーわ、んんー!!(ゆーわ、見つけた!!)」
「凄いですロラ。よくできましたね」
「んぅうーんー。(やったー褒められちゃった)」
「あ、あの、魔性さん…。魔道具の練習をしたいので…、お願いしていいですか?」
「エ…、ウン」
「―…で、では。何かに……憑いてもらえませんか?えっと、そこのアリさんとか…」
 おどおどとどもりながら、結和は足元を通過しようとするアリを指差す。
「ぅー?んー!(何?気配が消えたよ!)」
「憑依された者の気配はなくなってしまうのですよ、ロラ」
「んんー!(そうなんだ!)」
「(さっそく強化した章の力を試してみましょうか)」
 結和は赤紫色の雨を降らせ、どれほど痛みを与えなくなったか試す。
「―…ぁ、あのー…。魔法から身を守る力や、痛みの感覚は…?」
「ヒト、デ言エバ、叩カレタ程度、カモ。ガードハ、弱クサレタ感ジ」
「えっと。…では、他の章も試させてもらいます。いったん、アリさんから離れてもらえますか?そ、それと、私からは見えませんので…、アリさんの隣にいてください」
 始めて扱う悔悟の章はどのような効果を与えるのかページを捲る。
「いきます……」
 おどおどとした感情を抑えようと、結和は小さく呼吸して詠唱を始める。
 章から放たれた灰色の波が魔性を襲う。
「ゥウ、グッタリ…」
 体力を減少させられた魔性は小さくなってしまい、器にしていたアリの傍で座り込んだ。
 元のサイズに戻らないうちに、哀切の章の力で捕らえてみようと唱える。
 結和は魔性がいると思われる位置を光の波で囲み、丸い形を変えて包み込む。
「え、えっとー…。…光の中にいますか?」
「ウ、ウン。デモ、余力ノアル、相手ダト。1人、ハ大変ダト思ウ」
「誰かと協力したほうがよいのですね…。ロラ、アリさんの治療をしてみてください。ホーリーソウルを使えば、治せるはずです」
「んぅうー!(この白い宝石だね!)」
 のろのろと力なく地面を歩くアリの元へ駆け寄り、エレメンタルケイジに触れてホーリーソウルの力を試してみる。
「ぅうーんーんんー…」
 ロラの祈りに反応した宝石は白く輝く。
 ペンダントから漏れ出した光が指先に宿り、その指をアリにそっとあててみる。
「(エターナルソウルで効きを速められないかな?…あれれ、まだ弱ってる感じがする)」
 時の宝石で早く治せるようになるか試してみるものの、まったく邪気が祓われない。
 何分か経つとアリの小さな身体から黒い霧が噴出していく。
 霧が収まると細い足で元気に走っていってしまった。
「んんーうぅー、むぅーんぅー。(元気にすることは出来たけど、効きを速めることとかは無理みたい)」
 早く走ったりフレアソウルや種族の元々の能力による飛行速度を、速めることしか出来ないようだ。
「頑張りましたね、ロラ。疲れてたりしていませんかー?」
「うぅんー、ゆーわぅんんーう。(平気だよー、ゆーわが回復してくれるから)」
 SPリチャージをかけていてくれた結和のおかげで、あまり疲れていないとロラが言う。
「(私ももっと、練習しませんと…)」
 章による術の形状の変化などを、よりスムーズに行えるように結和は練習を開始する。
「(裁きの章は、雨のみみたいですね)」
 スペルブックに記した裁きの章だけでは、形状変化は変えられないようだった。
「(では、次は哀切の章を…)」
 いくつもの球体にしみたり、岩を的に光の球体で包んでみたりする。
「精神力を回復して使っていた時は、1分くらいでしたが…。今はどれくらいでしょうか」
 今度は聖霊の力やSPリチャージで回復しながら、どこまで形状を維持出来るのか試す。
 光の球体の形状を維持し続けられるか、携帯の時間を確認して詠唱する。
 哀切の章を行使し、淡い光で岩を包む。
 それはだんだんと輝きを失っていき消えてしまった。
 回復スキルでも持たせられなくなったのだ。
「―……っ、ふぅ。これ以上は厳しいですね。えっと、時間は…1分30秒程度ですか」
 精神力が尽きたタイムを携帯で確認してみる。
「私たちが普段使うスキルは、ほぼ一瞬ですから…本来はかなり長いほうなのでしょうね」
 それでももっと成長したいと望む結和は、今の結果では満足出来ない。
 術が魔性に届いて祓うための力を行使すれば、章は彼女の精神力を消耗させて、その時間はもっと短いものになるだろう。
 ならば捕まえるためのものとして扱えば、長く保てるかもしれないと考えたのだった。
 真剣に学んでいる結和の瞳には、いつの間にか小心さが少しだけ消えていた。




「俺たち以外…、誰もいなくないか?」
 夕方時に地下訓練場を訪れたベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)が、扉を開いて覗く。
「マスター、今回は自習ですし、早めに終わらせて遊びに行ってしまったのでしょう。えぇと…マスター。私は章が2種類ぱわーあっぷしたので威力試しと、このイヤリングを試してみたく思います」
「まずは相手になってくれそうな魔性を探さないとな」
 ベルクはアークソウルで気配を探し歩く。
「ポチは自習時間が終わるまで今暫くお待ち下さいね」
「はいっ!」
 フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)たちが自習を終えるのを待つため、忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)は廊下で丸まって待機する。
「(術は…エロ吸血鬼が得意だから僕は気に入らないのです)」
 魔道具を扱うための前提の術を習得しているベルクに、大切な人を独占されてしまい気分が悪い。
 窓のない地下では日の明かりで温まることも出来ず、フレンディスたちが場内へ入った後はムスッとする。
 ポチを待機させて場内にいる者たちは、さっそく魔道具の練習を始めようとしている。
「この自習が終わったら皆様と観光ですよね?私、とっても楽しみですので頑張ります!」
「あ、あぁそうだな」
 ベルクも彼女と同じくらい観光が楽しみだった。
 彼の最大の目的として…、そこでフレンディスの水着姿を拝められるからだ。
「フレンディスが強化した章を使えば、威力を下げずに痛みの軽減が可能だったか?」
 グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)も練習相手の魔性を探しながら、フレンディスに章の能力を確認する。
「えぇ、そのはずです」
「器にされた者を傷つけずに救出するだけでなく、憑依した相手も無闇に苦しませたくないからな…」
「ならば私をお使いください、主」
 アウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)の突然の発言に、グラキエスが困惑する。
「それは…どういう意味だ?」
「私に魔性を憑依させて、魔道具の練習を行ってください」
「イヤだ。そんなこと…出来るはずがない」
「主よ、私は主の鎧にして盾、主の為に存在する者。主の御力になれるのであれば、何の不満がありましょう!存分に私をお使い下さい!」
「魔道具は器にされた者を、傷つけることなく救うことが可能なものですよ。グラキエス様が悲しむような結果はありません」
 小さな子供のようにイヤイヤをするグラキエスに、エルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)は微笑かけて言う。
 彼の説明にグラキエスはしぶしぶ頷いた。
「万が一、仲間が憑依されてしまっても、躊躇わず扱う精神も鍛えなくてはいけませんからね」
「分かっている…」
「では、始めましょうか」
「先に頼めそうな者を見つけないと…」
「おーい、見つけたぞ」
「早いな、ベルク。すぐに行く」
 グラキエスは大きく手を振るベルクのところへ走る。
「掃除道具のような物を、持っているようにも見えるが…。何に使うのだろうか」
「フッフフー♪」
「アウレウスに憑依してみてくれないか?」
「ダレ?」
「その金髪の…」
「ァア、分カッタ」
 魔性は教えてもらった特徴ですぐに誰のことか理解した。
 憑依されたアウレウスは金色の髪が真っ白に染まり、掃除屋のような服装へ変わった。
「こっちも武器がいる」
 彼に拾われた小枝はモップへ変形してしまう。
 モップを握りしめた魔性はニヤリと笑った。



「さぁて、お掃除してあげようか」
 アウレウスに憑依した者は、モップを手にフレンディスを狙う。
「(本能的な危機感か…?いや、今は考えている暇はない。他にもいるようだ)」
 目の前の憑依されたアウレウスばかり、気を取られるわけにはいかない。
 強化したエアロソウルの黄緑色の光が、祓魔の護符を照らして分裂させる。
 グラキエスは不可視の魔性の姿を見破り、護符を投げつけて退かせる。
 “予告ナシ、サービスダッタノニ、ザンネーン”と言いつつ、彼の目に映る者はケラケラを笑う。
 それを止めてもパートナーに憑いた相手は止まらない。
「仕方ねぇな」
 フレアソウルの炎の翼で飛んだベルクは、エターナルソウルの力で飛行能力を加速させる。
 フレンディスを抱きかかえてモップをかわす。
「効力をかけてやるから、避けながら術を使ってみろ。…来るぞっ」
「は…はい、マスター」
 地面に下ろされたフレンディスはスペルブックを開いたままかわす。
「(ちっ、早いスピードだと消耗が凄いな。調節しながらやってみるか?)」
 ベルクはフレンディスの加速を緩めたり、攻撃を避けさせる瞬間に速度を上げてみる。
「(このイヤリングを試してみましょう)」
 白の衝撃の能力を引き出したフレンディスの身体は、白魔術の気を纏う。
 接近する魔性へ目掛けて裁きの章で酸の雨を降らせた。
 しかし、アウレウスの憑依した魔性に、強化光翼で避けてしまった。
「(逃しませぬ!)」
「―…っ!!」
 すぐさま2撃目を放たれ、魔性は赤紫色の雨を被ってしまう。
「マスター、詠唱なしの術で命中しました!」
「フレイ、喜ぶのは早いぞ。あいつが回復しないうちに早く祓うんだ」
 ベルクから見える器の中に潜む魔性はまだ諦めていない。
「は……はいっ」
「ンァアッ」
 本体を覆っていた魔力ガード力を削がれ、器から祓われてしまった。
「クソゥ、マダマダ」
「狙え、フレイッ」
 再びアウレウスに憑依しようと狙う魔性を、宝石の属性をエレメンタルリングの込めて殴る。
 1撃目は炎の魔力を込めた拳、2撃目には大地の魔力の拳をヒットさせる。
「(逃がしませぬ)」
 フレンディスはポイントに合わせ、灰色の重力で魔性を包み込んだ。
「ずいぶんと小さくなったな」
「エルデネスト。アウレウスの治療を…」
「はい、グラキエス様。速やかに邪気を祓ってみせます」
 そう告げたエルデネストは、草の上に倒れているアウレウスの傍に屈む。
 ホーリーソウルの聖なる気が彼の中へと侵食していき邪気を浄化する。
 憑依されていたアウレウスが、すぐに目を覚ました。
「かなり早く治療が出来るようになったんだな」
 グラキエスは彼の成長を喜び、嬉しそうに微笑む。
「主、お怪我はありませんか!?」
「大丈夫だ、アウレウス。本当に…無事でよかった」
「あ…主!!?」
 倒れそうになるグラキエスをアウレウスが抱きかかえる。
「―……眠ってしまいましたか?」
「きっと、安心して気が緩んでしまったのでしょう」
 寝言で“ポチ…”と言うグラキエスに、持ってきた薄手の毛布をかける。
 彼は今、夢の中でポチと遊んでいる。
「寒くないように、私が暖めてあげましょうか」
 アウレウスは主を抱えたまま、どっかりと地面に座った。
「私は少し調べものをしておきます」
 目ぼしい場所をピックアップしておこうと、エルデネストは観光パンフレットを開いた。