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祓魔師たちの休息1

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第10章 たまには休息を…エリドゥStory2

「駄目ね、完全にオフに切り替えてリフレッシュしないと行き詰った思考は解決できないわ。むむ〜、パンフレットによると、魔法的なものがあるらしいけど。実用的な感じじゃないわね」
「テスタメントはスィーツを買いたいのですよ」
「わたくしが先よ!目指すはショップッ」
 真宵は珊瑚の土産物屋がある店へ突撃する。
「白と青の珊瑚を使った髪飾りがあるわ。あ、こっちは腕時計の中にっ」
「あ…予算を気にしてくださいね?」
「ふふ、たくさん持ってきたから問題ないわよ」
「え、えっと真宵?値段も見てください」
「―……た、高っ」
 キレイで可愛いものは、やはりかなりの値段がするようだ。
「銀行にレッツゴーになってしまいますよ。テスタメントが許しませんけどね」
 パートナーに持たせていたら、自分のご飯代やおやつ代までなくなってしまうため、カード類は全てテスタメントが握っている。
「それを棚に戻して、たくさん買うなら手ごろな値段を狙うという手もありますよ。そもそも時計なんて…携帯やスマフォがあれば、必要ないでしょう?」
「イヤッ。絶対に買ってやるわ!」
 たくさん買うために、気に入った髪飾りと時計を手放す選択をしてしまうと、逆に買い物したいストレスがさらにたまってしまいそうだ。
 会計を済ませた彼女は他の店も見てみようと、レンガ造りのファンシーな店に入る。
「可愛い水着がたくさんあるわね…。(フリルと模様がついた白いビキニもいいわ。あー、でもやっぱりこっちの上品なお嬢様系の水色の水着のほうが…)」
 どれもよいと思うが、なかなか手が出せない。
 試着してみるだけはタダでも、このささやかなバストでは厳しい…。
「真宵では殆どの水着は胸が余るみたいです、ちゃんとパットが入る水着を」
「失礼なっ、わたくしだって…ちゃんとあるのよ!」
「胸の着やせが通らない服装のようですが?テスタメントは真宵と違って余る事は無いのです」
「―…くぅうっ!」
 生意気な胸をぺちゃんこにしてやりたいっ、とテスタメントを睨みつける。
「いつまで見てても虚しいだけなのです。水着を見てても胸のサイズは変わりません。それでも買いたいのなら、その平ら胸と相談して買うべきなのですよ?というわけで、テスタメントは甘味モノを買いに行ってきます」
「ま、待ちなさいよっ。わたくしを置いていく気!?」
 言いたい放題言って店を立ち去るテスタメントを追いかける。
「テスタメントは物品より食べ物の体験情報を求めているのです!」
 パートナーを放置してカフェに入る。
 真宵が店内に入ってきた頃には、すでにデザートを食べ始めている。
「ハチミツとココナッツ、そしてアーモンドの調和が素晴らしいのです。お手ごろな値段ですし、人気が高いのも納得です!ふむふむ、このジューシュにはシロップが入っているようですね。ビタミンC豊富で、このほどよい酸味がくせになりそうです。おや、真宵ではないですか?」
「勝手に何食べてるのよ!」
「見て分かりませんか?それに騒ぐと他のお客さんに迷惑ですよ」
「―…なんかもう怒る気にもなれないわ」
「真宵は栄養が足りて無いから薄いのです」
「わ……わたくしは十分補給してるわっ。だから、これから育つの!テスタメントよりも育つはずなんだから」
「へぇーそれは凄いですね。言うだけ虚しくないですか?」
 育つ見込みゼロな彼女に追い討ちをかける。
「わたくしが手を出さないからって、言いたい放題〜っ」
「ほらほら、騒がないでください。他の方々が見てますよ?んー他のデザートも頼んでみるのです。…ライスプリン?面白いデザートですね」
 テスタメントがメニューを見ていると、真宵が勝手にデザートに手をつける。
「すみません!これを頼みたいのですが」
「大変申し訳ありません、材料がなくなってしまったので…。今日はお出し出来なくなってしまいました」
「ではこれを…」
「あの、プリン類は全てお出し出来ないのです」
「な…なぜプリンばかり!?そんなに人気が高いのですか?」
「1人のお客様が、全てご注文していってしまったので…。テイクアウト分もない状態です」
「物凄いプリン好きに、先を越されてしまったようですね…」
 全てのデザートを制覇出来ず、しょんぼりしてしまった。



「ニクシー、時間が出来たので遊びに来ました」
 エリドゥを訪れたレイカはアークソウルを頼りにニクシーを見つける。
「ええっと、この前…私と町で遊んだことがある方は…いますか?」
 いくつもの気配があったため、どれが仲良くなった相手だか分からず、呼びかけてみる。
「レイカ…、どうして…?」
「遊ぶ時間をいただいたので、来てしまいました。私の箒でお散歩しませんか?」
「楽しそう…」
「では、後ろに乗ってください。行きますよ」
 空飛ぶ箒ミランにニクシーを乗せて飛ぶ。
 回転しながら飛んでみたり、急上昇して地面を目掛けて直角に飛んでみたりする。
「―…レイカ、危ない」
「ふふっ、大丈夫ですよ」
 石畳にぶつかるスレスレで水平状態へ戻り、心配そうに言うニクシーに微笑みかける。
 今度は斜めにゆっくり、上昇していき…また地面スレスレまで飛んで、2人用のジェットコースターみたいに楽しむ。
「面白い…」
「遊園地という場所に、似たような動きをする乗り物があるのです。私の箒でそれっぽく出来ないかなって思いまして」
「レイカのところ、面白いのたくさん、ある?」
「えぇありますよ」
 細い路地を通り抜け、街灯の周りをくるくる回転したりながら会話する。
 ニクシーは“分からない…。レイカの箒、のほうが、面白いかも。”と言う。
「…レイカ。壁、ぶつかる。ぶつかる、ぶつかる…っ」
「ぎりぎり感が楽しいんですよ。ほら、大丈夫でしょう?」
「目、目…開けてる?」
「いいえ?」
 硬い石の壁際との僅かな距離で箒を傾けて、レイカは横倒し状態で飛んでいる。 
 さらに目を閉じてみてニクシーにスリル感を与える。
「まだまだたくさん時間がありますから…、空の散歩を楽しみましょう」
 散歩というよりも絶叫マシーン化しているのだが、そのほうが面白いだろうと時間いっぱいまで、箒でニクシーを楽しませる。



 エリドゥに到着したコレットは、座敷わらしとの久々の再会に喜び、ぎゅっと抱きしめる。
「今日は小さなお人形なのね」
「わらしは、社から離れられないから」
「日が沈む前に海へ行こう」
 人形の座敷わらしを抱えて海へと駆けていく。
「わー、これ水たまり?」
「ううん、海だよ」
「海…?」
 聞き慣れない言葉に座敷わらしが首を傾げる。
「知ってる?海水って、水と違ってしょっぱいんだよ」
「ふしぎーっ」
「俺を置いてくなんて酷いじゃないか」
「ごめん、オヤブン」
 座敷わらしと会えて嬉しかったのか、すっかり一輝の存在を忘れていた。
「オヤブンがね、座敷わらしにお土産を買ってくれるって!お社に置いておきたものがあったら言ってね」
 一輝はまだ買ってあげるなんて、一言も口にしていなかったのだが、コレットの中ではすでにそういう流れになっていた。
「日が沈んできちゃったから、ショッピングしよう。えっと、町の方でね」
 座敷わらしと買い物しようとメールの情報にあった店へ向かった。
「あ…オヤブン」
「何?コレット。…え、何…その手は」
「お財布貸して。オヤブン疲れちゃってそうだから、2人で行ってこようかなって」
「いや行くよ?ちゃんと買い物に付き合ってあげるよ」
 放置される予感がした一揆は、お財布を後ろ手に隠して守る。
「コレット、雑貨屋を覗いてみないか?」
「うん。お人形がたくさんあるね。長持ちしそうなお菓子もあるみたい…」
「ねぇ、コレットおねーちゃん。これほしいー」
 砂浜で2人の姉妹た戯れている木彫りの人形を指差す。
「分かった!はい、オヤブン。これ持っていて」
「わぁー、これおいしそー」
「ナツメヤシのドライフルーツだね。オヤブン、これもお願い」
 お土産品を一輝の腕の中に積んでいく。
「持って帰るのが大変そうだから…リュックも買ってあげたいな。これなんか可愛いかも」
 オレンジ色の羽がついたリュックを手に取る。
 サイズが合うかどうか、座敷わらしに背負わせてみる。
「肩紐を調節しておけば大丈夫そうかな」
「はしるとぱたぱたするね」
 飛ぶ機能はないが、リュックを背負った座敷わらしが走ると、羽の分がぱたぱた動き羽毛が散った。
 羽毛は床に届く前に消えてしまう。
 何の効力もないが魔法的な加工がされているようだった。
「え、なんで2つもいるんだ?」
 腕の上にリュックを積まれた一輝が困惑する。
「1つはあたしのだよ」
「いいけど買いすぎじゃ…」
「オヤブン、あたしたちアクセサリーを見に行ってくるから。会計お願いね」
 そう告げたコレットは彼を置き去りにして、別のショップへ行ってしまった。
 代金を払った一輝はメールでもらった場所へ向かい、ショップに入るとコレットが笑顔で待ち構えていた。
「はい、これも」
 着物の帯につける珊瑚のアクセサリー代を、払ってもらおうと一輝に渡した。
 楽しそうにしている2人を目の前に、一輝は逆らえなかった。
「コレットおねーちゃんもおそろいー」
「ん、そうだね。ねぇ、オヤブン?」
「(や…やめてくれ、そんな目で俺を見ないでくれっ)」
 キラキラと邪気のない眼差しに負けてしまう。
「たくさん買い物したね、座敷わらし」
「楽しかったー」
 だが、代償に一輝の財布が寂しいことになっていた。



「斉民、最近調子どう?」
 エリドゥを訪れた弥十郎は、レストランで料理に手をつけながら斉民に話しかける。
「―…何が?」
「最近、術の調子がいいよねぇ。なんか努力とかしている?」
「いつも通りにやってるだけだよ。弥十郎は?」
「最近疲れているのか、良く転ぶんだよねぇ」
「いつも料理のことばかり考えてるからじゃない」
「そうかなぁ…。ちょっと飲み物取ってくるよ」
 からっぽのグラスを手に弥十郎が席を立った。
「(最近、弥十郎の動作を加速させて遊んでるけど、この石なかなかいいなぁ。用途がアレだから、凄いスピードは無理だけど)」
 パートナーの近くに人がいないことを確認した斉民は、エターナルソウルで小走りに走る彼のスピードを速める。
 いたずら目的で使っているため、思ったより速く出来ないし疲労も大きかった。
 それでも遊びをやめようとしない。
「わ、わっ!?」
 慌てている彼を眺めている斉民が、宝石の能力を解除する。
 飲み物を持って戻ってきた彼は、顔を青ざめさせていた。
「どうかしたの?(あはは、何でだろうって顔してる)」
 その様子に斉民は心の中で大笑いする。
「また転びそうになっちゃってね。(やけに機嫌がよさそうだね、斉民。連れてきてよかった♪上級者に育ってくれるやる気を出してくれると、もっと嬉しいんだけど)」
「(あ、なんかまたよくないこと考えてそう)」
 自分を見てにやけている弥十郎を訝しがる。
「変なこと企んでない?」
「えっ。なんかたくらんでるかって?いやぁ、この料理のレシピなんだろうなぁって」
「へぇー…」
 その笑みは明らかになんか誤魔化している。
 さらに訝しがる斉民が、彼を警戒する。
 食事を済ませてレストランを出ると、他の店でも何か食べてみない?と弥十郎が言う。
 斉民は彼の傍を歩きながら、またエターナルソウルで加速をかけた。
 躓いた弥十郎が石畳の上に転んでしまった。
 ちらりと斉民の方を見ると、パートナーのエレメンタルケイジの中にある宝石から輝きが消えた瞬間を目撃した。
 気づかないフリをしてまた店のほうへ進む。
「(面白かった!よーし、もう1回…。…あれ?速くならない…)」
 不思議そうに首を傾げると、弥十郎が足を止めた。
「まったく、酷いことするよね」
「ばれた?」
 弥十郎を玩具にしていたことがばれてしまい焦る。
「魔道具はそんなふうに使っちゃいけないんだよ。今…不発だったでしょ?」
「もうしないから、怒らないでよ」
「よろしい♪許してあげるよ」
 弥十郎は仏心でいたずらを許してやった。



「海…ですか」
 やはりと言うべきか、連れてこられた先でグラルダが何をするのか確認した。
 2人は閉店直前に駆け込んだ店で買った水着に着替えている。
「と、いうわけで。ニクシー!居るんでしょ、出てらっしゃい」
「何……?」
「そこにいたの…」
 グラルダのすぐ傍で声が聞こえ、そこへ振り返るが誰もいない。
「不可視の相手は見えません、グラルダ」
「水人形を出してもらえれば、アタシの目的に問題はないわ」
「―…何か、用?」
「海の魔性であるアンタに頼みがあるわ。アタシに泳ぎを教えて頂戴」
「…グラルダ。海の魔性というか…淡水です。泳ぎには問題ないでしょうが、本物は海へ入れません」
 シィシャがすかさずツッコミを入れた。
「だから、水人形を使ってもらって教われば問題ないはずよ」
「泳ぎたい…?」
「そうね、目標はでっかく…」
 今まで避けて通っていた領域へ足を踏み入れるべく、グラルダの目に決意の色が宿る。
「自力で浮けるようになるまで!」
「小さいです」
 彼女にとってはかなりの大冒険なのだが、シィシャが冷静にツッコミを入れたのだった。
「潜水ごっこ、する?それで、浮く感覚が分かる」
「―……潜水!?アタシにとってはハードルが高いわ…」
「じゃ、補助…」
 ニクシーは水人形を出現させ、グラルダを海に引きずっていく。
「ちょ、…ちょっと何、待って!」
「補助…、する」
 グラルダの耳の後ろ側を掴んで引っ張る。
「浮いてる感じがしてきたわ」
「次、押す」
 浮く感覚を教えようとニクシーは水人形に後ろ足を押させる。
「ごぶぶぶっ」
「あ、沈んだ」
 押すところまで行くのはまだ早かったようだ。
 彼女を回収して浜辺は運ぶ。
「まだまだ…これからよ」
「日が落ちてからやる事も無いでしょうに」
「努力というものは人目につかずにやるものよ」
「そうですか、行ってらっしゃい」
 シィシャは再び海へ連れて行かれるグラルダを見送った。
 まだ温い海で泳いでいるとパートナーは3体がかりで教わっていた。
「引っ張られたり、押されたり…。遊ばれているように見えますね」
 正しい教え方なのだが、シィシャにとっては笑えるような光景だ。
「う、うるさい。今…集中しているのよ」
「グラルダ。浅いところで、砂蹴って、手をばたばたさせて。鳥が、バタバタするみたいに」
「分かったわ…。むぐぐっ、うぐ…っ!!」
 言われた通りにやってみるが、まるで溺れそうな人のようだった。
「…だんだん、分かってきたかもしれないわ」
「……いけない。グラルダ、真上はいけない。正面、向いて。そのほうが、いい」
 砂浜からニクシーが教える。
 辛く苦しい試練を乗り越えたグラルダは、ついに…。
「浮けるようになったわ…。これで、水場も怖くない!」
 水面に浮いている状態にまで上達することが出来たのだった。
 見回りにきた人が、真夜中の海をライトで照らす。
 そこにはぷっかりと浮かんだ黒髪の娘がいた。
 驚いた住人は腰を抜かしてしまった。
 黒髪の娘…グラルダを水死体だと勘違いしてしまったようだ。