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リアクション
第7章 自習時間Story7
「今日もいっぱい学んじゃうからね!えっと、パパーイからのメール見ておかなきゃ」
いつものように送られてきたアルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)からのメールを、セシリア・ノーバディ(せしりあ・のおばでぃ)が開く。
-自習、頑張っていますか?-
『本日は進学卒業認定会議がありますので、状況によっては遅くなるかもしれません。
まあ、大過は無いと思いたいのですが、人数が人数ですので…。
夕飯は、この間食べた「常夜鍋」というのが美味しかったですよ、また作ってください。
Alt』
「ツェツェ、何見てるんだ?…闇鍋?なんつーもん食わせてんだ…」
「ち、違っ!常夜鍋よ」
「あぁ、見間違えか。ってぇなー!!ただ見間違えただけだろっ」
キレたセリシアのラリアットをくらった緒方 太壱(おがた・たいち)が喚く。
「とても微笑ましく見えるんだけど、成就は厳しいね」
2人のやりとりを緒方 章(おがた・あきら)が観察する。
「はぁー、ウザイわね。無駄に騒ぐんじゃないわよ」
ヴェルディー作曲 レクイエム(う゛ぇるでぃさっきょく・れくいえむ)のほうは不快そうに顔を顰める。
「タイチのせいで怒られちゃったじゃないの」
「んなぁ!?俺のせいにするなよ」
「しーらないっと♪」
「真面目にやらんかっ」
このまま放っておいたら、いつ自習を開始出来る分かったものじゃない。
怒りを爆発させた林田 樹(はやしだ・いつき)が太壱の頭を殴った。
「ちくしょうー…何で俺だけ…」
「口答えは許さん、バカ息子」
「あ、…ぅ」
ヒリヒリ痛むコブをさすりながら太壱は小さく呻いた。
「ねえねえタイチ、わたしたちでもアイディア術って出来るかな?」
「必要な人数と相応の魔道具があればな。前回の授業はそんな感じだっただろ?」
「確か、力を上乗せするように送るイメージだったのよね、この間試してみたのは」
魔道具が足りなかったため不発だったが…。
メンバーの魔道具へ力を送っていき、発動させるものだったかと言う。
「ちょっとさ、私に向かって哀切の章のエネルギーを送ってみること出来る?」
「人だけじゃ対象外だろ、ツェツェ」
「違うの、このエレメンタルリングにね」
「俺とツェツェだけじゃ、確実に失敗じゃないか。ていうか、魔道具だからって何でも適応されるわけじゃねぇって。元々の効果に合わせた感じじゃないとな」
「いいからやってみて。……そうそう!わたしのリングに力をって、あ…、あれ?」
唱えてもらった祓魔術の力はリングを通過してしまった。
「このチンクシャッ!2人だけで出来るわけがないじゃないのっ。アイデア術は5人から10人くらいいないと出来ないのよ」
「怒鳴らなくたっていいでしょ…ヴェルレク」
「アンタがやりたいことをやるためには、4人が1人のリングに力を与えなきゃいけないの。なんかもう不安だからアンタの考えを言ってみなさいよ…。聞かないと分からないし?」
「んーと…。裁きの章で、1人が動きを止めてから…。哀切の章のエネルギーを貰った術者2名が、時間差で魔性への攻撃を行うの。それでね、裁きの章で対象の動きを止められたら、哀切の章のエネルギーを貰った術者2名のうち、ホーリーソウルを持つ者がエレメンタルリングで憑依者から魔性を引っ張り出して、もう1人が魔性に直接攻撃を行うっていう術よ」
「説明長いわね。ちょっとアンタ!そこまでお願いするのってズーズーしくないの?!」
セシリアの長い説明を黙って聞いていたヴェルディーだったが、どんだけアタシを使う気!?と怒る。
「とりあえずやってみないと分からないし?」
「―…はいはい、分かったわよ」
半ばごり押しされた気分だったが、付き合ってやることにした。
「ホーリーソウルは借りられないから、時間差のところまでね」
「当たり前じゃないの。魔道具作りに失敗して手持ちのものが壊れないように、貸し出すことはあるかもしれないけど。使用者以外は使えなくなるんだから、こういうことで貸さないでしょ?ホント、どんだけなのよアンタ」
「ちゃんと覚えておくからそんなに言わなくたっていいじゃないの」
「どうでもいいけど。さっきからアタシたち、ほとんど喋ってるだけだわ…。そこも魔道具いじってないで、さっさと準備してよ」
エレメンタルリングを試している樹に言う。
「なるほど、物理的なダメージはないか。…まだエターナルソウルを試してないのだが?」
自分の手を叩いて感覚を試してみいた樹が振り返る。
「アンタもセシルに付き合ってあげなさいよ」
「うーん、バニッシュの応用だから。覆う・囲むではなくて、塊とか線のイメージになるのかなぁ?樹ちゃんはどう思う?」
「状況と用途による気がするが」
「あ、そういうとなんだね。オッケー、それじゃあ太壱君がセシリアくんに送って。僕は樹ちゃんに送るから」
「ほら、行くわよ!」
「魔性に頼んで、あの木に憑いてもらってきたわ」
「はぁー…はいはい。我、罪あるものとして嘆き、呪われたる者どもを罰し、涙の日なるかな」
怒りを静めたヴェルディーは詠唱し、巨体を揺らしながら迫る大きいな的に雨を降らせる。
「あらやだ、止まらないわ」
効力を調節して弱めすぎたせいではなく、裁きの章に動きを止める力はなかったからだった。
詠唱を終えた章は樹に、太壱はセシリアへ、それぞれのリングに哀切の章の力を送る。
「(光の線でつなぐイメージを、樹ちゃんに…)」
「(哀切の章の力を帯のように…ツェツェに向かって…)」
「よーし、わたしのリングで今度こそ!…え?光が消えちゃった……」
「不発ね」
ヴェルディーはスペルブックを閉じて嘆息した。
「ええー、どうして?」
「うーむ…。この前の術は、順番に力を送るものだっただろ?あれは1パターンの編成扱いだ。今のはつまり、2パターンのメンバー編成になるというわけだな」
「そっか。ということは、そもそも人数が足りない扱いになってたわけね」
術の効力を章と太壱から別々にリングへ送られているということになる。
賞と樹、太壱とセシリアの2パターン編成扱いで、1パターンにつき2人しか術者がいないことになる。
「効力を唱えてためておくことも不可能だ。しかも、祓う術の修練が低いものに、効果を与えてもらった者と同等の能力はない」
「うぅ、そうだったんですか。いい考えだと思ったのに…」
「セシル、アタシからも言わせてもらうけど。アタシが足止めしても、アイデア術の発動条件と何にも関係ないかったの分かってんの?今回なかったホーリーソウルがあっても魔性は引っ張り出せないし、物理属性を持たない術の力による殴り攻撃だもの。それと仮に引っ張り出せても、もう1人が殴る前に…確実に襲われるわ」
「(―…まだまだ考えが甘いってことかしら)」
2人から言われてしまい、元気いっぱいのセシリアが珍しく静かになってしまった。
「ツェツェさ、なんでもかんでもプロレスするなって。接近攻撃ってツェツェが考えている以上に危ねぇんだぞ。相手に余力があれば、憑依されるリスクもあるからな」
「その辺にしておいてあげなよ、太壱君。こんなにしょんぼりしてるのに」
「親父……。何で俺だけに言うわけ?って、へんぷく!お前も何すんだっ」
太壱を応援してあげようか様子を見ていた章の使い魔、へんぷくが太壱へ体当たりしてきた。
章にこっそり“応援してあげて”と頼まれていたが、セシリアをへこませたと思って怒っている。
「お、俺はツェツェのことを心配して言ってるだけだって!ああもう…。ツェツェが中級になれば、そのリングをはめてる状態で憑依される前のモノから、魔性を引きずり出せる可能性がある別の魔道具だってあるんだぞ。ただし…エレメンタルケイジにホーリーソウルLvIもないといけないけどな!」
「え…そうなの?」
「宝石使いなら覚えておけって。憑依から身を守れることもあるんだからな」
「バカ息子が人にものを教えているとはな」
もちろん成長しているという意味では言っていない。
樹の声は真剣にセシリアへ説明している彼の耳には届かなかった。
「さて訓練後は、休暇ということで、ここの温泉に入ってこようと思うが。アキラ、息子、それと…小娘に魔道書、お前たちはどうする?」
「樹ちゃん、この前の授業後に行ったところ?あの場所は今、掃除の関係でお休みだよ」
「な…、何だと?」
定期的に掃除するのは当たり前だとは思うが、しばらく休業することを知らなかった樹は驚いて目を丸くした。
「えぇーっ、せっかく楽しみにしてたのに!」
「あのね樹ちゃん、セシリアくん。遊びに行く人たちは皆、観光地に行っているみたいだよ。エリザベートくんからメール、見なかった?」
「―…あぁ、これか」
「いろいろと観光の情報を添付してもらってるんだけど。僕たちが行った温泉は入ってないね」
「休業しているのなら仕方あるまい。帰るとしよう」
「いいの?そこじゃなくっても、大きなお風呂なら他にもあるよ」
他の風呂じゃいけないのかと章が聞く。
「風呂に入りに行ためだけに、そこまで遠出するのもな…」
「んー…そう?僕と太壱君はまだここに残るから、先に帰ってもいいよ」
章が言うと樹たちは地下訓練場を出て帰宅した。
「もう行っちゃったみたいだね。えっと、今なら聞こえないはずだからいいかな…。太壱君、君は護りにこの時代に来たんでしょ?」
樹たちの姿が完全に見えなくなったのを確認すると、章は真剣な眼差しを太壱へ向けた。
「…親父、それどういう意味だ?」
「君がどうしてこの時代に来たんだろうって…、ずっと考えてたんだよ。それで、この授業に参加している理由をね」
「え、さぁー…。学びたいことに理由なんかいるのか?ひゅーひゅーひゅ〜♪」
口笛を吹いて誤魔化そうとするが、まったく吹けていない。
「…僕と樹ちゃんと…『彼女』も、そのためには身も心も強く有らねば…ね。…言いたくないなら、今はそれでもよいんだけど」
「うっわ、バレてら、流石クソ親父腹黒いぜ」
「ええー?僕はそんなじゃないよ、酷いなぁもう」
「アイツの暴走を、出来れば止めたいんだ、親父…」
「そうか…うん。そっちで起きてしまったことを変えられないのは、理解してるよね?」
すでに起きた未来は変えられないと告げる章に、太壱は無言で頷いた。
「でも別の未来へ進むことは出来るんじゃないかな」
「別の未来か…」
「うん。君が言っている人がそうなるか、まだ分からないわけだし。そうならないかもしれない…」
「起きないようにすることも、考えなきゃだな」
「そうだね。もちろん、万が一のことを想定して止めることもね?世の中は思いもよらないことが起きて当たり前のことだからさ。それが、良い方向か…悪い方向かの違いだよ」
「ありがとう、親父。なんか話せてよかった…」
「僕でよければ、いつでも話を聞いてあげるよ?樹ちゃんたちに聞かれたら困ることなら、こっそり…ね♪さて、そろそろ出ようか」
章は太壱の背をトンッと叩き、気合を入れてやった。
「新しい術か…んんー…。先に、既存の術を強化してみっかなぁ?」
七枷 陣(ななかせ・じん)はレイン・オブ・ペネトレーションの強化を試みようと、手持ちの魔道具をシートの上に並べる。
「皆のもここにいったん置いてくれんか?」
「そうですね!何かいいアイデアが浮かぶかもしれませんし」
「これから発動させるアイデア術は…俺たちが今、引き出せる能力に限られるんやけど。どこまで出来る…やね」
「フラワシも見えるようになるんですよね、陣さん」
「そうやね、歌菜ちゃん。これかの状況を想定して、取得させようって考えたかもしれんし」
「とりあえずやってみようよ、陣くん!」
すでにリーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)がエレメンタルケイジを首から下げてスタンバイしている。
「囮をやるなら他の人に補助を頼んだり出来ないからね♪」
トライウィングス・Riesの翼を使わず、ヴァルキリー本来の飛行能力で飛ぶ。
「ボクの翼はずっと使ってると疲れちゃうから。こっちのほうで慣れておいたほうがいいかも?んーと、宝石に祈りを捧げるんだっけ」
リーズはペンダントに触れて静かに祈ってみる。
「おーい、リーズ!憑依防御の能力だとか使えないんやから、無茶はするなよっ」
「だいじょーぶ、分かってるよ♪」
「一応な、アークソウル持っておいたほうがいいかもしれん。殺気看破があっても、下級より上の相手じゃ無理だってこともあるしな」
「あーーそっか。うん、分かった!状況を見て持って行こうかな。今は持ってないから、手持ちのもので頑張ってみるよ」
親指をにゅっと立てて笑う。
「魔性さぁ〜ん、ボクを捕まえてごらーん?じゃないとボコボコに攻撃ちゃうかも♪」
けらけらと笑いながら挑発してみる。
僅かに感じられる殺気を感じとりながら、飛行スピードを上げて避けてみせる。
「あれれ〜、通りすぎたのかなぁ?ぜーんぜんあたってないしー。あははっ」
エターナルソウルを最低スピードに落としたリーズは顔をニヤつかせる。
「(せっかくだし、エレメンタルリングも使ってみようっと♪)」
痛くしなきゃいいよねっと思い、白い光を纏わせた拳でパンチすると、“アタッ”という声が聞こえた。
魔性がリーズと戯れている間、陣たちは術を唱え終わった。
天井が黒い雲に覆われたかと思うと、嵐のような大雨が降ってきた。
「ウ、ァアアッ」
雨は強風に煽られ、魔性に降りかかる。
「リーズッ!見えるかーーっ?」
「前よりかはねーっ」
「強化したエアロソウルに無属性の魔法攻撃が増えたんやけど。魔力属性が風やから強風が加わったんかな?」
風によって雨は雲の外側へまで広がったようだ。
「まーあれやね。実際に濡れるわけやないし、どこでも問題ないやろ」
「濡れない雨か…。はぁー…」
「な、何や磁楠。不服そうやな」
湿気たマッチやら雨の日無能だった陣が、ここまで雨を味方につけていく様子に、いじるネタが減りそうで面白くないようだ。
「仕方ないのぅ。磁楠のために、ネタを言ってやろう。タイトルは…マッチ売りの陣。陣は雨で湿気てしまったマッチを、路上で健気に売っている。そして…」
「やめやぁあ!!」
「おー、そうじゃのう。大切に暖めておくとのじゃ、フフフッ」
あとでネタに使ってやろうとジュディ・ディライド(じゅでぃ・でぃらいど)は黒い笑みを浮かべた。
「もーーーう、またこのグダグダ感が…。はぁ、次の術を忘れんうちに説明しておくか」
怒りでアイデアが吹き飛んでしまないうちに、言っておくことにした。
「ジュディのアルトとネーゲルにな、祓魔の力を付与して一時的に聖属性を纏わせて、取り憑く前の魔性を祓ったり…。取り憑いた後の魔性を萎縮して、徐々に疲弊させる効果がある雄叫びを放たせるってのはどうや?」
「小僧、お前は阿呆か?愚か者か?視覚効果は付属の能力みたいなものだぞ。該当する魔道具を持たない者に、効力を与えた術者と同等の祓う力は得られないだろう。魔道具扱うリーズたちならまだ分かるが…、それ以外は能力の向上は見込めない」
陣のハートをブレイクするようにゴリゴリ抉る。
「お、おまっ!もっと言い方があるやろっ」
「フッ、他にあるのか…?雨を味方につけたからといって浮かれるな」
「ひ…酷い。オレが徹夜で考えたっていうのに」
「まぁまぁ陣さん、やってみましょう。んー…そうですね、えっと…カティヤさんか磁楠さん…、それかリーズちゃんに付与する3択がありますよ」
「ごめーん。ボクは囮しなきゃいけなし、いつもっていうわけにはいきそうにないからね。パスするよ」
「んーじゃあ、磁楠さんは?」
術を集中させた時の想像がつかないが、とりあえずどうかなと言う。
「では……」
「はいっ、はーい、はいはいはいはいー!はいはいー♪私、私ーっ」
「カティヤがやる気のようだから任せるか」
「私がすーごく引き受けたいみたいに聞こえちゃって、なんだか悪いわね。うふふ」
“思いっきり言ってただろう…”と言う月崎 羽純(つきざき・はすみ)のツッコミはガン無視した。
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