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リアクション
「……春とはいえ夜は少し冷えるな。零、風邪を引かないようにな、もう自分だけの体じゃないんだから。それともやっぱり……」
神崎 優(かんざき・ゆう)は花見会場に到着するなり桜などに目もくれずに神崎 零(かんざき・れい)を気遣うばかり。何せ零のお腹には新しい命が宿っているから優が気遣うのは仕方が無いのだ。
「暖かい格好もして毛布も持って来ているから心配ないよ。ほら、優、桜を見よう。折角のお花見なんだから」
心配されている零は持って来た毛布を見せながら言った。
「優の心配する気持ちは分かりますけど、楽しみましょう」
「そうだぜ。まともに桜を楽しんでないだろう?」
陰陽の書 セツ那(いんようのしょ・せつな)と神代 聖夜(かみしろ・せいや)は微笑ましい夫婦のやり取りにツッコミを入れた。
「……あぁ」
優は三人に言われ、ため息をついて自分を見てクスリと笑っている零に顔を向けた。
何はともあれ花見は始まった。優は零と聖夜は陰陽の書と夫婦と恋人に別れて過ごした。
「……綺麗ですね」
「さすが妖怪の山だよな」
陰陽の書と聖夜も夜光桜を愛でた。
「はい。そうです、お弁当食べましょう。これ私が作ったんです。味見してみて下さい」
そう言い、陰陽の書はおかずを掴んだ箸を聖夜の口元に持って行った。
「……あ、あぁ」
聖夜は数秒間見つめていたが、意を決したようにぱくりと食べた。
「……あの、どうですか?」
「……美味しいぜ」
味を訊ねる陰陽の書に照れたように聖夜は答えた。
「えと、聖夜が作ったのはどれでしたか?」
陰陽の書は聖夜が作ったおかずを探し始めるも見つからない様子。
そこに
「これだよ。ほら」
聖夜は箸で掴んだ勢いで陰陽の書に差し出す。しかも口の高さ。
「……はい」
陰陽の書もぱくりと食べた。
「……美味しいです。でも何だか恥ずかしいですね」
食べた後、陰陽の書は恥ずかしそうに頬を赤らめながら言った。聖夜は料理下手だが、みんなと協力したおかげで美味なる物が出来ていた。
「……優達のせいだな」
聖夜はちらりと仲良く夜光桜を見ている優達の方に視線を向けた。
「そうですね。でも幸せです」
「……あぁ、ずっとこのままでいたいな」
陰陽の書と聖夜も互いに寄り添い輝きながら咲き誇る桜を見上げた。
「……咲いている時だけでなく散る時も発光するのね。とても幻想的。おなかの子供が生まれたら見せてあげたいな」
零はお腹を冷やさないようにと毛布をお腹にかけて夜光桜を見上げている。花びらがほのかに輝きながらちらりちらりと舞い散る。
「……あぁ。しかし桜は桜だな。地面に着く頃には光を失って普通の桜と同じ儚さがある。発光している分こちらの方が余計に」
優は力尽き光を失った花びらが地面に積もっている事に目を向けた。思わず寂しさを感じてしまう。
「……そうね。でも儚いという事は短くても精一杯に咲いているという事よ。でしょう? はい、優」
零は精一杯の笑みを浮かべた後、弁当のおかずを適当に盛った小皿を優に渡した。弁当はこの日のために四人で作った手作りだ。
「ありがとう。確かに零の言う通りだ」
優は受け取るなり美味しく食べた。
「……優、今日はありがとう。こんな素敵な時間をくれて」
零はにっこりと花見の礼を言った。
「……いや、お礼を言うのは俺だ。いくら綺麗な桜でも零がいなかったら意味がない」
優は照れながらそんな事を言った。食事をしていた手を止め、桜の方に視線を向ける。
「……優」
嬉しくなった零はそっと優に寄り添い、夜光桜を見上げつつ幸せをかみしめていた。
それぞれが幸せな時間を過ごしていた時、
「あら、優。動物よ。イタチみたいだけど。ここは妖怪の山だから普通のイタチとは違うのよね」
零が草むらからぴょこんと顔を出す可愛らしいイタチを発見した。一応雄である。
「あれはてんだ。イタチが妖力を得た妖怪だ。何匹か重なって格子状になったら火柱を生むが一匹なら問題無いはずだ」
『博識』を持つ優はすぐにイタチの正体が分かった。
「だったら。ほら、おいで」
零は手招きしながら優しく呼びかけてみた。
イタチは草むらから出て零の所へそろりと近付いた。
出て来たのは一匹だけではなかった。
二匹、三匹とイタチが次々と現れて優達の所にやって来る。
「……一匹じゃなかったのか。まぁ、気を付ければ大丈夫だろ」
と優。
「そうね。人懐こくて可愛い。お弁当のおかず、食べるかな?」
零は餌やりをする気満々で小皿におかずを準備している。
「あげてみたらどうだ?」
「そうね。ほら、美味しいよ」
優に促され零はてん達におかずを与えてみる。
何度か匂いをかいだ後、ぱくりと食べた。
「あっ、食べたよ。ふふ、可愛い」
「……大人しいな」
てんの可愛い姿に和む零と擦り寄るてんの頭を撫でる優。
聖夜と陰陽の書もてんと戯れ、和まされていた。
「……可愛いですね。お花見を聞きつけて来たのでしょうか」
陰陽の書はてんを抱き抱えて頭を撫でていた。
「そうだな。これだけ賑やかだからな。しかし、優が言っていた火柱を出すような事が起きないように気を付けないとな」
聖夜は自分の膝に座るてんと目を合わせながら言った。
四人だけの花見かと思いきや可愛らしい客が加わり賑やかな花見となった。
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