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Dearフェイ

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Dearフェイ

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「ねぇテレサ、今回の事件は本当に幽霊の仕業なのかしら?」

 マリカ・ヘーシンク(まりか・へーしんく)が後ろを歩くテレサ・カーライル(てれさ・かーらいる)へと尋ねた。

「マリカ様、幽霊が怖いから適当に言っていたりはしませんよね?」
「そ、そんなことないよ!」

 幽霊や心霊現象が苦手なマリカを見て、思い当たる節があるのかテレサは一応探りを入れると慌てて否定するので聞こえない程度の軽い溜息をつく。
 柔道部と掛け持ちをしてまでNDCに入りたいと言い出したマリカ。最初にNDCのポスターを見た時はまだ噂を聞く前で、「バリツ使いが探偵業に手を出すなんて、死亡フラグじゃないのかな」と中途半端に覚えているホームズの話を思い出してイングリットの心配をしていた。その後噂を耳にしてからは次は自分の番かもしれないと怯えていた。しかもそれが幽霊騒ぎとなるとなおさらだ。しかしそんな彼女が勇気を振り絞ってNDCでの活動を選んだのは、被害にあった人たちと同じように猫を飼っているものとして譲れない何かがあったからだろう。

「というか、雨の日にばっかり起きてるってことはだよ? 雨の日のほうが都合がいいってことだよね? 例えばだけど匂いとか足跡が残らないようにとか。足跡を辿って来られたら困るってことじゃない? それに、雨が強ければ多少の物音とかでも気付かないし、雷が鳴ってたらガラスが割れても気付かないと思うんだよね」

 この時期の雨で霧が発生することもしばしばで、確かに何かから隠れて作業をするにはもってこいな天気とも言える。
 マリカにしては珍しく的を射た内容だと納得したのか、テレサはそれもそうですねと相槌を打つ。

「しかし、花の色が変わっているのはどうです? もしその事件がマリカ様のいう幽霊以外の仕業だとしても、花の色はどうやって変えるのでしょう?」
「う……」

 最初は地面に何かが埋まっているせいで土の中の成分が変わり色が変わったのかとも思ったのだが、そもそも一晩で変わることなどほとんどないし、土に何か撒かれた形跡もなければ土を入れ替えた後さえなかった。これこそ超常現象としかいいようがない。
 もとから何か埋まっていた可能性もないわけではないが、だとしてもこんなに急に土の中の成分が変わるのだろうか。

「と、ともかく。私は雨の日に起きてるってことが一番怪しいと思うの! 物がなくなってるのも怪しいし」
「……まぁ、意地悪はこの辺までにしておきますか」

 しどろもどろになってきたマリカを見てテレサはふっと表情を崩してぼそりと呟く。

「えっ?」
「何でもありませんよ。それよりマリカ様、先ほど面白い情報を入手しましてね、一緒に詳しく調べに参りましょう」
「何で教えてくれなかったのよ! あ、置いていかないでよテレサ」

 自分を置いてすたすたと歩き出す教育係を小走りで追いかけるのだった。
 



 天気は次第に悪くなり、早めの夕食会が終わる頃にはぽつぽつと雨が降り始めていた。
 19時になったら数人のグループに分かれて街を見回りに出る予定だ。
 街の出入り口付近の調査に、猫の居場所探し、そして幽霊に会うべく騎士の橋へ向かう班にそれぞれ分かれることになった。

「私も連れて行ってください」

 少女はどうしてももう一度幽霊に会いたい、いや、会わなければならないという思いがあるとイングリットに頼み込みともに騎士の橋へ向かうことになった。
 念のため出かける前にダリルにもう一度診察してもらい、無茶はしないことを条件に一緒に行くことを承諾したのだ。
 そしてついにその時はやってきた。
 屋敷の大時計が七つ鐘を打ち、時間が来たことを告げていた。
 そして一同はうっすらと霧にぼやけ始めたヴァイシャリーの街へと散らばっていったのだった。

 皆が出て行ってしばらくした後、霧に紛れてツェツィの祖母の花壇を訪れていたものがいた。

「ん……? あら?」

 屋敷内の見回りをしていたメイドが、ふとツェツィの祖母の花壇あたりで何か動いたような気がして雨足の強くなった窓から外を覗き込む。屋敷からは少し距離があり、雨のせいでよく見えなかったが、しばらく見ていても周りの木々が風で揺れているだけだ。きっと風で揺れたせいだろうと特に花壇に近付かなかったが、花壇では来訪者が赤い薔薇をじっと見下ろしていたのだった。


「これでよし!」

 ルカは猫の首もとにダイヤを仕掛けると、そっと地面へと降ろす。
 囮を使って猫たちが隠れている場所を見つけようとしたのだが、いざ囮の猫はどうしようかとなった際にマリカが必ず戻ってくることを条件に飼い猫を貸してくれたのだ。
 もし見失ってしまっても大丈夫なようにダイヤをつけておき、いざというときはトレジャーセンスで発見するといった考えだ。もちろんそれでも確実な保障はなかったし、ルカも渋ったのだが、役に立つのならというマリカの言葉を信じて猫をその手に抱いたのだ。

「もし他の猫たちを見つけられたら、フェイって猫と仲良くなってくれ」

 コードは使い魔の猫であるチェシャとマリカのミヌースの頭をそっと優しく撫でる。コードの手先に皮手袋越しに頭を擦り付けると、一鳴きして二匹は走り出した。

「よし、あたしたちも頑張って追いかけるよー!」
「セレン、早くしないと見失うわよ」
「あ、待ってよ!」

 気合を入れなおしている間にもどんどんと距離を離していく猫たち。パートナーを引っ張ってセレアナも二人に続いて走り出した。


 屋敷を出てから雨足が強くなり心配していたが、騎士の橋に着く頃には小雨になり、霧もほんの少しだけ晴れたようだ。
 騎士の橋を見回すが、肝心の幽霊の姿はどこにも見当たらない。

「もしかして、はずれ?」

 桐生が橋を見て声を上げたその時、一瞬雲が晴れて満月がその顔を覗かせた。
 その後だ。
 騎士の端の真ん中、欄干に近いその場所に薄ぼんやりとした人影が姿を現したのだった。