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Dearフェイ

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Dearフェイ

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「ありがとうイングリットちゃん! じゃあボク、さっそくききこみちょーさに行ってくるね!」
「えぇ、頼みますわよ。助手さん」
「おぉ〜! 助手さんは頑張るのだ〜!」

 桐生 円(きりゅう・まどか)がイングリットと話をしたあと、楽しそうに街へと駆けていく様子を見て、遠部 明志(えんぶ・ひろし)が何かあったのかとその姿を目で追う。

「ねぇ明志さん、これじゃない?」

 双葉 葵(ふたば・あおい)リーゼル・ヴァイス(りーぜる・う゛ぁいす)が遠部の後方に位置する掲示板を見て声を上げた。
 そこに書かれていたのは『来たれ!NDC』の文字の入ったポスターで、横には数種類の探偵倶楽部への勧誘ポスターが所狭しと並んでいた。

「どうやら、最近街で起きている幽霊事件を調査する為に発足した倶楽部のようですね」

 遠部がポスターをぼんやりと眺めている間にリーゼルが周りの生徒から聞き込みをしてきたらしい。
 なるほど、面白そうだと遠部が頷いていると、後ろから声がかかる。

「そんなに熱心に眺めているからには、興味がおありなので?」

 振り返るとそこには渦中のイングリットが遠部たちを見つめていた。

「思うに、そちらの方はとても優秀な能力を持っているとお見受けしましたわ。いかがです? わたくしたちとともにこの街の事件を解決しませんか?」

 少しの間、ぼんやりとイングリットの顔を見て思考停止していた遠部だが、葵に腕を引かれて現実に戻ってきた。

「あー、いたいた! イングリットー!」

 向こう側から元気に手を振りながら近付いてきたのは、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)だ。後からダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)コード・イレブンナイン(こーど・いれぶんないん)が遅れてやってきた。

「せっかくだし、ぜひ私にも手伝わせてくれない?」

 貼ってあるポスターのほうを見てルカはにっこりと笑う。
 すでに街で聞き込みを行っている人たちから話を聞いて、事件解決に協力したいと思いイングリットを探していたのだった。

「それはありがたいですわ。ぜひわたくしの倶楽部に入って協力してくださいませ」
「え? いいの?」
「もちろん。あなた方が入ってくださったら、よりいっそう捜査も捗りますわ」

 あなた方、という言葉に「俺もなのか?」「私も?」と声が飛ぶが、二人はお構いなしで話を進めていく。

「なぁルカ、俺もか?」
「いや?」
「いや……ではないが……」

 眉間に指を当てて悩むダリルとは反対に、コードは表情こそ変わらないが、ほんの少しだけ嬉しそうにしている。

(ねこ……)

「ま、せっかくだし、俺たちも手伝うか。ここまで話聞いといて手伝わないのも何だしな」
「上手くはめられたような気もしないではないですね」

 ぼそりとリズが呟いた言葉は、誰の耳に届くこともなく学院の校舎に溶けていった。


「ありがとー。また何かあったらおしえてねー」

 お礼にと四葉のクローバーを渡してディオは子どもの姿を見送った。
 二手に分かれて聞き込みを行っていた霧島がディオのところへと戻ってきた。そろそろ騎士の橋で七尾と落ち合う時間だ。

「どう? 春美のほうは何かあった?」
「残念ながら解決に結びつきそうな情報は得られなかったわね。ディオのほうは?」
「う〜ん、ボクもあんまり……」

 二人で情報共有しながら合流場所へ向かっているころ、七尾は騎士の橋で思案に耽っていた。
 食堂や広場、雑貨店や市場など、人の出入りと噂話が多く飛び交いそうな場所に行って話を聞いてきたのだが、七尾は謎に頭を悩ませていた。
 本が飛び出してくるなんていう現象は、サイコキネシスを使えば簡単にできる。幽霊についても、大きな街だということを懸念してはいたが頻繁に騒動があったので目撃談は少なくはない。幽霊はメモリープロジェクタなどで投影することも不可能ではないだろうし、そう考えたところまではよかったのだ。だが――

「すいません七尾さん、お待たせしました」

 霧島とディオが騎士の橋で頭を抱えている七尾に声をかける。
 合流したことを代表に伝えると、報告会を兼ねて夕食会を開くからツェツィの家に戻ってくるようにとの連絡があった。
 気付けばもう日は沈みかけていた。曇り空はいつの間にか晴れ、綺麗な夕焼けが広がっていた。昨日までの雨の気配はどこにもない。
 くぅぅ〜、とディオのお腹が空腹を訴え、三人はひとまずツェツィの屋敷へ戻ることにした。


 夕食会では、それぞれの報告が行われ、少しずつだが情報が集まってきた。とはいってもそれが最後の点に繋がるものはなく、どれもこれもがバラバラな点で、どう結んだらいいのか検討もつかない。
 だが、ひとまずこの情報を裏付けることが次へと繋がるのだ。

 屋敷の者たちの全員がアリバイに問題はなかった。
 一年ほど前、街で盗難事件が発生し、近くに住む名家の家も被害にあったというらしい。しかもその事件には近所のお屋敷が新しく雇ったメイドが関わっていたということがあったそうだ。それからというもの、新人が入ってきたときに限らず、何かあったときに対処できるようにと二人一組の体制をオーウェン家では義務付けられていた。そのおかげで屋敷内に寝泊りしているものは、常に誰かと行動していることになり、片方がいなくなればすぐにもう一人が気付いているだろうということだった。
 片方がかばう可能性も考えたのだが、かばって何の得になるのか使用人から話を聞いてもマイトには見等もつかなかった。
 いなくなった猫に関しても、どこに姿をくらませているのか、猫が好みそうな場所は桐生やルカが探し回ったのだが一匹も見当たらない。ついには猫を使った囮捜査まで考え出すルカをダリルはやんわりと嗜める。
 本が飛び出す件は、毎回同じ本が同じ場所に必ず落ちているということが分かった。なぜ場所まで同じなのか。これは必ずヒントになるとブリジットは睨んでいるのだが、一向にその共通点が見出せない。絵本に、詩集、料理本に小説。ざっと中身を見てみたが関連しているものは特には思い当たらなかった。強いて言うなら、ツェツィのおばあさんがよく読んでいた本だというくらいだろうか。
 色が変わってしまった花もそうだが、ツェツィのおばあさんの花壇や街の花屋や鉢植えの花など、イマイチその共通点は絞れていない。
 しかし、幽霊に関しては新たな情報を入手することができた。

「幽霊の目撃例だが、驚くことに複数あることが分かった」
「そりゃ何人も目撃してるんだから、複数あるに決まってるじゃない」

 言葉に首を振って、七尾と霧島は代表に告げるのだった。

「幽霊は複数いる可能性があります」