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Dearフェイ

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 第二章
 
 
「思いの外早く終わってよかったー」

 伸びをしながら嬉しそうに横を歩くパートナーのセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)を見ながら、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)もどこか嬉しそうだ。

「そうね……これならもう何日かゆっくりできそうだし。そうだ、ホテルに戻る前にせっかくだからお茶でもしていく?」

 恋人の提案を断る理由もなく、二人で街をのんびりと歩く。
 水の都、ヴァイシャリーの街は観光スポットも多く、家族はもちろん恋人とともに訪れる人たちも多い。以前訪れたときもかなりの観光客で賑わっていたのを思い出す。
 空いているカフェテラスに腰を落ち着けて注文を済ませると、セレアナは街の違和感についてセレンに尋ねた。

「ねぇ、前に来たときはもう少し賑わってなかった?」
「え? そうかなぁ、あんまり変わらないような……」

 市場や雑貨店、カフェなどが立ち並ぶ場所でも、確かに前よりも閑散としているような気がする。

「最近、幽霊が出るって噂なのよ。私は見てないから分からないんだけど、お隣では飼ってた猫も連れてかれちゃったっていうし、花屋さんなんか赤い花が全部真っ白に変わっちゃったんですって」

 お店の人が注文した品を運んで来てくれた際に、話が聞こえていたのか教えてくれた。街ではどうやら不思議な事件がしばしば起こっているらしく、そのせいで観光客の足が遠のいているらしい。

「前よりお客さんも減っちゃったし、これじゃ商売上がったりよね」

 お姉さんは、はぁと溜息をつくと店の奥へと戻っていった。

「そう、このままじゃ困りますわ」

 お姉さんと入れ替わるように二人にイングリットが話しかける。

「イングリット! 何かあったの?」

 以前会ったときよりもどこか元気のない様子の知人に、二人は話を聞くことにした。
 ヴァイシャリーで起きている幽霊事件、街中からいなくなる猫たち、そしてツェツィの周りで起きている不思議な出来事。

「うぅ〜可哀想だよぉ……」

 気付けばセレンはうるうると涙を滲ませて、何とかしてあげようよと訴えるようにセレアナを見上げている。仕方ないと頷くと、セレンはイングリットの手をがしりと握って「あたしにまっかせなさい!」と力強く言った。
 そんなパートナーが間違った方向に行かないように今回もしっかりと見ていなければ。そう思うと、セレアナの口からは自然と溜息が零れるのだった。


「っていうかさ、単純に発情期なんじゃね?」

 口を開いたかと思えば、アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)からとんでもない言葉が飛び出してきたのでアリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)の電光石火のツッコミがアキラを襲うが、しれっとした顔で「よくあることじゃん」などと言い放つ。
 猫はよくふらりといなくなるものだ。そしてある日突然、子猫を連れて帰ってきたりする。気ままというか、自由というか。散々いなくなって心配していても、何事も無かったかのように戻ってきて自分の定位置へと落ち着く。それがアキラのよく知る猫たちだ。
 大好きな飼い猫がいなくなって心を痛めている少女の前では言わなかったが、死ぬ間際も姿を消すと言われている。どこに行ってしまうのかは分からないのだが、可愛がられた猫は飼い主の前では死ぬ姿を見せないとされているからだ。
 少女が幼い頃から一緒に育ってきたということは、猫にしてみたら長い年月を過ごしてきたわけだ。寿命といっても過言ではないだろう。

「あんまり情報集まりませんでしたね……」

 しょんぼりとするヨン・ナイフィード(よん・ないふぃーど)の頭をぽんぽんと撫でて、アキラはまだまだこれからだと宥める。

「猫のことは猫に聞くべし! 飼い猫ならなおよし! ということでミャンルー隊、出番だ!」

 後ろからとことこと現れたのは、猫の姿をした幼い獣人たち。四匹(?)の猫たちはアキラの足元でわいわい騒いでいる。

「兄ちゃん、頑張ったらナデナデしてくれるみゃ?」
「ずるいみゃ! みんなにナデナデするのみゃ!」
「騙されてはダメみゃ。こいつはタマたちを利用しているだけなのみゃ」
「…………眠いのみゃ」

 ミケ・ポチ・タマ・トラのミャンルーたちが口々に騒いでいるが、順番に頭を優しく撫でてやればすぐに大人しくなる。

「いいか、今からみんなで猫さんを探しに行くぞ」
「ねこさん?」
「なんでなのみゃー?」
「今起きている幽霊事件を解決するためだ。毎日この街から猫さんがいなくなってるんだ。この事件が長引くと、そのうちお前たちもさらわれちゃうかもしれないぞ」

 冗談で言えば、今にも泣き出しそうな声でミャンルーたちがひしっと足元に張り付いていやだいやだとわめいている。

「そうならないために猫さんを探そう。もしかしたらどこかに隠れているだけかもしれないし」

 もちろん、バラバラになると危ないからちゃんとみんなで行動しようとアキラが言えば、ミャンルーたちが元気よく返事をする。

「ではワタシは引き続きヨンと聞き込み調査を行いますワ。幽霊の特徴なんかももっとクワシク聞いておきたいですしネ」
「他の事件との関連性があるかも調べないとですね」

 こうしてアキラはミャンルーたちとともに猫探し、アリスとヨンは聞き込みを続けることになった。