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リアクション
キロスとヴァレリアは、絶叫の木霊するウォータースライダーまでやってきた。キロスの左腕には、ヴァレリアがひしと抱きついている。先ほど学んだことを実践しているつもりらしい。
「ほら、あれでもやって綺麗さっぱりさっき覚えたことは忘れろ」
キロスはそう言って、ウォータースライダーを指差した。途端に、ヴァレリアは目を輝かせる。
「楽しそうですわね! でも、皆さんあんなに悲鳴を上げて、そんなに怖いのですかしら?」
ヴァレリアとキロスが滑り降りて来る人を眺めていると、楽しそうな悲鳴を上げる人々の中、ただ一人真顔で滑り降りてくる女性がいた。何やら物思いに耽っている水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)だ。
(昔なら、確実に悲鳴上げてたのにな……)
ゆかりは教導団でのハードな訓練を受けているせいか、ウォータースライダーでもあんまりスリルを感じなかったらしい。そのすぐ横を、楽しそうに絶叫しながらマリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)が滑り降りてくる。
「あー、楽しかった!」
マリエッタがはしゃぎながら、ゆかりを見る。が、ゆかりが何とも形容しがたい残念そうな顔をして水に浸かっていた。
「もう、ノリが悪いんだから」
マリエッタに突っ込まれ、ゆかりは立ち上がった。
「ノリが悪いだけで、楽しんでるからいいんです。それじゃ、今度は流れるプールに行きましょうか」
ゆかりもゆかりなりにプールを満喫しているのだ。と、歩き始めるゆかりとマリエッタに、男二人組が近付いてきた。
「お姉さん、暑くない?」
片方の男が、ゆかりに話しかけた。ナンパらしい。どことなく、ナンパが下手そうな雰囲気満載の男である。
「そうですね」
「一緒に泳がない?」
「気が向いたらいいですよ」
「今、気は向かない?」
「そうですね」
ゆかりが適当に男をあしらっている横で、マリエッタは
「えー、一緒に遊ぶの? どうしよっかなあー……?」
と、ノリノリでナンパに応じている。
「ほら、せっかくプールに来たんだしさ、女の子同士だけじゃつまらないでしょ」
「それもそうねえ」
マリエッタは男の方に身を寄せ、ふふふ、といたずらっぽい笑みを浮かべる。
「でも、あっちはあんまり乗り気じゃないみたいだけどー……?」
ちらり、とマリエッタが視線を送った先では、相変わらず素っ気なく男を振るゆかりがいた。
「カーリーのことも納得させられたら、一緒に遊んでもいいかなー?」
などと言い出したマリエッタは、ゆかりをあの手この手で説得しようとする二人の男たちをニヤニヤと眺めて散々焦らした挙げ句、
「はい、そこまで。残念でしたー☆」
と、男たちにひらひらと手を振ってゆかりと一緒に去っていった。
「あ、ひとしきり泳いだら、クレープと特盛ラーメン食べたいなー」
「そうしましょうか」
ゆかりたちの去って行った後には、男二人が立ち尽くすばかりである。
「キロス様、一緒に遊びませんか?」
また何か変な事を覚えたんじゃないだろうな、とヴァレリアを見るキロス。
「残念でしたー☆」
「まだ何も焦らしてないだろ! というか遊ばないのか!?」
「いいえ、遊びますわよ? デートですもの」
こうしてヴァレリアは、焦らしテクニック(ただし上手く焦らせない)を習得したそうな。
◆
キロスは今度、室内プールにヴァレリアを連れてきた。ここなら屋外よりかは大人しくデートをしてくれるだろう……と、踏んだのである。
二人の前を歩いているのは、迷彩柄のハーフパンツの水着でパーカーを羽織った
ジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)だ。
ジェイコブは、今恋人握りをして並んで歩いている
フィリシア・バウアー(ふぃりしあ・ばうあー)との結婚後、今日は初めてのデートだった。
こうして夫婦になっても、眼に見える形での変化があったわけではない。だが、これから二人で重ねて行く時間とともに何かが変わっていくんだろう、と思いながら、二人はプールを満喫していた。はずだった。
青いビキニにパレオを巻いたフィリシアは、ジェイコブと過ごす時間を噛みしめていたのだが、問題はジェイコブの方である。
(おい、そこの野郎ども、俺の女房をそんなにジロジロと見るなっ!)
もやもやとした気持ちを抱えながら周囲を睨み回すジェイコブ。だがジェイコブの心の声は小声で漏れていたらしい。
ジェイコブのぶつぶつ呟く声に気付いたフィリシアは、内心苦笑する。去年も同じように水着デートをしたが、その時と変わらない純情さだ、と今までに過ごしてきた時間を思い返す。
微笑ましさを感じる一方で、少しの不安も抱えながらジェイコブを見上げるフィリシア。
「何でもない」
と、突然ジェイコブは何かを弁明するように言って、フィリシアをお姫様抱っこをした。
「……え?」
ドボン、と水しぶきが上がる。フィリシアが驚く間もなく、ジェイコブたちはプールの中にいた。フィリシアを抱えたまま、ジェイコブがプールにダイブしたのだ。
ジェイコブとフィリシアは水中でもつれ合い、抱き合い??そして、キスを交わした。
「キロス様!」
そんな状況を見逃すはずがないのが、ヴァレリアである。ヴァレリアはキロスの手をぐいぐいと引いて、プールサイドにやってきた。
「お、おい……」
あっ、と思う間もなく、ヴァレリアは高く跳んだ。……一人で。
華麗な舞いと共にダイブするヴァレリアを、キロスは呆然と見つめる。
「……って、飛び込みたかっただけ!?」
満足げに浮き上がってきたヴァレリアは、
「そこのピンクのビキニを着た女性、飛び込みは禁止されているのでやめて下さい」
と、ヴァレリアの行動を素早く見とがめた警備員に、怒られたのだった。
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