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種もみ学院~契約の泉へ

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種もみ学院~契約の泉へ

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お約束のカツアゲ、そして連打のジンベー


 荒野に軽トラックを走らせてだいぶ過ぎたが、先行した移住者はさっぱり姿を見せない。
「このトラックはまっすぐ契約の泉に向かってるんだよね?」
 桐生 円(きりゅう・まどか)が近くの種もみ生に聞くと、彼は頷いた。
「ということは、あの一家は全然違う方向へ行っちゃってる……?」
 びっくりさせちゃうけど、と思いつつも円はアメリカのテキサス州で勧誘した酪農一家の父親にテレパシーで呼びかけた。
『おじさーん、どこにいるのー』
『ノォォォォォ! 何者!? 今忙しい!』
 突然頭に響いた声に取り乱しながらも、彼は短く返事をした。
『ボクだよ、桐生円。パラミタに行こうって誘った──』
『あの子か! いろいろ話をしたいが、今我々は不良共と喧嘩中だ。後にしてくれ』
『もしかして襲われてんの? 携帯に地図データ送る余裕ない? 助けに行くよ』
『母さん! マドカに地図データ送ってやってくれ!』
『ちゃんと声に出してお母さんに言わないと』
 かなり切羽詰まっているようだったが、テレパシーを切ってしばらくすると彼らがいるらしい風景画像が送られてきた。
 遠くに山並みが見える乾いた大地だ。画像の隅にお父さんがパラ実生を殴った瞬間が映っていた。
 お母さんもそうとう慌てているようだ。
「地図データじゃないよね……まあ、何とか行ってみよう。さあ、名も無き種もみ生達よ、一緒に行くよ!」
「名前ぐらいあるっての!」
「ブラヌ君も行く? 彼女さんは……あ、別れたんだっけ?」
「ううっ、昔の傷を……っ。でも俺はここに残るよ」
 それじゃあね、と言って円はパーソナルスラスターパックを起動させた。
「ほら、みんな掴まって!」
 反射的に種もみ生が円が差し出した手を掴んだ瞬間、円達はロケットのように飛んで行った。
 種もみ生の悲鳴を帯のように流し、運悪く二人ほど落下したか、ほどなくして円は喧嘩をしている一団を見つけた。
「あの人達だ。みんな、ボクが援護するから、あのカツアゲ連中を追い払って」
 言うなり、円は5メートル以上はありそうな高さから種もみ生を落とした。
 彼らは、酪農一家を襲うパラ実生を巻き込んで地面に転がった。
「ナイス落下ー」
 やややる気のない声で言った円は、右手にスワロウアヴァターラ・ガンを左手にスパロウアヴァターラ・ガンを握ると、パラ実生達へと撃ち込んでいく。
 弾は寺院の弾丸を使用した。睡眠を誘う弾だ。
 パラ実生達はあっという間に全員が昼寝の時間を迎えたのだった。
 地上に降りた円と酪農一家は再会を果たすと、さっそく父親がこうなったわけを話し始めた。
「この息子が、待ちきれなくなって飛び出してしまったんだよ」
 と言って、次男の頭をぐいぐいと押さえつける。
「しかし、まさかこの年でカツアゲにあうとはな! おまけに彼らからは懐かしい高校の時のロッカーのにおいがした。ここにもあるんだなぁ、マリ」
「あー、うん。自称小麦粉の類ね」
「ここはまるで昔の西部のようじゃないか」
「似てるかもしれないね。恐竜みたいな生き物もいるけど」
「そうかそうか。ありがとう、ここに来てよかった。こんなに刺激的なところで一から始めるのも悪くない」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
 円は携帯で武尊に連絡をした。
 酪農一家を無事見つけたことを伝え、現在位置を送信する。
 しばらくすれば軽トラックが来るだろう。
「サンドイッチ、食べるかしら」
 話が一段落つくと母親が大きなバスケットを持ち上げた。
 喧嘩の中でも死守したお弁当だ。
 円達は武尊が見つけられるくらいのところまで移動して、食事にした。
 種もみ生と初対面の二人の息子も、すぐに彼らと打ち解けた。


 空京では慌ただしく軽トラックに乗り込んだため、ロサンゼルスで出会ったストリートミュージシャンがいないことに気づいたのは、円が飛んでいった少し後だった。
「まさか、あの二人もフライング地球人だったなんて……!」
 赤兎馬の仔を軽トラックと併走させながら、騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は肩を落とした。
 円を見て、赤兎馬の仔に乗り換えて一台ずつ探したのだが見つからなかったのだ。
「さすがフライング地球人……。それって、空飛ぶ地球人って意味だよね? きっとそうだ、彼らは『フライングヒューマノイド』っていう種族だったんだよ!」
「マジかそれ! 何かかっこよくね?」
 詩穂の声をたまたま拾った種もみ生が好奇心に目を輝かせた。
「そんなんだったら、おもしろいよね」
 あははと詩穂が笑った時、携帯が鳴った。
 それは、詩穂が勧誘したストリートミュージシャンからのメールだった。
「なになに……ヒャッハーと叫ぶ珍人類に遭遇! シホのこと話したら、紹介しろと言われたよ……? 何これ、もしかして仲良くなってんの?」
 首を傾げつつ、詩穂は迎えに行くから居場所を教えてと返信した。
「行ってみなくちゃわからないね。カンゾーちゃんに伝えといてね」
 言い残し、詩穂は赤兎馬の仔の足を速めさせた。
 携帯に返ってきた場所へ着くと、メールののん気な内容とはだいぶ違うことが起こっていた。
 ミュージシャンを守るように数人のパラ実生が立ち、彼らとは別のグループと思われる数人と対峙している。
 赤兎馬の仔の足音に気づいた彼らがいっせいに詩穂を見た。
 ミュージシャンが対峙しているパラ実生を指して言った。
「乱暴者が現れたんだ!」
 詩穂は黎明槍デイブレイクを構え、赤兎馬の仔を敵対するパラ実生に突っ込ませた。
 子供とはいえ馬に蹴散らされたちまち慌てだすパラ実生。
 詩穂はさらに追い払うため、縦横無尽にデイブレイクを振った。
「さっさと消えないと、本気で刺しちゃうよ! 刺さると痛いよ!」
「ひえ〜、何だこいつ!」
 パラ実生達は敵わないと判断し、這う這うの体で逃げていった。
 槍を下ろした詩穂が、今度はストリートミュージシャンと一緒にいるパラ実生達を見た。
 ミュージシャンの一人が簡単に説明した。
「始めは通行税を要求されたんだけど、歌で勘弁してもらったんだよ」
「そこから詩穂の話になったんだね」
「そう。ロサンゼルスでは楽しかったからね。また詩穂と遊びたくて、こっちから探しに出たんだけど……」
「逆に詩穂が探す側になった、と」
「ははは」
 彼は笑ってごまかし、もう片方はため息を吐いていた。
「とにかく無事でよかったよ。あいつらが捨ててったバイクもあることだし、これで契約の泉を目指そうか。バイクは乗れるよね?」
「三歳の頃から乗りこなしてるよ」
「ふふ。じゃ、行こう。その前に、カンゾーちゃんに連絡しておこうっと」
 話をまとめて出発する三人を、パラ実生達が手を振って見送った。
「詩穂ちゃーん、今度は俺らとも遊んでなー!」
 そんな声を、詩穂は遠くに聞いていた。

☆ ☆ ☆


 その頃、荒野の軽トラックはスパイクバイクを走らせる一団に囲まれていた。
「お前らぁ! カンゾーのくだらねー計画に乗せられた地球人だろぉ? 土産をくれるなら見逃してやるぜぇ! ここらはジンベー様の縄張りだからなぁ!」
 そんな怒鳴り声が助手席のカンゾーの耳に届いた。
 カンゾーがオアシス再生計画を立ち上げる前、B級四天王の座を賭けて戦った相手が連打のジンベーだった。
 このバイク集団は、そのジンベーの舎弟のようだ。
「来たか……。まだぞろぞろと集めたもんだな」
 ざっと見たところ、百人くらいはいるだろうか。
 どうする、と聞いた武尊にカンゾーは、
「行けるとこまで行く。そのうちジンベーが来るはずだ」
「その時は降りるんだな?」
「ああ」
 了解と言って武尊はアクセルを踏み込んだ。
 荷台には契約者がいる。移住者を守ってくれるだろう。
 いざとなれば又吉の切り札もあるし、と武尊は考えていた。

 最初に襲われたのは最後尾の軽トラックだった。
 けたたましくクラクションを鳴らし、鉄パイプや釘バットを振りかざすパラ実生に移住者は呆気にとられていた。
 はパニックに陥らせまいと笑顔で言った。
「心配しなくてもいいよ。彼らも本気じゃないから」
「でも、何だかやる気満々に見えるけど……」
 移住者から不安げな声があがると、まるで応えるように荷台に鉄パイプが叩きつけられた。
 ヒィッと移住者から悲鳴があがる。
「なるべく真ん中に寄ってて」
 弾はそう言うと光条兵器を取り出した。
 柄と刃部分がそれぞれ1メートルある大剣に、どよめきがあがる。
 弾は、荷台によじ登ってこようとしてパラ実生を、剣の平で叩き落とした。
 ぷぎゃっ、と変な声をあげて転げ落ちていくパラ実生。
 移住者から拍手が起こる。
 流血沙汰は避けたいという弾の気遣いは正解だったようだ。
 初めての地に不安はあっても、契約者や種もみ生とのおしゃべりで興味と興奮のほうが勝っている今の移住者達は、案外この騒ぎを楽しんでいる様子だった。
「ちょっと荒っぽいですけど、彼らなりに歓迎してるんですよ」
「その通り! 新入りはまず、俺ら先輩に金の菓子折り持って挨拶に来るべきだぜ!」
 おっとりと微笑むノエルに向けてパチンコ弾が放たれたが、弾がそれを跳ね返す。
 パチンコ弾はパラ実生に当たり、パーンと音をたてて弾けた。
 剛太郎も懐いていた子供達を背にかばい、小銃!で反撃しつつも威嚇程度に抑えていた。
 子供達は、まるで特撮ヒーローの戦いぶりを見るように剛太郎の活躍に声援を送っている。
 剛太郎の信条の一つに『無益な殺生をしない。相手が人間ならなおのこと』というのがある。
 これからパラミタで成長していく彼らに、自身のこの行動が手本になってくれればと彼は考えていた。
 そんな中、過激に戦う契約者もいた。
「アッー!」
 と、声をあげて涙目になるパラ実生。
 本来は尻に刺さっているそれは、今回は鼻の穴に刺さっていた。
 カンゾーが噂していたレオーナのゴボウである。
 それでも荷台の縁から手を離さないパラ実生には、クレアの氷術で作り出した氷の塊がぶつけられた。
 再び「アッー!」と悲鳴をあげ、彼は転げ落ちていった。
「てめぇ、ふざけやがって! おとなしく出すもん出しゃぁいいんだよ!」
 パラ実生達がいよいよ本性を現した時だ。
 それまで光条兵器のライトニング・アローで威嚇射撃をして追い払っていたコーディリアが、武器を体内に戻し代わりに種もみ袋を荷台の隅から持ち上げた。
「これで手を打ちませんか? なかなか良い種もみだと思いますよ」
 コーディリアは併走するバイクのパラ実生に、ずしりと重い種もみ袋を渡す。
 バイクのスピードを落とさないまま器用に袋の口を開けたパラ実生は、にやりと笑った。
「まあ、良いほうだな。……だが、その人数にしちゃあ少なくないか? それとも、足りない分はねーちゃんが俺達と遊んでくれるのか?」
 パラ実生は欲を出した。
 内心で眉をひそめながら、コーディリアはもう一袋渡した。
「ふん、こんなもんだろ。──おい、引き上げるぞ! こんだけやればこれ以上ジンベーに付き合う必要はねぇだろ!」
 どうやら彼らはジンベーの舎弟ではなく、話を持ちかけられた別のグループだったようだ。
 彼らは耳が痛くなるほどクラクションを鳴らしながら離れていった。

 そのすぐ前の三台目の軽トラックでは。
「無礼者が。それが人にものを頼む態度か」
 信長のドラグーン・マスケットが火を吹いた。
「頼んでんじゃねぇ、命令してんだよ! おっさんのマントも高く売れそうだな、通行税として徴収じゃー!」
「ふっ、おぬしはなかなか良い目だな。運良くば銀幕スタァへの道が開けるぞ。協力いたせい」
 荷台に乗り込もうとしたパラ実生の胸元を掴みあげる信長。その目は鬼のように恐ろしい。スカウトというより脅迫に近かった。
 信長はひんやりと声を落として続けた。
「断れば、そっ首刎ねて髑髏を杯にする」
「信長気取ってんじゃねーぞ! 知ってるぞ、信長だろ!」
「いかにも、わしが信長だ」
「英霊かよ……」
 パラ実生はがっくり肩を落とした。
 が、すぐに信長の手を払い、荷台を蹴って離脱する。
「そう簡単にハイと言うわけねーだろ! なめんなよ!」
 転がり落ちていくパラ実生を横目に、ジーザスは移住者を真ん中に集めて宥めていた。
 も余裕の表情で言う。
「敵役のオーディションよ。お前らから見て、これと思うやつはいるかァ〜?」
「みんな迫真の演技だな」
 元不法移民が引きつった表情で言った。

 先頭のジンベーの軽トラックもすぐにパラ実生に両脇を固められた。
「お? こいつ、若葉分校の吉永じゃねぇ? おめーもカンゾーの仲間か!?」
 使い込んだ鉄パイプを手にしたパラ実生が竜司を見て言った。
 竜司は不愉快そうに顔を歪めて、血煙爪を起動させる。
「若葉分校も有名になったな。ま、イケメンばっかだから仕方ねぇか!」
 竜司が薙いだ血煙爪は鉄パイプに受け止められたように見えたが、直後には真っ二つに切断していた。
 荷台の移住者はリンが真ん中に集め、周りを若葉分校生や種もみ生に守らせた。
「はいはーい、慌てず騒がずだよー! そこの君、立つと危ないよ!」
 リンはこんな調子でうまくまとめていた。
 おかげで契約者はパラ実生の相手に集中できたのだ。
 ダリルが両手に構えたトゥウェルブショットから撃たれた弾丸は、パラ実生の手足やバイクのタイヤを氷結させ戦線離脱させていった。
「それにしてもきりがないな。後から後から」
「ジンベーだけの勢力じゃないみたいよ。四台目の種もみ生から連絡があったって」
「あちこちに声かけたのか。──ルカ! 二台目と三台目を守るぞ」
 ダリルのこの声で、ルカルカはやるべきことがわかった。
 この二台には契約者は乗っていない。
 種もみ生も善戦しているが、相手の人数はそれ以上だった。
 ルカルカが祈るように手を組むと、不思議なことに何故か彼女に注目せずにはいられない気持ちになっていった。
 敵味方問わず目を引き付けたルカルカ。
「さあみんな、こっちにおいで!」
「あの女を連れて帰るぞー! 土産じゃー!」
 おおおおおっ! と異様な盛り上がりを見せるパラ実生。
 のぼせたように集まってくる彼らを待っていたとばかりに、ルカルカはホワイトアウトで吹雪を巻き起こした。
 猛烈な寒さと強風に見舞われ寒さに震えたところに、未憂の氷術による氷の礫とヨルの弾幕援護が怒涛のごとく襲いかかった。
 しかし、この時一番怒りに震えていたのはブルーズだろう。
 招かれざる客のせいで彼が心を込めてつくった弁当はめちゃくちゃになってしまったからだ。
 嬰鱗棍を手に、ヌッと立ち上がるブルーズ。
「お前達、食べ物を粗末にするなと親から教わらなかったのか?」
 ブルーズのもとより赤い瞳が、怒りにより剣呑な光を帯びる。
 彼から発せられる圧力に、パラ実生は別の意味で震え上がった。
「ててててめぇ、チョーシこいてんじゃねぇぞ!」
 粋がる声も震えていた。
 荷台に乗り込もうとしていたパラ実生の手を、嬰鱗棍がびしりと払う。
 それから、棍が届く範囲のパラ実生を突く打つ薙ぐで次々と気絶させていった。
「ぎゃー! 龍の逆鱗に触れたー!」
 騒ぐパラ実生に、未憂がダメ押しとバニッシュを放ち、この一団は脱落したのだった。