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学生たちの休日15+……ウソです14+です。

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ヴァイシャリーにて



 とんとんとん……。
 キッチンの方から、軽快にまな板の音が聞こえてくる。
 これは、また漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が料理に挑戦しているのだろう。このところちょくちょくである。
 樹月 刀真(きづき・とうま)が、ちょっぴり口許をほころばせた。
 醤油の香りがするので、和食だろうか。だとすれば、教えているのは玉藻 前(たまもの・まえ)に違いない。それにしても、女の子が料理をしているときの音はいいものだ。心が安らぐ。
 とんとんとん……。
 とんとんとん……。
 とんとんとん……スターン!
 今、何か、分厚い板が一刀の下に叩き割られた音がした気が……。聞かなかったことにしよう……。

    ★    ★    ★

「ストマック・クロー……」
「いや、それは違うから。とにかく、基本をしっかりしていれば、なんとかなるはずなのだ」
 前回の顛末を聞いていた玉藻前が、漆髪月夜に言った。
 今回は、肉じゃがと味噌汁に挑むらしい。
「諦めずに挑むその心意気やよし。だが、味つけと火加減には注意を払うのだぞ」
「サー・イエッサー……」
 漆髪月夜が、気合いを入れて鍋を火にかける。肉じゃが用と、味噌汁用を同時にだ。
「こら、火が強すぎる。焦がすな、沸騰させるな」
 燃えあがる漆髪月夜の闘志を、玉藻前があわてて中火に調整した。
「調味料は計ってあるのだろうな」
「んっ……今するから」
 玉藻前に言われて、漆髪月夜が正確に調味料を計っていった。その間にも、鍋の温度はどんどん上昇していく。
「焦がすな! それから、順番を間違え……そっちは、味噌汁の鍋だ。肉じゃがはこっち! ぜいぜいぜい……」
 0.5秒の間隔でさしすせそを鍋にぶち込んでいく漆髪月夜を、玉藻前は必死にコントロールしようと努力していった。もう、へとへとである。
「なんとか、形にはなったな。味見は?」
「した……」
 えへんと、漆髪月夜が答える。
 どれどれと、玉藻前が味噌汁を味見してみる。
 ええと、これは……。
「なんだか、間が抜けている味だな。味噌汁と言うよりは、味噌スープ? 出汁は何を使った? 鰹か、昆布か?」
「もちろん、愛情♪」
 ちょっと恥ずかしそうに、漆髪月夜が玉藻前に答えた。
 それは出汁ではないと指摘しかけて、玉藻前が言葉を呑み込んだ。まあ、食べられないこともないし、どうせ食べるのは樹月刀真だ。

    ★    ★    ★

「さあ、召し上がれ」
 玉藻前に必要以上にだめ出しをされなかったので、漆髪月夜が自信満々でできあがった肉じゃがと味噌汁を食卓に運んできた。
「うん、見た目はなかなかうまそうだ」
 そう褒めると、樹月刀真が一口肉じゃがを口に運んだ。
「うっ!?」
 なんだろう、酸っぱい……。まさか、またさしすせそ全部入れたのだろうか。ま、まあ、和食だと思わなければ、まあ、なんとか……。
 味噌汁であれば、肉じゃがよりは簡単なはず。
「ううっ!?」
 なんだろう、味噌をといたお湯? どうも、出汁が入っていないらしい。
 まあ、食えない物ではないので、いつも通り樹月刀真は全部平らげて見せた。
「どう? とても、美味しい?」
 漆髪月夜が、わくわくしながら期待に満ちた目で訊ねた。
「うん、まずい」
 あっさりと言われて、ガックリと漆髪月夜が肩を落とす。
「う゛ー」
 ほっぺをふくらませる漆髪月夜に、樹月刀真がやれやれというふうに肩をすくめた。
「今度、俺と一緒に作ろうか?」
 食後のお茶を啜りながら、樹月刀真が漆髪月夜に言った。
「えっ、いいの?」
 ちゃんとした料理を作って樹月刀真を感心させるという目的からはちょっとずれるかもしれないが、一緒に何かをするのは楽しいに違いない。
「準備は、俺がしておくから」
「うん。楽しみに待ってる」
 樹月刀真の言葉に、漆髪月夜が嬉しそうに言った。
「なんだ、玉藻?」
 そんな様子をニヤニヤと見つめている玉藻前に気づいて、樹月刀真が訊ねた。
「いや、ごちそうさま」

    ★    ★    ★

「何が始まるかなあなの。わくわくなの」
 訓練場の観客席に一人座って、及川 翠(おいかわ・みどり)が期待に小さな胸をふくらませていた。
 訓練場には、ミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)ナターシャ・トランブル(なたーしゃ・とらんぶる)が、何やらたいそうな装備を身につけて立っている。
「ナターシャさん、行きますよー」
「はーい。よ、よろしくお願いしまーす」
 かなり厳ついアーマーを着込んだミリア・アンドレッティとナターシャ・トランブルが、ドスドスと走りだした。
「きしよー!」
「がったーい!」
 声をかけ合うと、二人が大きくジャンプした。
 ナターシャ・トランブルの背部にあったアーマーが足首の部分で膝関節として折れ曲がり、竹馬を履いたかのような長い脚になる。移動した装甲の部分に腰かけるように腰を曲げると、両腕の装甲が展開してナターシャ・トランブルの周囲を囲った。
 ミリア・アンドレッティの方は、背部のアーマーが展開して大きな腕となる。脚の部分は展開するとミリア・アンドレッティの脚を被う装甲となった。
 パワードスーツ並みの大きさの上半身と下半身となったミリア・アンドレッティとナターシャ・トランブルが上下に合体する。まあ、どちらかと言うと、ナターシャ・トランブルの下半身を、ズボンのようにミリア・アンドレッティが履くような形だ。ナターシャ・トランブルの方は、なんとなくミリア・アンドレッティの背中におんぶするような姿勢になる。
「きしょーがったい、ミリアーシャ!」
 合体を完了させた二人が、ポーズをとりながら声を揃えて叫ぶ。
「データの収集を始めますわ」
 二人の背後に色とりどりの爆炎を爆発させながら、ノルン・タカマガハラ(のるん・たかまがはら)が観測機器のスイッチを入れた。
「わー、すごいすごいなの」
 それを見て、及川翠が楽しそうに拍手する。
 なんだかごつい体形とはちぐはぐに、顔はミリア・アンドレッティの物がむきだしのままだ。ナターシャ・トランブルの顔は、装甲の下に隠れて見えない。機晶合体は融合合体ではなく物理合体であるので、どうしても合体パーツのメカメカしさが強調される。そのため、むきだしのミリア・アンドレッティの顔がずいぶんと幼く見えた。顔が童女の大女という感じである。
「それじゃ、どれぐらいパワーアップしているか、試してみます」
 何か適当な的はないかとミリア・アンドレッティが周囲を見回すと、及川翠の連れてきていたテヘベロジュニアが、やることがなくて隅っこの方で勝手に暴れているのを見つける。
「こら、公共の物を壊してはいけません!」
 そう叫ぶと、ミリア・アンドレッティが、テヘベロジュニアたちにむかってトリニティ・ブラストを放った。ちゅどーん、ばりばり、かちんこちんと、直撃をくらったテヘベロジュニアたちが吹っ飛ばされる。
「わーい、すごいすごいなの」
 自分の飼っているテヘベロジュニアがやられているにもかかわらず、及川翠は大喜びだ。
「次、召喚獣です!」
 あわてて逃げ回るテヘベロジュニアたちにむかって、ミリア・アンドレッティが容赦なく召喚獣たちを放った。燃やされ、凍らされながら、テヘベロジュニアたちが吹き飛ばされていく。
「私の技も使ってみますね」
 ナターシャ・トランブルが、ロングソードを取り出してソニックブレードをテヘベロジュニアたちにむかって放った。またもや、テヘベロジュニアたちが吹っ飛ばされていく。それにしても、結構タフである。
「うーん、とりたててパワーアップしていない?」
 テヘベロジュニアたちが吹っ飛ばされていく様を面白そうに見ていたノルン・タカマガハラだったが、計器の数値を見てちょっと首をかしげた。
 多少の威力は増してはいるものの、それは誤差の範囲内の増加に過ぎない。合体によるメリットは、多彩なスキルや武装を扱えるという点にあるようだ。
 とはいえ、同じスキルと言っても、ナターシャ・トランブルのスキルをミリア・アンドレッティが補佐して使えば威力は上がる。
「まあ、これはこれでありですわね」
 テヘベロジュニアたちを追い回すミリア・アンドレッティたちと、それを楽しそうに見ている及川翠をながめながら、ノルン・タカマガハラが鼻歌交じりにデータを記録していった。