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学生たちの休日15+……ウソです14+です。

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ヒラニプラにて



「総員、乗艦準備!」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が、湖畔に待機した鋼鉄の獅子の隊員たちにむかって号令を発した。今日は、これから新鋭戦艦ラグナロクの慣熟訓練である。
『着地する。各自、艦底部カタパルトより乗艦せよ』
 上空から降下してきたラグナロクから、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)の声が響いた。
 漆黒の大型空母が、降下予定地点に寸分の違いなく着地する。即座に左右から射出式のアンカーが大地に撃ち込まれ、左右副船体の着陸脚と共にその巨体を固定した。
 スリムな中央船体の左右には、副船体型の飛行甲板が展開している。中央船体にも飛行甲板を有し、艦首の衝角が特徴的だ。設計のベースとなったのは星辰戦艦金獅子であるが、さすがに星辰波動砲は搭載してはいない。代わりに大型荷電粒子砲が巨大な方向を前方へとむけて開いている。
 ガクンと、艦内気圧差による開閉音が響き、艦底部の艦載機発着ハッチが開いた。空中では艦載機の投下発進や着艦などを行う物だが、着陸時は物資搬入口と乗降口を兼ねている。
「全クルー、搭乗を確認」
 まっすぐブリッジに上がってきたルカルカ・ルーが、ブリッジ中央に座したダリル・ガイザックに報告した。パイロットシートと呼べるそのコントロールベッドは、機晶姫に対しての機晶制御ユニットに該当する。ただし、ダリル・ガイザックの場合は機晶姫ではないので機晶制御ユニットを使用できない。このコントロールベッドは、単なる接続デバイスだ。ダリル・ガイザックが、ここからラグナロクの全システムを電脳支配して、一人でコントロールを行う。
「それにしても、金獅子と同じとはいかないまでも、りっぱな艦ができたわよね」
「ああ。よくある艦名だが、創造主の決定を覆す旗頭にふさわしい名だと思ったのだ。設計には苦労した。イーダフェルト攻防戦のときのような戦法がとれるようにと装甲は厚くしたし、耐久性も可能な限り持たせている」
 なぜか、きっかけを待ってましたという感じて、ダリル・ガイザックが艦の説明を始めた。
 先の戦いでは、特攻をかけて敵要塞に突っ込み、そのまま艦首星辰波動砲を発射するという無茶な戦法をとっている。
 それを再現できる新造戦艦空母ということであるのだが、さすがに、星辰戦艦を原型としているとはいえ、まったく同じ物ではないのでいろいろと苦労はあったようだ。同様の戦法をとるためには、バリア機能を装備しなければまだ耐久不足だろう。ターゲットよりも固くなければ、自爆するだけである。
「コントロールを一貫化した分、人員に余裕もでているし、その分、艦載機やそのパイロット、整備員に人的資源を避けるという設計だ」
 いやいや、自分一人で操艦したいだけなんじゃないかとルカルカ・ルーが陰で手を横に振る。
「その他にも……」
 なんだか火がついたダリル・ガイザックが艦の特徴を語る間に、乗員の配置は終わったようだ。
 ポムクルさんたちが謎空間から取り出す星辰戦艦とは違って、ラグナロクはきちんと教導団で管理されている。普段はヒラニプラにあるドックに収容され、部隊の作戦行動時のみ発艦を許される形だ。当然、メンテナンスは、ドックに詰めているメンテナンス要員が受け持っている。
 ただし、今日は乗員の訓練という名目での処女航海であり、現場での調整項目も多い。
「各部署から、点検終了の知らせが入ってるわよ。そろそろ、発艦しない?」
「了解した。ラグナロク、抜錨。発艦する!」
 ルカルカ・ルーに言われて、ダリル・ガイザックがラグナロクを発艦させた。アンカーを回収し、フローターの出力を一気に上げる。
 みごとに水平を保ったまま上昇したラグナロクが、高高度で水平飛行に移った。
「搭載機の発艦訓練、及び、各砲座の模擬射撃訓練に映る。総員、持ち場にて訓練マニュアルの内容を実行せよ」
 ダリル・ガイザックの命令に沿って、訓練項目が次々に実行されていく。
 左右の飛行甲板からはイコンが発進し、移動するラグナロクの周囲を飛行した後に中央船体へと着艦する。その間に、各砲座はそれらイコンを仮想敵として、追尾訓練を行っていった。
「そろそろ、主砲のテストもしてみたいわね。あっ、別に、ルカが撃ちたいからっていうわけじゃないのよ」
「そうか。じゃあ、俺が制御して……」
「ああ、嘘嘘。ルカが撃ちたいです。いや、撃たせてください……」
 放っておくとなんでも一人でやってしまいかねないダリル・ガイザックに、ルカルカ・ルーがあわてて懇願した。
「主砲発射準備。突撃形態へと移動。左右甲板要員は、変形に備えろ!」
 ダリル・ガイザックが命令を発すると、左右甲板が前方へと移動を始めた。艦隊中央の大型リングに沿ってスライドしつつ主船体の左右にぴったりとくっつく。安定した横広の空母的シルエットだったラグナロクが、先鋭的な突撃艦のシルエットへと変化した。
「艦首荷電粒子砲へのエネルギーバイパス開け。電磁加速レールへのコンデンサーチャージ開始。重金属粒子、薬室内充填。薬室内加圧、プラズマ生成開始。圧力上昇。プラズマ発生を確認。コンデンサーへのチャージ完了。撃てるぞ」
発射!
 ダリル・ガイザックの言葉を受けて、ルカルカ・ルーが嬉々としてトリガーを引いた。
 何もない上空へとむけられた荷電粒子ビームが、雲を貫いて吹き飛ばしながら、光の柱となって空の彼方へとのびていく。
「んー、手応えあり。よし、もう一発……」
「こら、冷却処理がまだだ。発射間隔をちゃんと身体で覚えてくれよ」
 砲身の冷却作業を急がせながら、ダリル・ガイザックがルカルカ・ルーに注意した。連続発射をしたら、砲身が溶けてしまい艦そのものが自爆してしまう。
「了解。冷却時間を計測するわ」
 そう答えると、ルカルカ・ルーが荷電粒子砲システムの温度と時計をにらめっこした。
「よし、では、次は移動しながらの射撃テストに入るぞ」
 ダリル・ガイザックが言った。
 そのまま、ラグナロクの特性を確認しつつ、訓練は続けられていった。

    ★    ★    ★

「うーっ、なんだか、頭が重い……」
 あからさまな二日酔いの頭痛に、水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)がベッドの上で軽く頭をかかえた。
 いったい、なんで、こんなに目に遭っているのだろう。
 つらつらと、つたない記憶を辿っていくと、発端は昨日まで続いていた任務のようだ。
 グランツ教と内通していると思われる政治家の身辺を洗う……と言ってしまえば聞こえはいいが、やっていたことは24時間態勢での電話の盗聴である。
 有線無線の両方を、パートナーのマリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)とともにずっとチェックしていたわけではあるが、これが言葉以上にしんどい任務であった。
 なにしろ、そこで交わされる会話が、ひどくプライベートな物から、小悪党の不正、本来の目的であった陰謀などと、いろいろな意味で聞くに堪えない物ばかりであったのだ。
 おかげで、すっかり水原ゆかりはめげてしまった。
 盗聴内容とレポートは、いずれ不穏分子の粛清に使われるのであろうが、そこに水原ゆかりたちの名前が挙がることはない。任務達成の功績はあるだろうが、それは水原ゆかりたちが成し遂げたと言うよりは、相手がやらかしたと言うべき物だ。
 そんな考えに囚われてしまうと、嗜好がだんだんとマイナスに傾いていってしまう。
 情報科としては珍しくもない任務のはずであるのに、そんなに考え込んでしまうというのはまだ自分に甘さがあるのだとさらに考え込むうちに、思考は変な迷路に入ってしまう。
 そんなこんなで、たしか、水原ゆかりは、マリエッタ・シュヴァールにちょっと愚痴ったはずであった。
 その後、ええと、どうなったのだっけ……。
 そう、軽い飲み物でも飲んで落ち着きなさいと言われたんだっけ。
 軽い飲み物、それは軽いお酒だったはず。たしか、ウイスキーのソーダ割り。それを飲んだはずだけれど、それで酔っぱらったということだろうか。
 その後、どうしたのだろうか。
 何か、ちょっと暴れたような気もするし、いつも通りだったような気もする。
 いつも通り?
 そう、こういうときは、男で憂さを晴らして……。
 まあ、勢いで押し倒してしまえば、こっちのもの……。
 って、相手は男じゃない!?
 一気に酔いが覚めたようで、水原ゆかりがベッドの上を見た。案の定、横には誰かいる。いや、誰かではなく、しっかりとマリエッタ・シュヴァールだ。
「うん。よかったよ……」
 裸のマリエッタ・シュヴァールが、軽く頬を染めて水原ゆかりに言った。
 いやいやいや、朝目覚めたらおはようだろう。違う、そんなことではなーい。
「やってもうた……」
 水原ゆかりは、二日酔いでなく頭をかかえた。

    ★    ★    ★

「よし、状況を開始する」
 ジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)が、腰撓めに得物を構えて妻のフィリシア・バウアー(ふぃりしあ・ばうあー)に言った。
 そのスイッチをオンにすると、手に持った掃除機が勢いよくゴミを吸い始めた。ジェイコブ・バウアーの身体が大きいので、なんだか玩具の掃除機のようにも見える。
「しばらく留守にしていたから、積もった埃をちゃんと掃除しなくっちゃね」
 そう言いながら、フィリシア・バウアーが床をぞうきんがけしていった。
 最近出張の任務が多く、家を空けることが多い。今日も二週間ぶりの我が家なので、まずは掃除からということで、玄関のドアをくぐったとたんから全力で片づけを始めたというわけだ。
 まあ、また任務で出張したら元の木阿弥かもしれないが、やっぱり自宅は綺麗にしておきたい。
「よっせっと……」
 軽くタンスを横に動かすと、ジェイコブ・バウアーが裏にたまった埃を掃除機で吸い取った。こういう力仕事は、当然ジェイコブ・バウアーの役割である。当人としても、別段苦になるわけではないので、黙々と任務をこなしていく。
 新婚当初と比べれば、これでも家事が板についてきた感じだ。
 二人で一緒にゴミの分別を終えると、ちょうど回収日であった生ゴミをジェイコブ・バウアーが指定収集所へと持っていって捨てる。留守にしていたので、重いと言うほどのゴミの量ではないが、こういうことは率先してジェイコブ・バウアーがこなすことになっている。ただ、ゴミ捨て場で御近所のおばさんに出会ったときの会話だけが試練ではあるのだが。
 力仕事はジェイコブ・バウアーの担当とはいえ、他の仕事に力がいらないというわけでもない。フィリシア・バウアーは、力を込めてゴシゴシと風呂掃除をしていった。なんだか、ちょっと念入りにやっているような気もするが。
 一通りの掃除洗濯ができたところで、食事にします? お風呂にします? ということになったので、ジェイコブ・バウアーが先に風呂に入ることにした。
「ふう、労働の後の風呂は生き返るぜ」
 頭にタオルを載せながら、ジェイコブ・バウアーが人心地ついた。
 鼻歌の一つでもついてでようかと思ったとき、風呂の戸が開いてフィリシア・バウアーが入ってきた。いや、夫婦なのであるから、別段問題があるわけではないのだが、未だに免疫のないジェイコブ・バウアーがちょっと狼狽して頭の上のタオルをズリ落とす。その間に、フィリシア・バウアーがするりとバスタブに入ってきた。
 なんだか御機嫌で、フィリシア・バウアーが背中をスリスリしてくる。
 やれやれ、この後まだ一仕事ありそうだと思うジェイコブ・バウアーであった。