校長室
××年後の自分へ
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「……何か変わった事をやっていると聞いたが」 グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)は手紙書きを聞きつけやって来た。 「なかなか賑わってるな」 隣にいるゴルガイス・アラバンディット(ごるがいす・あらばんでぃっと)がグラキエスが感想を洩らす予定の事を洩らした。 「……さっきまで一緒にいたエルデネストの姿が見えないな」 「いつの間に……どこに行ったのだ」 グラキエスとゴルガイスがいつの間にやらもう一人の連れであるエルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)がいない事に気付いた。 二人が捜そうとした時、 「グラキエス様」 少し離れた場所からエルデネストの声が飛んで来た。 「エルデネスト」 「グラキエスからはぐれて何をしているのだ」 グラキエスとゴルガイスは振り向くと 「よいお席をご用意出来ましたのでどうぞこちらへ」 エルデネストは馴染みの笑みを浮かべてグラキエス達を呼んだ。実はグラキエスのためにと中庭を良く見渡せる席を見付けた上に諸々の準備まで調えていた。全てはグラキエスのために。 「席を探してくれていたのか、ありがとう」 グラキエスはゴルガイスを引き連れ、急いで駆けつけた。 「……どうぞ、お掛け下さい」 「あぁ」 エルデネストが軽く引いてやり椅子にグラキエスはゆっくりと座った。 テーブルにはティーセットが並び、グラキエスのために用意した上質なお菓子まで用意され、癒しの空間が作られていた。 「……(このような物、どこから出したのだ)」 あまりに豪華なティーセットにゴルガイスは胸中で思わず言葉を洩らしつつ適当に椅子に座った。 「さぁ、グラキエス様、お茶をいれて差し上げましょう」 エルデネストはカップに紅茶を注ぎ、そっと差し出した。 「ありがとう」 グラキエスは礼を言って受け取り、カップに口を付け、 「……美味しい」 淹れ立ての紅茶を楽しんだ。 「ありがとうございます。こちらのお菓子は如何ですか?」 エルデネストは飲み物の次はお菓子を勧めた。 「貰おう」 進められたお菓子を食べながら手紙書きにあれこれ思案する参加者達をのんびりと眺めつつ 「……(未来か……そんな事、想像した事はなかったな。これまで色々あり過ぎて……)」 これまでの事を振り返っていた。狂った魔力と暴走の果ての惨劇、自身が災厄となる未来から来た未来人の仲間、二度の記憶喪失、何時何が起きてもおかしくない体、振り返るにはあまりにも楽しくない出来事を。 しかし 「……(いつか来るなら今考える事は無いだろう。考えずとも今皆が側に居てくれる……それで充分だ)」 グラキエスは寛ぐゴルガイスと側に控えるエルデネストの存在を確かめ、笑みをこぼした。自分が生きる事を決めてから何となく仲間達も穏やかになった気がしていた。今が幸せならきっと続く未来だって幸せのはずだ。 「如何致しましたか、グラキエス様?」 「どうした、グラキエス?」 グラキエスの視線に気付いたエルデネストとゴルガイスは何か心配事でも起きたのかとすぐに声をかけた。 「いや、何でも無い。それより、二人は参加しないのか?」 グラキエスはふるりと頭を振り、手紙を書く様子の無い二人に訊ねた。 「未来への手紙は我には難しい故書かぬ。未来云々については以前参加した事で十分だ(今を考え、あの光景を現実に……いや、より良い未来を目指すので手一杯だ。そもそも未来よりも今この瞬間こそが我にとっては何よりも大事)」 ゴルガイスは以前未来体験薬の被験者として参加した時の事を思い出していた。あの平穏な日々を送る未来を。それ以上に未来の自分をあれこれ思うよりも今この瞬間共にいたいと思う者と一緒なのが大事だと。 「そう言えば、ゴルガイスは以前参加していたな。本当にあれから色々あって……」 グラキエスもその時の事を思い出し、時間の流れを感じ、何はともあれこうしてのんびりしている自分に思わず笑みがこぼれる。 「それでエルデネストは?」 グラキエスは本題に戻り、再度問うた。 「私には必要はありません……お代わりは如何ですか?」 エルデネストは全く揺るぎない返答。その理由を言葉にしようとした時、グラキエスのカップがいつの間にか空になっている事に気付き、中断。 「あぁ、貰おう」 グラキエスは迷う事無くお代わりをお願いする。 カップに紅茶を注いだ後、 「……参加よりもするべきは、こうして今グラキエス様のお側に存在する事、そして何時か……果たされるその時、すべては私のものに……それはこの先何が起ころうと変わりません」 エルデネストはグラキエスとの契約が果たされるその時まで何があっても離れない事を匂わせつつ答えた。 「……エルデネスト、ありがとう」 グラキエスがエルデネストの自分を気遣う思いに気付き、嬉しそうな顔をした。最近になってグラキエスは、エルデネストが自分の事を特別に気に掛けてくれていると何となく感じ始めたので。 そんなグラキエスの気持ちが嬉しかったのか 「……いえ」 エルデネストは普段とは違う笑みを浮かべていた。 グラキエス達のやり取りを眺めながら。 「…………(……エルデネストの存在については仕方あるまい)」 ゴルガイスは始めからエルデネストについてはグラキエスが決めた事だと口出しを控えていた。何せ、グラキエスの助けになる能力と見返りはとんでもないが今は多少悪魔的で異常な執着は匂うがグラキエスを心底求めて何かと言いながら助け甲斐甲斐しく世話をする様子には信用しているので。 そのため 「……(……まあ、今の奴なら我が何か言う事もなかろう)」 ゴルガイスは唯々グラキエス達のやり取りを見守っていた。それがゴルガイスの気持ちなのだ。 しばらくして、のんびりと和んでいるグラキエス達のテーブルに知っている顔がやって来た。