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 双子回収後。
「降ろせよ!!」
「何でいるんだよ!」
 孝高に担がれている双子は当然足をばたつかせて無駄な抵抗を試みる。
「何でとはおかしな事を聞くな。手紙を書くためだ」
 孝高は何事も無いように言い、双子を降ろす気はさらさらない。
「だったら俺達の相手する必要無いだろ!!」
「そうだそうだ」
 双子は声を合わせてなおも無駄な抵抗を続ける。
「……そうか」
 孝高は静かにうなずいたかと思いきや突然吼えながら『麒麟走り』を使いセルフジェットコースターの刑を執行した。

「うぐぁぁぁわぁゎぁ」
 双子の無情な叫び声が中庭に響いていた。

 刑執行終了後。
「……」
 声を上げる元気もなくぐったりと孝高に担がれたまま薫達が陣取るテーブルへと強制連行となっていた。双子の保護者役のロズは手を出さず見守っていた。
「悪さをせず、大人しくするんだな。悪戯をすればどうなるかわかるな? 現在だろうが未来だろうが、スリリングな目に遭わせてやるぞ」
 孝高は双子を適当な椅子に座らせ、凄味を利かせ、いつものように心身から震え上がらせる。
「!!」
 双子は顔を真っ青にしてビクつき、身を強ばらせた。
「双子ちゃん、手紙は書いたのだ?」
 双子のフォロー役である薫が優しく訊ねた。
「……書いた」
 双子は同時にこわごわと答えた。
 その間、
「ちー」
 白もこちゃんはロズの事を興味深そうに見つめ鳴いた。
「……?」
 ロズは不思議そうに白もこちゃんを見ていた。
「この子、興味あるみたいなのだ」
 ロズの視線に気付いた薫はにこっと笑いながら言った。
「……そうか」
 ロズはじっと楽しそうにテーブルでぴょこんと跳ねる白もこちゃんを見ていた。
 その時、
「ロズ、良かったら手紙を見せてくれねぇか?」
 ロズが気掛かりのベルクが声をかけてきた。
「……それは構わないが……」
 ロズは双子の方に視線を走らせた。手紙を見せる事はどうでもいいが、双子の様子が気掛かりな模様。
「あぁ、双子の事は任せておけばいい(こいつも苦労人だな)」
 孝高達を知るベルクは苦笑しながらロズの心配事を片付けた。ロズの保護者っぷりから心無しか溜息が出てしまう。自分もまた苦労人のためだろう。
「双子ちゃんの事は我達に任せていいのだ」
「この子達と楽しく手紙を書いているから」
 薫はにこにこと可愛い笑顔で孝明は双子に不穏さを感じさせるにこやかさで言った。
「では、頼む」
 ロズは双子を薫達に任せてベルクと双子から随分離れたテーブルに移動した。

 ロズが去った後。
「……全然楽しくねぇよ」
「折角、見張りのロズがいなくなったのに……帰りてぇ」
 双子は熊父子が同席している事にたまらない様子である。決して彼らの事を嫌っている訳では無い。
 双子も同席し、落ち着いた所で
「双子ちゃんは何年後にしたのだ?」
 薫は双子に何年後したのかを訊ねると
「10年後」
 双子は同時に答えた。
「だったら我も同じにするのだ……ふんわりと甘い香りがするのだ」
 双子の答えを聞いた薫は同じ年数にし便箋の甘い匂いを楽しみながら書き始めた。
「……きっと十年後も家族一緒にお菓子を食べたりしているかもねえ」
 薫が想像したのは家族一緒にのんびりとしている姿。
「……(平行世界だろうが、十年経とうが、俺に変化なんてないだろうな)」
 孝高は便箋からは匂う心地良い古い書物の香りで薫との関係が今と変わらぬ未来の想像を鮮やかにし急いで頭を振って打ち消すが
「……(幸せだが、どこか虚しいな)」
 薫の家族一緒発言に孝高はがっくりと肩を落とす。ここは恋人である自分と幸せな未来を見て欲しいところだったり。
「孝高、どうしたのだ?」
 鈍感な薫は全く気付かずただ可愛らしく小首を傾げるばかり。
「いや、気にするな。俺は大丈夫だ」
 孝高は何事も無いように振る舞った。

「ちー、ちー」
 白もこちゃんはこっそり薫から便箋を一枚抜き取り手紙を書いていた。宛先は皆と同じだが、ちー、とか足跡をつけたりという本人にしか読めぬ手紙である。
「お前も手紙を書くのか」
「何書いてるんだ?」
 何とか復活した双子がひょっこりと白もこちゃんの手紙を覗き見た。しかも周囲に知られないように何事かを仕組んでから。
 その時、
「ちー」
 丁度手紙を書き終えた白もこちゃんは足にインクが付いたままとことこと歩き回り、テーブルに足跡を付けた後、自分の手紙を見る双子の肩に乗り上げて頬に足を押しつけて足跡をつけた。
「おわっ!」
 びっくりする双子に
「じゅーうーねーんーごーも、いーたーずーら」
 耳元で囁いた。

「双子、二人はどんな手紙を書いたの?」
 誰よりも手紙を先に書き上げた孝明は白もこちゃんと戯れる双子を指でつつきながら絡む。
 しかし、嫌な予感しかしないのか双子は恐怖のため孝明の方に振り向かない。
「おいおい、無視は悲しいよ。未来でも悪戯するの?」
 双子の反応を面白がりながら孝明はなおも絡む。
「何だよぉ、書いたぞ」
「悪戯するとかひでぇな。ほら」
 しつこい孝明に根負けして双子は自分達が書いた手紙を出して見せた。
 受け取り読み終わるなり
「……真面目に書いてるねぇ」
 孝明はわざと双子が引っかかるような物言いをしてからかう。
「何か引っかかる言い方だなぁ」
「そっちはどんなの書いたんだよ」
 双子は口を尖らせて孝明の思う通りの反応を示した。
「引っかかるって心外だねえ。俺も普通だよ。十年後もマイペースに暮らして双子達に悪戯でもお見舞い出来たらいいかなと。どっかーん! ってさ……それともズボッッとか? 双子、どっちがいい?」
 孝明はにこやかに双子にとって不穏な事を口走る。ちなみにどっかーんとはインビジブルトラップの爆発、ズボッッは落とし穴に落とす事である。
「絶対に嫌だ!!」
「何か危険な匂いしかねぇし!!」
 双子は大声で断固拒否。これまでに悪さをして受けた仕置きを思い出しているのか顔は真っ青。
「そんな事、言わないで、おじさんに教えてよぉ」
 孝明は双子の反応を面白がりながらさらにしつこく絡む。絡めば絡むほど双子は面白い反応を返すので。
「絶対に酷い目に遭うだろ、俺達が」
「そうだそうだ」
 と必死な双子。
「ほら、お菓子でも食べて機嫌を直してよ」
 孝明はおもむろにテーブルに用意されたお菓子を手に取り、双子に勧めた。
 しかし、お菓子を見た瞬間
「……いらねぇ」
「そうそう、オレ達はお腹いっぱいだから」
 双子は明らかに戸惑いの顔をして受け取ろうとしない。孝明ではなくお菓子に何かある事は明白。
 その何かを知る孝明は
「ひどいなぁ。俺はただ二人と仲良くしたいだけなのに……」
 大仰に傷付きいじけるふりをする。
「おいおい、悪かったって」
「な、謝るから」
 いつもと様子が違う孝明に少し警戒を解いた双子は謝りいつもの調子を戻って貰おうとする。
 その時、
「!!!!」
 孝明の『驚きの歌』が双子を驚かせ、動きを止めた。
「素敵なお菓子を用意してくれてありがとう。俺も十年先でも二人に悪戯してあげるから心配はいらないよ」
 孝明は怖いにこやかな笑みで双子にとっては死刑宣告のような言葉を送った。
「……悪戯いらねぇよぉ」
「……もうばれてたのかよ」
 双子は震えながら悪戯が失敗した事、孝明が全てお見通しであった事を知った。皆が手紙を書いている隙に悪戯を仕込んだお菓子を潜ませ、様子を伺おうとしていたのだ。

 一方。
「ピーキュ……キュピッピ(わたぼ、ひらがな書けないから、絵にしよう)」
 字が書けないわたぼちゃんは便箋に絵を描き始めた。
「キュピピキュ、ピキュピ……?(みんなで楽しく暮らして、双子のお兄ちゃんとも遊んでいるのかな……?)」
 わたぼちゃんは十年後の自分が家族と笑顔で暮らす姿や双子と遊んでいる姿を思い浮かべながら描いた。
 その時
「ピキュピキュウ(ミルクの香りだ)」
 ふんわりと優しいミルクの匂いがわたぼちゃんの鼻をくすぐり、想像した未来は鮮やかになりわたぼちゃんを楽しませた。
 そして、
「ピキュピ!(出来た!)」
 鮮やかな未来を見ながら無事に手紙を完成させた。
「ピキュウッピ(便箋からのミルクの香りで思い出した、わたぼ、アイスを持って来たんだよ)」
 手紙を書き終え、落ち着いた所でわたぼちゃんはシャンバラ山羊のミルクアイスを持参していた事を思い出した。
「キュピィッキュ(双子のお兄ちゃん、一緒に食べよう)」
 わたぼちゃんは孝明に悪戯を看破された双子に声をかけた。
「アイスくれんのか」
「食べる」
 これは救いだとばかりに双子は食い付いた。わたぼちゃんのピキュウ語は分からないが様子で何となしに分かったようだ。
「ピキュ(どうぞ)」
 『サイコキネシス』でいつものようにアイスをあげた。
「ん〜、美味しい」
 双子はすっかり元気を取り戻し、ほくほくとアイスを頬張った。

 その時、
「手紙を書き終えたから噂の双子を見に来たんだけど、とても賑やかだね」
 手紙書きを終えたジブリールが双子とお近づきになりたくやって来た。
「おいおい、噂のって何だよ!」
「もちろん、いい噂だよな」
 双子は引っかかったのは噂の云々であった。
「騒ぎを起こすというのが入っていたり色々」
 ジブリールは聞いた話を色々で済ませた。
「色々かぁ。まぁ、今はロズが長話しているからゆっくり出来るけど。何か余計な事を吹き込みそうだ」
「あいつ、ずっと見張ってるし、何か怪しい格好してるし」
 双子は別テーブルにいるロズをちらりと見ながら溜息。
「……暴こうとして失敗しているとか?」
「……まぁ」
 ジブリールの何気ない追求に双子は言葉を濁した。暴こうとする度に上手く回避されているのだ。
「でも嫌ってはいないんだよね」
 聡いジブリールは双子の様子からロズにへの親しみを感じ取っていた。
「まぁ、悪い奴じゃないし、何か邪険にできねぇんだよなぁ」
「そうそう、それに時々は手伝ってくれるし」
 双子はそれなりにロズとやっている事を明かした。
「……ふぅん(世界は違っても感じる所はあるって事かな)」
 ロズの正体を知るジブリールは胸中で因果な事だと思っていた。
 ここで
「で、手紙どんな事、書いたんだよ。というかどんな事を想像したんだ?」
「おっ、わたぼちゃんは絵なんだな」
 双子はジブリールとわたぼちゃんの手紙に好奇心を向けた。
「オレはフレンディスさん達の子供達と遊ぶ事を想像したよ。手紙は未来の自分に向けて書いた」
 ジブリールは簡潔に答えた。
「ふぅん、俺達も似たようなもんだな」
「どうせ、10年経っても二人で何かしている事は間違い無いよな」
 と、双子も答えた。
「で、わたぼちゃんは?」
「絵にするってのもアリだな」
 双子はわたぼちゃんに訊ねた。
「ピキュピキュピ……ピキュピキュキュピキュ(ひらがな書けないから絵にしたんだよ……わたぼと家族と笑顔で暮らして双子のお兄ちゃんと遊んでる絵だよ)」
 わたぼちゃんは絵を見せながら想像した事や手紙に描いた事を説明するが、言語は双子が理解出来ないピキュウ語。
 しかし、
「えと、わたぼちゃんがみんなといる絵か?」
「これ、オレ達だよな」
 見せてくれた絵で何を言っているのかは予想出来る。
「ピキュ(そうだよ)」
 わたぼちゃんはこくりとうなずき、にこっと笑った。
「おう、ありがとう!!」
「10年後も遊ぶぞ!」
 嬉しくて調子に乗る双子は楽しそうに笑った。
 そこに
「是非、俺も混ぜて欲しいね」
 孝明がからかおうとにこやかな笑みを湛えつつ言葉を挟んだ。
「!!!」
 声を聞くなり双子はビクッと硬直するのだった。
 その落差の激しさを見るジブリールは
「本当に面白い双子だ」
 ぼそりと感想を洩らしていた。