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リアクション
「……沢山屋台が立っているのとは違うようだな」
ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は辺りをぐるり、と見回した。
百合園女学院主催の会はささやかなもので、予想していたような祭りではなかったから(そして星を見に来た人が殆どだったから)、残念ながら祭りの屋台が立っていなかった。
(何か欲しいものがあれば、買ってあげたかったが……)
ダリルはそもそも、屋台を梯子して、はしゃぐような性格ではない。
それも、隣……足元を歩く父・吉井 ゲルバッキー(よしい・げるばっきー)に何かしてあげたい、という――これもダリルにしては珍しい感情からだった。ダリルにとって、ゲルバッキーは「かけがえのない家族」だ。
パートナーのルカルカ・ルー(るかるか・るー)はいない。親子水入らず、だ。
ゲルバッキーはダリルを見上げると残念そうに言った。
(りんごあめはないんだな)
「残念だが。ただ……射的の屋台があるな。見に行こう……欲しいものはあるか?」
ひとつだけ開かれていた射的の屋台。射的が得意なダリルは、使用するのがガスガンであることに驚きつつ、ゲルバッキーが鼻先で示していたクッションを取ってあげた。
それから、そのゲルバッキーが寝るのに丁度良さそうなクッションを小脇に抱えながら、草地を歩く。
斜面を少し過ぎ、周囲に人気のないところを探して二人は座った。
(いい眺めだな)
ダリルは確信していた――父が、実は記憶をほぼ保持したままだ、と。
勿論、ゲルバッキーの記憶からは一度、全て記憶がクリーンにされたはず。しかしそれではつじつまの合わない発言がある。ゲルバッキーはおくびにも出さなかったが。
(ふむ、いいクッションだ。もしや古王国時代の技術が使われているのか)
「クッションくらい、欲しかったら買ってやるんだがな。他に取りたいものはなかったのか?」
(ああ、十分だ、ありがとう。……お前は普段何をしているんだ?)
「軍で問題もなく過ごしている。
これの調子も頗る良い。おかげで遠距離だけではなく近接兵器としても性能を生かせるようになった」
ダリルは、浴衣の袖をまくって彼専用の籠手型HC光条零式を見せた。これはナノマシンの集合体で、ダリルの意思で変形その他が可能という特別製である。
(そうか、……そうだ、最近面白い能力に目覚めたそうだな)
「ああ」
ダリルは”電子変化”をして見せる。これは自分の肉体を電気信号(電子体)に変化させる能力で、時に機械に進入したり機械と同化し操作することも可能なものである。
姿が光の粒子となってふいに消え失せたかと思うと、再びダリルの肉体を構成した。
「誰かさんがナノマシンに変化するから、似たんだよ」
ダリルはゲルバッキーに苦笑する。
(血は繋がっていないだろう)
「俺だって冗談くらい言うさ」
ダリルは笑った。今度は、楽しそうに。そうして伸ばした手で父を撫でる。ゲルバッキーは頭をダリルの膝に預けた。
ダリルは暫くそのままやわらかい毛並みを撫でていたが、やがて膝の上に抱え、抱き締める。
(ぬくもりを感じたい)
ぬくもりを感じたいと……そう思うこと自体が、面白かった。
(この俺が、家族と過ごす時間を”幸せ”だと思うとはな。過去の俺からは想像できない。だが、悪くない。悪くない気持ちだ)
「俺を創ってくれて有難う、父さん……」
満天の星に見守られながら、二人はしばらくそうしていた。
やがて夜が更け、ゲルバッキーはこの後仕事があるから、と立ち上がった。
(今日はお前と過ごせて良かったよ、タケシ)
「……………」
誰だよ。
どうやら、ゲルバッキーは適当にそれっぽく過ごしていただけのようだった。
全てが胡散臭くなる。
ダリルは激しく頭痛を覚えながら眉間を揉み、だが、フッと笑った。
「いや、父さんらしいな――じゃあ、俺はもう行くよ」
ダリルが去った後。
(面白いものだね、ファーストクイーン。
君を失ったあの日から、全てを滅ぼしてでも復讐を叶えようとしていた。
そんな僕が作ったもの達が、新しい世界を創る者となるかもしれないんだ)
ゲルバッキーはダリルに言った通り、仕事で空京に向かった。銀行強盗を起こしたせいで、無期限で、空京の町の奉仕活動をさせられることになっていたからだ。
空京のどこかでも七夕祭りをしているだろう。
落ちた短冊もあるだろうし、祭りにつきものの色々も転がっているだろう。
(夢の欠片を拾いに行くか)
ゴミ拾いじゃん。
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