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戦いの理由

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戦いの理由

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「龍騎士の背後に回り込みたいところだけれど、挟み撃ちにされる恐れがあるから、側面からの遠距離攻撃に徹するのよ……って、ちょっと!?」
 これまで、素直に指示に従ってきた特殊機のパイロット、ユリアナが南の方向に向かいだした。
「隊長と話をつけるわ。こっちにもカードがある。交渉で戦いを止めらるかもしれない」
「はあ!? 待ちなさいよ!」
 ドラゴン型に変形して進んでいく特殊機を、通信機で味方に連絡を入れながら杏は追う。
「止まりなさい、ユリアナ・シャバノフ! ……もうっ!」
「杏さん、龍騎士を側面に着きました。どっちが優先でしょうか……っ」
 早苗は動揺しながら報告する。
「両方よ!」
 杏はユリアナを追いながらも、ドラゴン型隊に魔法攻撃を加えている龍騎士への射撃も忘れない。
「特殊機を渡してお帰り願おうってわけか? それとも、そう見せかけて油断させて、やっちまおうってわけか? さっすがユリアナ先輩、汚い女だ」
 くくくっと、ニコライは笑った。
「まずは、あの龍騎士を抑えるのが先。特殊機のパイロットが勝手な行動をとった場合は……やむを得ないわね」
 ザウザリアスはそう言いながら、龍騎士にミサイルを撃ち込んでいく。
「皆、頑張って!」
「反撃来ます。回避不可能。皆防御を!」
 美羽が急所狙いで、龍騎士が騎乗するドラゴンの翼を撃つと同時に、ベアトリーチェが皆に防御を促す。
 即、龍騎士からの反撃の魔法が発せられた。
 無数の岩が砂嵐のように、迫ってくる。
 人型のパイロット達は盾で攻撃を防いだ。距離があったため、大きなダメージは受けない。
 龍騎士がこちらに気を取られた隙に、ドラゴン機は射程外に離脱したと報告が入る。
「一斉射撃、行くわよ!」
 杏に合わせて、人型隊は龍騎士に向かい、ミサイルと銃を撃ちこんだ。
 爆発で辺りに砂が降り注ぐ。龍騎士の姿が見えなくなった。
 一行は急ぎ特殊機を追う。
 その間に、ゼスタから指揮を任されているクレアに連絡が入る。
 それは非常に悪い知らせだった。
 ユリアナと第七龍騎士団の現団長との繋がりを懸念する声が多方面から出ているということ。
 それから……。

『エリュシオンの第二龍騎士団の一部が、ヴァイシャリー方面から要塞に向かっているとのことだ。要塞側に打つ手はない。要塞指揮官の意向は、降伏はせず、撤退だそうだ』

「了解した」
 クレアは短く答えた後、01隊に命じる。
「ユリアナ・シャバノフの行動を裏切りと判断する。特殊機を破壊してでも止めろ」
 直後に、クレアが搭乗する人型試作機から、ミサイルが発射される。
「その機体、帝国に渡すわけにはいかないんだよっ!」
 エイミーがミサイルのスイッチを次々に押していく。
 特殊機は巧みに躱していくが、爆風に煽られてバランスを崩していく。

「学校では、ホント優等生だったから……。もしかしたら、シャンバラを好きになってくれたのかなって、そうだといいなって思ってたけど……。やっぱり、ダメなんだね」
 美羽は悲しげな声で言った後、瞳に強い輝きを宿し、特殊機を追う。
 後方から特殊機の前方にミサイル攻撃。速度が弱まった特殊機に、操縦能力を駆使して、追いついていく。
「止まって、お願い。そうしてくれないと……破壊しなきゃならなくなる」
 美羽の想いに応えることなく、特殊機は上空に飛び体勢を立て直しながら、第七龍騎士団隊長が陣を築いている方へと飛んでいく。
「止まらなくてもいいよ、撃ち落とすだけさ」
 通信機からそんな声が響いた直後、同じ試作機の人型――ニコライが搭乗する機体から特殊機の噴射口に向けて、弾丸が発せられる。
「……つまらない攻撃。私もあなた達も、彼らに敵うはずはないのよ。投降しましょう、シャンバラの為に」
 ユリアナは翼を広げ、左右に飛行し直撃を避ける。
「軍事行動に於いて、勝手な判断で命令に背く者がどうなるか……分かっていますよね。ユリアナ・シャバノフ」
「銃殺刑が妥当ね」
 ザウザリアスの言葉に、ユリアナは冷静な声でそう返す。彼女の動きは止まらない。
 ザウザリアスもやむを得ず、ミサイルを撃ち込む。
 彼女が強硬手段に出たのなら……こちらに、攻撃を仕掛けてきたのなら、機体のダメージを考えていては太刀打ちできない相手だということは解っているから。
 ザウザリアスは手加減はしなかった。
「落ちろ、落ちちまえよ! 俺が落としてやるぜーっ!!」
 ニコライも同様、銃を、ミサイルを特殊機に乱射してく。
「……っ、シャンバラ側に投降の意思はないようだけど、私個人はこの機体と共に、第七龍騎士団に投降し、以後エリュシオン帝国と共に、パラミタの為に尽くすことを誓うわ!」
 攻撃が機体を掠め、爆風にも煽られながらもユリアナは龍騎士団の陣へと飛んだ。
「ならばそれを今、行動で示せ」
 イコンの飛行を抑えるほどの、強風が吹いた。
 第七龍騎士団団長、レスト・フレグアムが起こした風だ。
「……分かりました」
 ユリアナはそう言うと、上空へ飛び、機体の向きを変える。
 仲間であるはずの、試作機が向かってくる方向へと。
 そして、ミサイルを発射、両手の銃も乱射――。
「ユリアナ! 撃つってことは、シャンバラに討たれる覚悟もあるってことだな!」
「敵が一人増えただけのこと」
 ドラゴン型に乗ったシリウスサビクと共に近づき、特殊機に銃を向ける。
「美羽さん、お願いします……!」
「仲間を撃たせないっ!」
 ベアトリーチェの操縦で初撃を躱し、急接近した美羽はビームサーベルで特殊機に斬り込んだ。
 光の刃は、特殊機の銃に直撃、爆発する。
 反動で、特殊機は後方へと下がる。
「悪いけど機体だけは返してもらうわよ!」
 駆け付けた杏は特殊機のコックピットを狙う。
 特殊機は盾を取り、コックピットを庇う。
「覚悟は出来てるよな」
 シリウスもまた、上空から特殊機に照準を合わせる。
「壊すのは残念だけどね」
 サビクは手加減はせずに、銃を撃っていく。
 ユリアナは盾で杏の攻撃を受けながら、機敏な動きで、上空からの攻撃を極力躱す。
 しかし全てを躱すことはできない。サビクの攻撃で特殊機の頭部が破損する。
「ニコライ先輩、そっちから合わせなさい!」
「煩い、言われなくてもやる」
「1、2、3 シュートー!」
 杏が真正面から攻撃し、側面に回り込んだザウザリアスとニコライの機体が、杏の攻撃に合わせて、隙間からコックピットを狙って攻撃。
 弾がコックピットに当たり、機体の一部が弾け飛ぶ。
 特殊機は地上に不時着。
 それでもまだ、特殊機はミサイル攻撃を続ける。
 動く方の手にはビームサーベルが握られる。
「何度でも行くわよ。極力コックピットを狙いなさい」
 杏は仲間達に命令しながら、特殊機の機体の中心部に銃を撃っていく。
「投降するのなら、シャンバラに投降して!」
 美羽はビームサーベルで攻撃を続ける。
 斬り込んで翼を斬りおとした後、仲間の遠距離攻撃に備えて後方へ飛ぶ。
「手向けにその機体くれてやってもいいんじゃねえ?」
 言いながら、ニコライは銃を発射。
「時間をかけていると龍騎士に囲まれるわ」
 ザウザリアスもニコライと共に、容赦のない攻撃を浴びせていく。
「やめろっ!」
 そこに、ドラゴン型の試作機が一機、飛び込んでくる。
「軍としてはそれが正しいのかもしれないけど、こんなやり方じゃ、誰も守れはしない!」
 味方を阻むのは、和希だった。
「相変わらず甘い」
 ガイウスはため息をつきながらも、和希の行動を止めはしない。
『既に、コックピットにガスを流し込んである。破損により外気が流れ込んでいるせいで、パイロットの意識はまだあるようだな。処分は任せる』
 ゼスタのそんな声が、通信機から流れてくる。
「どきなさい!」
 杏は特殊機を庇う和希に銃を向けた。
「そんなやり方あるかよ!」
 和希は叫び声を上げる。
「ガスって何だよ、こんな非人道的なやり方じゃ、人の心はついて行かない! 正義はない!!」
 その声に答えるかのように、シャンバラのイコンが一機、近づいてきた。
「ユリアナ聞こえるか? 久多隆光だ!」
 教導団員の隆光のイコンだった。
 通信を試みるが、特殊機からは何の返答もない。
「俺はユリアナに友達になろうと、約束をした。悪いようにはしない」
 そう和希に通信した後、隆光は特殊機に近づいてコックピットを自らのイコンで強引にこじ開けた。
 傾いていたイコンから、ユリアナの体は地上へと落ちていく。
 急ぎ、隆光はイコンの手で彼女を受け止めた。
 途端。
 シャンバラ側は強い重力の攻撃を受ける。
 後方にいた龍騎士――第七龍騎士団、副団長のルヴィル・グリーズの魔法だ。
「回復に少し時間を要したが……手の内は見させてもらった。可変機以外は不要でしょう。団長、始末を」
 魔法で動きを制しながら、ルヴィルは大声で団長のレストに言った。
 辺りの空気に異変を感じる。
 風が強くなっていく。
 何か大きな魔法が発動されようとしてた――。