リアクション
○ ○ ○ 「ロボットか……いきなり襲って来たりしないだろうか?」 鬼院 尋人(きいん・ひろと)は、慎重に制御室に向かっていた。 自身で制御を行うためではない。 仲間達が通りやすいように、道を作っておくためだ。 しかし、機晶……特に、警備型の機晶ロボットはかなりの攻撃力を有しており、尋人一人では、倒すことは難しかった。 ただ、やり過ごすだけでは、仲間の役には立てない。 「不意を突けばなんとかなる、か……」 身を隠していた部屋から飛び出して、巡回中の警備機晶ロボットを不意打ちしようかと思ったその時。 「行かないでください」 女の子の声が響いた。 振り向くと、メイド服姿の少女がいる。すぐに、その娘も機晶ロボットだと尋人は気づく。 「どうかここにいて。あなたを逃がしたら、私、自爆させられるの」 悲しそうな顔で、少女は尋人に近づいてくる。 「だからお願い、私の傍に居てください」 手を伸ばしてきた少女を、尋人は思い切り振り払う。 「お前らなんかより黒崎の色気のほうが上なんだよ!」 つい本気で叫んでしまい、尋人は思わず真っ赤になった。 「興味はないが、もらうものは貰っていく!」 尋人は機晶ロボットを転ばせると、持ち物を探り、キーと思われるカードを手に入れる。 そして、関節部分を破壊すると、部屋から飛び出した。 周囲には誰もいない……が、監視カメラはいたるところについている。 録画された映像を見られるわけにはいかない――などと考えてる余裕もなく、警備ロボットとの戦闘が始まる。 「まともに戦ったらまずそうだよな」 柱に身を隠し、敵の攻撃が止んだ瞬間に、尋人は則天去私を放つ。 よろめいたロボットをジャンプで跳び越えて、先へと急ぐ。 最上層から目的地に向かった者の多くがリフトとその脇の階段を利用したが、国頭 武尊(くにがみ・たける)とパートナーの猫井 又吉(ねこい・またきち)だけは違った。 武尊が選んだルートは、進行方向とは逆側の階段を使った遠回りのルートだった。 狭い階段での接敵や、別の突入班のメンバーとかち合って、身動きが取れない状態になることも考えて、敢えてこちらを選んだ。 こちら側には重要な設備がない。生活スペースとして使われているようであり、監視カメラも少なく、警備ロボットも配備されていなかった。 階段を駆け下りて、制御室近くの通路に差し掛かるまで、武尊と又吉は障害に遭遇することなく順調にたどり着けていた。 「機晶ロボットか。その先にいるのは探索隊のメンバーだな!」 又吉を守りつつ先行していた武尊は、機晶ロボットと交戦する尋人を発見し、銃剣付き大型拳銃の光条兵器で加勢する。 無論、攻撃対象は機晶ロボットのみと指定。 「早川達は一緒じゃないのか!?」 言いながら尋人は武尊の攻撃により腕を破壊された機晶ロボットの武器と、両手両足部分を破壊する。 「まだ到着してないのか? 足止めされてるのかもしれないな」 言いながらも止まらず、武尊は制御室に向かって走る。 尋人も、警備ロボットからカードキーを奪った後、武尊を追った。 「止まりなさい」 近づいた途端、通路に男の声が響いた。声は通路のスピーカーから流れてきている。 「お仲間はドアの前にいます。ひどい怪我を負った状態です。少しでも衝撃を受けたのなら、死んでしまうかもしれませんね」 「う……あ、あ……っ。助けて、ください」 その声は、ルシンダ・マクニースの声だ。 「人質ってわけか」 武尊は――二重螺旋ドリルをドアに押し付ける。 「(神楽崎じゃないのなら)問題はない」 「ま、待って! これを使って」 驚いて、尋人がカードキーを又吉に渡す。 又吉はカードを通してみるが、家事ロボットの方のカードはエラーとなりドアは開かない。 警備ロボットの方のカードは通した後で、更に数字コードの入力が求められた。 数字はランダムに表示されており、サイコメトリでも情報を読み取れない。 又吉が腰道具から工具を取り出して、カバーを外し中を確認している間に、武尊は構わずドリルで穴を開け始める。 (帝国の女がなんだ。オレにとって重要なのは神楽崎の所在と安否だけだ。ここを抑えれば、神楽崎を探すことが出来る――早く、早く見つけないと) 部屋の中からは、ルシンダの悲痛な叫び声が響いてくる。 樹月 刀真(きづき・とうま)、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)、ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)、桐生 円(きりゅう・まどか)、オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)、ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)、早川 呼雪(はやかわ・こゆき)、ユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)、ヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)の9人は、ヘルの空飛ぶ魔法↑↑で飛びながら吹き抜けを下りて、制御室に向かっていた。 円は、情報の統括を行っているロザリンドとテレパシーで定期的に連絡をとって、連絡事項の確認をし、仲間に伝えている。 その他に、刀真と呼雪はアレナの傍に向ってもらったパートナーから個人的に連絡を受けていた。 『色々尋ねてみたんだが、思い出せないようだ。そっちの状況はどうだ』 刀真の携帯電話から、玉藻 前(たまもの・まえ)の声が響いてくる。 「まだ特に報告できることはありません。でも必ず近いうちに良い報告をします」 『そうか。……あと、月夜からの伝言も伝えておいたぞ』 月夜がこくりと頷く。 優子も空京も助ける、それを願うのなら私達全員で必ず叶えるよ、と。そう伝えてもらった。 (殲滅塔を思い出すね……) ヘルはちらりと呼雪を見る。 (機晶ロボットとか、ユノちゃんも複雑だろうし……) 機晶ロボットとも何度か交戦している。さほど苦戦はしなかったが……。 ヘルがユニコルノに目を向けたその時。 ユニコルノを惑わす存在が現れる。 「行かないでください」 途中、メンバー達の前に現れた機晶ロボットのうち、立ち塞がり懇願する家事ロボットが彼らにとっては一番厄介だったかもしれない。 「皆さんを通したら、私は自爆させられます。友達のアレナさんに会いたいです。殺さないでください、殺さないでください」 自分達を惑わす為に、そう言わされている。 解っていても……特に、ユニコルノにはキツイ言葉だった。 機晶姫の自分と、機晶ロボットの彼女の何が違う? アレナと友達と感じているのは、プログラム? 感情? 一緒に過ごしてきた時間は、彼女達の方が長く、アレナにとって大切なのは――。 「殺さなかったら、僕達が君達に殺されるんだよねぇ?」 だから無理と、ヘルは彼女達を払いのけた。 「ユノ、惑わされるな」 呼雪も彼女達には構わずに、ユニコルノを連れて突破をする。 更に、制御室のある階に下りた途端、スピーカーから声が降ってくる。 『人質がいることをお忘れですか? 彼女は既に満身創痍ですよ』 その声に、まず刀真が足を止める。 刀真は禁猟区をかけた金の飾り鎖をルシンダに渡している。 その鎖は彼女が連れ去られた場所に落ちてはいなかった。 だが、刀真は特に兆候を感じ取ってはいない。ルシンダが連れ去られた時も、その後も。 そのことは、仲間達にも話してある。 「ルシンダは無事か!? 彼女は関係無いだろう? さっさと解放しろ!」 スピーカーに向かて、刀真は言い放つ。 『目的を達するまで、あなた方が大人しくしていてくれるのなら、彼女を解放してもいいですよ』 「お前は何処の誰で何が目的だ? アレナにテレパシーを送ったのも手前か!」 『……それをご存じなら、目的はわかるでしょう? ああ、テレパシーを送ったのは私ではありません』 のんびりとした口調だった。 「時間稼ぎだ。行くぞ」 呼雪が刀真の腕を引く。 それ以上会話はせずに、一行は制御室へと急ぐ。 ○ ○ ○ 「や、やめて……っ!」 苦しげな悲鳴が聞こえてくる。 更に、刀真は禁猟区の兆候を感じ取っていた。 ルシンダが危険にさらされている。 彼女自身に対しては特に感情を抱いてはいないが、彼女のことは友人に護ってくれと言われている。その信頼には全力で応えるつもりだった。 且つ、囮として立ち回るつもりでもあった。 「やめろ!」 武尊がドアに大きな穴を開けた直後に、刀真、呼雪、円、ラルク達が駆け付ける。 「役には立たないとは思うけど」 尋人はカードキーを2枚、呼雪に手渡した。 「後ろは護らせてもらう。頼んだぞ」 そう言い、尋人は仲間に任せて、彼らの背後を守り、退路の確保の為に通路に残る。 「どりゃーっ!」 武尊が開けた穴にラルクが突進し、更に大きな穴を開けて中へと飛び込んだ。 彼女は……ルシンダは目隠しをされた状態で本当に血だらけになっていた。 ドアの前に居た彼女は、縛られていたロープを引っ張られ、中にいる男の元に引き寄せられた。 「ルシンダは関係ねぇだろ! さっさと離しやがれ!」 「彼女をどうするつもりだ!」 状況に軽く混乱しながらも、刀真も予定通りラルクと共に敵の注意を引き付ける。 男の他には、機晶警備ロボットが1体だけいる。 「んじゃ、弄らせてもらうぜ! この要塞を乗っ取ることが出来れば、圧倒的な力が俺の手に!!」 「モニターに神楽崎は映ってないか? どこだ!?」 又吉と武尊は状況に構わず、制御装置の方へと走った。 「……これは予想外ですね。ロイヤルガードや国軍の皆さんらしくない行動だと思いません?」 「奴らはロイヤルガードでも軍人でもねぇな。ロイヤルガードに話があんのか? 俺は西シャンバラのロイヤルガードだ」 「同じく、東のロイヤルガードだ」 ラルクと刀真の答えに、ルシンダを連れて後退しつつ男は言う。 「では、ロイヤルガードの命令で、彼らを止めてください。そして即刻この部屋から――」 突如、銃声が響き男の言葉が途切れる。 円が、物陰から男の腕を撃ったのだ。 ラルクと刀真の後ろに隠れて侵入し、彼らが注意を引いている隙に、光学迷彩で姿を見えにくくしながら、男の横に回り込んでいた。 ルシンダから注意が逸れたその瞬間に、合図を受けた月夜が強化型光条兵器のラスターハンドガンを乱射する。壁、仲間、ルシンダは撃たないと設定してある。 「くっ、全員排除してください」 男はロボットに命じて、ルシンダを捨てて、逃げる。 「……貴様らに彼女は渡さない。何も、奪わせはしない……!」 ユニコルノが制御室に飛び込み、黒曜石の覇剣を手に男に躍り掛かる。 警備機晶ロボットがユニコルノ、刀真、ラルクに向かいマシンガン型光条兵器を乱射。 「一番乱暴な子倒すねー! 機械は壊しちゃだめなんだよねー!」 ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)が部屋に飛び込んでくる。軽身功の能力で、壁を走りながら、梟雄剣ヴァルザドーンを持ち、警備ロボットに突撃。操作パネルより高い位置から薙ぐ。 警備ロボットの腕が破壊され、武器が落ちる。 しかし、警備ロボットは口を開いたかと思うと、その中にあるレーザーで、攻撃を続けていく。 「死んでもらいますよ」 男も銃を抜き、狙った先は――ルシンダだった。 「!?」 逸早く刀真が気づき、ルシンダに飛びつく。 男の放った散弾銃の弾丸は刀真の身体に降り注いだ。 「月夜! 2人を頼む!!」 ラルクは防御を捨て神速で男への元へと跳ぶ。 機晶ロボットの攻撃がラルクの身体に当たり、血しぶきが舞うが、構わず男の元へ。 「寝てろ!」 そして、鳳凰の拳で、男を弾き飛ばす。 「二度と、目を覚まさないでください……!」 ユニコルノが飛び掛かり、男の胸に剣を突き刺した。 「終わりだ」 続いて、行動予測で全体の動きを読んでいた呼雪が、機晶ロボットの横合いから躍り掛かる。 レーザー攻撃を続ける警備ロボットに至近距離から上方に銃を撃ち、頭部を破壊した。 「よし、静かになったな。やってやる。やってやるぞ!」 又吉が、テクノコンピューター、機晶技術のマニュアルを並べ、機晶技術、先端テクノロジー、R&Dの知識と技術をフルに用い、制御に挑む。 「刀真、刀真!?」 月夜は血だらけの刀真に駆け寄って呼びかけていた。 「……大丈、夫。それより、放送を……」 苦しげな息の下、刀真はそう言う。 「わかった」 月夜は操作パネルの元へと急いで、全館放送の装置を探す。 「多分、これ」 スイッチを入れた途端。 「何処だ、神楽崎。何処に居るんだ!?」 武尊がマイクに向かって声を上げる。 「エネルギー室だって。今連絡が入った」 答えたのは円だった。 「これ、かな」 月夜がモニターにエネルギー室を映し出す。 優子や剣の花嫁達は、既に救出されて介抱されていた。 「急いで神楽崎を連れて脱出してくれ!!」 武尊はマイクに向かって叫んだ。 「あーこちら制御室。制圧に成功したぜー」 横から、ラルクがマイクに向かって補足した。 「……ルシンダさん、本当に怪我してるのね」 オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)は疑問を感じながらも、ルシンダを含めて、仲間を命のうねりで治療した。 「ブライドオブドラグーンも、いつでも確保できる状態だって。怪我人を早く脱出口に連れていかないとね」 円は気を失っているルシンダを、オリヴィア、ミネルバと共に抱えて、ロザリンドの待つ突入口に急ぐことにした。 「こいつも、無理させられねぇな」 ラルクはルシンダを庇い重傷を負った刀真を担いで、突入口に向かうことにする。 |
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