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【創世の絆】冒険の依頼あります

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【創世の絆】冒険の依頼あります
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◆第二章1「輸送車を護衛せよ!」◆


 荒野を進むのは、たくさんの荷を積んだ輸送車。そしてその輸送車の先を歩くのは黒の面積が多いパンだ……いや、パンダ……でもなく、熊猫 福(くまねこ・はっぴー)。お守りを使って、進路が安全かどうかの確認をしていた。
「あえて目立つためにパワードスーツ一式にしたけど、これはこれで中々大変ね」
 ぼやきつつも、自分の役目は忘れない。
「トト。今のところ異常ないよ」

「了解。何か異変があったらすぐ知らせるように」
『もうっそれぐらい分かってるってば』
 報告を受けた大岡 永谷(おおおか・とと)が念を押すと、福はやや怒った声で答えた。それに苦笑気味に謝りつつ、永谷もまた周辺を見回した。
「このまま何事もなければいいけど、もうすぐ良く襲われるポイントだ。まだまだ気は抜けないな」
 今回永谷が受けた依頼は、輸送車の護衛。決して傍を離れず、敵の排除ではなく襲いかかってきたものの排除が主だ。
 部下たちにも輸送車から離れないように、と指示を出している。
「あともう少し進めば休憩に入る。それまで気を抜くなよ。福もね」
「はっ」
『だから! 分かってるってばっもう!』

 輸送車の護衛として名乗りを上げた者たちの1人、白波 理沙(しらなみ・りさ)は絶対にやり遂げる、と意気込んでいた。
「ラクシュミの頼みだもの。輸送車は無事に送り届けてみせるわ」
「そうですわね。今のニルヴァーナにはこの物資の輸送は死活問題でもありますし……でもイノシシはとても強いそうですし、出ないといいですわね」
「まぁ、全員無傷とはいかないでしょうが、頼まれたんだから輸送車だけは絶対に守ってみせるわ」
 理沙に同意するチェルシー・ニール(ちぇるしー・にーる)白波 舞(しらなみ・まい)。舞は得物の銃の感触を確かめ、いつでも撃てるようにしていた。
「気合いを入れるのはいいが、無理はするなよ。
 出来るだけはフォローするが、さすがにバラバラになられたらフォローが間に合わん」
 そんな彼女たちを見て苦笑いしたのは、カイル・イシュタル(かいる・いしゅたる)だ。彼もまた、剣をしっかりと握りしめていた。
「分かってるわよ。でも」
 少しむくれた理沙に、「分かってなさそうだ」とカイルは心の内で思った。
(俺にとっては、何よりもお前が大切なんだがな)

 高塚 陽介(たかつか・ようすけ)は「なぜだ」としきりに首をかしげていた。
「遺跡調査でカッコよく敵を倒す予定だったんだけど……何で、こんな所に居んの、俺?」
 そう。陽介は遺跡調査に参加するはずだった。動機を誰かが聞いたなら「駄目だ。これは重度の中二病ですね」と言ったかもしれない妄そ……内容だ。詳細はお察しください。
 だが、
「イノシシ。美味しそうですね。生きてる間に食ってみたいじゃねぇですかぁ」
「新しい妹が居ないだとっ? ならイノシシを八つ当たりで狩るッ!」
「ホントは護衛って依頼だけど、皆イノシシ狩るのが目的になってるよね。まあ、私もイノシシ鍋食べてみたいし良いか」
 とかそんなことをパートナーたち(九断 九九(くだん・くく)クレイ・ヴァーミリオン(くれい・う゛ぁーみりおん)新城 咲和(しんじょう・さわ))が言いだし、気がつけば護衛者として登録されていた。
「はぁ、もう良いや。こうなったら、この依頼でカッコよく華麗にターゲットを倒せば良い!」
 イノシシをあえてターゲットと呼ぶのは、そっちの方がかっこいいからだ。

「輸送車が毎回襲われるとは物騒にも程が御座います。
 何もでなければよいのですが、それともイノシシさんたちには出てきていただいて成敗した方が良いのでしょうか?」
 犬耳としっぽをふよふよと動かしているフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)が、隣に立つ主、ことベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)に問いかけた。
 ちなみに超感覚が常に発動しているのは襲撃に対する備え、ではなく。本人にも無自覚な緊張のせいだった。彼女自身にその理由は分かっていない。ただその緊張は、ベルクが傍にいるとなるようだった。
「まあ、話を聞く限り随分と面倒そうなモンスターらしいしな。10mとか、出来れば遭いたくねぇモンだ」
 ベルクはフレンディスの緊張にも、またその理由にも気づいていた。しかしあえて気づいていないふりをしている。
(ちっとも意識してもらえない方がキツイしな)
「我としては、是非とも相まみえてみたいものだな。レッドタイフーン……その名の通りの奴なのかどうか実に興味深い」
 楽しげな声を上げるのは、レティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)だ。銀の髪を風に遊ばせながら、レティシアはまだ見ぬ強敵との戦いを心待ちにしていた。
 そんな彼女の気持ちが通じたのか、は定かではないが。フレンディスが耳をピクっと動かした。音が聞こえた。
「地響き? これは――っ」
「ほお? 言っておる合間にきおったか」

 輸送車の後方から土煙を上げて猛スピードでやってくる大きな影。真黒なイノシシだが、その背には火炎放射器と機晶キャノンが生えている。

 レッドタイフーンだ。


* * * * * * * * * *



 まっすぐに輸送車へと向かってくる。狙いは荷物にある食料なのか、それとも別の理由があるのか分からないが。レッドタイフーンがこのままのスピードで突き進めば、輸送車など簡単に壊されてしまうのは確実だった。

「竜退治には飽き飽きしていたところだ!」

 賞金首であるレッドタイフーンを狙っていた十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)が飛び出した。真正面から受け止めることはせず、剣でレッドタイフーンの横っつらを叩いて針路をそらす。
「君には悪いけど、倒させてもらうよ」
 理沙がレッドタイフーンに謝罪しながら、宵一の攻撃で一瞬動きを止めたレッドタイフーンに攻撃を……がちゃんと背の火炎放射器が動いて理沙に向けられる。
「え?」
「理沙!」
 彼女の名を叫んだカイルが間へと身体を投げ出し――爆風がカイルの髪と服を揺らした。柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)の放ったバズーカがレッドタイフーンの攻撃を相殺したのだ。
 近くで爆撃を浴びたはずのレッドタイフーンだったが、まるでダメージはないようだった。恭也のもとへと突撃していく。
「ちっ! さすがにあれだけじゃ無理か。賞金首になるだけのことはありやがる」
 軍用バイクに乗っている恭也は、ジグザグに走りながらレッドタイフーンから目を離さない。身を乗り出しかねない彼に
「主、自重して下さい」
 サイドカーから運転の補助をしながらエグゼリカ・メレティ(えぐぜりか・めれてぃ)が声をかけ、六連ミサイルをレッドタイフーンに向けてぶっ放す。レッドタイフーンをとにかく輸送車に近付けないように動いていた。
 2人の目的は賞金首だが、かといって輸送車を傷つけるつもりもないのだ。
「何となくドラム缶を押したくなってきた!」
「その厄介な火炎放射。ふさがせてもらいますわよ」
 宵一が何かを言っていたが、ヨルディア・スカーレット(よるでぃあ・すかーれっと)は気にせず3対の氷の翼を動かす。狙いは背中の火炎放射器。パキパキと火炎放射器が凍っていく。
「……ぐぉ、おおおおおおおおおおおおおおおっ」
 しかしレッドタイフーンは火炎の熱で氷を溶かしてしまう。
「やりますわね。でもまだまだ」
 すぐさま魔力で生み出した光の刃をレッドタイフーンの足元へと突き刺し、針路を妨害する。
 レッドタイフーンの目が血走る。暴れ方が大きくなる。怒っている。
「リイム様、そちらに行きましたわよ」
「わかったのでふ!」
 誘導した方角には、リイム・クローバー(りいむ・くろーばー)が作った小さな落とし穴。もちろん、それだけで倒せる相手とは思っていない。一瞬でも動きを止めるのが狙いだ。
 そして狙い通り、一本の足を落し穴につきいれてレッドタイフーンがバランスを崩す。――今!
 蹂躙飛空艇に乗った宵一が、レッドタイフーンの背後から奇襲をかける。レッドタイフーンの目が宵一をとらえるが、そのころにはもう懐に入っていた。
(これで決める!)
「危ないでふ、リーダー!」
 リイムが叫んだ。機晶キャノンが宵一に向かって放たれる。宵一は攻撃の態勢を無理やり崩して身体をひねる。耳のすぐそばを砲弾が通り過ぎていった。間一髪……いや、まだだ。敵はまだ彼の目前にいる。
「させないでふよ!」
 宵一に追撃をかけようとしていたレッドタイフーンにリイムが爆弾を投げて阻止する。レッドタイフーンは追撃を辞めて、爆弾を避ける。
「くらいやがれ!」
 恭也が続くように攻撃するが、中々当たらない。
 爆風をその速度で次々にかわしていく。

「話に聞いていた通りの強さで安心したぞ」

 その避けた瞬間に切りかかったレティシアの刃が、レッドタイフーンの体毛を少しだけ切り取った。確実に身体に当たっていたのだが、まるで金属に当たったような感触が剣から伝わった。
「ふむ。予想よりも固いようだな。……やはり動きを止めて攻撃が最良か。モミジ、サクラ、行くぞ!」
 ニャンルーを連れて向かっていくレティシアの頭には、護衛のことがどこかへ飛んでいってしまっている。
「これは随分と大きいイノシシさんですね。
 動きも速く、攻防に優れている……それでも輸送車には指一本触れさせませぬ故、お覚悟を」
「しゃーねぇなー、とっとと片付けるぞ」
 レティシアの後を追いレッドタイフーンに向かうフレンディスベルクはやれやれとため息をついてから、魔法を唱えはじめる。まずは魔法攻撃力を高める。
 前衛で動く仲間たちのフォローをしつつ、広い視野で他の敵が来ないかどうかも警戒する。
(強いな。ここで他のやつらがきやがったら、ちとやばいか?)
 レッドタイフーンの火炎放射をブリザードで相殺し、再び呪文を唱えていく。やばかろうが、戦うしかすべはない。
「こいよ三下、返り討ちだ!」
「……主」
 味方が増えたことを確認した恭也が、敵を挑発しながらバズーカを放ち、レッドタイフーンを誘導していく。エグゼリカはそんな彼に呆れつつも、操縦補佐を。そして恭也が誘導した先で待つレティシアや宵一、理沙が攻撃をくわえていく。
「頭を狙うべきだな。モミジ、サクラ、足止めを」」
「むせる」
「輸送車は絶対守ってみせる!」
 互いに互いの呼吸を感じ取りつつ、なんとか連携しようとしていた。


「あのねぇ、いい案があるんだよ」
 と、声を上げたのは咲和だった。その時から陽介は、悪い予感を抱いていた。
「あたし考えるの嫌いですから乗るですよぅ。イノシシが食えたらそれでオッケーでぇす」
 意見を聞く前からあっさり賛同する九九。あと1人のパートナークレイは、というとさめざめと泣いている。
「妹がいないなんて……ん? 良い案がある? ここに陽介と立っとけ?」
 咲和に声をかけられて良く分からないまま、指示に従う。
「え? トマホーク投げたらいいんですかぁ? まぁ、良いですけ、ど!」
 と、九九が斧をレッドタイフーンに向けて投げる。斧は生身の部分に命中したらしく、血が噴き出た。
「ぐるるぁぁぁぁっ」
 ギロリ。
 鋭すぎる怒りの目が九九――ではなく陽介とクレイに向けられる。
「ふぇ?」
 そうしてレッドタイフーンは彼らへ突撃を開始。陽介は後ろに隠れた九九たちのためにも、避けられない! とかなんとかでその場にとどまったが、クレイはあっさり逃亡。
「なぜこっちにっ?」
 獣である修正か。下手に動いたクレイを追いかけるレッドタイフーン。あ。轢かれた。
 宙を舞うクレイ。……なぜか服が脱げて全裸になっている……良い子のみんなは真似しないように。

「ん? あれは、10代の女? ふ、ふふふ……ふははは! 新しい妹のはっけ」
「えいっ」
「ぐぼばば」

 全裸で不気味な笑い声をあげながら空を飛んでいるクレイを、咲和が遠慮なく叩き落とす。
「て、やっぱこっちにも来るか!?」
 そしてレッドタイフーンは、というと……陽介の方へと向かっていた。九九が「陽ちゃん、がんばれぇ〜」と遠くから声援を送っている。

「クレイの死(※死んでません)を無駄にしない為にも、俺は逃げない! さぁ、来い! レッドタイぶぉっ」

 陽介はその日、見事なお星様になったのであった。