リアクション
* * * * * * * * * * 「セレスティアーナ様は、最近どんなお菓子にハマっているの? 詩穂はねぇ」 そうニコヤカにセレスティアーナへ話しかけた騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は、他にもあまり堅苦しくならないような話題を選び、セレスティアーナの遠足気分を盛り上げようとしていた。 心の中に大切な人のことを思いながら笑顔をうかべて、パートナーのことを肘でつつく。 「う……セレスティアーナ、様。良かったらこのお菓子をどう……駄目じゃ、慣れんのう」 詩穂の話題に合わせようと持参したお菓子の箱を差し出した清風 青白磁(せいふう・せいびゃくじ)は、必死に敬語と優しい口調、とやらに挑戦していた。 オールバックの髪。顔に入った大きな傷。鋭い目つき。迫力のある声。 いかにも『そっちの人』だが、実は彼、子供好きの動物好き、という『人間(魔鎧)見た目じゃない』を地で行く存在だ。 「ふふ。もう少し力を抜かれてはどうですか? 青白磁様」 上品な笑い声がした。詩穂のもう1人のパートナーであるセルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)だ。少し離れた所から辺りの警戒をしていたのだが、あまりの緊張っぷりに見ていられなくなったらしい。 セレスティアーナに微笑む。 「お久しぶりです、セレスティアーナ様。今回はよろしくお願いします」 「うむ。こっちこそ頼んだ」 大仰に頷くセレスティアーナはやっぱり偉そうだが、セルフィーナは慣れているのか気にしていない。優しく微笑んでいる。 穏やかに話し合いながら進んでいたが、柱から黒い影が数体飛び出て来た。軟体アリだ。5体いる。 「あわっあわわわ」 「お下がりください!」 詩穂がセレスティシーナの前に立ちふさがり、剣で攻撃を伏せぐ。 しかしすべてを防ぐことはできず、一体の牙が詩穂の右足に突き刺さった。6本の足が絡みついて離れない。セルフィーナがすぐさま回復の術を唱え始める。 そんな詩穂の後ろではセレスティアーナがパニックに陥っていた。イコナが必死になだめようとしている。 「セレスお姉様、死にかけても大丈夫ですわ。回復はお任せですの!」 「そりゃフォローになっとらんのぅ」 冷静にツッコミを入れた青白磁だったが、その目つきは敵を目で殺そうとしているかのようだった。 「吼えよ、狼の牙!」 迫力ある低い声を上げながら、握りしめた剣を詩穂に噛みついている一体に振り降ろす。衝撃で詩穂から離れたのを見て、セルフィーナが唱えていた術で傷をいやす。あっという間に傷はふさがっていく。 青白磁はそれを見ることなく、今度は自分へと向かって飛びかかってきたアリの突撃を避け、その際に剣を振りあげて腹から両断した。そんな彼の背後から襲いかかろうとしていた一体を詩穂の剣が切りさく。 物理攻撃が効きにくい相手だが、優れた技を用いれば断ち切ることも不可能ではない。 残り3体のアリも、2人の剣技の前にその身を地面に横たえることとなった。 「あっああ、お、おおか」 のだが、問題はセレスティアーナの方だ。混乱は収まっていない。ベアトリーチェが「大丈夫ですよ」と背中を撫でている。 『セレスティアーナ、セレスティアーナ』 ふいに響いたのは甲高く、可愛らしい声。びっくりしたのか、セレスティアーナの呼吸が一瞬止まる。 声を発したのは、美羽が渡したあの【おしゃべりティーカップパンダ】。1つだけ人間の言葉を話せる彼らに、美羽とセレスティアーナの名前を覚えさせていたのだ。 『セレスティアーナ』 『美羽』 口々に繰り返すパンダは、首をかしげながらセレスティアーナを見上げる。また足元では陽一の渡したペンタがよちよち歩いて彼女の傍により、くちばしで軽くつつく。励まそうとしているようだった。 さらに陽一が優しい声でなだめるように『幸せの歌』を歌うと、セレスティアーナの呼吸が整っていった。 「べ、別に焦ってなどいないのだ」 その姿を見て、いつもの調子を取り戻したようで、薄い胸を張って歩きだした。 誰もが息をホッと吐き出し、そんな彼女についていく。 * * * * * * * * * * (やれやれ。なんとか収まったか) また賑やかに調査(?)を始めたセレスティアーナを見て肩から力を抜き、ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)は周囲を見渡す。かなり古い遺跡なのだろう。あちこちが崩れ、外を覆っていた赤い砂が中にまで侵入していた。 崩れた個所や窓枠のおかげで、内部はそう暗くない。 「さあて、調査に戻るか。 ニルヴァーナは未知の大陸だし環境も違うようだしな。現時点で処置不可能の病気がねぇかぐらいは確認しておかねぇと……ニルヴァーナの医療文明や薬学の資料になるようなのが見つかれば、文句はねぇんだが」 まだ謎だらけのニルヴァーナ。ラルクは、その文明に思いをはせる。……興味の大半が医療や薬学に向いているのは、医学生だからだろう。 「この砂、気になるんだよな」 遺跡内に入り込んでいる砂を手に取り、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)がじっと砂を観察していた。 『楽しく、かつ、有意義な探索になると良いですね』 そう薔薇の花を渡しながらセレスティアーナに挨拶した彼は、楽しいだけでは意味がない、とセレスティアーナのためにも何か実績を、と考えていた。 「ん? 砂が、どうしたんだ?」 ラルクがそんなエースに気付いて声をかける。エースは「ほら、見ててくれ」そう言って砂へ息をそっと吹きかける。ゆっくりと砂が固まっていく。 「息に含まれるわずかな水分だけで固まる。給水力や保水力が高いみたいだね。でもこうして触ると、すぐに崩れる柔らかさも持っている」 「……つまり、植物が育ちやすいってことか?」 「水が貴重な大地だからね。その可能性は十分ある」 答えつつ、エースはその砂をサンプルとして持ち帰ることにした。 そうして持ち帰った赤い砂を調べた結果、エースの予測は当たっていることが判明し、基地の畑に使用されることとなる。 さらにこの赤い砂には『ラグランツ・パウダー』という名がつけられるが、もう少しだけ未来の話。 エースの考えを聞いたラルクは「なら近くに生えてるかもな」と周辺を調べ始める。 「赤い砂赤い砂……ここに集まってるが……ん?」 部屋の隅。影になったところに砂が固まっていた。その砂の中に、奇妙な線を見つけ、手で触ってみる。 「こりゃ……草、か?」 砂まみれになった細長く、少し分厚い草があった。表面の産毛にたくさんの砂をくっつけ、自身も赤い色で身を隠していたようだ。日陰に生えていたことといい、砂をかぶっていたことといい、日の光が苦手なのかもしれない。 慎重に根っこから引き抜き。なるべく砂をかけたまま採取する。 「何か生き物が来たらまた教えてね、エレス」 リリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)は、何度目か分からない軟体生物を追い払ってから、エレス……ペガサスの鬣を撫でた。 追い払うだけにしているのは、遺跡を破壊したくない、というのと。 (野生動物みたいなものでしょ? それに軟体生物だからちょっとキモチワルイけど、向こうから見たら私達の方がきっとキモチワルイのよね) そんな思いを抱いていたからだ。 「うーん……やっぱり中々、木のような植物は見つからないわね」 見つけたら会話してみたかったのだが、そうそう上手くはいかないらしい。ため息をつくと、エレスが慰めるように鼻を押し付けてきた。 「ふふ。そうね、これぐらいで落ち込んでられないわ。ありがとう、エレス」 古びた遺跡の中、カチカチとキーボードをたたく音が響く。 「なるほど、地下、ですか」 持参したノートパソコンの画面を見ながらメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)が小さくつぶやく。 メシエのパソコンには別働隊やカメラ担当の美由子から情報が送られ、それらをまとめて隊員全員へと送る、という作業を繰り返していた。その送られてきた情報の中に地下を発見したとある。 詳しく読んでいくと、外にあった家々のほぼすべてに地下へと続く道があり、それらが複雑につながっているとのこと。 「だとすれば、ここにも地下がある可能性が」 「メシエ。何かわかったのか」 「そうだね。少し気になる情報が」 尋ねてきたエースにここが町として機能していたこと。襲撃された跡があること。地下があることを説明する。 その間もメシエの指は止まらず、情報を更新した地図を再送する。 「おそらくここは町の市役所のような場所なのだろうけど、かなり上にも続いていることや襲撃の跡からするに、見張りの役割もあったのかもね」 次々と語るメシエにエースは「さすが」と感心の声を上げる。さらに質問を重ねようとして 「ぃやっほー!」 楽しそうな声に額を押さえた。そして声の主を呼ぶ。 「クマラ……お前、アトラクションか何かと勘違いしてないか?」 なぜか持っていたロープを使ってターザンの真似ごとをしているクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)に、エースが脱力する。 しかし当の本人は 「だってほら。生真面目に調べると見過ごしちゃう事って多いよネ。だからオイラは面白視線で遺跡にチャレンジだよっ」 と、堂々としたものだ。 「あ。そだそだ。皆で記念撮影、する?」 「だから遊びに来たわけじゃ」 「おおっ撮るぞ!」 カメラを取り出したクマラにエースが口を開くも、セレスティアーナが同意してしまえばどうしようもなかった。 結局、全員で記念撮影することになったのだった。 (まあしょうがないか。とにかく後でレポートにでもまとめよう。セレスティアーナ様は、しなさそうだし) 自分がしっかりしなくては、と決意を固めるエース……ご苦労さまです。 |
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