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【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~1946年~

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【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~1946年~

リアクション

 肥満は次に、白衣を着てその袖を腕まくりした青年を見た。
「待たせたな。あんたの話を聞こう』
 青年……? 女のような外見である。だが性別を訊く気はなかったし、仮に女性であっても肥満は差別する気はなかった。こんな時代だ。男女問わず、自分の腕で生きようとする人間に彼は敬意を抱いている。
「燕馬という」
 新風燕馬は、肥満の目線に臆さず言葉を紡いだ。
「詳しい経歴はわけあって言えない。ある地域で下された命令を拒否し、軍から逃げたもぐりの闇医者だ」
「ツバメちゃん、本当にいい人なんですぅ。フィーア、ツバメちゃんがいなければ今頃……今頃……」
 フィーアはここまで言ってよよと泣き崩れた。あまりに不明点の多すぎる燕馬の話をこれでフォローするつもりなのだ。
「だから警察やGHQの関係者……には……」
「ワケありってやつだな。ちょっと前の話じゃ、脱走兵は銃殺モンだったがよ、晴れて今は終戦後だ。そんなに気にするこたぁねえぜ」
 しかし訊かれたくないことは訊かねえよ、と肥満は鷹揚なところを見せるのである。
「さすがひーマン! 男前!」
「ひーマン?」
「肥満さんだから『ひーマン』」
「なんだか野菜みてえな名前だなあ。まあ健康には良さそうだけどよ」
 肥満は笑って、その嬢ちゃん孤児なら、あとでうちのチビどもに紹介するぜ、と言って彼らの加入を認めた。
「医者、ってことは、怪我の治療なんか頼めるわけだろう? 俺たちこういう集まりだから、どうも生傷が絶えなくてな」
「ああ。軍からくすねてきた薬品や器具ならある。使わせてもらう」

 眼鏡をかけた青年が、ゆっくりと進み出た。
「俺の番かな?」
「ああ」
 石原は彼――御凪 真人(みなぎ・まこと)の姿を上から下までしっかりと確認した。
「俺は基本、来る者拒まずだ。だがあんた、愚連隊やるにはなんだか育ちが良さそうだな。燕馬みたいにワケあり、ってんならわかるけどよ」
「そうですか?」
 こう見えて、わりと無茶やってきたんですよと真人は言った。
 燕馬も、もちろん祥子もわかってはいるが、あえて何も言わない。
 真人の言う『無茶』というのは、契約者としての冒険のことだろう。死線を越えてきたのは一度や二度ではあるまい。今回ももちろんそうだが、世界の運命に携わってきたことだって数限りないに違いない。
 けれどそれを、『いかにも苦労しました』と表にしないところが真人にはあった。もしかしたら先天的に、彼は危険も困難も楽しめてしまう性分なのかもしれない。
 どんな『無茶』やってきたんだ? と、訊かれたときのことを考えて、真人は記憶の糸をたぐった。蛮族の野盗団と死闘を演じた、というのは説得力に欠けるだろうし、金の道を防衛するため尽力しアムリアナ聖廟の秘密を知ったというのも、前提条件から話す必要があるから厄介だ。航空部隊指揮官で……などという話もしないほうがいいと思った。
 ところが、
「そうか、過去のことは訊かねえよ」
 まるで問わず、肥満は言ったのである。
「あんたは何が得意だい?」
 ああ、それなら……と、真人は眼鏡の弦を直した。
「腕っ節はないですけど、頭の回転は自信がありますよ」
 意識したわけではないが、このとき真人はすっと眼を細めていた。瞬時、怜悧な光が走っている。その光を肥満は避けず、まっすぐに受け取った。そして、
「そりゃ助かる。俺は学問がねぇからなあ」
 と、完爾としたのである。

 次に姿を見せたのは、きわめて奇妙な扮装の人物だった。
「うむ、君が石原肥満か。私は蒼空がくえ……いや……ええとだな。……チンドン屋のハーティオンという者だ。信じてもらえないかもしれないが、私は君の荒唐無稽と言われた夢に助けられ、恩義を感じている。もしも、君の邪魔にならず、許されるのであれば、君を守る為に私の力を使わせてもらいたい」