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【蒼フロ3周年記念】パートナーとの出会いと別れ

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【蒼フロ3周年記念】パートナーとの出会いと別れ
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リアクション

 
 
 
 ■ 勘違いと成り行きと、そしてたぶんパパさんの血と ■
 
 
 
 
 ゲームセンターのドアを開けるとそこは……。
「なんだこの雨、冗談やないで」
 夜が白く見えるほどの雨に、さっきまでの大勝利の余韻も吹っ飛び、七枷 陣(ななかせ・じん)はげんなりした。
 防音ドアとゲームの音で気付かなかったが、いつの間にか外は大雨になっていたらしい。
「オレ、傘持ってきてねーぞ」
「俺、持ってきてるもんねー」
 友達が見せびらかすように傘立てから取った傘を振った。
「随分用意周到やなあ」
「夜は雨だから傘持ってけ、ってお袋がうるさくてさ」
 いちいち反論するのもだるいから持ってきたのだと、友達は傘を広げた。
「んじゃーな」
「って傘に入れてくれるんじゃねーのかよ」
「男と相合い傘なんてヤだね。陣が超絶カワイイ魔法少女にでも変身したら、家まで傘に入れてお持ち帰りしてやるよ」
 永久コンボに嵌められた恨みだと笑って、友達は1人で悠々と傘をさして帰ってゆく。
「俺は濡れるの覚悟で走ってくわ」
「この傘ずっとここにあるじゃん。おれはこれ借りよーっと」
 次々と友達は帰っていってしまう。
「……コンビニで傘買うかー」
 すぐ近くにコンビニエンスストアがあったことを思い出し、陣はそこまで雨を蹴立てて走っていった。
 
 
「ありがとうございましたー」
 間延びした声に送られて、ビニール傘を片手に陣はコンビニエンスストアを出た。
 と、その向かいのショーウィンドウの前で体育座りをしている銀髪の女の子が目に留まる。
 白いドレスのようなものを来ているのに、地べたに直座り。当然びしょ濡れだ。
(外人さんか?)
 その前を通行人が横切って行く。が、誰もその子に目をやらない。
 関わり合いになりたくないからか、と思って周囲を見渡した陣は、あれと首を傾げた。
 東京は基本他人に無関心な人が多いが、それにしても一瞥ぐらいはするだろう。
 OLの二人連れがショーウィンドウの中にあるバッグを指さして何か喋っている。その足下に女の子が座っているというのに……。
(まさか……見えてない?)
 目を凝らしてみると、女の子はうっすらと透けているようにも見える。
 関わるべきじゃないと思うのに、いたたまれなくなって陣はその子に近づき傘を寄せた。
 
「あ〜……わ、わらゆーどぅいんぐ?」
 
 完璧なるひらがな英語で陣が話しかけると、その子と視線がガッチリ合った。
 大きく見開かれた青い瞳が陣をガン見する。と、何だかさっきまで透けていた女の子の身体が濃く……普通の人の身体のようにはっきりとしてきた。
(やっぱ陣、あなた疲れてるのよ、なんやろか)
 画面を見過ぎて疲れ目かすみ目になっていただけなのかも知れない。ま、人が透けるだなんて怪奇現象よりはそっちのほうが納得できる……なんて陣が考えていた時。
「ふぇ、っ……」
 女の子の目に涙が湧き上がってきた。そして……。
「ふわあぁぁん!」
「やりよった! この娘泣きよった!」
 さっきまで完全無視だった通行人達が、突然こちらに目を向けてくる。それも概ね陣に対する非難の目を。
 オレが泣かしたんちゃうで、と反論したくとも、そんなことをしたら火に油を注ぐだけに決まってる。
(このままじゃ警察にタイーホされる……ここは逃げる一択やろjk)
「さいならー」
 陣はくるっと身を返して走り出した。が、
「ま、待ってよぉー!」
 女の子は必死に追いかけてくる。
「誰が待つかボケー! てか日本語喋れるのかよ!」
 陣は後ろも振り返らず、一目散に逃げ出した。
 
 のだけれど。
 家に帰ってふぅと汗を拭い、何気なく振り返ると。
「げえぇぇぇぇー!」
 半透明な金色の6枚羽で飛んでいる女の子がいた。
「お願い、ボクと契約して……」
「オレは魔法少女になんかならへんでー」
「ボク……契約者を見付けて一緒にパラミタへ戻らないと……処分されちゃうんだ……だから、どうかお願いします」
 悲壮な顔で頭を深々と下げる女の子を持て余し、陣は母の七枷 七海に相談することにした。
 
 家まで着いてきてしまっては仕方がないと、陣はその女の子を家に入れた。
「かーさん、ちょっと相談があるんやけど」
 この子、と女の子を前に出すと、七海はまあと目を見開いた。
「うちの息子もとうとう、満を持してパパさんの血が目覚めたんやねぇ……こんなちっちゃい娘をお持ち帰りしてくるとはなぁ」
 そう言う七海も、ぱっと見には10歳にしか見えない。これこそが『パパさんの血』である。
「ちゃうってー!」
 全力で否定すると、陣はこれまでのことを七海に説明した。
「まあえらく子細在りげやねぇ。ええっと……陣、この子なんて名前?」
「知らねーよ」
「すぐに名乗らなくてごめんなさい。ボク、リーズって言います」
 陣にかわって名前を言うと、リーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)はまたぐすっと泣き出した。
 
 リーズが泣きながら語った話によると、彼女は48時間×4回のチャンスで契約者を見付けないと、パラミタに強制送還された上、見込み無しの烙印を押されて『処分』されてしまうのだという。
 1回から3回までのチャンスは全部空振りで、リーズにとって今回が最後のチャンス。必死に呼びかけ続けたけれど、リーズが見える人は誰も現れなかった。
 夜になって雨が降ってきて、疲れ切ったリーズはもうダメだと塞ぎ込んで、道の隅にへたりこんでいた。そこに陣が通りかかり、リーズに声をかけてくれたのだと言う。
 
「んー……リーちゃんもえらい苦労したんやねぇ……時間も無いんやし、陣、アンタ一緒に行ったりーな」
「そやなぁ……」
「どうせ推薦取った専門学校かて、適当に決めよったんやし。うち的には陣がパラミタ行ってくれたら、申請すれば開拓支援金貰えるようになるし。進学が就職になるようなもんやん? 仕送りが来る思えば、左うちわでうはうはやんか〜♪」
「かーさん、息子を売ろうとしとらへんか?」
 ツッコミは入れたものの、陣としても事情を聞いては無碍にも出来ない。成り行きではあったけれど、陣はリーズと共にパラミタに行くことを了承したのだった。
 
 
 その夜、リーズは陣の家に泊まった。
 不安と怯えで暗くなっていたリーズも、七海が一緒に寝て慰めてくれたことによって、徐々に生来の無邪気さを取り戻していった。
「リーちゃん、親ばかやけど、陣は何だかんだ言って優しい子やから、ちゃんとやってくれる思うで。だからもう、なーんも心配せんでええよ」
「うん、もう安心だね」
 七海にそう言われると、本当に大丈夫だと思える。リーズは甘えて七海に身体をすり寄せた。
「……なんか、七海さんって不思議。ボクと同じくらいちっこいのにお母さんみたい」
「そりゃ〜こんななりやけど、一児の母なんやで? ママって呼んでもえぇんよ?」
 ドヤ顔で七海が言うと、リーズは素直に頷いた。
「じゃあ、七海ママって呼ぶね!」
「う、うんえぇよ〜」
 半分冗談だったのだけど……まあいいかと、七海は小さく笑った。
「じゃ、安心して今日は寝とき〜な、リーちゃん」
「おやすみなさい、七海ママ」
 リーズは久しぶりに、心から安心しきって眠ったのだった。
 
 
 
 その後、ウィザード系の適正が高いと判明した陣は、所属校を選ぶこととなった。
「マリ見てやアッーとか論外やから……」
 即座に六校のうちから百合園女学院、薔薇の学舎を除外し、残りの学校からネット環境が整っていそうで、かつ馴染みやすそうな蒼空学園を選んだ。
 リーズを収容していた施設にも、処分云々の件で文句を言いに行ったのだけれど、この『処分』というのが生死的なものではなく、左遷的なものだと知って拍子抜けした。
「でっでも、教官に処分するって高圧的に言われたからてっきり……」
「契約者となれる素質が無いようでしたら、その部門に置いておくことに利はありませんから。配置転換等の処分も考えねばならないでしょう」
「あ、ですよねー、態態鍛え上げたのに契約相手が見つからなかったというだけで処刑とか、無駄過ぎますもんねー」
 施設の職員に同意しながら、陣はじろりとリーズを睨む。
「……おい、オレんちで言ってたことと随分ちげーじゃねーか」
「ボ、ボクの勘違いだった……みたい? に、にはは……」
 笑ってごまかそうとするリーズのもみあげを陣はぐいっと引っ張った。
「何なの? 詐欺なの? なぁコラ?」
「にゃ〜! 痛いよ〜! 髪引っ張んないでよぉ〜!」
 リーズは陣の引っ張り攻撃から逃れようと、じたばたもがいた。
 
 
 
 それはかなり成り行きで。
 だけど幼い頃夢見たファンタジー世界に、陣を立たせてくれるものでもあり。
 ともあれ。
 このちみっこいパートナーと共に陣の新生活は始まったのだった――。