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第30章 訓練の後に

 空京にある訓練場の一角を借りて、九条 風天(くじょう・ふうてん)は、フリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)を誘い、武術訓練を行っていた。
 フリューネはペガサスを駆った空中戦は得意としているが、陸戦では後れを取ることもあった。
 対して、風天は白兵戦を得意としているが、獲物が刀であるため、フリューネのような長柄武器の使い手とは、相性が良くなかった。
 そんな互いとの訓練で、互いの弱点を強化する意味でも、得られるものがあるだろうと風天はフリューネを誘ったのだった。
 ただ、彼女を今日誘ったのには、他にも理由がある――。

 訓練を終えて、シャワーを浴びた後で、2人は訓練場から駅へと一緒に向かった。
 バレンタインフェスティバルで賑わう商店街を抜けた後、夕日に染まっていく街中で。
 ふと、風天は立ち止まる。
「どうかした?」
 振り返ったフリューネの黒い髪は、まだ少し濡れていた。
 夕日を浴びて、オレンジ色の小さな光を纏う彼女の髪と、整った顔を見ながら風天は真剣な目で、フリューネに語りかけていく。
「……フリューネさん。ボクはあまり上手い台詞等言えないので、単刀直入に言います。……貴女の事が好きです」
 突然の告白に、フリューネは驚きの表情を浮かべる。
「ええと、その」
 風天も少し動揺をしながらも、拳に力を込めて言葉を続けていく、
「ボクが好みのタイプで無かったり、対象として見れなければ遠慮なく、言って下さい」
 赤い光を浴びながら、風天は真剣に想いを伝える。
「それなら『戦友』と割り切れます。不要と言われるまで、傍で戦う事も変わりません」
 戸惑いを見せる彼女に、少しだけ表情を崩してフリューネに切なげな眼を向けた。
「でも、もし良ければ人より数歩近く、貴方の傍に居させてもらえれば嬉しいです」
 風天は彼女と共に、戦ってきた。
 エネフに乗せてもらったこともあった。
 その時にはまだ風天自身も気付いてはいなかったのだけれど。
 その後も行動を共にし、贈り物を渡したその時に。
 彼女への淡い想いに気付いた。
 そして今では本当に、彼女を大切に想っている。好いている。
「ありが、とう」
 まだ戸惑いの消えない顔で、フリューネが話し始める。
「私も、今の気持ちを、飾らずに言うわね。風天のことは戦友として好きよ。だから、これからも共に戦う事が出来たら、とても嬉しいわ。ただ、もしキミの言葉が……」
 フリューネは少し赤くなりながら、目を逸らして言葉を続けていく。
「それ以上の関係を、求めての、なら。……同じことを言ってくれる人が、最近立て続けで何人もいて……。全員の気持ちに応えることは出来ないわ。私1人にだけ好きと言ってくれる人、ただ1人だけと……付き合うとかは、考えたいと思う」
「そうですか」
 彼女を想う人は、他にも沢山いるようだ。
 その中で、一番自分は彼女に相応しいだろうか。
 一番、愛しているだろうか。
 幸せに出来るだろうか。
 そんなことを考えながら、風天は再び、フリューネと肩を並べて歩き出す。
「買い忘れたものがありますので……」
「有意義な時間をありがとう」
「ええ、また明日」
 駅まで送った後、風天はフリューネと別れた。
 本当は買い忘れなどなかったけれど――夜風にあたりながら、自分の想いと向き合いたかった。