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目からビーム出そうぜ! ビームだよビーム!

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目からビーム出そうぜ! ビームだよビーム!
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第7章


 ――ブツン。
 部屋の電源が全て、何かの音を立てて消えた。
「――」
 テレビの前に座っていた男は、そのまま呆然と暗闇の中でTVを見つけ続けた。

 郊外であったためパラミタ電気クラゲの襲撃を免れていたのだろうその部屋は、しかし今、中心街の電気をほとんど食い尽くした電気クラゲの脅威にさらされ、男の自室も停電の憂き目を見たというわけである。
 TVモニターが沈黙して静かになると、外からの怒号や喧騒が聞こえてくる。どうやら、ただの停電ではなかったようだ。
 男は暗闇の中で自らの装備一式を取り揃え、それをゆっくりと装着する。
 そして、それまでの静かさとは裏腹に、ツァンダ中に響き渡ろうかという気合の声で叫びつつも、猛スピードで飛び出して行くのだった。


 彼の名は、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)――またの名を、蒼空の騎士『パラミティール・ネクサー』。


「うううおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」


 よもや彼の怒りの元が、長年探し求めたヒーローアニメのDVD鑑賞を邪魔されたからだとは、誰も知るまい。


                    ☆


 一方、ツァンダの街の中心部では、クド・ストレイフ(くど・すとれいふ)がビームを乱射しながら駆け抜けていた。

「あ、クドに……」
 カメリアは、その様子を見かけて声を掛けようと思ったが、やはりやめて物陰に隠れた。

「ん、どうしたのじゃ?」
 と、それに同行していた天津 麻羅が声をかけるが、カメリアは物陰から口に指をあてて、黙るように指示する。
 だが、時すでに遅い。クドのほうから麻羅とカメリアに気付き、ほがらかな笑顔を浮かべながらこちらに向かってくるではないか。
「やぁ、カメリアに麻羅さんじゃないですかぃ、お兄さん、急な停電でびっくりしちまったよぉ」


 そう、ピンクの花柄パンツ一丁という変態紳士の正装で。


「何でパンツ一枚なのか説明――いや聞きたくもないわっ!!」
 と、カメリアと麻羅のツープラトンドロップキックがクドの胴体に炸裂した。
「おふあっ!?」
 でーんでーんと転がるクド。
「……いくらなんでも、その格好はどうかと思いますよ」
 と、音井 博季も呆れ顔を浮かべた。
「ツァンダは比較的治安のいい街だと思っていたんですが、まだまだそうでもないようですねぇ」
 風森 望もため息をつく。その傍らでは、ノート・シュヴェルトライテが顔を赤らめて激昂していた。
「な……何と言う破廉恥な!」
 
「いやあね……何か急な停電でしょぉ?
 まあ状況見れば自ずと理解できるっていうかさあぁ……、クラゲ倒すのには情熱クリスタルが必要ってカメリアからメールももらったわけだし。
 そんでみんなにクリスタルを配ってたんですけどねぇ、どうしてか受け取ってもらえないんですよ」
 かろうじて説明を続けるクド。その後頭部をぐりぐりと踏みつけながら、カメリアは嘆いた。

「そりゃ、この暗闇の中でピンクの花柄パンツしか身に着けていない男からまともな話が聞けると思う奴がいたら、そやつのほうがおかしいわい」

「……なるほど」
 と、クドは納得した。立ち上がったクドは、とりあえずカメリアと麻羅に説明を続ける。
「まあ、そんなわけで。それでもかろうじて皆に説明と根回しをして回っていたんですよ。お兄さん街を周って観察していたんですけどねぇ、どうも様子がおかしいんでさぁ」
 その言葉に、麻羅を眉ぴくりと動かした。
「――ほぅ、おかしいとな?」
 クドもまた、倒しても倒しても数が減ったように見えないパラミタ電気クラゲに違和感を覚えていたのだ。
「まあそれで――可能な限り本陣にあつまった方がいいんじゃないかと思いましてねぇ、ちょっと根回しをね」
 まあ、要するにカメリアを呼びに来た、というわけだろう。
「分かった分かった、じゃあとりあえず移動して……え?」
 カメリアは急な眩暈に視界が歪み、バランスを崩した。
「おっと、どうしたのじゃ? 酒も飲んでおらんのに」
 と、麻羅がそのカメリアを支えるが、その麻羅もまた激しい眩暈を感じてよろめく。
「――どうしたんですかい、二人とも――?」
 そう言うクドも同様だった。
 なぜか分からないが、周囲の人間も一斉にその場にうずくまるように倒れていく。

「な……何が起こってるんですか?」
 苦しそうに、クドはうめいた。
 まだ、そこまで疲弊するほどビームを撃った覚えもない。


 見上げると、いつの間にかパラミタ電気クラゲが集まった雲は一層厚く、わずかな燐光を発しているように見えた。


                    ☆


 そんな折、師王 アスカ(しおう・あすか)はツァンダの街にあるアトリエのひとつで、相変わらず絵を描いていた。
 が、今は目下のところ大停電中。絵など描けるわけもない。
「うーん、どうにも最近スランプねぇ」
 せっかく少しアイディアの神が降りてきそうだったのに、とアスカは呟く。
 そのアスカに、パートナーの花妖精であるラルム・リースフラワー(らるむ・りーすふらわー)は尋ねた。

「……アスカ、だいじょうぶ……?」

 心配そうな顔をするラルムに、アスカは笑って見せた。置いてあったランプを探して火をつけ、周囲の様子を探る。
「やだ、大丈夫よぉ。スランプの時はね、焦ってもしかたないものなの。ちょうど停電なんていう面白事件も起こったことだし、ちょっと外に出てみましょうねぇ〜」
 小さなラルムをちょこんと頭の上に乗せて、アスカは外に出た。
「わぁ……!!」

 暗闇に包まれた街を、多数のビームが飛び交っている。いつの間にかアトリエの周囲にも情熱クリスタルが生え、幻想的な輝きを見せていた。
 そして、上空には燐光を発する多数のパラミタ電気クラゲの姿。
「あ……メール、来てたんだ」
 いつの間にかカメリアからアスカへとメールが来ていたのだろう、停電の原因と電気クラゲの詳細、そして情熱クリスタルの使用方法が書かれている。

「なるほど……あのクラゲが原因なのか……」
 呟くアスカの頭上で、ラルムは空一面を覆うほどに巨大なクラゲ雲を見上げた。

「……いぢめる?」
 臆病なラルムは、その光景が少し怖いのだろうか、アスカの頭にしっかりとしがみついて首をかしげる。
 アスカはそれを笑い飛ばすように、ラルムの脇の下を後ろから持って、情熱クリスタルのほうへと差し出してあげた。
「大丈夫よぉ、この街はこんな事件程度でどうにかなるところじゃないのよぉ〜。しかもこのクリスタルを使えば美0無出せるらしいわよぉ〜、ビームよビーム!!」
 促されるまま、ラルムは情熱クリスタルのとぽきんと折って両手に一本ずつ持ち、前方にささげた。

「情熱……ビーム……? おなかすいた……。お、おなかすいたビィィィムっ!!!」
 ラルムの両手から赤いビームが発射され、アトリエの上空に迫っていたクラゲにヒットした。
「おお、これはすごい……よしラルム、どんどんいってみよっか〜!!」
 調子に乗って次々にビームを撃っていくラルムとアスカ。

「……そういえばアスカ……後でルーツが来るって言ってたけど……来ないね」
 思い出したようにラルムが呟く。言われてみればパートナーであるルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)が何か差し入れを持ってきてくれることになっていたはずだが、まだその姿はない。
 時間としてはすでに夜10時を回っている時間。何の連絡もないのは少しおかしい。

「ああ……最近ちょっと様子がおかしいものねぇルーツ。
 料理をやたら焦がしたり、勢い良く壁に激突したり……何かぼーっとして、ため息も多いものねぇ?
 ……まいっか、ラルム砲発射―――!!!」


「えーーー、いいのー?」


 驚きの声を上げつつもビームを発射するラルム。アスカはというと、今はビームに夢中なんですといわんばかりの表情で、ラルムに応えた。


「あー、いいのよぉ、ルーツだって立派な大人なんだから。
 ……まぁ、そろそろ時期的に吸血衝動が来るころだけど。吸血鬼のくせに吸血するの嫌いなのよねぇ……無意識で誰か襲ってなければいいけど」


                    ☆


「……何だ、これは」
 そのルーツ・アトマイスは呟いた。

 アスカの言うとおり、時期的なものによる吸血衝動にかられたルーツは無意識的に街をさまよい、アスカのアトリエに向かう目的も忘れてしまっていた。
 すでに半分意識もない状態で、ルーツが我に返ったのは、誰かが自分の名を呼んだから――であろう。

 ルーツの名を呼んだのは、四葉 恋歌。
 遠野 歌菜やリュース・ティアーレ、ネージュ・フロゥとコトノハ・リナファやそのパートナーたちと一緒にビームを撃ちながら街を周っていた恋歌であったが、どうも停電という不慣れな状況下で、皆とはぐれてしまったらしい。

 一人、心細くさ迷う恋歌だったが、たまたま知り合いであるルーツを見かけ、話かけたところ――。

「……」


 突然押し倒されて現在に至る、というわけだ。


「す、すすすすまんっ!!!」
 ようやう自分が恋歌を押し倒していることに気付き、ルーツは恋歌の上から飛びのいた。
 そのまま後方へと滑るように土下座に近い格好で頭を下げ、ルーツは謝罪する。
「少し意識が朦朧としていて……たぶん我に血が不足しているのが原因で……ところで、恋歌はこんな時間になにをして……あれ、何だかまた意識は遠く……?」

 頭を下げながら事情を説明するルーツ、しかしその意識はまた混濁を始め、次第に視界が闇に閉ざされていく。

「……ルーツさん?」

 恋歌は怪訝そうな声をかけるが、ルーツにはもう聞こえていない。
 そのまま前のめりに倒れ、意識を手放すルーツであった。


「ルーツさん、ルーツさん!?」


                              ☆