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目からビーム出そうぜ! ビームだよビーム!

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目からビーム出そうぜ! ビームだよビーム!
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第4章


「波動砲、発射!!!」
 凛とした声が響き、クロス・クロノス(くろす・くろのす)の口から激しい閃光がほとばしった。
 強い威力を秘めたその波動砲ビームは、飛来するパラミタ電気クラゲを一撃で粉砕する。
 だが、強力すぎるゆえに反動が激しく、連発はできない。そのサポートにあたっているのがツァンダ付近の山奥に住む狐の獣人、カガミであった。
 ツァンダの地祇の一人、カメリアと共に今日もツァンダを訪れていたカガミは、カメリアと共に情熱クリスタルを配りながら、ビームを撃ってクラゲを撃退するコントラクターたちの手伝いをしていたのである。
「よっと、大丈夫ですか?」
 大きな反動によろけたクロスの肩をカガミが支えた。
「ええ、大丈夫です。……それより」

「ああ、はいどうぞ」
 カガミは人間の姿をしたまま、狐の尻尾だけ出してクロスに差し出した。
 クロスは毛の長い動物を触ったり撫でたりするのが好きだ。先日も狐の姿になったカガミを心ゆくまでもふもふしてからというもの、ぜひまた触りたいと思っていたのだ。
 今日はカガミに稲荷寿司と油揚げの差し入れをしにツァンダを訪れていたクロス、情熱クリスタルでビームを打つたびに、カガミの尻尾でもふもふ分を補充している、というわけだ。

「さあ、次いきますよ、波動砲――発射ーッ!!!」
 再びクロスの口から、黄色い強力な波動砲が発射され、クラゲを次々と仕留めていく。
「クロスさんのビームは意外と凄いですねぇ…外見からは分からない情熱というものを、秘めているのでしょうか……?」
 ポツリとつぶやくカガミだが、クロスは波動砲の反動でカガミの尻尾にもふもふしていて聞こえていない。
「ああ……この感触……もふもふは癒されます……」

 そういえばカメリア様は大丈夫だろうか、とカガミは夜空を見上げるのだった。


                    ☆


「ほれ、さっさとクリスタルを配るのを終わらせんか、わしも手伝っておるのじゃから」
 と、天津 麻羅(あまつ・まら)はカメリアに言った。『情熱クリスタル』を配るカメリアを手伝いに来た麻羅おかげで、クリスタル配りはスムーズに進行し、二人はすでに相当な数のクリスタルを配り終えていた。
 ツァンダの街の上空にはまだ無数のパラミタ電気クラゲが浮遊しているものの、それを迎え撃つ街からのビームの数は次第に増え続け、徐々に空を照らしていく。

「――そうじゃな、もうそろそろいいじゃろう」
 と、カメリアは一息ついて麻羅と緋雨に告げた。
「ほう、そうか。ならば紅椿――お主もビームを撃ってみるがいいぞ」
 カメリアと幾多の事件を駆け抜けてきた親友、麻羅はカメリアを紅椿と呼ぶ。その麻羅はカメリアにクリスタルを一本放り投げ、自分は日本酒の入った徳利をお猪口に傾けて、悠然と飲み始める。
「……む、儂もか?」
 カメリアとしては、説明のためにビームを撃つことはあっても、そこまで積極的にビームを撃って回るつもりはなかった。
 そこまで派手に情熱を燃やすタイプでもないし、それに何だかちょっと恥ずかしいし。

 だが、麻羅はちびちびと酒に口をつけながら、カメリアを促した。
「まあ、いいではないか。たまには儂も若い者の活躍をこの目で見たいものじゃ。おぬしの熱とやら、このわしにも見せてみぃ」
 ツァンダの地祇としてすでに1000年の時を生きてきたカメリアだが、麻羅はすでのその数倍の時を越えてきた英霊である。
 その麻羅の言葉ともなると、カメリアとしても断り辛い。しかたくクリスタルを握りしめ、おずおずと叫ぶ。

「うーむ、なんかそう凝視されていると屋やり辛いのぅ……め、目からビィーム……」
 やはり気合が足りないと撃てるビームもたかが知れているのだろうか、カメリアの目からちょろっとしたビームが出て、空中に消える。
「はっはっは、何じゃ、おぬしの熱とやらもそんなものか」
 高笑いをする麻羅に、カメリアはちょっとむくれて見せた。
 そして、その様子を眺めてによによしているのが、麻羅のパートナーの水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)であった。

「……緋雨、何をにやにやしておる」
 カメリアは呟くが、緋雨は気にした様子もなく、カメリアと麻羅の様子を眺めて悦に入っている。
「いやあ、だって二人とも可愛いんだもの〜、恥ずかしがるカメリアさんも可愛いしぃ〜」
「いやそう言っても、見られておるとなかなかやりづらいというか……」
「まあまあ、そう言わずにぃ〜、あ、そうだ。可愛いと言えばこの間ようやく麻羅のイコンが完成したのよ、見て見て!!」
 その緋雨の言葉に、麻羅はぎょっとした表情を浮かべる。その顔を見たカメリアはきっと麻羅はそれを見られたくはないのだと悟り、緋雨に言った。
「おお、麻羅のイコンとな、それは見たいのぅ」
「まかせて!! 来い、あめのまひとつのかみろぼーーーっ!!!」
「ひ、緋雨きさま!! あんな恥ずかしいものを呼ぶでないっ!!」
 緋雨がパチンと勢いよく指を鳴らすと、はるか空から麻羅のイコン『天目一箇神機』が――。


 来なかった。


「……あれ、どうして来ないのかしら?」
 とぼける緋雨に、麻羅はやれやれと腰を下ろす。
 その様子を見たカメリアは、にひひひと麻羅に笑顔を向けるのだった。
「ほう……よほど恥ずかしいものと見えるのぅ、それならばまた今度、ゆっくり見させてもらおうか、のぅ麻羅よ?」


 ふん、と鼻を鳴らして一気に猪口を空にする麻羅だった。


 そんなこんなで、街を眺めながらも上空にビームを撃つカメリアと、それを眺めながら一杯引っ掛ける麻羅。
 カメリアがふと視線を下ろすと、そこに見慣れない着物姿の女性がいた。
 風森 望(かぜもり・のぞみ)であった。そして、その傍のはパートナーのノート・シュヴェルトライテ(のーと・しゅう゛るとらいて)の姿がある。

「貴女がカメリアさんですか? あ、失礼。私は風森 望と申します。なんとかいうクリスタルを配っていると聞いたのですが?」
 望が声をかけると、カメリアはそれに応じて降りてきた。
「――おぅ、そうじゃ。誰zに聞いてきたのか? これが『情熱クリスタル』じゃ、撃ちすぎに注意して――」
 一通りの説明を始めるカメリアを、望はじっくりと眺めていた。
 自らも着物を常用している望は、実は一見大人びている清楚な大和撫子であるが、中身はなかなかの腹黒さである。
 さらに可愛い子と見れば男女関係なくとりあえずハグっておくという困った癖もある。
 そんな望にとって、カメリアは可愛さストライクの愛玩対象でしかなかった。

 白地に紅椿の柄の着物も、足元まで延びた艶やかな黒髪も、気の強そうなツリ目も、全てが可愛く見えて仕方ないのだ。

「……望じゃったな、聞いておるか?」
 というカメリアの一言に我に返った望は、いつの間にかたれていたヨダレを吹きつつも、答えた。
「あ、はい。要はこのクリスタルを持って気合を込めればビームが撃てる、というわけですね。
 ところでカメリアさんでしたね、妹になりませんか?」
 何か会話の中に混じった気がする。
「そういうことじゃ、撃ちすぎるとずいぶんと疲れるそうじゃから、気をつけるが良い。ん、妹とな? 別にかまわんが」
 そこに、ひらりと麻羅が降りてくる。
「おいおい紅椿、わしもパートナーがアレじゃから人のことは言えぬが……もうちょっと相手は選ばぬか?」
 先ほどから望がカメリアを見る視線が気になっていたのだろう、麻羅はカメリアに苦言を呈する。

 だが、カメリアは笑って答えた。

「はっはっは、構わぬ構わぬ。いかな理由であれ、儂は慕ってくれる者を拒むことはせぬ……では望ねぇ、今後もよろしくな」
 と、カメリアは望の手をとって握手する。
「あらあら、小さい手ですねぇ……ふふふ……今後が楽しみ……」
 と、気付かれないようにこっそりとほくそ笑む望だった。
「やれやれ。来るものは拒まずか、おぬしは」
 少し呆れた様子の麻羅に、カメリアはまた笑顔で答え、上を指差した。
「まあ麻羅よ、そう言うでない。儂には兄や姉と呼べる者がたくさんおる……それは幸せなことじゃよ、ほれ」
 麻羅がカメリアの指差す上空を見ると、ちょうど屋根伝いに音井 博季(おとい・ひろき)がやって来たところだった。

「カメリアさーん、無事ですかー!?」
 博季は屋根から下りてきて、カメリアの傍に着地した。胸から下げたペンダントの先に、小さなひし形の情熱クリスタルが揺れる。
「おお、このとおり無事じゃ」
 だが、しばらくビームを撃っていなかったせいで、上空から麻羅や望とノート。カメリアと博季たちのところへ次々とクラゲが押し寄せてくるところだった。
「僕の撃つビームはどうも他の人のように強くはないみたいでして――まあ、できれば無駄な殺生は控えたいところですから、ちょうどいいですけれど」
 と、博季はカメリアの無事を喜んだ。カメリアは、そんな博季に柔らかな笑顔を向けた。
「はは、有害なクラゲでも殺生はしたくないか……相変わらずじゃの、博季にぃは」
 その言葉に、博季は少しだけ戸惑った。
「あれ――今」
「ん? あ、つい話の流れで……嫌、じゃったか?」
 カメリアは上目遣いで、そっと博季の顔を覗いた。そのカメリアの頭を少し撫でて、博季は微笑む。
「いえ――僕も、カメリアさんを妹のように思っていますよ」

 そんな微笑ましい二人の空気を裂くように、ノートが叫んだ。
「ちょっとあなた達、そんなことを言っている場合ではありませんわよ!!」
 その言葉に周囲を見渡すと、いつの間にか降下していたパラミタ電気クラゲが、一行をすっかり囲んでしまっていた。

「ふむ、囲まれたか……じゃが、これだけの面子がそろっておれば、負ける気はせんのぅ。――ホレ」
 カメリアはノートにクリスタルを放り投げた。それを片手でキャッチしたノートは、不敵な笑みを浮かべる。
「――さあ、行きますわよ。我がシュヴェルトライテ家の名にかけて!!」
 ノートが気合を込めると、クリスタルを伝ってその猛りが体中を駆け巡り、やがて頭頂部のアホ毛がまぶしく輝き出した!!


「ドッリィィィル!! ビィィィムッ!!!」


 ノートの縦ロールの髪の毛から、ドリル状の青白いビームが発射され、迫り来るクラゲを貫いていく。
 それに応えるように、恵もまたすこしはだけた着物の中からビームを発射する!!


「腹グッロオオオッビィィィムッ!!!」


「……黒いのか、腹……」
 呆然と呟くカメリアをガードするように博季はきびきびと動き、自前の魔法とビームを融合させて、接近してきたクラゲを次々と追う払っていった。
「我、呼び覚ますは、原初たる燎原の炎!」
 ファイアストームと共に左手から放たれたビームは、魔法と融合してクラゲに襲いかかり、その戦意を削いでいく。

「おー。皆、なかなかやるのぅ」
 麻羅はその様子を見て、旨そうに酒を飲み干すのだった。


「……麻羅、お主は働かんのか」
「だって、わし神じゃもん」
「……さよか」


                              ☆