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リアクション
1evolution【2】
こちらでは芸術少女師王 アスカ(しおう・あすか)がJJを探している。
「JJちゃん〜、どこにいるの〜。助けてあげるから絵のモデルになって〜、お願いよ〜」
シャンバラ人なのに見た目ゴリラと聞いて、彼女のインスピレーションに何か沸き上がるものがあったのだろう。
モデルになってもらうため、オラウンコの巣をとほとほ探している。
付き添うのは蒼灯 鴉(そうひ・からす)にルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)。
「しかし、なにもゴリラもどきのためにわざわざこんなとこに来なくても……」と鴉。
「とは言え、アスカの気持ちはわからなくもない。好奇心をそそられる存在なのは間違いないだろう?」とルーツ。
「俺にはどうでもいい。とっとと連れ戻して、帰るだけだ」
「ま……ともかく、見た目はゴリラでも人間だ。こんなところに置き去りにされたとなっては心配だな……」
二人は不意に歩みを止める。早速アスカがオラウンコに絡まれてるのが見えた。
「これ見よがしに画材道具なんてぶら下げて。なんですか、芸術家アピールでもしてるんですか」
「出来立てのアツイとこひりだしますから、それでも描いてなさい。あなたのモチーフにピッタリです」
「……むしむし」
華麗にスルーしてアスカは行こうとする。が。
「おや、もう怒ったんですか。随分小さい人ですねぇ」
次の瞬間、石つぶてがオラウンコの脳天を打ち砕いた。
キリキリと錆びた人形の如くぎこちない動作で振り返るアスカ。表情は冷たく悲しみに満ちている。
「誰の胸が小さいと言った?」
「い、いや……胸でなく人間としての器が小さいと言ったのですけど、あの、はい……」
「お、落ち着け。さ、早く先へ行こう、な?」
穏やかな心を持ちながら激しい怒りによって暴れ出す前に、鴉が彼女を連れ出す。
しかし、回りこまれてしまった。敵討ちに集まって来るとは意外と情は厚いようである、オラウンコ。
とその時、レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は空に向けてバンバンバンと銃声を響かせた。
「もうさっきからゴチャゴチャ……もうほんとオラウンコ、うるさいっ!」
イライラと眉間にしわを作る。やかましくてJJ捜索に集中出来ない。
とは言え、オラウンコが無口でも捜索は難航したかもしれない。
あくまでゴリラとオラウータン。微妙な毛色の違いから目星を付けようと思ったのだが、思いのほかクリソツだった。
「ま、ここはひとつ、俺に任せてもらおか」
ひらりと躍り出たのは焔の魔術士七枷 陣(ななかせ・じん)である。
メジャー教授の調査隊に参加していたのだがはぐれてしまい、しばらくこちらの捜索に協力する運びとなった。
「どうするのさ?」
「まぁ見てなって……。さぁウンコども。いじられるのはここまで、今度はこっちがいじり倒す番や」
「ほれ、ナラカ印のおいしいバナナじゃ。好きなだけ持ってくがいいぞ」
ジュディ・ディライド(じゅでぃ・でぃらいど)は餌付けするべくバナナの木箱を目の前に置いた。
しかし、賢明なる読者諸兄ならオラウンコがバナナに対しどのような態度をとるか、既にご存知のことだろう。
「だからバナナなんかいらねーっつってんだろ、ボケ!」
「ほう……」
けれど、ジュディは憤慨するでもなく黒い笑みを浮かべる。
「折角持ってきてやったのに。お主ら、ちょいとばかり調子こき過ぎじゃ。少し頭……冷やそっかの?」
その身を蝕む妄執を放つ。するとオラウンコ達は恐怖にかられ、突如バナナと股間を交互に見始めた。
それからもじもじと股間に手を当て、バナナの『皮』に異常な敵意を向けるようになった。
筆者にはまるでなんのことかわからないが、火星人や新成人と言う単語を異常に恐れ始めたのはなにがなにやら。
「……なんか妄執と言うより、現実に打ちのめされてるよね、なんのことかわからないけど」
「オラウンコの70%がセンシティブなお悩みを抱えてるアルね」
おっきい黒猫ゆる族チムチム・リー(ちむちむ・りー)はそう言うが、なにもそこにつけ込まない手はない。
バナナで気を引けないのなら、逆にこれを武器に攻撃するアル……!
バナナの木箱をひっくり返して机代わりに、それから丸めた新聞紙でバンバン机を叩き、バナナの叩き売りを始めた。
「さあおいしいバナナアルよー。今日はシボラ到達記念の特別価格でご奉仕、持ってけドロボーアル!」
トラウマをえぐり出されたナイーブモンスター達は突き付けられたバナナにビビリまくり。
更にレキが挟み討つ。
「バーナナ、ななななバナーナ、んぼ。バナナナナ〜ン♪」
謎の歌を口ずさみながら、加えてポニーテールにバナナを括り、これまた謎の踊りを踊りはじめた。
別に突如発狂したわけではない。とは言え、じゃあ説明しろと言われても困る。
なんでもオラウンコの気を引く踊りだそうであるが……、むしろトラウマを活性化し彼らを恐慌状態に陥れた。
珍獣達が完全に硬直すると、待ってましたとばかりに陣が飛び込む。
本物のJJはファージャケットを着用してると聞く、ならば一匹づつ確認していけばいずれ本物に会えるはずだ。
「JJー! ラブホっぽい名前のJJー! どこやー!?」
軽くdisりながら、ひよこを選別するように群れをかき分ける……と思ったより早く結果はあらわれた。
むんずと掴んだ毛皮はジップアップ。ジジーと下げるとまた同じように濃い胸毛が出てきたが、間違いない。
彼こそ空京センター街の賢人ジャングル・ジャンボヘッドだ。
しかし……。
「オウオウオウッ」
「……ゲゲッ。遅かったか。野性化がはじまっとるみたいや」
「そんなぁ……、おーい、JJ。一緒に日本へ帰ろうー」とレキ。
「って、誰が水島上等兵や!」
さりとてビルマボケに突っ込んでる場合でもない。
二人に代わり、治療に挑んだのは鴉とルーツ……と、何を思ったか、鴉は唐突にJJの鼻に指を突っ込んだ。
「俺はとっとと帰りたいんだ。いい子だからあまり手をわずらわせるな、ゴリラもどき」
「待て、その鼻フックに何の効果があるんだ?」
「ショック療法に決まっている」
歯を剥いて威嚇するJJを見るに、効果は期待出来なさそうだ。
こんな時にドクター梅がいれば……、ルーツは呟いたが、いないので自分たちでなんとかして頂きたい。
そして、再びレキと陣。
「ビルマボケはこの辺にして……、文明を忘れてしまったなら、文明を与えてあげればいいんだよ」
「ビバ! 文明の叡智、携帯食品やで!」
彼女はチョコレートを、彼は『濃厚!乙カレーバー・チキン味』をそれぞれJJの口に投げ込んだ。
大量生産、大量消費の安い味が舌を直撃……とともに彼の目に知性が蘇った。
「ここは……?」
しばらくきょとんとしていた彼だが、すぐに状況を把握し、助けに来てくれた生徒たちに感謝した。
合流した美羽とノーンは嬉しそうにJJに抱きつく。
「ゴリラくーん。良かったねー。無事で良かったねー」
「美羽さん……、心配させてしまってごめんなさい。僕は大丈夫です。皆さんが助けてくれました」
「思ってたのとちょっと違うけど、これはこれで作戦成功だよね。一緒に帰ろう、ゴリラさん」
ノーンは持ってきた教科書を嬉しそうにJJに見せる。
「聞いたよぉ、お勉強しに街に出てくるなんてエライ。エライから、わたしの教科書も貸してあげるね」
「蒼空学園の教科書、ですか。興味深いですね、是非あとで読ませて頂きます」
一件落着の大団円。ここでこのシーンは終わっても良いのだが……それは彼女が許さなかった。
「JJちゃん、私の絵のモデルになって〜」
「……はい?」
流れを読まないアスカの来襲に、センター街の賢人も思わず目がまんまる。
それから、如何に自分がJJを必要としていて、如何に芸術の発展のために必要か、まくしたてるように話す。
まさに『ゴリ押し』である。
「だからお願いっ。とっておきのアリの巣スポットも教えるから契約書にサインしてぇ〜」
借金の連帯保証人を頼むがごとく必死に懇願……と、JJは契約書にさらさらとペンを走らせた。
名前の隣には、彼女が分かりやすいよう自分のイラストも添えるサービスも。
「学生の本分は勉強です。ですから、絵のモデルになるのもきっと良い勉強になると思うんです」
「JJちゃん……」
「よろしくお願いしますね、アスカさん」
心優しき男、ジャングル・ジャンボヘッド、誰かの頼みごとを無下に出来る男ではないのだ。
「……で、とっておきのアリの巣スポットの件を詳しく」
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