波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

ハロー、ゴリラ!(第1回/全1回)

リアクション公開中!

ハロー、ゴリラ!(第1回/全1回)

リアクション


fairyland【1】


 珍獣の森。
 シボラサイド、ヨサーク空賊団から流れてきたラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)は彷徨っていた。
 かき分けどもかき分けども奥深い密林。森ガールのコミュニティは一向に見当たる気配はない。
 ここはひとつ、奇策で行くか……とラルクは拳を握りしめ、手近な大木を一撃のもとに殴り倒した。
「あー! 木を殴り倒すって気持ちいいな!!! もっともっと殴り倒すかなー!!」
 しかし、辺りはしんと静まっている。
「うーん、この辺じゃねぇのかな……まぁいいや、ション便ション便」
 シボラサイドで飲んできたため、ほろ酔い気分のラルク。適当な木を選んでひっかけてると突如殺気が……!
 はっと横を見ると、Aラインの奇麗なワンピースを着た森ガールがマシンガンを構えてこっちを見てる。
「きゃあああっ!痴漢っ!!」
「ち、ちげえっ!!」
 お宝をかすめる銃弾に顔面蒼白になりつつも、神速の動作で立派なお宝を回収。
 ジッパーを上げながら高速で森ガールとの間合いを詰め、ドロップキックを彼女の顔面に叩き込む。
「ぶぎゃあ!!」と鼻血を撒き散らし、森ガールは大木に叩き付けられた。
「ったく人の顔見るなり痴漢はねぇだろ」
 そう言って、森ガールの顔面をアイアンクローで掴むと、ラルクはコミュニティの場所を尋ねた。
「なぁ、俺は気が短いんだ……? 教えてくれねぇとその頭……潰すぜ?」
 すると、森ガールは呻きながら、森の奥を指差す。
 奥に行くと不意に森が途切れ、なだらかな緑の斜面が広がり、その下に森ガールのコミュニティがあった。
 赤や青、カラフルながらも落ち着いた色合いの北欧風の小さな可愛い家が並ぶ。
 コミュニティは小さな湖を囲むように形作られ、湖には何艘かのボートが浮かんでいるのが見えた。
「随分こじゃれたアジトだな。まぁいい、とにかくアゲハ達に連絡だ」


 しばらくして、連絡を受けた生徒たちがちらほらと集まりはじめた。
 一番手にやってきたのは、バスト91の雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)だった。
 何故か服が際どいところまで破けているが、その顔は妙に清々しく、なんだかやりきったような表情をしている。
 ところが……、斜面の底に見える森ガールのアジトを見るやテンションがみるみる下がっていく。
「ここが森ガールの巣窟……!」
 ううう……と唸る彼女の脳裏を、森ガールとの過去の因縁が稲妻のように駆け巡る。
 それは何年か前の一夏の記憶。合コンに繰り出した彼女を待っていた仕打ち。

「リナみたいなビ◎ッチとは違ってー森ガールちゃんは清楚でかわいいよねーマジ癒されるー」
「そんなことないですよーリナさんっていいひとですしー」
「やっぱ森ガールちゃんっていい子だわーホテルいこー」
「えーいやだーウフフ」
 ・
 ・
 ・
「ギャハハ男ってまじちょろいよね〜」
「リナとかいうケバ女のお陰でぇ、清楚系の地位が上がるからマジ感謝だわぁ」

……ぐ、ぐぎぎぎぎぎぎぎぎぎ。許さない、あいつらは、絶対に許さない
 完全にトランス状態に入ったリナリエッタを、ラルクは不安と恐怖の眼差しで見つめる。
「お前さんの相棒、大丈夫なのか……。俺、いい精神科の先生を知ってるけど、紹介しようか……?」
「ご心配なく。先ほどドクモに煮え湯を飲まされたから気が立ってるだけだよ、大丈夫」
 リナリエッタの相棒、男装の麗人ベファーナ・ディ・カルボーネ(べふぁーな・でぃかるぼーね)は言った。
「それより君、良い身体してるね。森ガールの巣って聞いてゲンナリだったけど、来てよかったなぁ」
「は……?」
「血気盛んなメスブ……女性なんて御免こうむるよ」
「やっぱり森ガールより筋骨隆々の森ボーイが好みだ。おや、君怪我をしてるじゃないか……」
「あ、ああ……さっき撃たれた時にかすっ……ちょ、ちょっと待てなにしやがる!?」
 ベファーナは血のにじんだ傷口にねっとりと舌をはわせる。
「お、俺には心に決めたヤツが……! うおおおっ、俺から離れろ!」
 ラルにゃんがペロペロされてる間に、リナリエッタは小型飛空艇オイレに股がり、森ガール狩りに繰り出す。
 コミュニティの入口には、おからドーナッツを食べながら哨戒する森ガール達の姿あった。
「ここであったが百年目ぇ!」
 闇術とともにその身を蝕む妄執を放ち、森ガールの不意を突く。
 そしてすかさず、デコバット二刀流、いやフラワシにも持たせ三刀流で森ガールにトリプルヒット。
 ひとり仕留め、返すバットでもうひとりに襲いかかる……が、抜刀した森ガールは日本刀で一撃をいなす。
「な、なんですかぁ、あなたは。さてはわたし達が潰したどっかの企業の回し者ですねぇ」
うっさい! 清楚系はぼくめつじゃぁぁぁ!! 本当は自然が大好きな自分が大好きなんだろがぃ! 居酒屋でくわえタバコで今日寝た男の感想を語ってんだろがぃ! そんな女はここで地獄に落ちろおおおお!!
 憤怒のままに(個人的な)背後からフラワシで一撃。よろけたところを連続バットでボコボコに叩きのめす。
 仲間のピンチに駆けつける森ガール……しかしその前に、新たなる援軍が立ちはだかる。
 赤い髪をなびかせ颯爽登場、炎の拳霧雨 透乃(きりさめ・とうの)
「まさかこんなジャングルに猛者どもがいるなんてね。あははっ、久しぶりに腕が鳴るなーもう」
 烈火の戦気を纏う拳が桃色の炎を放つ。先手必勝の痛恨打……が相手も強者、紙一重で連撃を回避し間合いをとる。
 ところが、空ぶった拳は炎を撒き散らし、森ガールの愛する草木に引火した。
「きゃあ! わたし達の大切な森が!」
「あーあ、なにしてんの。お前がよけたせいで燃えちゃったじゃん。エコを謳うならもっと緑を大切にしなよ!」
「うう……勝手なこと言って! 許せないわ! 皆さん、あの人をひき肉にしちゃいましょう!」
「HELL YEAH!!」
 森ガール達はマシンガンを構え、透乃に向けて一斉掃射。慌てて透乃は大木の影に身を隠す。
「うわああ! エコロジストを語るならそんな武器使うなー!」
「大丈夫。ここは任せて、透乃ちゃん」
 入れ替わるように、今度は緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)が攻撃を仕掛ける。
 使う武器はデコバットを凶刃の鎖で改造し、鎖分銅のように射程距離を伸ばした『凶バット』。
 ぶるんぶるん振り回したそれを木陰から叩き付け、森ガールの一団をバッタバッタと薙ぎ倒していく。
「く……、木を盾にされてんじゃ、迂闊に銃は使えないわ……!」
 最後の一人になった森ガール。凶バットに気をとられてる隙に、もうひとつの危機が背後から迫る。
 陽子の愉快なお友達、アンデッド:レイスの【朧さん】が、デコバットで葬らん……もといホームラン。
 脳天をカチ割られた彼女は「ぐへっ」と倒れた。
「これであらかた片付きましたかしら……?」と陽子は影から顔を出す。
「ちょっとやりすぎだよー。私の獲物もみんなやっつけちゃうんだからー。折角暴れるの楽しみにしてたのに」
 とそこに、血まみれの森ガールを引きずってリナリエッタがやってきた。
「ぜぇぜぇ……、大丈夫よぉ、あそこに行けばこんなヤツらがごまんといるわぁ……!」
 そう言って、コミュニティのほうを指差す……と同時に正面からロケット弾が飛んできた。
「うわああああ!!」「きゃあああああ!!」「嘘でしょおぉ!!」
 爆風で吹き飛ばされる三人娘。その目に映るのは、ぺたんこ靴を踏みならし迫る重武装のガーリーな一団。
 弾を込め第二射の準備……がそうはさせじと、アシッドミストが森ガールの視界を奪うように突如展開された。
 術者は明鏡止水の心の持ち主御凪 真人(みなぎ・まこと)だ。
「ツッコミどころ満載な相手ですが……、やはり見た目通り容易い相手と言うわけではありませんね。彼女達の扱う武器はどれも専門知識のいるもの、どこかで高度な戦闘訓練を積んでると見て間違いないでしょう」
 メガネを押し上げ分析する真人。
 その背後で、セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)は吹き飛ばされた仲間を助け起こす。
「ねぇ、霧で覆ったけど大丈夫なのかな……、またロケット弾を撃ち込まれたら流石にヤバイと思うよ?」
「その心配はないですよ、セルファ。プロなら見通しの効かないところで闇雲に攻撃はしてきません。おそらくこちらの出方を窺っているはずです。今のうちに態勢を立て直して攻め込みましょう」
 真人は仲間に指示を出すと、おもむろに霧の中にサンダーブラストを放った。
 その途端、反撃の銃弾が雨や霰と飛来。真人は木の影に隠れ、連続サンダーブラスト、こちらの位置を印象づける。
 そこへセルファがバットを持って霧に飛び込む。殺気と物音を探り、当たりを付けたところにフルスイング。
 刹那「どふっ!」と叫び声、森ガールは足下に倒れた。
「……バットで殴るのってちょっと楽しいわね。このしびれる手応え、くせになりそうかも……」
 セルファはニヤリと微笑み、二打席連続ホームランを目指し、次の獲物に襲いかかる。
 彼女の先制に勢いづくチーム、続く打者は透乃、リベンジの拳は会心のヒット。森ガールはレフトツリー直撃。
「よしっ!」と透乃もガッツポーズ。
 そして、次のバッターはペロペロから逃げてきたラルク。殺しちまってもご愛嬌と剛拳で女子を殴打。
 しかし打球(森ガール)は伸びず、ゴッと超ヤバイ感じの音とともに、森ガールはぐにゃりと崩れ落ちた。
「あれ、首が変な方向に……」
 とまぁ何故か途中から野球チックな文体になってしまったが、霧が晴れるころには森ガールは一網打尽となった。
 監督……じゃなかった真人は累々横たわるガールを踏み分け、コミュニティを指差す。
「さあ、まだ一回表です。ガンガン点をとってコールド勝ちを目指しましょう……!」
 あれ、また野球に。