葦原明倫館

リアクション

Ending...


　珍獣の森に日が落ちる。
　ゆっくりと訪れる夜の足音が、勝者も敗者も皆一様にすべてを一緒くたにして、包み込んでいく。
　その暮れかけた森を、森ガールの衣装を来た琳　鳳明（りん・ほうめい）はあてもなく彷徨っていた。
「かれこれ半日以上歩き続けてるのに、集合場所が全然見当たらないよ……。うー、これ絶対遅刻だよねぇ」
　このあきらかに偽物の地図をくれた相棒のヒラニィはどこかへ行ってしまい、なす術もない。
　どうしようと途方に暮れていると……がしゃんがしゃんと何かメカ的なものの足音が。
　見れば、ゴリアテに乗って移動するニコリーナ……、ボロボロの顔面に貼った湿布がなんとも痛々しい。
「だ、だれ……？」
「ん……？　あなた、森ガールのくせにニコリーナを知らないのぉ……？」
　ニコリーナ、ニコリーナ……ニコリーナってあのテロリストの！？
　思わず口に出して言いそうになるのをこらえる。
「あなたは猫缶持ってこんなところでなにをしてるんですぅ？」
「これはパシられて……あ、いえ、森の動物たちにあげようと思って。ニコリーナさんは何を……？」
　そう言うと、ニコリーナは遠い目をした。
「勝ち続けて来たわたしが敗北の味を噛み締めているのですよぉ……」
　逮捕は絶対ご免こうむる彼女は、捕まえようとする生徒たちから辛くも逃走し、ここに至る。
　森ガールコミュニティ『世界の合い言葉』は当分機能することはないだろう。
　ある者は変わらずニコリーナに付き従い、ある者は彼女のもとを去った。
　またある者は自首し、またある者は南カナンへ。別の者は魔法少女になるのも悪くないかな……と思い直した。
「この様子じゃもう全部終わっちゃったみたいね。遅刻どころか欠席だよ……」
　ため息の鳳明。
　と……、そこにようやく南部　ヒラニィ（なんぶ・ひらにぃ）が姿を見せた。
「ヒラニィちゃん！」と呼びかける鳳明をシカトし、彼女は威厳を演出しつつ話しかけた。
「わしは土地の精霊、地祇だ。お主の自然を愛する心に感銘を受けてこうして姿を現すことにした」
「わたしにぃ？」
「うむ。お主は森と共に生き、森ガールとして活動してきた。しかし『共に』生きるだけでは此度の戦いには勝てんかった。ならばお主は……いやお主が森、さらには自然そのものになるしかない。シボラの豊かな恵みを育むこの森に回帰し、今まで使役してきたであろう動物達と、今度は対等に接しその一部になる所から始めるべきではなかろうか？」
「……あのクソビッチを見習えってこと？」
「２５１７……」
　ゴリアテは心配そうにしている。
　しばし、黙っていたニコリーナだったが、やがて邪悪な笑みとともに闘志を取り戻した。
「いいわぁ……。更なる高みを目指そうじゃない。今度こそあのクソビッチを血祭りに上げてやる……！」
「うむ。それでいい」
「いいの！？」
　焦る鳳明。しかし、ヒラニィはそれに触れず、ゆっくり彼女を指差す。
「おぉ、この者もお主と同じ考えを持つ森ガール、さぁ共に森へ還るが良い……」
「あらそうなの。じゃ、一緒に頑張りましょう☆」
　ゴリアテの腕がむんずと哀れな森ガールを摘まみ上げる。
「も、持ってないっ。持ってないよっ。悪ふざけが過ぎるよぉ、ヒラニィちゃん……！」
　森へ消える二人……と一体。
　彼らのその後の物語はまた別の機会に語ろう。





　I ll be back…