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リアクション
3fairyland【8】
「お前ら、くさい」
ひき逃げにあってズタボロの森ガールに、不良女子高生八ッ橋 優子(やつはし・ゆうこ)はポツリと言った。
初対面とは思えないほど横柄な彼女に森ガールたちもむっすぅーと頬を膨らませる。
「くさくないですぅ!」
「あ、ごめん。喋らないで、マジでくさいから」
「うう……!」
「街に行かないから着替えもたいしてないでしょ。厳選アイテムで一週間着まわしコーデしすぎだから。てか、一着を着続けるのは着まわしって言わないから。それに風呂も入ってないんでしょ。そんな暑苦しい格好で汗ダラダラのくせに」
不快そうに鼻をつまんで、優子はシューと消臭スプレーを吹きかける。
「つか、乳液や化粧水もないから、肌ボロボロじゃん」
「そ、そんなこと……」
「うっわ、眉毛も手入れしてなくね? その眉毛、どこの派出所勤務だよ。亀有公園前に派出所なんてねーっての」
「か、勝手な想像で言わないでくださぁい! ちゃんとお化粧もするしお風呂にも入ってますぅ!」
しかし、優子は「うそつけ」と一蹴。
「つか、うんこも野グソでしょ。うわー、流石にひくわー。葉っぱでケツ拭いてるんだろ。きっつー」
「ふ、ふいてないっ!」
「え? ケツ拭いてないの? マジ病気になんじゃね、それ?」
「ち、ちが……!」
問答無用で哀れみの視線をくれると、優子はキャバ勧誘のポケットティッシュをおらよ、と投げた。
「それでケツ拭くといいよ。柔らかい紙だから」
それから、森ガールをやりたいなら『空京井の頭公園』に行ったほうがいいとアドバイスした。
近くのラブホや満喫で風呂にも入れるし、空京のターミナルから空京王井の頭線に乗って、片道190円だから、と。
完全にケンカをふっかけてるようにしか見えないが、これも彼女なりの親切心である。
まぁ無論伝わらないけど。
「こ、殺してやるんだから……!」
冷たく光るアーミナイフを逆手に持って、森ガールたちは優子を八つ裂きにしようと迫る。
けれども、優子はひらりと身をかわし、んじゃね、と去っていった。
「いやー、いいことしたな。すげー、いいことしたな」
「待ちなさい〜!」
追いすがる森ガール……しかし、彼女たちの歩みを頭上から注ぐ声が止めた。
大木の上、逆光を身に纏い、ヒーロー然と如月 正悟(きさらぎ・しょうご)の登場である。
「とあるスーパードクターから研修を受けたこのドクター田中が貴様らの目を覚まさせてやろう!」
ビシィと指を突き付ける。
「今でこそオーガニックやらエコやら言われているが人間は科学と自然が共存して生きてきたんだっ! それを否定するなど愚の骨頂。素直に洗礼を受けて悔い改めるか、無限軌道で耕されるか決めるといい! だが答えは聞いていない!」
正悟はなにやら液体を詰まったボトルを取り出す。
「農業こそ、自然と科学の融合点、さぁこの農薬を浴びて悔い改めるがいい!」
液体はアグリの農薬一番搾り。白濁して何かを連想させるそれを、少女たち目がけてぶっかける……!
降り注ぐ白い雨に森ガールは「きゃああああ!!」と悲鳴。可愛らしい顔が白く汚されていく。
正悟はその惨状に「うむ」と頷き満足気。
その姿はまさに汁男ゆ……いや、ここはおおしき男と書いて『汁男雄』と呼ばせてもらおう。
「殺すのよぉ!あの変態を殺すのよぉ!!」
「HELL YEAH!!」
「ハハハ!恥じらうその姿こそ、俺のごっつおだ!」
飛び交う銃弾を颯爽かわし、農薬の散布……。
しかし、シボラサイドで結構農薬を使ってしまったため、手持ちの分があっと言う間になくなってしまった。
「む、なくなったか。仕方がない。ここは俺の一番搾りで代用を……」
不穏な挙動でまさぐる正悟。ところが、突然鳴ったジャーンジャーンと言う音に驚き、足を滑らせる。
ガツンと股間を枝に打ち付けた彼は、顔色を7色に変化させたあと、泡を吹いて気絶した。
そして、なおもジャーンジャーンの音は続き、茂みの中から久多 隆光(くた・たかみつ)が姿をあらわした。
軍服に銅鑼と言う未来に生きるファッションセンス。森ガールが怪訝な顔で銃口を突き付けるのも無理はない。
「待ってくれ。俺は戦いに来たわけじゃない。君たちと仲良くなりに来たんだ」
隆光は温州蜜柑を取り出し、うしろかズズズと引いて巨大な全自動みかんの皮剥き機を持って来た。
「俺もフルーツは好きだ。君たちも好きだろう。さぁ一緒にみかんを食べて親睦を深めようじゃないか」
ニコニコとご機嫌な様子で温州蜜柑をセットする……が、ここでよくみかんの皮剥き機の説明を読んで頂きたい。
はっきりと書いてある『温州蜜柑は潰される』と。装置はべべっと潰れたみかんを吐き出した。
「お、俺の温州蜜柑がっ! だ、誰の仕業だ! なんでこんな酷いことを! ジャーンジャーン!!」
完全におまえの所為なのだが、隆光は取り乱しジャーンジャーンと銅鑼を鳴らしはじめた。
そしてすぐ、悪意のある視線をギロリと森ガールに向ける。
「おまえらが俺の装置に何か細工をしやがったんだなぁああああ!!」
「え、ええーっ!? 濡れ衣だよぉっ!!」
「ひとりで喋って、ひとりでキレて、ひとりで暴れ出す……ってなんなのよぉこの人ぉ!」
完全に基地の外に行ってしまった隆光、何故か背中のショットガンは使わず銅鑼で殴り掛かった。
応戦する森ガールの銃弾を銅鑼を盾に防ぐ……するとジャーンジャーンと良い音が鳴り、彼は満足そうに笑う。
猛攻が途切れるのを見計らい接近。銅鑼を振りかぶり片っ端から森ガールの頭をぶん殴っていく。
「どらどらどらどらどらどら銅鑼銅鑼銅鑼銅鑼銅鑼銅鑼銅鑼銅鑼銅鑼!!」
クレイジーなダイヤモンドも真っ青の暴れぶり、三国一の銅鑼使いとはまさに彼のことである。
森ガールたちは「げぶっ」と地面に倒れ、ぴくぴくと頭を振るわす銅鑼の響きに震えた。
ひと暴れしてスッキリした隆光ははっと基地の外から中に帰ってくる。
「俺は何を……。こいつらと仲良くなるはずだったのに。やりすぎちまった」
慌てて森ガールに駆け寄り抱き起こす。
「あ……う……」
「あまり喋るな、傷に響く」
「うう……!(オメーが言うな!)」
「くそ、何言ってるかわからねぇ! うおおおい、誰かぁ! こっちに医者を呼んでくれぇぇ!!」
またジャーンジャーンと銅鑼を鳴らす。
するとガサゴソと茂みが蠢く……だが、やってきたのは医者ではなく目を血ばらせた人妻だった。
暴走奥様コトノハ・リナファ(ことのは・りなふぁ)、デコバットを握りしめ獲物を探している。
「ようやく私のデコbuttを使う時が来ましたのね……!」
「デコbutt……? デコバットじゃないの、ママ……?」
子どもの蒼天の巫女 夜魅(そうてんのみこ・よみ)が不思議そうに首を傾げる。
「buttはお尻のこと。だからこれは敵の尻をぶったり、後ろの門に突き刺して戦う為の武器なのです」
「そうなんだぁ。流石ママは物知りだねぇ」
完全に間違った知識である。しかし、たちの悪いことに彼女はそれを信じきっている。
後ろの門を拡張されてはたまらんと満身創痍の森ガールたちも立ち上がり戦闘態勢に……!
とは言え、そんな状態で戦える相手ではない。夜魅の放つ天のいかづちに翻弄され右往左往するのが精一杯だ。
「ゆるふわボブなんて似合わないわ。アフロにしてあげる」
魔力を収束し、高周波による放電へと変化、火炎コロナを発生させる。名付けて『セントエルモの火』。
このままでやられる……直感した森ガールたちは力を振り絞り、幻獣を呼び寄せる。
「なに、この雰囲気……?」
「うう、わたし達はここまでだけど、この幻獣があなた達を恐ろしい目に遭わせてくれるわ……!」
力つきる森ガールに代わり、コトノハの前に恐るべき珍獣『イラッくま』が立ちはだかる。
顔の彫りが深く、それなりに高身長の人型(イラン人型)珍獣。体全体にくまの毛皮を身にまとっている。
言語は「アイーン! アイーン!」としか喋れず、何か妙にイラッとする生き物である。
「なによこれ……?」と夜魅が言うとイラッくまは「アイーン! アイーン!」と迫り出した。
どうも女性を追いかけ回す習性もあるらしい。
「アイーン! アイー……あががががっ!!」
「うちの子を追いかけるのはやめて頂けますか……?」
イラッくまのお尻にバット……もといbuttを突き刺すと、ねじるようにグリグリと押し込む。
なんだかもはや何が起こってるのかわからないが、筆者にもよくわからない。
ただ、彼女が「どうして私イラン人のお尻にバット突っ込んでるのかしら?」と我に返るのはもう少し先の話である。
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