波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

ジューンブライダル2021。

リアクション公開中!

ジューンブライダル2021。
ジューンブライダル2021。 ジューンブライダル2021。 ジューンブライダル2021。 ジューンブライダル2021。 ジューンブライダル2021。

リアクション



25


 夕闇落ちる廃神殿にて。
「由唯さん、今こんなことを確かめるのは失礼かもしれませんが……本当に私などと契りを結んで構わないのですか?」
 エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)に問いかけられ、月代 由唯(つきしろ・ゆい)は彼を小さく睨んだ。
 エッツェルは、自身が半ば怪物と化してしまっている。
 そのため、無意識とはいえ由唯のことを殺しかけたことがあり、それを負い目にしているのだろうけれど。
「馬鹿?」
 そんなこと、確認しないで欲しい。
「……エッツェルが良いの。だから、私はここに居るんだよ……?」
「……わかりました。ありがとう」
 ゆるく抱き締められたのち、儀式を進めるために動いた。
 まず行われるのは血の交換。
「我の血は汝の肉に、汝の血は我が肉に」
 互いに抜身のナイフの刃を右手で握り、滴る血を相手の杯に落としていくもの。
 痛みはあったが、相手のことを想えば躊躇するほどのものでもない。互いに顔色を変えることなく、血を溜めていく。
「旧き神と古の支配者達に宣言しよう、今宵この時 我らは二人で「一」、「一」で二人」
 杯を交し合い、ぶつかる音が神殿に響いた。
「肉の器失いしときも、その御霊 常に一なる場所にあることを誓う」
 注がれた由唯の血を飲み干そうとエッツェルが動く。
 それを、待って、と視線で止めた。
「由唯さん……?」
 じっと、エッツェルの目を見る。
「如何なる状況であっても、これからは一人ではなく二人で乗り越えて行くことを誓ってくれますか?」
 その問いかけは、彼の侵食を彼だけが抱え込んでいくことへの拒絶。
 ――私のこと、もっと頼ってください。
 無言の時間は十数秒。
「誓います」
 悩んだようだが、エッツェルは頷いてくれた。思わず微笑む。
 それから改めて杯の中の血を飲み干した。鉄の匂いがする。生温かい液体。生きている味。
「輪廻の輪すらも、私たちを分かつことは出来ません」
 エッツェルが、言うと同時に顔を近付けてきた。あ、と思う間もなく、唇が重なる。口内に残った血と血が混ざり合うのを感覚で知った。
 長い口付けが終わり、由唯はエッツェルの胸に頭を預けて微笑む。
「うふふ……これからは、ずーっと一緒だね♪」
「ええ。ずーっと、一緒です」
 柔らかな声。優しい手の温度。
 不意に、耳元に唇が寄せられた。
「由唯さん。私の真名をあなたに捧げよう」
 そっと囁かれた言葉に驚く。
「私の真名は、           」
 自分以外には聞こえないであろうほどに小さな声。
「エッツェル。私も、あなたに真名を教えたい。……聞いてくれる?」
「ええ、もちろん」
「私の真名はね、         」
 こちらも、相手にしか聞こえないくらいに声量を落として囁いた。
「貴方の真名も、たしかに受け取りました」
 ちゅ、と頬にキスを落とされる。
「これからも、貴方とともに……」
 声が、耳に心地よかった。
 エッツェルに抱き締められたまま、由唯は思う。
 ――私、今、エッツェルと永遠の誓いをしたんだ……。
 ――信じられない……。
 夢なのではないか。そう思ってしまうほど、信じられない。
 ――でも、夢じゃない。
「どうかしましたか?」
 黙ってしまった由唯へと微笑みかけてくれるエッツェルは、確かに現実のもの。
 今まで、不安な気持ちになることが何度もあった。そしてそのせいでエッツェルを困らせることがたくさんあった。
 けれど、エッツェルは一度として嫌な顔をしなかった。
 傍にいてくれた。
「エッツェル……ありがとう」
 何に、とは言わない。言えない。言ってしまえないほどに大きな気持ち。
「大好き」
「私もです、由唯さん」
「……あ、でも、浮気とかしたら駄目だからね? これからはずっとエッツェルから離れないから!」
 きっと、死さえも私たちを離すことはできない。


*...***...*


 模擬とはいえ、結婚式。
 どういった条件で、どのようなものを行うか考えると自然と真剣になってくる。
「混雑する時間は避けたいですな」
 セオボルト・フィッツジェラルド(せおぼると・ふぃっつじぇらるど)の言葉に、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)は頷いた。
「とすると、夜になりそうね」
「夜でも模擬結婚式を受け付けてくれる場所はというと……この辺りでしょうか」
 セオボルトが一冊のパンフレットを差し出す。
 内容は、空京の飛行場から特別便の飛行艇を会場にして、夜のシャンバラ上空で空京の夜景を見降ろしながら式を挙げるというもの。
 模擬結婚式の会場としては最高クラスのプランである。
「素敵。模擬結婚式でしか味わえないでしょうね、きっと」
「応募してみましょうか」
「そうね。当選することを願って」
 願いは叶えられた。
 当選を報せる手紙が来て、二人は一路空京に向かう。


 用意されたウェディングドレスの中から、ローザマリアは気品がありロイヤリティなデザインの物を選んだ。
「似合うかしら?」
「可愛すぎますな。自分、もう既に満足気味なのですが」
「ちょっと、まだ入場もしてないのに」
 冗談です、と口元に小さな笑みを浮かべてセオボルト。
 セオボルトの格好は、ロングのタキシード姿だ。薄いピンク色のものだが甘すぎるということはなく、純白のドレスを纏ったローザマリアと並ぶと互いを引き立て合うようなものだった。
「いつもの似非オールバックも好きだけど、今日みたいな完璧なオールバックも素敵ね」
「そうですか? ならたまにはこっちのスタイルでローザに会いに行きましょうか」
「ふふ、楽しみね。
 さあ、そろそろ式が始まるわ。準備はいいかしら、セオ?」
「もちろんです」
 手を取り合って、二人は歩き出す。
 飛空艇内の通路を利用したヴァージンロードを歩き、簡易チャペルに辿り着いた。
 会場の灯りはキャンドルライトで、幻想的な雰囲気をかもし出している。
 牧師役を務めるは、ホレーショ・ネルソン(ほれーしょ・ねるそん)。ローザマリアのパートナーだ。今日、偶然にもここで牧師のアルバイトをしていたらしく、その運命の引き合わせに驚きを通り越して笑ってしまう。
「汝、セオボルト・フィッツジェラルドは、このローザマリア・クライツァールを妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」
「誓います」
 宣誓にセオボルトが即答する。
「誓います。もう、死ですらも、私達を別つことなんて出来ません」
 ローザマリアも、衝き動かされるように言葉を口にしていた。
 気持ちを抑えることができない。想いが溢れ出る。
「私、ローザマリア・クライツァールは、セオボルト・フィッツジェラルドを世界の誰よりも、愛しています。だから……私と、結婚して下さい。何年でも、待っています」
「ローザ……」
「……いいかしら、待っても?」
 セオボルトは、教導団に所属している間結婚等は考えていないと言っていた。
 だけど、結婚したいというローザマリアの意を汲んで模擬結婚式に参加してくれた。そんな優しい彼に、無理強いなんてしたくないけど。
 ――約束くらいは、してもいいかしら。
 ――待たせてもらっても、いいかしら。
「待たせてしまってすみません。申し訳ないのに……自分、酷い人間ですな」
「?」
「待ってくれていることに、愛を感じて嬉しく思うんです」
「……酷い人。罪な男ね?」
 悪戯っぽく笑うと、セオボルトがふっと笑った。
「罪な男でも待っていてくれますか?」
「もちろんよ」
 肯定の言葉に、返事はキス。
 そしてふわりと抱き上げられた。お姫様抱っこでの退場だ。
 きゅ、と首に抱きついて、囁くようにローザマリアは言う。
「セオ――いえ、マイ・ハズバンド。最高の夜を、ありがとう」


*...***...*


 今日最後の結婚式が終わった。
 新郎新婦も参列者も帰っていったし、結婚式場の警備のバイトはこれにて終了。
「……ふう」
 林田 樹(はやしだ・いつき)は達成感からひとつ息を吐いて、
「コタ、終わりだぞー」
 隣で警備のサポートをしていた林田 コタロー(はやしだ・こたろう)に声をかけた。コタローはすやすやと寝息を立てて眠っている。コタローの顔を見て、くすりと微笑み抱きかかえた。
「お疲れ、コタロー」
 疲れ果てて眠った彼女を抱いていると、別の場所で警備を勤めていた緒方 章(おがた・あきら)が顔を出し、
「樹ちゃん、ちょっとこっち来てみてごらん」
 ちょいちょいと手招きしてきた。
 なんだろう、と近付くと、
「わっ」
 手をぎゅっと握られた。
「アキラ?」
「こっちこっち」
 しばらく歩き、連れてこられた場所は式場。
「え、……え?」
 場内を見回した樹は、思わず戸惑いの声を上げた。
 だって、こんな場所に連れてこられるだなんて。
 目的はひとつだけじゃないか。
「ここ、人前式用の場所なんだって」
 握られていた手が離れた。樹は緊張で何も言えない。ただ、章の言葉を聞いていた。
「ってことで……」
 章が機晶姫のペンダントを出す。
「ま、待ってくれ」
 その手が樹に伸ばされる前に、樹は章の行動を止めた。
「……頼むから、その、そういうことは……」
 片手を章に向けて制止し、片手で顔を隠すように抑える。浮かんでくる記憶をも抑えるように。
 過去に受けたプロポーズ。
 トラウマとなった出来事。
 首に食い込んだリボン。
 硝煙の匂い。
 それでも記憶はよみがえり、ぞわぞわと肌が粟立つ。寒くなんてないのに。暑いくらいなのに。
「うん、わかってる」
 樹の様子を見ていた章が、静かに答えた。
「……じゃあ、何故こんなことをするんだ?」
「あんなことがあったから、樹ちゃんは怖がると思って。だからあえて、僕は自分の気持ちをストレートに言おうと思ったんだ」
「アキラ。アキラの言うとおりなんだよ。……私は、私はまだ、正直言うと恐いんだ……」
 勝手に身体が震えるくらいに。
「ここで、アキラ、お前の申し出を受けたら……全てが、壊れてしまいそうで……」
 俯いたまま、途切れ途切れに樹は言う。
 再び、章の手が樹の手を握った。
「アキ、」
「結婚というのは、『相手の人生に責任を持つ』ってことだと思うんだ、僕は」
「……?」
「……そんな僕が、樹ちゃんと他のパートナーを『壊す』と思うかい?」
 ふるふると頭を横に振った。そんなこと、するはずない。わかっている。
 涙が浮かび、歪んだ視界の中章を見つめ。
「違う。アキラは……緒方章は、そういうことをする輩では、ない。それは……言い切ることが、できる……」
 はっきりと否定した。よかった、と章が優しい声を出す。
「樹ちゃん。緒方の姓になってくれますか?」
 改めてされたプロポーズの言葉。
 返事をしようと、口を開きかけた瞬間、
「……う、ねーちゃん?」
 コタローが目を覚ました。
「ねーたん、ないてうれすか? ……のっか、いたいれすか?」
 首を傾げて、寝ぼけ眼ながらも心配そうに樹の顔を見上げる。
「こ、コタロー。大丈夫だ、私はどこも怪我してないぞ」
「樹ちゃんの苗字が変わるってことは、コタ君の苗字も……」
 章の呟きに、あ、と思った。そうだ、コタローは樹の『娘』だ。つまりコタローの苗字も変わる。
「う?」
 コタローが、樹と章を交互に見つめる。
「……ねーたん、あきのなまえになるお?」
 そして単刀直入な問い。
「こたも、あきのなまえになるお?」
「なったら、どうする?」
 問いに問いで返した。うーっと、とコタローが首を傾げる。
「れも、ねーたん、ねーたんのまんま、らお?」
「ああ」
「あきも、あきのまんま、なんれすおね?」
「うん、そうだよ」
「らったら、こた、ないじょーむれす。ねーたんと、あきと、こたと、みんなみんな、いっしょらら、こた、そえれいーれす」
 にへーっと笑ったコタローが、ぎゅっと樹にしがみついた。
「……だ、そうだ」
「まったく、コタ君らしいなぁ」
 章がくすくすと笑う。
「で、樹ちゃんの返事は?」
「う……」
 どうにも答えを返すのが恥ずかしくて言いよどむ。
 けれどその間も、章は答えを急かすことなくじっと待ってくれて。
 言わなければ、と深呼吸した。
「私も、緒方章の人生に責任を持とう」
 ストレートではないけれど、肯定の返事を。
「……それと、コタローの人生にもな」
 コタローの頭を撫でて、優しく呟く。
 顔を上げて、章の目を見て。
「これからも……よろしく頼む」
「こちらこそ」
 そんな言葉を交わすと、なぜかくすりと笑みが漏れた。
 怖い記憶が浮かび上がることは、もうなかった。


担当マスターより

▼担当マスター

灰島懐音

▼マスターコメント

 お久しぶりです、あるいは初めまして。
 ゲームマスターを務めさせていただきました灰島懐音です。
 参加してくださった皆様に多大なる謝辞を。

 結婚式ですね!
 灰島は結婚式に縁遠い人間でして、小学校に上がる前いとこの結婚式に参加したくらいしか経験がありません。
 書いていたら参加してみたくなりました。挙げる側じゃなくて祝う側で。

 今回はNPCとの挙式、模擬が多く、色々なものを書かせていただけたと思います。
 また、何人ものマスターさまに助けていただきました。
 この場を借りて、猫宮マスター、砂原マスター、沢樹マスターにお礼申し上げます。お三方ともお忙しい中ありがとうございました!

 あと、どうにも今回目次ページを設けられませんでした。
 ページ数多いのに申し訳ないです。頑張って探してあげてください(ぺこり)。

 そういえば、どなた様もドレスを着ていたのが驚きでした。
 お、お着物は……などと和装好きがうずうずしていたなんて、秘密。
 いつかお着物シナリオを書きたいですね、なんて願望を綴ったあたりで幕を下ろしましょう。

 今回も素敵に本気なアクション、並びに私信をありがとうございます。
 このお話が、みなさまの素敵な門出となりますよう祈るばかりでございます。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。