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リアクション
●11
天も凍えよとラムダが上げた叫びも、機械犬が歯を噛み鳴らす音も、この場所には聞こえない。
同じ山中ではあるが、それだけ遠く離れた場所なのだ。
「ザナ・ビアンカを一目見ようとこの山に足を踏み入れたのだけど……参ったね、どうも」
アトゥ・ブランノワール(あとぅ・ぶらんのわーる)は肩をすくめて見せた。彼女の手には、『落とし穴キット』と名づけられた道具が揃っていた。しかも一パックだけではない。周辺を掘って掘って掘りまくれるほど大量のキットが揃っている。
「雪がこんなに降っていては、落とし穴をいくら掘ろうが、片っ端から埋まってしまうだけさ。まあ、別に捕獲しに来た訳ではなかったから良いのだけれどね?」
見事なまでに使い所がなくて、ちょっと困るよ、とアトゥは苦笑いして見せたのである。なお、この多数のキットはすべて、彼女のパートナーが出発前に用意してくれたものだという。
「それに、『ざなびあんか』さんが入るようなおっきな穴は、すっごくがんばらないと掘れないと思うよ?」ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)が言った。「こーんなにおっきいんだから」と、ノーンは両手を使って、以前目撃した白狼がどれほど大きかったか示すのだ。
「こーんなに、かい?」アトゥがそのゼスチャーを真似ると、
「うん。こーーーんな」ノーンは元気一杯にそれを再現した。
二人は、ザナ・ビアンカを探すという同じ目的の下、巡り会ったのだ。無邪気なノーンと、泰然自若としたアトゥ、二人は妙に馬があった。しばらくゼスチャー合戦を繰り広げる。
「ほら、ノーン」御神楽 陽太(みかぐら・ようた)が苦笑気味に言った。「そんなことばかりしてないで、ソリに戻って下さい。せっかく知り合ったんです。アトゥさんもご一緒しませんか」
「他人の好意が身に染みるね。じゃあ、お邪魔させてもらうよ」と、陽太が騎手を務めるトナカイのソリに乗って彼女は言った。「どこかで見たことがあると思ったら、キミ、もしかして御神楽環菜嬢の夫君じゃなかったかい?」
「ええ……環菜は、妻です」照れくさげに彼は言った。「今回は、ノーンがザナ・ビアンカに会う強い意志を持っていたので、仕方なく……と言っては悪いのですが手伝いに来ました。本当は妻のそばにいたいのですけど」
「ははは、それはそれはご馳走様だね。そんなにストレートに惚気られるとこちらも照れてしまうよ」と、陽太を赤面させつつアトゥはノーンに言うのである。「さて、伝説的存在のご尊顔、解くと拝ませてもらうとしようか」
「うん♪ ではしゅっぱーつ!」
ソリは滑るように雪道を走り始めた。
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