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Zanna Bianca II(ドゥーエ)

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Zanna Bianca II(ドゥーエ)

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●7

 村では復興作業が進んでいる。
 近代的な機械はほとんど用いず手作業中心だというのに、その進行は早い。その多くは、指揮官リュシュトマ少佐のベテランらしい采配によるものだろう。その指導力は、彼ら教導団を「制服組」と呼んで忌み嫌う村人たちも認めざるを得ないものであった。
「重機が使えないってのがネックだったけど……まあなんとかなるもんだね」
 一抱えもある流木を担ぎ上げ、エールヴァント・フォルケン(えーるう゛ぁんと・ふぉるけん)は言った。この木は雪崩の際、山から運ばれてきたものだ。しかしこれが、今度は雪崩の防止柵の材料となって役立つだろう。
「そりゃあなんとかなってるけどさ」ぜいぜいと行きを荒げながら、採掘用のシャベルを雪に突き刺してアルフ・シュライア(あるふ・しゅらいあ)が応えた。「俺は重機操縦の特技を披露したくて来たようなところがあるから、肉体労働は応えるぜ。まったく、もうちょっとスマートに……おっと」
 アルフの言葉はここで中断された。目の前を、村の朴訥な少女が数人連れで横切るのが見えたのだ。うおーっ、っと俄然やる気になったアルフは、どさどさと雪を掘り返してアピールし、そして、「一緒に缶飯どう?」とナンパ(?)していた。(そして、「えっ、でも……」「制服の人、怖いので……」などと言われて断られていた)
「アルフはこれだから……まあ、本気で嫌がられてるわけではなさそうだけど……」
 エールヴァントは肩をすくめた。断られながらもアルフは「ならまた今度ねー」などと気さくに少女たちを見送っているのだ。そういえばアルフは大抵、見境なくナンパしているようであまり女性に嫌われない。天性の明るさが役立っているのだろう。
「さて、こっちはこっちで頑張らないとね」
 エールヴァントは柵の設置にとりかかった。雪崩を片付けるだけでは復興作業は不十分だと彼は考えており、雪崩は自然災害だから近い将来にまた起こると考えるべきと、将来への対策を徹底しているのだった。村人にも指導をする。といっても上から目線にならず、できるだけ平易な言葉を用いるように努めていた。
「真正面から雪崩を受けるのではなく受け流す形で村に被害が来ないようにするのが大切です。ですから、設置柵は雪崩の来る方法に対し垂直ではなく斜めにし、威力を左右にそらすように心がけて下さい」
 また、柵は長い物ではなく短い物を互い違いに、半返し縫いのように幾つも並べるよう設置し、全体としての耐久力を増す等、合理的かつ周到な設営を行うのだった。
 柵を設置しているエールヴァントの横を通って、アキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)はぶらりと片手を上げた。
「おうい、おっさんよう」
 その方向にいる『おっさん』といえば、リュシュトマ少佐その人しかいないではないか。補佐官のクローラ・テレスコピウムが咎めるような目をしたのがわかった。
「おっさ……ちょっとアキュート! 指揮官に向かってなんていうことを!」パートナーのクリビア・ソウル(くりびあ・そうる)は仰天して、「なんというマイペース……!」などとアキュートを黙らせようとするのだが、当のアキュートはどこ吹く風だ。
「はっは、細かいこと言うなって。まあ俺は教導団所属でもねぇし、畏まって『少佐殿』ってお呼びするのも変な話だろう」などと流して、アキュートは『おっさん』に問うた。「おっさんの仕事ぶり、なかなかどうして、感服してるんだぜ。こっちもたいがい若くねぇが、なんか仕事を手伝わせてくれないか」
 すると少佐は近づいて来て告げた。「『おっさん』は間違いだな」凄まじい威圧感だった。瞬間、殴られるかもとアキュートは首をすくめるも、なるだけ親しげに言う。
「あ、やっぱ気に障った?」
 しかし少佐の返答は意外なものであった。
「どうせなら『爺さん』のほうが良かろう。もう『おっさん』と呼べるほど若くはない」
「ああ、なるほど……」
 大人物のようだな、とアキュートは内心一本取られた気持ちになりつつ、『爺さん』の指示を受けるのだった。

 避難キャンプでは、ある問題が発生していた。何日か前、タニアという少女が姿を消し、さらに袈裟からその家族も消息が知れないというのである。
「立て続けに消えるとしても、タイミングが良すぎると思いませんか?」
 レジーナ・アラトリウス(れじーな・あらとりうす)の意見だ。雪のように白い髪を、冷たい風になびかせて言った。
「同感でありますな」
 白色迷彩の外套の襟を立てながら金住 健勝(かなずみ・けんしょう)が返答する。彼らは歩哨である。山とキャンプの間に立ち、危険な存在が近づかないよう村を守っているのだ。スキルのカモフラージュも併用し、気配を殺して周囲に溶け込んでいた。
 基本、二人は沈黙を守っていた。しかし、天候の変化をのぞけばただ時間が流れるだけの環境にいつまでも耐えられるほど、人間の精神は強固にできていない。やがて、ぽつりとレジーナが言った。
「私たち、あまり歓迎されてませんね」言葉とともに、白い息が吐き出された。「守るための力も結局は争いを呼ぶ……。綺麗事でしかないんでしょうか……どのように言えば、村の人たちにもわかってもらえるのか……」
 回答を求めていたわけではなかった。ただ、割り切れないものを言葉にせずにはいられなかったのだ。国軍として任務を果たしているだけなのに、彼ら教導団員への村人の評価は厳しく、『制服組』として白い目で見られたことも数限りない。歳経た者ほどそれが辛辣ということが、すなわち、問題の根の深さを語っていた。
「口で言って伝わらないなら行動で示せばよいであります」健勝は、彼女を抱きとめるかのように言った。実際にレジーヌに触れたわけではないが、しっかりと、強く、心で心を支えた。「それでも無理なら……自分たちがここにいなくてもよくなるよう努力するだけであります」
「そうかもしれませんね。いえ、きっとそうです」レジーナは彼を見上げた。頼りないと思うこともしばしだった健勝が、いつの間にかこれほどに、精神的な強さを得ていたことに驚きと、喜びを感じる。
「理想論かもしれないでありますが」軍帽を押さえる健勝に、
「いいえ」と彼女は言った。「理想なくして、どうして未来が語れましょう」