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リアクション
●3
こいつは思ったより大がかりだな……というのが、村を見た木崎 光(きさき・こう)の印象だ。ここまで広範囲、徹底的に雪に埋もれた故郷を捨てず、復興を志す人々の靱(つよ)さには感服せざるを得ない。(「村が潰れたその理由が、戦争だろうが天災だろうが人災だろうが、人間は生きてかなきゃなんねーもんなんだな」)
「どうした? 珍しく真面目な顔をして?」光のパートナー、ラデル・アルタヴィスタ(らでる・あるたう゛ぃすた)が彼にだけ届く声で問うた。
「おいおい、俺様はいつだって真面目だぜ?」光の口元に笑みが戻った。圧倒されている場合ではない、とラデルに励まされた気がしたからだ。「ただドタバタ暴れてるみたいに見えたとしても、それは俺様の真実を見逃しているに過ぎない! 俺様はいつだって、大真面目にドタバタしてるんだぜ!」
見てろよ、ヒャッハー! そう一声叫ぶと、光は厚手のコートの裾を翻し、村人が作業している場に飛び込んだ。
「うわははは! 俺様参上! ……やっべ間違った間違った、チワーッス、イルミンスールのほうからやってきました、木崎でーす。よろしくお願いシマーッス!」
締めるところは締める、それが光の信条、びしりと直立不動で一礼した。
「……」
しかしそのインパクトありすぎる登場に人々は目を丸くし、凍り付いた様子である。枯れ木のような肌をした老婆、屈強だが素朴な風貌の男性、若い男、女……いずれも村人であり、ここに団員やイルミンスール生は混ざっていないようだった。そして彼らは一様に、作業の手を止め、つぎにかける言葉を見失っていた。
(「ヤッベ、滑ったか……!?」)内心、光は汗をかいたが、それも短い間のことだった。
老婆がパチパチと拍手したのである。「気持ちのいい子じゃないか」と笑んでいる。すると皆、拍手で光を迎えてくれたのだった。喝采に包まれるという格好になり、光は安堵しつつも、じわっと頬が紅潮するのを覚えていた。これはこれで、面映ゆいものである。
「えーっと、力仕事やりに来たんで、ちょっと手伝わせてもらいます」
しおらしく光が申し出ると、中年の男性が「そいつは助かる」と掘削道具を手渡してくれた。「イルミンスールってことは制服組じゃあないのか」
「ええ、まあそうなんスけどね。俺様も教導団の依頼に応じて来たわけで、彼らのこともそう嫌ってやってほしくないと思うわけです」
「そうかい。……いや、俺も少し考えを改めてたところだ」無精髭の男性はそう告げて、「この辺りを掘り返している。協力頼めるか?」と作業に戻った。
「オッス! 喜んで!」光は腕まくりして、雪に掘削具を打ち込んだ。(「少し考えを改めてたところ、か……覚えておくぜえ!」)そこからはまさに人間パワーショベルといった感じで、光は村人の数倍の仕事量を黙々とこなしたのである。すぐにコートは脱ぎ捨て、シャツも腕まくりすることになった。真冬の寒風が火照った肌に心地良い。
雪を掘り、土を整え、崩れた建物を改修した。倒れた柱を数人がかりで引き上げ、埋まっていた生活用品を取り出して雪を払った。それは、世界を外的から守るための戦いではなかった。しかし、生活を取り戻すための立派な戦いであった。ひたすら地味で派手さのない仕事だが、確かに必要とされている仕事であった。
同じく作業に没頭しつつも、ラデルは時折、油断なく目を光らせていた。何度か光に耳打ちもした。「今のところ、怪しい人影はないな。この辺りにいる村人も、本来いるはずの人数と同じだ」
「なあ、そういうのいちいちチェックしてどうすんだ?」
「復興作業にかこつけて、村人の家財に手を出そうとする不届きな輩がいるかもしれんのでな」と、言葉を切って、ラデルは唇を結んだ。(「火事場泥棒で済めばまだいいが……」)
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