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リアクション
「派手なことになってるな」
缶蹴り会場付近を、綺雲 菜織(あやくも・なおり)は形式不明移動販売型車両・牛丼号で駆けていた。
「ちょうどこの辺りで止めた方が良さそうなものだが……ポイントはもう少し先、なんだろう?」
助手席に座る有栖川 美幸に確認を取る。
「はい。ここではまだ、不十分です」
しかし、目の前にはトリケラトプスやメガロサウルスといった恐竜や、爬虫類みたいな顔をした恐竜騎士団員がいる。
確かに大荒野の地下にはイコン製造プラントがあるため、美幸も間違った判断をしているわけではない。
だが、今まさに弾薬が飛び交う戦場が最も売れるポイントだというのは、普通に考えれば何かおかしいだろう。
それでも菜織は美幸の占いを信じ、トラックを前進させる。美幸を信頼しているため、彼女を疑うことはない。
「綺雲 菜織! 推して参る!」
ソニックブラスターを通し、大声で宣言した。
あくまで、目標は結界の中――激戦区である。文字通りの意味の、戦場だ。
「菜織様、コースを算出します」
目的地までのルートを導き出す、美幸。
なお、恐竜騎士団はトラックに付けられたエリュシオン旗のせいで戸惑っている。しかし、問題は警備についている者達だ。主催者のエミカは知ってるはずだから止めには来ない。はずだが……。
「待て、話はちゃんと聞いてるが、この中はヤバイぜ」
眼前に、紅い髪の女性が立ち塞がった。
「それでも、行かねばならぬ」
止めに入った女性を轢いてしまわぬように、ドリフトして方向転換。彼女を回避する。
「だーかーら、待てって言ってるだろが!」
なお、この女性は五機精の一人、ガーネット・ツヴァイである。結界の中へ入らせまいと、トラックを追ってきた。
「エミカは『行きたいなら行かせていーよー』っつってたけどよ、出来る限り怪我人は出したくねーんだ」
「何、トラックを追い越しただと!?」
アクセル全開で突っ切っているにも関わらず、紅髪の女性が再びトラックの前に躍り出ようとしていた。
「生憎、こっちはこれだけが取り柄なんだ」
今度はドリフト、と見せ掛けてあえて車体をスピンさせて、機体の進路を戻した。
「決断を繰り返して行くが人生。失敗でもまた決断し進む。空戦の本質と何も変わらぬ」
そう、これは戦いだ。
ゆえに、譲れない。負けられない。牛丼を売るための目的地に、何としてでも辿り着く!
「……ったく、だったらしゃあねぇ」
トラックの正面に回り込むため、彼女がさらに加速した。
おそらく、身体強化の能力を有しているのだろう。このトラックを受け止める気だ。
ならば、そうなる前に突破口を見出す。
「出来るのだと、示さねばならん!」
地面に向けてバズーカを全弾発射する。
まだ結界の中に到達していない。ならば、トラップはないはずだ。
抉られた地面が、わずかな傾斜を形成する。そこへ続け様に冷凍ビームを繰り出し、その坂を強化する。
「ち、無茶しやがる!」
「無茶で無謀と哂われようと」
フルスロットルで坂を上り、さらに仏斗羽素も全開にして空へ駆け上がった。
「飛べよぉぉぉぉぉーーーー!!」
むしろ空ではなく時を跳びそうな勢いである。
そのまま、空から結界を突破した。
「クリス、リオン、そのトラックを止めろ! 今のフィールドに行かせたらマズい!!」
高度千メートルを突破。
そこへ今度は、水晶の翼を持つ白い幼女――クリスタル・フィーアと、金髪をなびかせ黒水晶の翼を持つ黒衣の女性――モーリオン・ナインが立ち塞がる。
「あなた達はこの領域に踏み込むことの危なさを知らないのです!」
白い女の子の方は、どうにも過去の缶蹴りで何かあったらしい。
なお、それは前の海京での出来事であるが、おそらく彼女達がいたことすら印象に残している者はいないだろう。
「いかなる壁が立ち塞がろうとも、私達は届けるまでです!」
絶対に。
そんな強い意志が、助手席の方から感じられた。
「これが最後の戦いになるかもしれない。だが、私達は決して負けない!」
字面だけなら熱い展開なのだが、いかんせんトラックで、しかもやろうとしているのが牛丼の現地販売だという事実が、雰囲気をぶち壊している。
が、当人達は本気だ。
「私の力は車体越しでは使えないのです。リオン、サポート宜しくです」
「うん、分かった」
二人が互いの手を取り合い、同時にトラックへと振り向いた。
「いいよ、クリス。せーの」
「「サテライトブラスター!!」」
五機精はそれぞれ固有の特殊能力を持っているが、クリスタルに限っては生物に対しては絶対の力を持つ認識操作の他に、太陽光を機晶エネルギーに変換して撃ち出す「サテライトブラスター」なる機構が搭載されている。が、非常に燃費が悪い上クリスタル自身では加減が難しく、使った後はチョコレート三キロ分の糖分が必要となる。
一方、五機精ではないモーリオンだが、彼女もまた特殊な力を持っている。しかし、重力やエネルギーに干渉しているだろうこと以外、どんなものか本人にもPASDの研究者にも分かっていない。
彼女が力を貸すことで、クリスタルはやり過ぎないように力を調整出来るのだ。あくまで、トラックの破壊ではなく、足止めなのだろう。
「避けれぬものではない!」
ハンドルを切り、サテライトブラスターを回避する。
一年以上、高機動機体を駆り前線を戦ってきた身だ。菜織と美幸にとって、これくらいのことは造作もない。
「行こう、美幸。可能性の、その先へ」
「はい、菜織様!」
着陸態勢に入り、地上へ向けて突き進んでいく。
「間もなく目標地点です」
そのまま着地。
ドリフトしながらトラックを停車させた。
「着いた……ようだな」
完全燃焼だ。
「はい。では、早速皆さんに――」
だが周囲に人はなく、まるで戦争があったかのように荒れ果てた地が広がっていた。
遠くの方で、爆煙が上がる。
そこでは、缶を巡る最後の戦いが繰り広げられている……気がした。
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