リアクション
「ねー、どうしてもダメ?」 * * * 『又吉、よりにもよって主催者が暴走した。何とか落ち着かせくれ』 上空から監視している国頭 武尊(くにがみ・たける)からの連絡を受け、猫井 又吉(ねこい・またきち)は出虎斗羅のアクセルを踏み込んだ。 「ったく、まとめ役がチョーシくれてどーすんだよ」 ぼやきたくなるのも無理はない。 警備の人達は基本的に、恐竜をなるべく傷付けないように気を配っているし、喧嘩を吹っ掛けてきた恐竜騎士団やその取り巻きも追い払うに止めようとしている。 が、そうやって指示をしていた当人が暴走したのではどうしようもない。面倒ごとを避けたいはずの人間が、トラブルメーカーになってしまったのである。もっとも、常日頃からエミカはトラブルメーカーなのだが、面識のなかった又吉には知る由もない。 武尊によれば同じ警備と恐竜騎士と何か言い合いをしていたらしいとのことだが、見えていても音までは拾えなかったようだ。 (しゃーない、頭冷やしてもらうぜ) 参加者なら後で揉め事になると面倒だから実力行使はしないが、一応運営側にいる以上、責任者を止める必要がある。 「止まりやがれ!」 一応口で言ってみるが、止まる気配はない。 そのため、ツァールの長き触腕を召喚し、エミカの拘束を図る。 「邪魔しないで」 カートリッジを交換して、触腕に電撃を浴びせてきた。 「あたしは落ち着いてるから……ね?」 翻訳すると、「痛い目に遭いたくなかったら近付くな」ということである。 笑顔のまま、出虎斗羅の車載デジタルビデオカメラを破壊した。 「あと、こっから先は撮影禁止だよ」 そう口にするなり、またカートリッジを交換して槍先を空に向けた。 ヴァルザドーンと同じように、ビームを撃つことも可能らしい。 『くそ、こっちもカメラがやられた……!』 エミカの様子を収めたであろう武尊のデジタル一眼POSSIBLEがやられたと連絡が入る。 「ははは、大丈夫だよ。『あの二人』以外はちょっと痺れさせるだけだから」 どう見ても大丈夫ではなかった。 なお、マジギレしてる時の彼女は、いつもの間延びした口調ではない。 「おい、てめぇ! 俺様の隣に乗っていいのはモヒカンとおっぱいだけだぜっ!!」 「今はそんなこと言ってる場合じゃない! 早く逃げないと俺達の命が危ないんだ!」 エミカが紫電槍・参式のVS・SEモードを起動した直後、正悟が喪悲漢一番星 スター・ゲブー号の運転席に乗り込み強奪しよとしたため、ゲブーは慌ててトラックの助手席に乗り込んだのである。 「さっきから何言ってんだっ!? あんな積極的にアプローチされたら受け止めてやんのが漢だろ!」 ゲブーは、笑顔で自分を追いかけてくる女の子=自分に気があると思い込んでいた。彼女の周囲の殺気など一切認識していない。 「あの子の恐ろしさを知らないからそんなことが言えるんだ……ってか何だよVS・SEって。デストロイモードの上とか完全に殺しに掛かってるじゃないか!」 SE、とはサロゲート・エイコーンの略らしい。なお、代理の聖像を英語にすると「Surrogate Icon」なので、普通に間違っているのだが、気にせずそう称しているようだ。 「理論上」第一世代イコンなら破壊出来るとのことであると、正悟が説明した。最も、彼も直接見るのは初めてのようだったが。 「く……いつの間に!?」 ゲブーの出虎斗羅の正面に、エミカが立っていた。 「や、やめろ!」 正悟の叫びも空しく地面が穿たれ、そこに発生した電撃の奔流によって爆発が起こり、喪悲漢一番星 スター・ゲブー号が宙を舞った。 * * * 「藤堂さん、もしかしてこの人が前に戦った龍騎士の……」 恐竜騎士団の取り巻きを蹴散らしていた遠野 歌菜(とおの・かな)は、その「神」を見やった。 「ああ。オイディプス……変幻自在の槍の使い手だ」 「正確には、龍騎士団に所属していないフリーの身なので、龍騎士ではありませんよ。今は」 恐竜騎士団に雇われたということで、あくまでフリーランスの神であるらしい。 「藤堂さんのライバルの槍使い。相手にとって不足はありません!」 「ほう、面白いお嬢さんだ」 オイディプスが口の端を吊り上げた。 「これでも私、藤堂さんに勝ったことがあるんですよ?」 ゲーセンで、だが。 だが、自分を負かした平助に勝利したということで、オイディプスは彼女に強い興味を抱いたようだ。 「ならばお嬢さんに勝てば、それは藤堂 平助にも勝ったことになる。ふむ、ではお相手願いましょうか」 その後ろから、トリケラトプスに乗った恐竜騎士がやってくる。オイディプスを援護しようとしていたようだが、 「邪魔をしないで頂きたい」 騎乗している者ごと、トリケラトプスが弾き飛ばされた。 「……前よりも動きの一つ一つに無駄がねぇ」 「私も、あの敗北の後、修行を積んだのですよ」 その時、平助の頭上から、ケツァルコアトルスが急襲してきた。 彼はそれを十分に引きつけ、抜刀した。 マホロバで会得したという、居合の動きだろう。 「……峰打ちだ」 ケツァルコアトルスを上空に突き上げ、跳躍して騎乗している恐竜騎士を叩きそのまま地面に翼竜ごと叩き落した。 「露払いはしてやる。思う存分やってみろ」 「はい!」 オイディプスと向かい合い、二本の飛竜の槍を構える。 「歌菜、相手は神だ。全力でいけよ」 月崎 羽純(つきざき・はすみ)が歌菜にパワーブレスをかけた。また、彼は平助と共に二人の勝負の邪魔をさせないよう、周囲の敵へ対処する。 「遠野 歌菜……参ります!」 相手の実力は、平助と互角。自分も互角以上の戦いが出来れば、自分の成長した所を見せることが出来る。 負けるつもりはない。今出せる全てを、ここで出し切る。 オイディプスの得物は七メートル超のパイク。ならば、接近すれば取り回し難くなるはずだ。 二本の槍でそれを弾き、一気に間合いを詰めようとバーストダッシュを行う。 だが、槍で打ち払おうとすると、オイディプスのパイクが折れた。 (折れた? いや、違う!) 折れたもう半分の先端から刃が覗く。さらに、前半分をどうやってか手元に引き戻し、歌菜と同様の二槍流スタイルとなる。 そこからは純粋な打ち合いだ。 「どうやら、藤堂 平助に勝ったというのはあながち嘘ではないようですね」 超感覚で五感を研ぎ澄まし、歴戦の武術をもってオイディプスの槍を捌く。 「ならば、ここからは私本来の戦い方でいくとしよう」 二本の槍が、さらに折れた。 それを振り回し、歌菜を弾き飛ばした。分割された槍の柄は、ワイヤーのようなもので繋がっているらしく、他節棍としても使えるらしい。しかも、内部には多くの仕掛けが施されているらしく、ワイヤーの長さも調整可能、分割された先端の全てから刃が出る、といった具合だ。 「変幻自在……そういうことですか」 近接、遠距離、さらには騎兵相手と、状況に応じて的確に戦うことが出来る変幻自在の武器。 「これは特注品でして。これをまともに扱える者は、私以外にはいないのですよ」 それが、オイディプスの純粋な力量の証明だった。 神特有の特殊能力といえば、盲目で視覚がなくとも周囲の状況を感知出来ることくらいだろう。が、それも昔から盲目の剣客がいたというくらいだから、そこまで特別なものではない。 彼もまた、平助や鴨のような、純粋な武の者なのだ。 歌菜はもう一度間合いを詰めようと接近を試みるが、相手の槍を弾こうとした瞬間に片方の槍が絡め取られ、バランスを崩してしまう。 それを見計らいオイディプスは自分を引きつけ、分解したもう一本の槍を歌菜に突き出してきた。 それを残ったもう一本で防ごうとするが、相手の武器にぶつかる前に引く。フェイントだ。 地面を踏む足に力を入れ、それを軸に絡め取られた腕を思いっきり振り上げた。オイディプスを投げようとしたのである。 だが、その瞬間に歌菜の槍を解放したため、勢いあまって歌菜は転倒してしまった。 「勝負あり」 元のパイク状に戻った武器の先端が突きつけられる。 その瞬間、二人の頭上にあるものが飛んできた。 ゲブーの出虎斗羅、喪悲漢一番星 スター・ゲブー号である。 「邪魔ですよ」 歌菜を抱え、オイディプスが槍を振るって出虎斗羅を弾き飛ばし、その場を脱した。 平助達が止められなかったのは、ちょうど恐竜の相手をしていたせいである。 二人の勝負が終わった頃には、襲ってきた恐竜騎士団の撃退も、ほとんど終わっていた。 * * * 「さて、雇い主がやられた以上、私がこれ以上留まる理由もないですね」 芹沢 鴨達が、REXに乗って威張っていたリーダー格を倒したらしい。小物臭が酷かったが、あれでも神だったらしく、それなりには頑張っていたようである。 「藤堂 平助……再戦は次の機会にしましょう」 「オレはもう会いたくないがな」 オイディプスは荒野を去っていった。 「……もっと修行しねーとな。今のオレと奴じゃ、奴の方が上だ」 平助は、彼が去っていった方角をじっと見つめていた。 「面白ぇのがいるもんだ。俺も一度手合わせ願いたいもんだぜ」 「生憎だが芹沢さん。ああは言ったが、奴を倒すのはオレだ。あんたは林崎師匠とやり合った方がいいんじゃねーか?」 「あの爺さんにゃ敵う気がしねぇ。まるで次元が違ぇよ、ありゃ」 そこへ、羽純がやってきた。 「歌菜に付き合ってくれてありがとう」 「礼はいい。それより、あの子は大丈夫か?」 「心配はいらないさ。むしろ、目標が出来たって気合が入ってるくらいだ」 「そうか……しかし、あの男とあそこまで渡り合えるとはな。やっぱり、オレもうかうかしてらんねーな」 * * * 「生きてるのか……俺は?」 散々な目に遭った正悟は、ふらつきながら荒野を歩いていた。 「正悟君」 その目の前に、恐怖の対象が現れた。 「え、エミカ、さん……!」 「ごめんね。もう怒ってないから、大丈夫だよー。さあ」 笑顔で正悟に手を差し出してくる。 「本当にごめん、エミカさん。言い過ぎたよ、俺」 「うん、分かればいいんだよー」 「AAAはさすがに酷かった。Bは嘘でも、せめてAは――」 「てめーはあたしを怒らせたッ!」 紫電槍・参式が正悟に突き出された。 「ぎゃぁぁぁああああああ!!!」 |
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