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仲秋の一日~美景の出で湯、大地の楽曲~

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仲秋の一日~美景の出で湯、大地の楽曲~

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 夕方。
 ハーフフェアリーの村を回って、一日楽しんだ後で。
 桐生 円(きりゅう・まどか)パッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)は、小さな洞窟を訪れていた。
「花……沢山。すごい」
 咲き乱れる赤い花と、射し込む夕日に染まった洞窟を見て、パッフェルはそんな言葉を漏らした。
「日が暮れるとね、夏には蛍が見られるんだって。今も少しは見られるかな?」
 二人は懐中電灯を持ってきていた。
 洞窟に向かって歩いているうちに、太陽は山の後ろに隠れて、足下も良く見えないほど、暗くなっていく。
 電気を灯して一緒に歩いて、誰もいない洞窟の側で、並んで横になった。
 空に、星が浮かぶように、現れていき。
 花の匂いに包まれ。淡い月と星の光を浴びながら、語り合う――。
「ちょっと不安だったんだ、エリュシオンだし、一緒に来てくれないかなって思って」
 パッフェルの方に体を向けて、円は言う。
「無神経かなって思ったけど、この村が綺麗だなって思ったから。パッフェルも楽しめるんじゃないかって思って。嫌だったら御免」
 パッフェルも円の方に体を向けて、首を左右に振った。
「円が一緒だから、嬉しい。村、一緒に回って……楽しかった」
「そっか、よかった。本当によかった」
 微笑み合い、自然に手をつなぐ。
「そういえば、もうすぐ付き合って一年ぐらいになるのかな?」
 この1年で、随分進展したかもと、円は思う。
(色々、恥ずかしかったけど……求められて嬉しかったし、ありのままの僕でいいって言ってくれたのも嬉しい)
 思い浮かべるだけで、笑みが浮かんでしまう。
「円?」
 パッフェルが不思議そうな声を上げた。
「ん、なんだか、幸せだなーって思って」
 突然、円はパッフェルに抱き着いた。
「好き、という気持ち。一緒にいるということ、幸せという気持ち……」
 呟きながら、パッフェルも優しく円を抱きしめた。
「そういえば、目玉ちゃんはもういないんだっけ? 眼帯めくったら、『私じゃ!』とか言って出てこないのー?」
 照れ隠しのように、円はパッフェルの眼帯に手を伸ばす。
「確かめて、みる?」
 パッフェルは拒否しなかった。
 円は眼帯をめくって、パッフェルの目を確かめた。
 紅い瞳が、そこには在った。
「……」
 まっすぐに、自分を見つめ続ける瞳に向かって、円は恥ずかしげな笑みを浮かべて。
「やっぱり、どんなパッフェルでも好き」
 瞳を見ながら、彼女の頬にキスをした。
「私も、好き。1年前の円も、今の円も……これからの、円も」
 パッフェルは円の唇に、キスを返した。
「あ……」
 紅いパッフェルの目に、小さな光が映った。
 パッフェルの視線の先に、円も目を向けた。
 小さな光が、ふわふわと浮かんでいる。
「蛍、かな?」
「地上にも、星がある……不思議」
「幻想的だね」
 赤い花――愛の花の上で踊る小さな光を、抱き合ったまま見つめる。
 自然の音と、互いの声しか聞こえない、静かな夜だった。