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そんな、一日。~台風の日の場合~

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そんな、一日。~台風の日の場合~
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3


 高島 恵美(たかしま・えみ)が大きな荷物を持って歩くリンスとクロエを見つけたのは、買い出しの真っ最中だった。
「こんにちは」
 声をかけると、クロエがきょろきょろと辺りを見回す。軽く手を振って恵美がアピールすると、クロエはすぐに手を振り返した。その拍子に買い物袋からりんごが落ちそうになって、恵美はくすりと微笑む。
「こんにちは、えみおねぇちゃん。……はずかしいところ、みられちゃったわ」
「いえいえ、可愛らしかったですよ。クロエちゃんとリンスさんも明日の台風に向けてお買い物ですか?」
 頬を赤くするクロエに笑いかけてから、恵美はふたりに尋ねた。リンスがこくりと首肯する。
「も、ってことは」
「はい。私も、買い出しです」
 買い物袋を掲げて見せると、結構大変だよね、とリンスは言った。
「大変ですか?」
「俺はね。備えとか、したこと殆どなかったし」
「ああ、それは」
 なんとなく納得できる。あまりうろたえなさそうというか、泰然自若というか。あるいは、俗世の流れに無頓着というか。
「リンスはどうじなさすぎるの。ちょっとはわたしみたいにこわがったりすればいいんだわ」
「って言われても、怖いものないし」
「ないのぉー?」
 クロエの不満そうな声を聞きながら、恵美はふとフランカ・マキャフリー(ふらんか・まきゃふりー)のことを思い出した。以前悪天候の折に雷が轟いた際、彼女はひどく怯えて泣いていた。
 ミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)立木 胡桃(たつき・くるみ)が、自身も怖いところを我慢して慰めてくれたのだが、結局フランカはずっと怖がったままで、ならば、せめて。
「クロエちゃん」
「なぁに?」
「うちのフランカちゃん、雷が怖いらしいんです。それで、台風の間一緒に遊んであげてくれませんか? クロエちゃんが一緒なら、大丈夫だと思うの」
「でもわたし、かみなりこわいのよ。まもってあげることはできないわ」
 そういう意味じゃないの、と恵美は首を横に振った。そういう意味じゃなくて、ただ単に、好きな子と一緒にいれば気持ちが少し楽になるのではないか、と思ったのだ。
「駄目かしら?」
「わたしはへいきよ。ね、リンス。べつにいいわよね?」
「構わないけど」
「では、明日。伺いますね」
 ふたりとも快く了承してくれたので、あとは明日、工房までたどり着けるような天気であることを願うばかりだ。