葦原明倫館

リアクション

　多忙極まる日々を送る御神楽　陽太（みかぐら・ようた）と御神楽　環菜（みかぐら・かんな）の夫婦も、毎年クリスマスは休日にしている。
　翌年二月頃に出産を控えた環菜のお腹は、もうかなり大きい。
　もうじき迎える最後の一ヶ月が胎児には大切だというから、陽太も特に気を遣っていた。
　その二人は今、リビングのテーブルにタブレットを立てかけ、種もみの塔のクリスマスパーティの実況中継を楽しんでいた。
　リポーターは御神楽　舞花（みかぐら・まいか）である。
「舞花は、種もみ学院関連のイベントでは特に生き生きとしていますね」
「ビームにも物怖じせずに撮影するのには驚いたけれど。お酒でも飲んだのかしら」
「まさか。そのへんはしっかりしてると思いますよ。きっと楽しくて仕方がないんでしょうね。その分、撮影している執事さんが大変でしょうけど」
「凄腕らしいから大丈夫よ」
「そういえば、学園祭の時の環菜の豹耳姿、凛々しさと美しさが同居していてすごく魅力的でしたよ」
「なっ、何で唐突にそんなこと思い出すのよっ」
　頬を染めた環菜に、陽太はくすくすと笑う。
　なだめるように肩を抱き寄せた。
「また付けてくれると嬉しいですね」
「もうやらないわよ」
　肩を抱く手をピシャッと叩かれたが、陽太は笑うばかりだ。
　と、画面の向こうが急にざわついた。
　舞花が超ミニスカのサンタ服の女の子を引っ張り込んでいる。
「待て、こんなかっこで……！」
「この人が、私がいつもお世話になっているチョウコさんです。とっても頼りになる方なんですよ」
「舞花っ、こんなかっこじゃただの変態みたいだろ！」
　チョウコは精一杯声を落としているつもりだが、夫婦には丸聞こえだった。
　チョウコは、竜司め、と怨嗟の声をもらしたのち、カメラに向かって言った。
「いいか、これがふだんのアタシと思うなよ。今日はちょっと約束があってこんなナリしてるだけだからな！　……舞花、笑うなっ」
　まるでタイプの違う二人なのに、とても仲が良さそうだった。
「……舞花の活動は、少しずつ実を結んでる。助かってるよ。アンタ達、もうじき子供が生まれるんだって？　丈夫な赤ん坊産めよ！」
　チョウコの励ましに陽太と環菜の口元が緩む。
「チョウコさん、カンゾーさんはどこですか？」
「あいつも、約束を果たしに行ったぜ。今頃はどこの空の下やら」
「あ……あの空から降ってきたプレゼントって」
　チョウコが深く頷いた。
「えーと、カンゾーさんは旅立ったそうです」
　苦笑しながら舞花が言った時、彼女の携帯がメールの着信を知らせた。
　断りを入れて携帯を開いた舞花の目が明るく輝く。
　陽太が送ったメールだった。
『とても熱気に満ちたクリスマスパーティの様子に、環菜と二人で感嘆しています。見ているだけでも実際に参加しているような楽しい気分に浸れました。ありがとうございます』
　映像は、パーティ開始から約一時間後から始まっていた。
　仲睦まじいカップル、屈託なく笑う友人グループ、生き生きと働くスタッフ達。
『俺と環菜は充分楽しませてもらったので、そろそろ舞花自身もパーティを楽しんでくれたら嬉しいです。種もみ学院の皆さんにも、よろしくお伝えください』
　舞花は読み終えると、チョウコにも見せた。
　チョウコの顔に笑みが広がる。
「今度はアンタ達も遊びに来いよな」
「それじゃ、お言葉に甘えてそろそろ通信切りますね」

　執事がデジタルビデオカメラと籠手型ＨＣ弐式の接続を切ると、舞花はホッと息を吐いた。
「チョウコさん、これからオーナメントを飾りにいこうと思うんです。一緒に行きませんか？」
「いいよ、行こう。何を持ってきたんだ？」
　舞花が見せたのは幸運を呼ぶと言われているウサギの足だった。
「おっ、こりゃあいいことあるぞ！　高いとこに飾ろうぜ」
　そして、チョウコが舞花を肩車して飾りつけをするという荒業に出たのだった。


　脱ぎたくなったり惚れたり思わぬことを告白したりと大騒ぎな夜は、まだまだ続く──。