波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

パラ実分校種もみ&若葉合同クリスマスパーティ!

リアクション公開中!

パラ実分校種もみ&若葉合同クリスマスパーティ!

リアクション

 パーティで賑やかな会場の片隅に、とても気まずい空間があった。
 カンゾーとチョウコ、そして横山 ミツエ(よこやま・みつえ)が対峙している。
 いつまでも続きそうな沈黙に、ミツエの斜め後ろでこの場を設けた桐生 ひな(きりゅう・ひな)が背を押した。
「ミツエ、言うべきことは言わないと、後々のしこりになりますよー」
「……わかったわよ。この前は、うちの虹キリンが迷惑かけたわね」
 愛想のかけらもない表情でミツエは切り出した。
 カンゾーもチョウコも愛想が良いとは言えないので、その点は気にしていない。
「あと、あの三人の英霊達も」
 ミツエが話しだしたことで、空気が少しやわらいだ。
 チョウコがニッと笑って軽く応じる。
「気にすんな。かわいいマスコットじゃねぇか。性格はアレだけどな。今日も何やらに誘われて走ってたよ」
「また遊びに来た時は相手してやってね」
「いつでも来なよ。あんたも皇帝稼業の息抜きに来てもいいんだぜ」
「たまにはいいわね」
「せっかく来たんだ、楽しんでいけ」
 カンゾーが言うと、
「もとよりそのつもりです〜」
 と、ひなが笑顔で答えた。

 話し合いが終わるとひなとミツエは女子が集まっているほうのテーブルに着いた。
 天使の給仕が運んできたシャンパンを、ひなが景気よく開ける。
 ミツエもようやくパーティの雰囲気に溶け込み始めていた。
 ひなが満たしたグラスを掲げ、軽く合わせると綺麗な音が鳴った。
「ミツエと過ごすクリスマスに、乾杯しちゃいましょー」
「乾杯!」
 含んだシャンパンが口の中で弾ける感触が心地よい。
「私、本当は清酒のほうが好きなのです。くいっといくのが気持ち良いのですよ〜」
「ひなって飲んべぇなのね」
「でも、甘いのも辛いのもいけます。一番はマヨ醤油ですけど」
「あんた、血圧上がるわよ」
「ふふっ。心配してくれるミツエに、お礼です〜」
 それはまさに不意打ちだった。
 ひながフォークに刺したケーキは、とても自然な動きでミツエの口に運ばれていた。
「……! ……!!」
 吐き出すこともできず、飲み込むしかないミツエ。
 その後は、ジトッとした目がひなに向けられるが、本人はにこにこしている。
「クリスマスですから〜」
「ふぅん、クリスマスね。もらいっぱなしはいけないから、あたしもお礼するわ」
 ミツエの腕が素早く伸びて、ひなが食べさせた倍くらいの大きさのケーキがねじ込まれた。
 ひなの口の端にクリームが残る。
 それを舐めとったひなはさらに大きなケーキを……。
 口の周りをクリームだらけにした二人は、ついに席を立った。
「ひな、あたしを本気にさせたわね」
「ミツエこそ、私の心に火を点けましたよ〜」
 フッフッフと不気味に笑いながら、暑くなってきた二人は上着を脱いだ。
 何故暑いのかまでは気が回らない。
「どっちかが降参するまでやるわよ!」
 二人のじゃれ合いをおもしろがったパラ実生が、どこから用意してきたのかホールケーキをいくつも運んできた。
 ひなとミツエは両手にそれを持ち、同時に突進した。

「おまえら何やってんだ!?」
 ケーキバトルは、姫宮 和希(ひめみや・かずき)の声によって終わりを告げた。
 ひなとミツエも我に返り改めて自分達の姿を確認すると、まるでケーキを頭からかぶったような酷い有り様だった。
 どちらからともなく苦笑がこぼれる。
「ちょっとはしゃぎすぎたわね」
「クリスマスにはちょうどいいですよー」
「いや、やり過ぎだろ」
 和希は呆れた目で二人を見て風呂にでも入れるかと考えていると、ケーティが濡れたタオルを持ってきた。
「サンキュ。ほら二人共、とりあえずこれで拭いとけ」
「追加のタオル持ってきたよ」
 と、歌菜が笑いながら籠いっぱいにタオルを用意してきた。
「今、羽純くんがお風呂探しに行ってるから」
 歌菜に頼まれ、羽純は種もみの塔の管理人に近くに風呂はないか聞きに行っている。
 和希は、ミツエに紹介しようと思って連れてきた若葉分校のブラヌと生徒会長のシアルを、気まずく振り向いた。
 二人は呆然としていた。
「え……と、ケーキまみれだけど、乙王朝のミツエだ。知ってるよな」
「知ってます……。こんにちは。私は若葉分校のお飾り生徒会長よ」
 まずシアルが挨拶した。
 見るからに引いていた。
 もともと危険人物という認識を持っていたが、さらにいろいろな要素が加わった。
「俺はブラヌ。その服、もう着れないよな? これに着替えたらどうだ?」
 逆に興味津々なのがブラヌだ。
 彼はミニスカサンタ服を広げてみせた。
 ブラヌにとってミツエは彼女にしたい対象ではなく、有名人なのでお近づきになりたいというだけだった。
 お近づきというのは、コスプレさせて写真を撮り、その服や写真を売りさばきたいという意味だ。
「ほとんど丸見えじゃない!」
 クリームだらけのミツエの手が、ブラヌの額を叩いた。
 そして、羽純が見つけてきた風呂は五右衛門風呂だった。
 和希の厳重な見張りのもと、綺麗になったミツエとひな。
 その後は平和に食事を楽しんだ。
 メニューにない料理も、食材さえあればが作ってくれる。
 ターキーにポテトサラダにシチューと、一通り味わった和希はミツエに聞いた。
「中原の人々への想いはまだ変わってないのか?」
「ええ」
 すぐに返ってきた答えに和希は安堵する。
「俺も、この荒野への想いは変わってねぇ。環境を良くして農業やその他の仕事をできるようにして、ここの民が山賊や略奪をしなくても生活できるように切り替えていきたいんだ。そうすれば、いつか古代王国時代のような豊かさを取り戻せると信じてる」
「和希はずっとそれが目標だったわね」
「何があっても諦めたりしねぇよ」
「それなら、どっちが早く夢を叶えるか競争する?」
「いいぜ。けど、おまえが困った時はいつでも手を貸すからな」
「相変わらず甘いわね」
 そう言いながらもミツエは穏やかな笑みを浮かべていた。
 その時だ。
 囲んでいたテーブルがどこからか飛んできたビームに大破された。
 和希もひなもミツエも、突然消滅した料理達に唖然とするしかない。
「何だ!?」
 和希が見渡せば、さっきまでレーザーを飛ばして会場を賑やかに照らしていた機械仕掛けのツリーが、何故かビームを四方に飛ばしていた。
 会場のあちこちから悲鳴があがる。
「何よあれ! 何て反抗的なツリーなの!?」
 叫んだミツエがツリーに駆けて行く。
「危ねぇ!」
 和希も急いで追いかけた。
 ミツエはツリーを見上げて怒鳴りつけだした。
「ミツエ、酔ってるのか?」
「酔ってないわよ」
 何となく目つきが怪しかった。
 その怪しい目が、幹に立てかけられた黄金の種籾戟を捉えた。
 ミツエはその柄を握る。
「宴の場を穢すとは……」
 あふれでる威圧感に、和希は思わず一歩下がってしまう。
 久々に見る皇氣だった。
「この不届き者めがー!」
 咆哮と共に黄金の種籾戟が振るわれ、幹に食い込んだ。
「お。ビームが止まった」
 直後、ツリーのてっぺんから何発もの花火が打ち上げられた。
 悲鳴が歓声に変わる。
「ふん。始めからそうしていればいいのよ」
 皇氣を引っ込めたミツエがツリーを見上げる。
「あーあ、勢いでこんなもの振り回したから疲れちゃったわ。食べ直すわよ」
 和希はミツエに引っ張られて別のテーブルに向かうのだった。


 ツリーのビームにテーブルを貫かれた人達の中に、金 鋭峰(じん・るいふぉん)もいた。
「これは余興の一つか?」
「あ……う〜ん、そうだといいですね……」
 焦げた足元を冷ややかに見下ろす鋭峰に、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)もたじたじだ。
 ビームが打ち上げ花火に変わったのは、羅 英照(ろー・いんざお)が銃に手をかけた直後だった。
「席を移しましょう……」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が静かに言った。
 新しいテーブルで、食事は仕切り直しとなった。
 しかし、周りから向けられる好奇の視線は変わらないことに、ルカルカは気づいていた。
 当然、鋭峰と英照も気づいているが知らないふりをしている。
 ルカルカの提案で私服で訪れていたが、教導団団長とその参謀長は顔が売れすぎている。
「でもまぁ、変な挑戦者が現れないだけマシかぁ」
「そうだな。もし来たとしても俺とルカで止めればいい。他にも止めようという者はいるだろう」
「逆に賭けにしようという輩もいそうだけどね」
 ルカルカとダリルがこそこそ話していると、鋭峰が怪訝そうな目を向けてきた。
「な、何でもないですよ」
「そういえば、ツリーにはオーナメントを飾るんだったな」
「何か持ってきたんですか?」
 鋭鋒が英照を見ると、彼は包みを置いた。
 それを開くと、立ったり座ったり踊ったりとさまざまなポーズのサンタクロースが糸で繋がれた飾りが現れた。
「わぁ! かわいいですね! どこに売ってたんですか?」
「空京で」
 答えた英照が、おそらく何かのついでに買ったのだろう。
「ルカ達が持ってきたのと一緒に飾りましょう」
「君達は何を?」
「シャンパンです。見つけた人が飲んでくれたらと思って」
「クリスマスプレゼントだな」
「そんなところです」
 ダリルの足元にはバスケットがあり、その中に緑と赤のリボンを結ばれた四本のシャンパンがあった。
 鋭峰と英照と談笑するルカルカを見て、ダリルは淡い笑みを浮かべた。
 団長達が誘いに応じてくれて良かったと思った。
 クリスマスから年末年始はどうしても治安が不安定になる。他にも何が起こるかわからない。
(束の間の休息だが、少しでも気が休まるならそれでいい)
「ダリル、一人でニヤニヤしてどうしたの?」
 ルカルカの声にハッとすると、鋭峰と英照からもじっと見られていて、ダリルは柄にもなく焦ってしまった。
「に、ニヤニヤなんかしていない」
「してたよ」
「黙れたんぽぽ頭。ほら、団長達のグラスが空だぞ」
「またたんぽぽ頭って言った!」
「綿毛にならないように気をつけろよ」
「ダリルこそ……!」
 何と言って続けたらいいのかわからなかった。
 言い合う二人の姿に、鋭峰が小さく笑う。
「仲が良いな」
「す、すみません。お見苦しいところを……」
「いや、かまわない。いつものようにしていてくれ」
 穏やかな鋭峰の声に、ルカルカもやわらかく微笑んだ。
「お弁当も販売しているそうですよ。買って帰りましょうか」
 そうだな、と鋭峰は頷いた。
 ルカルカは、改めてこの人と共に歩きたいと思った。
 自分は鋭峰を裏切らない、孤独にしない。
 静かに胸に誓った。